15:幕間の依頼
優梨と共に部屋に出たあたしは、彼女にある話をした
あたし自身が託されたものの話と、魔具技師を目指すために必要なこと
勿論、あたしが魔法の類いを使えないことは伝えている
・・・記憶を読み取る程度しか、できないことはちゃんと伝えてある
そして同時に、あたし達の体が作り物であることも
「なるほど。司令が貴方に「魔具技師」の道を辿れと」
「ああ。これが証明になるかわからないけれど、あたしはあいつの道具を引き継いでいる」
優梨は懐かしむようにその道具に触れる
確かに、その道具箱にはあいつ自身が買ったものというのは全然なかったりする
まずは師匠?みたいな立ち位置にいる箱原美羽のお古を受け取り・・・それからずっとそれを使い続けていた
買い換えた分に関しては、彼女の方がよく知っているだろう
「確かに、司令の道具一式ですわね。私が差し上げたものもありますわ」
「その魔法熱ペンだろ」
「正解ですわ。疑ってはいませんでしたが、本当に司令の記憶があるのですね」
「ああ、なんせそれは」
「「二人きりの時に贈ったから」」
だから、他の人間がそれを日々音優梨が贈ったと知ることはない
それが根拠というのは薄い気がする
あいつが他の第三者に「優梨から貰ったんだよ」とか言っていれば、その前提は崩れるからな
・・・でもまあ、誰が何を贈ったのか。第三者には話していないようだけど
「根拠としては薄いと思っていますわね?」
「まあな。あいつが誰かに話していたら、その根拠は崩れるだろう」
「私とて司令とは長年付き合いがありましたから、彼の性格ぐらい重々理解をしていたと思っていますわ。彼は誰かに「これは○○がくれたんだよ」なんて言いません。どうでもいいことですから」
本当に、この女はどこまで見ているのだろうか
その通りだ。あいつは誰が何を贈ってくれたのかなんて心底興味ない
使えるか、使えないか・・・それぐらいだ
「繊細だけど、色々なところに無頓着な人」
「・・・?」
「自分の身近にあるものは、我が身の様に大事にする反面・・・身近であればあるほど、どうでもよくなるんですの」
「・・・そうだな」
周囲にいた人間や、身近な道具のことは大事にしていた
けれどその反面、この魔道具作成用の道具たちにも言えるし・・・あいつ自身にも言える
「しかし、妙に解像度が高いな。好きなのか?」
「ええ。死ぬほど嫌な結婚をぶち壊して頂いた恩があります。あの日から、嫁にしてもらうなら司令だけだと心の底から・・・当時は思っていましたのよ」
「思っていた、というのは」
「今は違う気持ちでいるから。司令はもう、この世にいませんもの」
悲しそうではあるが、五年という時が彼女に変化を与えたのだろう
その表情は悲しみにくれている顔ではなく、未練や抱いていた感情を振り切った後の顔だった
「生きていれば、今も諦めずに声をかけていたかもしれません。例え司令に、長年恋い焦がれた女性がいようとも・・・諦められる瞬間まできっと」
「お前、本当に勿体ないよな・・・なんであいつなんだよ」
「さあ。どうでしょう理由はわかりませんわ」
「助けて貰ったとか、じゃなくて?」
「そんな単純な事で惚れる女に見えますの?」
「記憶とか抜きであたしの感想だが・・・正直言えば、見える」
「正直な子は嫌いではありませんわ。司令も、もしかしたらそう見えていたのかもしれませんわね」
優梨の告白に対し、あいつはいつも「君にはもっとふさわしい人がいるよ」「いつか、この人でないといけないと思う人と君は巡り会える。いや、もう巡り会えているよ」と言い続け、断っていた
「本当にその通りになるのだから、司令の星見は恐ろしいですわ」
「・・・お前と葉桜も、過去で立ち止って先へ進まないのか?」
「お互い、司令に人生を変えられた身。自分たちの人生を歩むのは、司令の遺灰と、彼が愛した少女の遺体を回収し終えて・・・全てに区切りをつけた後にしよう。そう二人で決めていますの」
「・・・間に挟まれる永羽、可哀想に思うぞ。あたし達と一緒にいてもらおうか?」
「あら、こう見えて口にできないようなやましいことは何一つしていませんわよ。永羽が増えても、今まで通り。友人同士の同居の様に過ごすだけ。誰か増えてもそれは変わりありません」
優梨は廊下を進んで、月明かりを背に微笑みかけてくる
「司令を慕う気持ちもまた、この命が尽きるその瞬間まで不変ですわ」
「・・・すげえな、お前」
「司令に人生を変えられたら、貴方にもわかりますわよ」
「お前らみたいに、いい意味で変えられたらよかったんだけどな・・・あたし、初手隷属だし」
「何したんですの?」
「聞かないでくれ。敵サイドとして出現した宿命だ」
「貴方、元々永羽達の敵として登場したの?」
「ああ」
「けれど、ここまで付いてきているのは・・・貴方自身が永羽達の力になろうとしているのは、どうして?」
「最初は隷属されていたから、仕方なくってところもあったけど・・・なんだろうなぁ。居心地が、今まで生きていた場所よりも遙かによかったんだよ」
ヴェルと同じ
ここが、居心地のいい場所だったから
弱いからと淘汰されることもないし、本ばかり読んでも怒鳴られない
何をしても笑顔でいて
何かあれば、我が身に起きた事の様に慌てて、手を差し伸べる
普通ならおかしいと言えるようなことを当たり前にする連中が、ここまで一緒に歩いてきた面々だ
それに、あたしはあいつがいなければここまで歩くことができなかった
優梨や光輝を始め、第二部隊の面々が「あいつに出会って人生が変わった」と言うように
あたしもまた、同じなのだ
知らない世界を、あいつの隣でなら見ることができた
本来の食事ができなくて、悪魔として「淘汰される側」にいたあたしが今、こうして歩けているのは・・・あいつのおかげだったんだ
首につけられていた、今はないそれに思いを馳せるように、手をかざす
・・・あんなに嫌だったのに、今ではないと落ち着かない
人生、何があったかわかったもんじゃない
「あたしが今、ここにいられるのは・・・永羽や一咲をはじめとする仲間を気に入っているのもあるが、あいつのおかげって言うのも強い」
「・・・」
「だから、あいつの願いはできる限り叶えたい。永羽達の力になれというのなら、あたしは役目を終えるその時まで知恵だけになるけれど、力は貸す。終わった後のことは、その後にでも考えるさ」
「そうですか。魔具技師を目指すのも・・・司令の頼みもあるけれど、純粋に「戦えない自分の「戦う手段」としてでいいのかしら?」
「そうだな。サポートでもいいから、知恵以外でも力になれることを増やしたい」
「貴方の心意気は十分わかりましたわ。本土への・・・貴方たちの体を作ったらしい朝比奈巴衛の連絡は任せなさいな」
「ああ。それともう一人。この場に呼び出してほしい奴がいる。多分、朝比奈と一緒にいるはずだ」
「構いませんわよ。誰ですの?」
あたしの記憶が、椎名の記憶が間違っていなければ・・・この世界のこの時代には、あいつがいる
舞台役者時代の舞園に協力をしてくれていた男は、なぜかこの時代を彷徨っている
当時の話を鮮明に覚えており、後のことも知る貴重な存在
会っておけるのならば、会わせておきたい
「・・・一ノ瀬朔也。今の永羽と一咲が会うべき人間の一人だ」
「わかりましたわ。できるだけ早く・・・彼らの予定がどうかはわかりませんが、もしもの時はご存じでしょうが・・・司令の残したコネクションを使わせていただきますわ。明日、連絡の結果を伝えますので、しばしお待ちを」
「よろしく頼む」
優梨は「では、おやすみなさい」と告げた後・・・廊下をゆっくり歩いてこの場から立ち去る
あたしはそれを見送ってから、貸切時間内であることを確認し・・・そのまま風呂場への道を歩いて行った




