40:手を伸ばして、届く場所に
一方、私達は優梨さんの案内で和夜さんの部屋前にやってきていた
「なんか唐突ね・・・」
「唐突ですね・・・私達初対面ですよ。攻撃されたりとかは」
「困った時は師匠の名前出すと止まるから」
「「そんな犬みたいな・・・」」
冷静さを欠いている二人の前で、優梨さんは笑顔でインターホンを連打する
「和夜、今日も来ましたわ」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンと廊下に響く
慣れた手つきでやっているあたり、これを毎日繰り返しているのだろう
出てくるもんも出てこないだろこんなん・・・
「葉桜さん、優梨さんいつもこれ?」
「ん?当たり前だろ?」
「止めろよ!?和夜さん可哀想だろ!?」
「ふっ・・・止めても無駄な事ぐらい、付き合い長いんだから知っているに決まっているだろ・・・?」
遠い目を浮かべているあたり、彼も相当頑張ったのだろう
けれど駄目だった。諦めを覚える程に
「諦めないでくれます!?貴方が思考を放棄したら誰が和夜さんを救うってんですか!今も内側で震えてますよあの人!」
「和夜、頑張れ。俺には無理だ・・・」
「頑張れ葉桜!自分の彼女の奇行ぐらい止めてみろ!」
「魔法で止めてください・・・」
「・・・優梨さんを止めたら後日報復されちゃった感じですか?」
葉桜さんの諦めを通り越して怯えっぷりが露呈してきたため深堀すると、なんとあのピンポン迷惑女、止めた葉桜さんに報復をしているらしい。恐ろしい女だ
「ちなみに何されたんです?」
「・・・抱き枕没収された。あの、包み込んで寝る奴」
「あ〜。あのU字型のですか」
「能力を寝ながら使うときに便利だから重宝していて、でも今も没収されていて・・・」
「大変ですね。新しいの買えばいいのでは?」
「発見されたら処分される」
「そりゃあ困りますね。で、今はどうしているんです?普通の枕で?」
「優梨の、膝枕・・・」
「最終的には惚気ですか・・・うぉっ!」
優梨さんのピンポン処理が更に加速してしまう
嬉しそうににんまり笑っているあたり、この惚気は効果抜群だったらしい
「駄目ですわよ光輝。こんなところで・・・」
「あああああああっ!パシフィカ!とりあえず優梨さん黙らせるために何かして!」
「私!?ええっ・・・ええっと、これでどうですか!」
「「「「あ」」」」
パシフィカがとりあえず引っ張った・・・否、上空へ投げたのは長方形の鉄っぽい何かと、
逆方向のノブを掴んでいた成人男性
その先にいた人物と目が合う
江上和夜。例え絶賛引きこもりをしていても身なりはしっかり整えており、五年前から成長こそしているが、様相はあまり変わっていなかった
「パシフィカ!駄目でしょ!ドア壊したら!」
「どどどどどうしましょミリア!遂に私も器物損害で・・・!」
「そこの心配はしなくていいから!それよりも上!投げ捨てた扉の方!一咲!」
「わかってる!」
杖を構え、前方に向かって結界を張る
その瞬間、上空から魔弾らしき代物が無数に飛来
結界は砕けなかったが、結構重いな
「ご近所迷惑ですよ、優梨さん!光輝さん!今日は何なんですか!新入りの紹介ですか!?」
「やっと出てきてくれましたわね。和夜」
「やっと出てきたとかそういう話じゃないんですよ!」
「「へ?」」
「毎日毎日ピンポンピンポンするから隣人に怒られているんですよ!毎日毎日ベランダから奴のメイドに睨まれている俺の気持ちわかります!?」
「そういえばこいつの隣、誰だっけ」
「夏帆ですわ」
「じゃあ睨んでるのは理樹か・・・そりゃあ申し訳ないなぁ。でも俺たちはお前に出てきてほしいから」
「今日は流石に我慢の限界です!丁重にぶちのめしてやりますから覚悟してください!」
中型の銃をくるくると回し、静かに構える
師匠の話だと、あれが和夜さんの戦闘形態
巻いているマフラー型の星紋は彼を浮かし、両手にそれぞれ持つマスケット銃型の星紋が彼の武器として共に戦う
他にも色々と「借りている」らしいが、詳細は明らかではない
けれど・・・彼の借りる能力に際限はない
和夜さんは借りている能力を同時に複数使いこなす上に、能力者として安定している分、妹より質が悪いことは確かだ
「来るぞ!一咲!」
「わかってます!」
葉桜さんの合図で結界を安定させ、迎撃態勢を取る
再び細かい魔弾が絶え間なく降り注ぎ、結界を揺らしてきた
「一咲、私が出ます。貴方は結界を続けて」
「あの高さまで飛べる?」
「さあ、どうでしょうか。わかりませんが、現状一咲以外にこの場の守りができる人間がいませんから・・・できることをやってみるしかないかと」
和夜さんの位置は正確にはわからない
ただ、あのマフラー型の星紋で上空に陣取っていることは確かだ
飛べる私は現状結界の維持を担当しなければいけない
優梨さんはともかく、非戦闘員の葉桜さんとミリアはこの攻撃を受けたらひとたまりもないはずだ
例え伊依さんとかいう致命傷でも治す能力者に時間制限こそあるけれど蘇生ができる私がいても・・・
その痛みは忘れられないものとして刻まれる
「速度強化と脚力強化の重ねがけをしておくわ。でも、無理しないでね」
「ありがとうございます、ミリア。では!」
パシフィカが結界から飛び出し、壁を利用して上空にいる和夜さんを狙う
流石の運動神経と言ったところか。ミリアの支援魔法のおかげもあるかもしれないが、彼女は脚力だけで上空にいる和夜さんを攻撃範囲内に捉える
「・・・舐めているのか?」
「いえ、そんなつもりはっ・・・あっ!」
パシフィカの剣先は和夜さんの銃を擦ることなく、虚空を切る
その隙を勿論和夜さんが見逃してくれるわけがない
宙で身を翻した彼は、パシフィカが見せた背中を思いっきり蹴り飛ばした
「飛べない奴に用はない」
「・・・っ」
一瞬だけ、パシフィカは上空に視線を向ける
空を自由に支配する能力者と、飛べない精霊
「私だって・・・行けるならそこへ・・・」
手を伸ばして、焦がれるように
同族の誰しもが辿り着けるその場所へ
パシフィカは、悔しそうな顔で手を伸ばし続けていた
けれどその願いは届かないまま、彼女の体は空からゆっくり遠ざかる
「でもお前、いいものを持っているな」
「・・・」
「壊してやるから、次はちゃんと来い」
和夜さんの銃から放たれた魔弾がパシフィカの羽根を打ち抜く
「パシフィカっ!」
「ミリア駄目だ!今外に出たら的になる!」
「そういうお前は結界にブレが出ているぞ」
「なっ・・・!」
火力を上げて、動揺でブレた私の結界を打ち抜き・・・そのまま寮の床まで破壊する
私はとっさに杖に飛行魔法を付与して安全を確保し・・・
「ミリア!」
「かずさ!」
床を破壊されたことで宙に投げ出されたミリアに手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない
「あっ・・・」
元々、空中が怖くて気絶するような子だ
ミリアは今にでも死にそうな表情のまま、私から遠ざかる
追いかけようとしたら和夜さんが魔弾を飛ばしてくる。ミリアを追いかけられない
しかし下にちょうどパシフィカがぶっ倒れている
・・・すまないパシフィカ。ミリアのクッションになってくれ
現状の私にできるのは・・・
「和夜さん!こんな姿を見たら師匠泣きますよ!一般人いじめるとか性格歪みましたね!」
「・・・お前に用はない」
「むっきょー!」
「・・・一咲、多分和夜の悪い癖が出ていますわ」
「優梨さん、無事だったんですね。葉桜さんは?」
「廊下の隅で気絶してますわ」
ふと、煙の奥を見てみると・・・確かに葉桜さんは目を回している
メインアタッカーだけじゃなく、サポーターも潰れたか・・・
「それで優梨さん、和夜さんの悪い癖って?」
「あの子、本気で相手をされないと気に食わない性分なんです。あえて本気を出させるために、外道極まりないことをしたり、相手の枷を外したりなどなど、滅茶苦茶なことをするんですのよ・・・」
「アホなんですかね」
第二部隊が戦闘狂揃いって言われている理由、大半が師匠と和夜さんにある気がするよ
いや、それよりも・・・その癖を考えると
先程のあれにも、何か意味が・・・
「・・・一咲、あれ」
「なんです?」
「なんですの?」
優梨さんが指で示した先は、少しずつ光を帯びていく
見たこともない真紅の魔法陣が足下に浮かび、彼女の体が宙に浮かび上がる
落ちてきたミリアを無言で抱き留め、安全な場所に寝かせたパシフィカの背には綺麗に開かれ、透き通るそれに太陽の紋様を浮かべた二枚羽根
「・・・ようやく飛べるな」
「ええ。そこだけは素直に感謝してやります」
特徴的な真白の先端に燃えるような夕焼けが浮かぶ
普段はぼけぼけしている彼女からは想像できないほどギラついた真紅の瞳と燃えさかる炎を身に纏い「飛べない精霊」パシフィカ・グラウゴスは
今、焦がれた空に———
———物語という枠から飛び去って、今、舞い上がる




