24:意外な出会い
追跡魔法を再び発動させたノワが案内した先は、これまた壊れた宿舎だったと思われる場所。
同じように瓦礫を動かして、そこに隠されていたものを暴きにかかるが…これと言った代物はない。
「やはり、処分をされているのかしら」
「死亡してからどれぐらいの時間が経過しているかわからないけれど、神父がシスターシェリアを消したなら、めぼしい情報は消しているだろうね」
「けれど、普通に死んだなら…何も無いのはおかしいわよね」
「確かにね。後任のシスターに向けた資料も残していたと思うんだ。勿論、家具類もね」
シーツや布団がないのは当然だろう。使用者がいないものを置いておく必要は無い。
けれど、ベッド本体まで消えているのは妙だ。
本棚も、机も…備え付けと思われる家具類まで消えているのは不自然だ。
「この部屋は、形跡を見る限り「何もなさ過ぎる」」
「…神父は、シスターシェリアの私物を、教会備品を含めて処分せざるを得ない状況になったのかしら」
「シスターシェリアは隠したんじゃないかな。神父のことを書いた情報を、ここではないどこかに。神父はそれを探そうとしたが、見つからないから…」
「纏めて、処分をした」
「そう考えるのが妥当だね」
こそこそ探すのにも限界がある。
例えば毎夜毎夜神父がシスターの部屋に証拠探しに出向いていたのなら、それ相応のリスクが生じる。
それを修道女に見つからない保証は、どこにも無いのだから。
それなら纏めて処分した方がマシだろう。リスクを負う必要もなくなる。
備品の問題も気にしないでいいのだろう。
神父を操っていた存在が、聖教都市も牛耳っているのなら…簡単に購入要請も通るはずだから。
「ノワ。シスターシェリアが隠したものは、追跡できる?」
「流石に範囲が広すぎる。隠したものがどんな代物かも分からなければ、ここには彼女の足跡が無数に残されている」
「あ…」
「今回みたいに「不自然な足取り」を探す真似ができない。隠し物は彼女が出入りしてもおかしくない場所にあっただろうからね」
「シスターシェリアの足取りを虱潰しになるのかしら」
「うん。普通の状態なら一日で終わるだろうけど、瓦礫を動かす必要がある今、何日かかるやら」
「そうよね…」
「そう落ち込まないで。捜し物の在処…その見当はついているから」
「分かるの?」
「何となくね。シスターシェリアは教会の仕組みを話す程度に彼女に信頼を寄せていたんだ。ミリアに「生前、シスターシェリアから何か預かったり、何かを言われたりしなかったか」…聞きに行こう」
「わかったわ」
教会跡地を離れ、ミリアに会いに行く為…近くの避難所へ向かおうとすると、誰かに引き留められる。
「…貴方」
「ん?」
「もしかしなくても、ノワ・エイルシュタットですか?」
「そのちんちくりんな見た目かつ、でかい三つ編みをした君は…」
ノワを呼び止めた彼女は、こんなところで会えるとは思っていなかった存在。
魔法使いだと一見してわかる大きなとんがり帽子に収まるのは、オレンジ色の髪。
長いそれは大きな三つ編みでまとめられている。
そんな彼女は、大きなレンズ…丸眼鏡を通して私たちをじっと見つめていた。
彼女こそ「エミリー・エトワンス」
魔法使いとして勇者パーティーに所属することになる女の子。
彼女との出会いはもう少し後に立ち寄ることになる「常夜都市」であるミドガルになると思っていたのに、どうしてこんな場所に…。
「…君は、誰だっけ?」
「エミリー・エトワンスです。貴方と同じ魔術学校に通って、同級生で次席だった女です。いい加減、名前を覚えてくれませんか?」
「いやぁ。人の名前を覚えるのは苦手でね。ところでエマ」
「エミリーです。一度でもいいから名前をきちんと呼んでくれませんか?仮にもライバルだったのですから」
「ライバルなんて私にはいない。で、ところでエドワード。話は変わるんだけど、どうして君はここに?」
「だから、エミリーですってば。性別まで変えないでください」
これ、決してわざとではないんだよね。
わざとと思うレベルで名前を間違い続ける彼女の表情は、いつも通り無表情。
とてもじゃないが遊んでいる感じには見えないのだが、実は遊んでいたりするのかな?
…ただ単に、忘れっぽいだけ?
複雑な名前じゃない分、間違える要素なんて全くない気がするのに。
「…ボキャブラリーが試されるなぁ」
「貴方、それわざと?」
「…作中基準」
「え」
ノワがぼそっと事情を伝えてくれる。
エミリーの名前を間違うのは、物語仕様らしい。
物語を準える行為に縛られている身としては、その苦労に理解を示すこともできる。
…大変だな、ノワも。
「で、君は何でここに?」
「えー…おほん。ここに来たのは、面白そうな勧誘があったので…」
「面白そうな勧誘?エムがそういうのって珍しいね」
「エミリーです…!まあ、その勧誘はこの教会の修道女が主催のようで…え、まさか貴方もこの勧誘を!?」
「いや、それは初耳だし、興味ない」
「ほ。それは安心です。貴方みたいなのが一緒だと、私の名前を覚えてくれる人が一生現れないと思っているので!」
「心配するところはそこなのね…」
「ところで、貴方と一緒にいるそこのお方は?まさか貴方の相方?遂に漫才でも始めたんですか?」
「貴方は貴方で失礼ね…。魔法使いって皆こうなの?」
「流石に漫才は始めてないよ。そうだね、アリアは相方だよ。私の、人生のパートナー…つまりのところ、将来のお嫁さんってやつだね!」
「いつから私たちは婚約するような間柄になったのかしら?誤解を招く表現はやめて貰えると嬉しいのだけれど?」
「…え、じゃあこ、恋人なのは認めるのですか?」
「まずその前提がおかしいのよ。私たちは旅の仲間。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「そんなぁ…アリア冷たぁい」
「あ…安心してください。ええっと、アリアさん。この女の妄言は信じていません。どうせ嘘しか言ってないことぐらい理解していますので。何でもないこと、理解していますので…」
「その発言はどうなのよ」
前言からして彼女がそう思っていないことは明白だ。
なぜあからさまな嘘を吐くのだろうか。理解しがたい。
とにかく、エミリーが抱くノワの印象というものは最悪のようだ。
本来の物語でも、よく喧嘩をしていたコンビとして過去が書かれていたけれど…これがずっと続いていたと思うと、正直エミリーには同情しかない。
「で、貴方はなんでこのアホ賢者と一緒にいるんですか?」
「パーティーを組んでいるの。魔王を倒すためにね」
「つまり、貴方は勇者だと」
「ええ。もちろん」
「…嘘吐き同士でお似合いですね」
「なぜさりげなく私も嘘つき認定されているのかしら。事実しか言っていないわよ」
「今回はアリアに完全同意する。アリアは勇者だよ」
「貴方が言うと信憑性が…」
「私が悪いの!?」
ノワが非行ばかりする影響で、私にも被害が飛んできたらしい。
まさかここに来て「勇者として信用されない」イベントがやってくるとは…
一応、ウェクリアでは現在進行形で「話題の人」なんだけどなぁ!
周囲の掲示板にはそっくりに描かれた私の似顔絵と共に「速報!勇者アリア、悪行神父を退治!」と、先日の一件が大々的に報じられている。
流石にあれを見て、私の勇者発言を疑う人がいるだなんて想定外だ。
「私が勇者パーティー所属なのを疑うならまだしも、勇者本人を疑うとは…エルザ、そのメガネは伊達なの?度は合ってる?」
「エミリーなんですけど!それとメガネは余計なお世話です!この前新調したばかりなんですから!」
「へぇ…どこのお店?」
「今それは関係ありませんよね!?全く…どうせ貴方の悪知恵で、その子を勇者に変装させているのでしょう?お金にがめつい貴方が考えそうなことです!」
「それは風評被害だ。お金にがめつい私でも、誰かの尊厳を傷つける真似はしない」
「お金にがめついところを認めるのはどうかと思うわ。さらに言わせて貰うのなら、その尊厳云々はエミリーの名前を間違えている時点で散々傷つけ続けていることに気がついてほしいのだけれど」
「アリア、何か言った?」
「ノワの耳に説教とはこういうことを言うのね。意味がなかったみたい。なんでもないわ」
この人に何を言っても無駄なようだ。
一咲ちゃんなら聞いてくれると思うし、理解をしてくれると思うけれど…
ノワとして考えたとき、アリアの小言なんて無視するよね。
ちゃんと彼女も彼女なりのノワを頑張っているらしい。
しかし、この二人のコンビは最悪だ。話を全然聞かない。
ツッコミを入れるのも大変…頭が痛くなってきた。
「ま、まあとにかく!いいですか?勇者を語るのは大罪なので見過ごせません!今回の名乗りは聞かなかったことにしますから、もうこの賢者とバカなお遊びはやめて、貴方もちゃんと淑女になりましょう?田舎の親御さんが泣きますよ?」
「ああ、いたいた!」
「…さらに話を厄介にしそうな女がやってきた。会いたかったけど今はマジでどこかに行ってほしい」
「今回ばかりは同感よ。相性が最悪すぎる」
ノワのうんざりした声も納得。騒ぎを聞きつけたのか、私たちの探し人は最悪のタイミングで遭遇してしまった。
ミリアは私たち…ではなくてエミリーの方を向き合い、話を始めた。
「エミリー・エトワンスさんですよね。今回の「後援旅団」の有志として参加をしてくれると連絡を受けています」
「ええ。貴方が主催のミリア・ウェルドさん?ちょうどよかった。この人たち、自分を勇者だと」
「アリア様ですか?勇者で間違いありませんよ?私をはじめとしたウェクリアの住民全員が証明しますし、何よりも聖剣と服装が証明です。彼女は勇者ですよ」
「へ?」
「まあいいや。詳しい説明は向こうでしましょう。あ、勇者様。ちょうどよかった。お話ししたいことがあるんです。一緒に来ていただけませんか?」
「え、ええ。もちろん。私たちも貴方に聞きたいことがあったから」
それから私たちと、エミリーを加えた三人はミリアの案内でとある場所に案内される。
その間、エミリーが一方的だがノワに対して口論を続け、ミリアの苦笑いを引き出したのは言うまでもないだろう。
…思えばこれが、本来の日常風景に近いもの。
あと一人。前衛を担当する「騎士」が加わって勇者パーティー。
賑やかと言うよりは、若干ストレスが溜まるような会話ばかりで今でもうんざりしているというのに…これに加えてあと一人となると、正直胃が痛い。
ねえ、アリア。貴方はこれを見て…どう思っていたの?
物語アリアの行動には、疑問が残る部分が多かった。
もちろんそれは物語ノワの行動にも言える話。
二人と少しだけ距離を取ると、それに合わせてノワも後ろにやってきてくれる。
「…どうしたの、アリア」
「ううん。なんでもないわ。ノワ」
「そういえば、いつの間に名前呼びしてくれるようになったね」
「判別が難しいからよ。「名前」で呼ぶ時は物語の登場人物としての役目を全うしている間。それ以外は…そういうことよ」
「なるほどね。了解。私も真似させて貰っていいかな?」
「許可なんて取らなくていいのに。大丈夫だから。貴方も呼びやすいように私を呼んで」
「ありがとう。ところでアリア。何か気になることでもあった?」
「少しね。主に本来の勇者パーティーのあり方とか」
「あー…あれ、疑問に残る部分が多いもんね。でも話の続きは帰ってからね」
「わかってる。けど、貴方も気になっていたのね」
「うん。それが、この物語の「本来の行き先」に繋がるヒントになるのかなって思ってさ」
「それは必要ないと思うけど。だって、鳩燕さんが用意してくれた道をなぞるだけで、私たちは辿り着くべき場所に辿り着けるのよ?」
「それは…」
「勇者様。到着しました!」
「ここ、役所よね?」
「ええ。今はここを中心に色々とさせていただいていますので!ささ、こちらに!」
話は目的地に到着したことで中断。
続きを聞くことは叶わない。
ミリアに押されるようにして役所の中に立ち入った私たちは、そこで驚くべき光景を見せられることになる。




