38:賢者様ご一行の案内先
観戦席に戻った後、ミリアと永羽ちゃんが用意してくれていた簡易寝床にエミリーを寝かせ、近くの椅子に腰掛けて一息吐く
「ふう」
「お疲れ様、一咲ちゃん。はい、お水」
「ありがと」
永羽ちゃんから水のペットボトルを受け取る
親切に開封されたそれを一口分流し込んで、一息
労働の後に飲む水は最高だね!
「お前らちゃんと強いのなぁ」
「いやぁ。ふわふわゆるゆる旅してきたと思っててすまんって感じ」
「道中大変だったんじゃないか?」
「貴方たちの羞恥プレイに比べたらマシですね。誰が用意したんですか、そのたすき」
「「「・・・優梨」」」
紅葉さんと夜雲さんと浩一さんが身につけている「我々は一般人に負けた羽持ちの面汚しです」と書かれた悪趣味たすきは優梨さんからのプレゼントらしい
あの人もエグいことするな・・・
「不必要かと思っていたのですが、まさか一般人相手に皆様が揃いも揃って敗北と思わなかったので」
「この七人は魔王討伐を成す為に過酷な旅をしている系の方々だからな。甘くかかったら駄目だ」
「「そういうの早く言えよ!?」」
「それなら納得だな。頑張っているんだな、皆。凄いなぁ」
浩一さんだけまともに受け答えをする後ろで、光輝さんに詰め寄る紅葉さんと夜雲さんは置いておいて・・・
「そういえばミリア。一つ聞いておきたいんだが・・・」
「はい、なんですか?」
「俺は原作しか知らない勢だから、お前とパシフィカが仲いい理由がよくわからないんだよな。演習の時も人一倍心配していたように見えたし・・・何かあるのか?」
「私とパシフィカが仲いい理由・・・?まあ、一緒に旅をしてきているし・・・」
「私は永羽と一咲が次の街に旅立った後、自分の選択ミスに落ち込んで引きこもっていた時期がありまして・・・それをミリアに引っ張り出されたからこの場に」
「待て。引きこもった?誰が?」
「私ですが・・・」
光輝さんは驚きながら、優梨さんに目線を向ける
「優梨、こいつらならやっぱりやれるんじゃないか?」
「無茶ぶりですわよ。でも、同じ経験とか引きこもりを相手にしたとかそういう点を持つ二人が現れたのは、運命かもしれませんけれど・・・」
「無茶、というのは・・・?」
「私はともかく、ミリアに危険な事はさせませんからね!?」
ミリアが恐る恐る二人に問う
それもそうだろう。パシフィカと仲がいい理由を問われたら、急に無茶ぶりをさせるか否かの話になったのだ
パシフィカがミリアの前に立って警戒する理由もわかる
けれど・・・私達には何となくわかる
二人が何を成したいのか
誰を必要とし、連れ出したいのか
「「鈴海第零区域に向かうために必要な存在を部屋から出す仕事」」
「「・・・へ?」」
「和夜さん、ですよね。第零区域に突撃するために必要な人」
「誰なの?」
「誰ですそいつ」
「・・・時雨さんのお兄さん」
私が情報を提示すると、ミリアとパシフィカは仲良く首を傾げる
そして二人揃って目を見開き、わなわなと震えながらこう言うのだ
「絶対一人っ子だと思っていたわ・・・しっかりしすぎだもの」
「妹には見えませんよ」
「二人は時雨さんというか、全国の妹さんにどういう印象をお持ちなのかよく理解したかな・・・」
ちなみに時雨さんは私達七人にはちゃんと見えている
ふよふよと浮いている彼女は和夜さんの話題で複雑な心境を抱きつつも、しっかりしていると褒められて嬉しがるなど表情がコロコロ変化していた
・・・師匠が見たら喜ぶな、あれ
「とりあえず。見ての通り、あの島は暴風が島を包み込んでいる島だ。入口は上空しか存在しない」
「上空ねぇ・・・飛ぶだけでいいのなら私やエミリーでも十分だよね。でも、和夜さんじゃないと駄目な理由があるんだ」
「あの暴風は魔物の巣窟もやっていてなぁ・・・飛行戦に長けた能力者及び魔法使いじゃないと近づくことすら叶わない。お前らは箒に乗りながら大量の魔物を相手取ることができるか?」
「師匠にしかできないかな」
「俺も、箒というか杖に乗りながら魔物を殴り倒せるのは譲しか心当たりがない」
「現状の鈴海大社だと、和夜を超える飛行戦を行える能力者はいませんわ。半年後の作戦に和夜の参加は不可欠。けれど・・・」
「譲と妹の約束を壊して、トドメには第零区域でその二人を守れなかったと悔やみ続けている」
「・・・和夜さん、師匠と時雨さんが死んでからずっと引きこもりやっているんですか?」
「基本は通販の引きこもりですが、定期的に外出したりしているんですのよ。目的は墓参りですけど」
昔からマメな人だ。二人の月命日には毎月お墓参りに行っているのだろう
彼の性格を考えると納得の行動ではあるのだが・・・知ったら知ったで苦しくなるな
大社の司令官には一人、秘書官が就いている
春風柊とかいうどうでもいいゴミには見島崎晴
師匠の話だと、水さんの婚約者の妹さんが秘書官として就いているそうだ
第三部隊の司令官である音無楓には九重眞白
葉桜さんの能力を通信特化にしたような人らしい
第四部隊の司令官である綾波伊奈帆には王寺神人
綾波に仕えていた使用人と言うこともあり、信頼感で秘書官になるケースもあるそうだ
まあ、他の部隊もあるけれど・・・今回は師匠の知り合いを中心に
そして師匠の秘書官は和夜さん
非常にマメな性格で、秘書官界隈でも「一番秘書官らしくて、一番秘書官になって欲しくない人」というレベルで秘書官適性は高かったそうだ
そもそも和夜さん自身が「譲に尽くす」為に大社に入社した人だから、師匠を支えることに関しては誰の追随も許さなかったし、誰もが認めていた
彼こそが椎名譲の秘書官。そして影の相棒であると
おそらく、引きこもっていても「自分の生活」は水準以上に保っているだろう
しっかりした人だ。たるんでいる姿なんて自分自身が許さない
給料は貰っていないだろうけど、生活できているのは多分大社の自立支援金かな
大社は仕事の関係上、病んだり一生介護が必要と診断されるような目に遭うことは少なくない
そのため、大社の職員であるものは「まともな生活」を送れるようになるまで大社が支援を行う決まりがある・・・らしい
詳細は流石に知らないけれど
「・・・あの、優梨さん。和夜さん、現状どんな感じなんですか?」
「会話はほぼしてくれませんわ。口を開いてもネガティブな事しか言いませんけれど・・・もう一押しだとは思います」
「もう一押し、ですか?」
「ええ。何かきっかけがあれば、ドアを蹴破れる存在がいれば・・・あの子も出てきてくれるのではと思っています」
きっかけという布石はもう存在している
第零区域に入るということは、彼の妹の遺体を回収できるチャンスだ
時雨さんは両親のことを非常に嫌っており、家族は別々の親戚に引き取られた双子の和夜さんだけと認識しているようだし・・・
和夜さんも端から見たらシスコン街道まっしぐらなレベルに時雨さんのことが大好きだ
・・・時雨さんのことがシスコンレベルで大好き?
「あのさ、時雨さん」
『はい、なんでしょう』
「時雨さんって、このうちの誰かに取り憑けないの?」
『・・・できそうではありますが、紅葉君とミリアはちょっと』
「だろうね。浄化で消滅の危機は避けておこう」
たとえ地縛霊で未練を果たさない限りは消えないとしても、体内に入り込んで浄化の影響をもろに受けてみろ
死ぬより酷い目に遭いそうだ
『それから、貴方たち七人の誰かも嫌ですね』
「なんで?」
『男に抱きつくというか、抱きつかれる可能性があるんですよ?いいんですか作風として・・・』
「そういうメタ的な発言があんたから飛んでくるとは思ってなかったけど、確かに駄目そうだね」
「もぐもぐ・・・流石時雨。タグの範囲内にいる女を守れる女」
『うっ・・・あ、貴方もそういう発言は滅多なことがない限りはしないようにしてくださいね?本当はこう言うの、駄目なんですから』
「なんで?どうして?」
『だ、駄目なものは駄目なんです・・・!あと、近づかないでください・・・!』
「・・・ヴェル。やめて差し上げなさい」
「なんでー?」
「・・・とりあえず今は、話を進めるためにね」
「わかった」
ヴェルが絡み始めた時はびっくりしたが・・・やっぱり時雨さん、あの件をかなり意識しているようだ
ヴェルと話しただけで見てわかるレベルだとは、予想してなかったけれど
「時雨さん。とりあえず時雨さん自身誰かに取り憑ける可能性はあるんですよね?」
『は、はい!』
「時雨さんが取り憑く・・・それなら私が一肌脱ぎますわ。光輝、よろしくて?」
「まあ、時雨の協力を得るなら和夜を引っ張り出せる可能性が高くなる。複雑ではあるが・・・俺は和夜に外へ出てほしいから」
『ありがとうございます。その時は、お借りさせていただきます』
「さんくす。時が来たら借りるとの事です」
「一咲、貴方時雨さんの言葉をかなりかみ砕いて伝えていますわね?」
時雨さんにも変な伝え方をして・・・と、怒られつつ、ついでに優梨さんからも睨まれておく
「では、思い至った時が吉日。早速行きますわよ」
「「「えっ」」」
「じゃあ俺は残りの面々を面白いところにご案内しようかな」
「「え」」
「すやぁ」
「もぐ・・・?なに?美味しいご飯が食べられるところ?」
優梨さんはにんまりと私とミリアとパシフィカを
紅葉さんはとある場所の鍵をくるくる回しながら、永羽ちゃんとベリアとヴェルと・・・眠るエミリーへ視線を移した




