17:時間旅行者の憂鬱
12月5日
冬月屋敷のとある一室でのんびり休日を過ごしていた俺は、巴衛の部屋でごろごろしていた
別に一人が寂しいというわけではない。本来であれば静かな自室で読書に勤しむ。それこそ理想的な休日だと言えるだろう
俺がここにいるのは、主のいいつけ
目を離したら何をしでかすかわからない巴衛の監視が主だ
「明明後日は〜正太郎召喚日ぃ〜」
トンカチを叩きながら音程の外れた即興曲を馬鹿でかい声で歌うこの男「朝比奈巴衛」
「バカと天才は紙一重」という言葉が世界一似合う、タイムマシン技術を完成させた天才技師様だ
「うるせえな音痴。正太郎泣くぞ」
そんな天才様に俺は読んでいた雑誌を投げつけ、頭にクリティカルヒットさせておく
巴衛の詩は聞くに堪えない
「って・・・。たくよぉ、朔也。お前は全然理解していないな。こんなことで正太郎は泣きませ〜ん。解釈不一致で〜す!」
「お前さ、正太郎の何を知るわけ?」
「時間旅行の間、俺は一緒にいたからな。なんなら介護をされていたからな!」
「自慢じゃねえだろ・・・」
「そういうお前は正太郎の何を知るんだよ」
「正太郎のことはあまり関わりがなかったから知らないけど、昭和時代にいた時は正太郎と正二が引き取って育てていた子供の・・・桜哉の方とは仲良くしていた」
「あー。正太郎が拾ったガキかぁ・・・聞いた事ある。変な縁だなぁ」
「だな」
俺と巴衛は元を辿れば昭和時代の人間
巴衛が製作したタイムマシンや、その他諸々の影響で現代に集まり・・・
才能を冬月家に買われ、使用人として居着いている状態だ
「正二とか、舞園の話をしたら喜びそうだけどな」
「あいつとは話が合わないからな。正太郎の話になったら「兄さん!」が語尾に付くような男とは関わり合いになりたくない」
それに、舞園姉弟は俺と出会った時点で二人寄り添って生きていた
正太郎とその弟である正二が引き取って・・・震災で正太郎が公には死亡扱い
その後、姉弟を育てなければいけない正二は二人が七歳になるまでは面倒を見ていたらしいが、それ以降は行方不明
俺たちと一緒に時間旅行をしていた正二は、その行方不明期間に相当する時代の彼だ
世間話とか、必要最低限の会話はするつもりだが
・・・俺の友達を育児放棄した男と交わす言葉は、残念ながら持ち合わせてはいない
「・・・まあ、気持ちはわかるぞ。でも、残念だな」
「何がだ?」
「彼方が友達だった魔法使い。鈴海の青鳥・・・その契約守護霊が舞園桜哉だったんだろう?お前の、友達の」
「・・・らしいな」
どういう経緯で死んだのか
どんな縁で、あの魔法使いの守護霊になったのかはわからないけれど・・・
幽霊という形ではあるけれど、あいつはこの時代にやってきていた
会えたらよかったのだが・・・流石にそれは難しい話
それに会えたところで「あれ」をどう渡せばいいんだ・・・
「てか、なんで舞園に会いたかったわけ?」
「ああ。橙弥から預かり物をしていたんだ。俺たち、同じ戦場にいたから」
「冬夜?」
確かに名前は一緒だけど、あいつはもう別名だろ
それに話の流れからして、この時代にいる方じゃないことはわかっていただきたいものだ
「違う。鴻上橙弥の方。劇団孔雀の戯作家。舞台は興味なかったのか、巴衛」
「興味ねえよ。けど、新聞で見たことあるわ。鴇宮紫苑と鴻上橙弥。何か共作で書いてたんだろ?」
「ああ。俺が預かったのは橙弥が書いた「福音書の守り手」っていう戯曲。鴇宮が書いた分と合わせて、初めて戯曲として完成する代物らしい」
「へぇ・・・」
興味なさそうにまた作業に戻った彼の興味を惹くような話題ではなかったらしい
それもそうか。こいつに舞台は無縁の空間
あの役者達と同じ時代を生きていても、関わっていなければどうでもいい話だった
「巴衛、少しいいかな」
「あ、冬夜だ」
「夜です」
話を終えるタイミングを待っていたのか。それとも偶然か
巴衛の部屋に俺たちの主人・・・その執事兼夫の男がやってくる
「あ、彼方の友達に「僕はお前の正体知ってるよ。お前はいつ正体明かすの?」って紅茶名で煽られたプノクルノクティスさんじゃん。元気?」
「うるさいよ。朔也・・・」
冬月夜はうんざりした顔でため息を軽く吐いた後、
「それで、なんの用だ?夏樹関連?」
「そうじゃなくてね・・・彼方経由で君に依頼があったんだよ」
「俺に?」
「少し前に魔法少女デバイスを作った際、椎名さんと取引をして巴衛は変な人形を作っていたじゃない?」
「ああ」
「その人形の直し方を知りたいって子が鈴海にいるらしくて。ついでに魔道具作成の・・・魔具技師?だったかな。それの稽古もつけてほしいってさ」
「ばっか。俺魔法使いじゃねえぞ・・・魔具技師なんて、魔力なんてものがないんだからできる訳が」
「魔力を込める前の道具を作れればいいって話らしい。例の人形みたいに」
「・・・それなら構わないけど。そいつ、何考えてんだ?」
「さあ。それは君が実際に見てくるべきだよ。稽古をつけるかどうかは君に任せると彼方からは伝言を預かっているよ。ただ「先に入れていた予定はどう転んでもちゃんとこなしてね」ってさ」
「おー」
「朔也。ちょうどいいから君が保護者で付いていってね」
「「はぁ!?」」
「朔也が保護者できる訳ないだろいい加減にしろ!メンタルクソ雑魚!戦うことしか能がない男だぞ!?」
「メンタルクソ雑魚に関してはお前にだけは言われたかねえよ!それにお前より賢い自信はあるわ!帝大在籍ナメんな!それに俺が何でこのバカの保護者をしないといけないんだ!?二階堂の誕生日を調べる仕事もあるんだぞ!?」
「8日までに終わらせて?終わるでしょ?」
「なぁ・・・」
「9日に鈴海に到着するように手配をしておくよ。よろしくね」
「「無茶ぶりだぞ・・・プノクルノクティス」」
「お黙り!」
勢いよく閉められたドアが無事か確認した後、俺と朔也は顔を見合わせる
「・・・いかないとだよなぁ」
「・・・いきたかねえなぁ」
やっと神語りと神様が憑いた人間の物語が一区切りつきそうって時に提示された、新たな厄介ごと
年末だからだろうか
まだまだ、忙しい日々は続くらしい
・・
翌日
私達が朝食を食べていると、そこにふらりと戻ってきた時雨さん
思えば私と大社にいかなかったし、どこをほっつき歩いているのかと思いきや・・・千早さんのところにいたらしい
「もぐもぐ。米粉パンおいしい」
『千早さん、相変わらず滅茶苦茶なもので・・・出産を終えた瞬間に「で、時雨ちゃんはなんでここにいるの!?」なんて聞かれて・・・その後は寝ることもなく、根掘り葉掘り事情を伝える羽目になりました・・・』
「それは災難だったねぇ」
『貴方と一緒に大社へ行きたかったと心の底から思いました・・・』
「でも、その流れ的に・・・行きたくても行けなかったのでは?」
『ええ。紅葉君が葉桜さんと通話している時に「逃げるなついてこい」と脅されて・・・』
「やっぱり・・・」
エミリーが聞くまで私も知らなかったが、どうやら私と紅葉さんが葉桜さんの電話を聞く後ろで彼女は千早さんに脅迫されていたらしい
・・・陣痛で苦しんでいた人がすることじゃないだろ
「千早さん、タフすぎではないですか?」
『本当ですよ・・・実際自分が千早さんと同じ状況におかれたとして、同じ事ができるかどうかと問われたら・・・』
「「「「「「「絶対にできない」」」」」」」
『でしょう?』
彼女の第零区域と師匠への執念がそれを成させたのか・・・はたまた偶然かなんて、ココではわかりやしない
できれば偶然がいいけれど、熱海千早・・・もとい二ノ宮千早の執念は私達が想像しているそれよりも遙かに恐ろしい代物だと思う
師匠が死んでから第零区域に向かう手段を常に探し続け
一度だけ入れた機会を見逃さず、探索に出かけて
・・・ついでに親衛隊まで主催している女だ
師匠のことになると保護者みたいな勢いで駆け付けてきそうだな
病院で安静にしとけと言われていても這い上がってきそう
・・・今後、奴を止めることになるパシフィカは大変そうだな
「・・・?」
「いや、何でもないよ。パシフィカ」
無意識に哀れむような視線を向けていたのだろう
パシフィカが視線を感じ、私に対して何か言いたげに見ていたが・・・適当にはぐらかしておく
『そういえば、譲さんが千早さんとも距離を置いていたという話は驚きましたね。何かあったのでしょうか』
「あんた気づいてなかったのか」
『どういうことで?』
「時雨さんが察しの悪い女なのは師匠への「おま誰」事件でもお察しだったんですけど・・・これも気づいていなかったとは」
『今回は怒りませんから、ちゃんと教えていただけます?』
「いいですよ」
朝ご飯の時にする話題でもないと思うが、ベリアもだんまりだし・・・
師匠に関する話題は今後必要になる事があるかもしれない
この場にいる全員が辛くならない程度に共有しておこう




