5:鈴海港への来客
「なあなあなあなあなあなあ・・・俺、正太郎との今生の別れをした後だよなぁぁぁぁぁぁ」
「余韻に浸りたいのならまた今度にしてくれ。今は仕事。そうだろう、御主人様?」
「ええ。まさか五年前の死人から要請が来るとは思わなかったわ」
いつものとおり、優雅な所作で紅茶を一口
うちの御主人様・・・冬月彼方は冬の海風を浴びつつ、何一つブレること無く船旅を楽しんでいた
「だからついてきたのか?こんなクソ寒い中」
「ええ」
「夜泣いてたぞ。誕生日ぽかされたって」
「大丈夫よ。今朝出てくる前に枕元へ「なんでもいうことをきく券」を年齢分置いてきているわ」
「夜、昨日で何歳だっけ?」
「二十五」
「なんでも叶えられる券二十五枚・・・!?一枚分けてくれないかな。俺は新しい工具が欲しいな!」
「券が無くともそれぐらい叶えるわよ。帰ったら夜に申請しておきなさい。経費で落とすわ」
「俺の誕生日は新しい本棚で頼む。また床に平積みしちゃってさ」
「巴衛におねだりしなさい」
「ともえ〜」
「うわきっしょこっちくんな」
逃げ回る巴衛を軽く追い回しながら、彼の運動を軽く促進しておく
引きこもりがちなうちの天才技師様は、こうして隙を見て運動をさせておかないとすぐに怠ける。体力を失う。堕落する
「そういえば、朔也」
「なんだ?」
「この話をしたとき、正二がついて行きたそうにしていたのよね。貴方と相性が悪いからいつになるかわからないってはぐらかしてきたのだけれど・・・」
「大方、鈴海に行けばあいつに会える可能性があるからな。探しに行くつもりなんじゃないか」
「あいつ・・・ああ、譲と一緒にいる幽霊の、男性の方ね。名前は確か」
「舞園桜哉。俺と同じ時代にいた舞台役者。正太郎に拾われたけど、色々あって双子の姉と一緒に暮らし続けていた」
「・・・そう」
その一言だけで、言いたいことはちゃんと理解してくれたはずだ
「そんなことより、朔也。貴方はよくついていく気になったわね」
「ご指名だし、彼方からついていけって言われたし・・・そういう彼方こそなんで」
「友人の墓参りも兼ねてよ。おそらく立ち入れないでしょうけど、近くでお参りするぐらいはね。定期的にしているから」
「友人思いだな」
「ありがと。まあ、そんな私用の目的もあるんだけど・・・どうしても気になることもあるし、それに朔也をご指名ということは、私も必要になる機会があるわ」
「時渡りか」
「ええ。巴衛はともかく、貴方を指名する理由なんてそれ以外にあるの?」
「自分で言うのも何だが、ないな」
時渡り。またの名を時間旅行
俺と彼方の能力で扱える上に、巴衛もその理論を完成させて別面での時間旅行を可能にした
向こうからしたら彼方の参加は予想外だろうけど、この三人は時間旅行ができる面々で固められているのも不思議な縁だ
それ故に、置いて行かれた結果、今頃なんでもいうことをきく券を持って震えているであろう同じような能力を扱う彼方の夫が不憫でたまらないのだが、そこは置いておこう
「友江一咲と霧雨永羽。あの人が生前入れ込んでいた女の子達が帰還し、貴方に願う事って何かしら。きっと面白くなるに違いないわよ」
「・・・お前、昨日やっと憑者神の一件が一段落した後なのに。疲れとかないわけ?」
「あるわけないじゃない。楽しいことには巻き込まれろ。昔から言うでしょう?」
「言わねえよ」
うちの愉快なお嬢様は今日もまた異常現象に愉悦を覚え、足を踏み入れていく
その渦中に辿り着くのは、もう少しした後だ
・・
朝食終えた私達は、葉桜さんと優梨さんに案内を受けて、鈴海第二区域にある港までやってきていた
ベリアが呼び寄せた人物は今日朝一の便で船に乗り込み、ここにやってきてくれるらしい
「あー・・・緊張する」
「存在は知っていても初対面だもんねぇ。で、そっちの二人はなんでそわそわしてるのさ」
「あわわわわ・・・なんで一ノ瀬がこの時代にいるんですかぁ・・・・」
『・・・朔也』
舞園がそわそわする理由はわかる
昭和時代に生き別れた貴重な友達。まさかこの時代で再会できるとは彼も思っていなかったのだろう
で、問題は大社内をうろうろしていたので捕獲。そのままここまで連れてきた曾お婆ちゃんの方だ
事情は移動中に説明し、今日来る人物のことを伝えたのだが・・・
それからずっとあれなのである
「曾お婆ちゃん、舞園。一ノ瀬って一言で言えばどんな感じの人?」
「クソ野郎」
『心優しい奴』
「対極〜。全然わかんないや〜」
男に優しいのか、はたまた普通は優しいけれど野蛮人への扱いは酷いのか。さっぱりわからないな
それでいて中立的な立ち位置にいる存在の意見を聞けない
実際に見るまでどんな人かはわからないが・・・
下手な行動さえしなければ普通に応対してくれるはずだ。大丈夫!
「ふわぁ・・・永羽ぁ・・・まだ眠いです・・・」
「立ったまま寝ないでね、エミリー」
一方で、緩い空気で過ごしている残りの面々
「私、今日はいたりあんな気分。ぱすた」
「パスタって何?カルボナーラの仲間?」
「スパゲッティーと何が違うのですか?」
「・・・全部一緒」
パシフィカとミリアとヴェルは「お昼ご飯どうしようか」なんて会話をしているし・・・
エミリーはまだ寝ぼけて身だしなみも不十分
いつもは纏められている三つ編みが解けているエミリーは結構レアなような気がするな
いつもは私より早く起きて、きちんと整えている印象しかないからかな
「んー・・・三つ編み。してほしいれす」
「はいはい。あ、席空いたからそこに座ろ。そこで三つ編みするから」
「ありがとです」
ぽやぽやと頭を振り続けているエミリーの髪を両手ですくい上げ、永羽ちゃんは三つ編みを素早く錬成していく
あっという間にいつも通りを完成させた永羽ちゃんが一息吐くと、エミリーの頭が彼女の胸の中へ入り込む
「むにゃ・・・」
「あはは・・・まだ眠いんだね。到着したら教えるから、もう少しゆっくりしていて」
「すやぁ・・・」
くっ・・・!エミリー、寝ぼけているから仕方ないとして、永羽ちゃんの胸を借りて寝るだと!?大罪だぞ!?
「ぐぬぬ・・・」
「どうした、一咲」
「私も永羽ちゃんに抱きついて寝たい」
「はいはい。気持ちはわかったから・・・ほら、もう船が到着したからな。お前はこっち」
「いやだ!私は野郎だらけのシリアス展開から足抜けしたい!」
「私も嫌です!一ノ瀬いや!一ノ瀬いや!」
「お前ら本当に曾祖母ひ孫って感じで安心するよ。ほら、もう少し我慢してくれ・・・」
曾お婆ちゃんと仲良く首根っこを掴まれ、私は和やかな日常から遠ざかり・・・再び忙しい一日へと向かわされた
今日は一体何が起こるのだろうか
まあ、昨日よりは多分マシだろう・・・
そう信じて、私は船から下りてきた三人のお迎えに連行されていく




