14:私達が次へ進むための・・・
「心配したんだよ」
「いやいや。なんだかんだで無事に到着できたよ、永羽ちゃん」
「時雨さんがいるとはいえ、一人だけだったから」
・・・永羽ちゃんも、曾お婆ちゃんを役立たず認定してるらしいな
もしかしなくても忘れているだけ?
まあいいや。触れないでおこう
「そういえば、皆の言葉は通じたの?」
「私も心配したけど、少しいい?」
「うん?」
私は永羽ちゃんの元を離れ、呑気にご飯にありついているヴェルの背後に立つ
彼女ほどの存在なら、私が後ろに立っていることも
その理由も、察しが付いているはずだ
現にヴェルの食事スピードはなぜか上がっている。やましいことがある証拠だ
「ヴェル」
「・・・もご!?」
「なんで勝手にヤバい奴らと模擬戦を取り付けているのかなぁ?」
「も、もごもご・・・強い奴を見かけたら勝負を挑むのは自然の摂理・・・」
「せめて夜雲さんだけにしてくれないかなぁ?」
「こ、浩一・・・気になる」
「模擬戦でも蘇生魔法前提なんだよね、あの人」
「もごもご・・・私これでも悪魔。耐久には自信ある!」
「パシフィカ超えてから言って。駄目、禁止。危ない。めっ!」
「ぶー・・・」
「私を超えたらいいんですね・・・私もそこまで耐久力はないのですが。むしろヴェルより脆いかと・・・」
「「「真っ二つになっても生きているのに何を言うか・・・」」」
「パシフィカ、普通は真っ二つになったら会話なんてできないよ?」
「永羽まで・・・!?私、いつまで真っ二つネタでいじられるんです?」
「「「「「一生」」」」」
「えぇ・・・」
いやいや、あの師匠でもドン引きしたらしい真っ二つだぞ
一生いじられるに決まっているじゃないか
「くっ・・・頑丈さでパシフィカは流石に超えられない。私は真っ二つになったら気絶する・・・」
「気絶するだけで済むんですね、貴方」
ふと、何かを思いついたようでパシフィカはすぅ・・・と目線をベリアに向ける
確かに、気になると言えば気になるが
そこのところどうなんだい、ベリアさん
彼女も視線を向けられたことで、何を聞かれるか言われる前に理解したのだろう
複雑そうに頬をかいてから、呆れたため息と共に答えを出す
「・・・あたしは多分数週間、治るまで意識飛んでると思うぞ」
「一般常識が歪んできたのかしら。私は貴方の方がまともに感じるわ・・・」
「ぶー。ミリア、悪魔界隈では私が普通。お姉ちゃんはくぞさこ。覚えて」
「全員ベリア並に弱ければ道中楽なんですけどねぇ・・・」
「エミリー辛辣ぅ。ま、気持ちはわかるけどね」
道中の悪魔が皆弱ければ、手応えはないけれど・・・楽はできただろう
最強賢者の名にふさわしい無双とか!魔法の蹂躙シーンとかお見せできたかもしれない!
けれど現実はそこまで優しくなくて、なんだかんだで苦労をしてきた気がするし
・・・私自身が、この場にいる皆に苦労をさせた側だからなぁ
本当、もう少し楽に進みたかったや
「・・・手応えないとか嫌すぎない?」
「永羽ちゃんは大社に来てからますます連中に毒されてない?大丈夫?」
しかし私の相棒を務める彼女は違うらしい
精神が体に引っ張られているのか、頭の中は好戦的。彼女らしくはない
永羽ちゃんらしいと言えば、らしいことになるのかもしれないけれど
「流石、永羽。これでこそ第二部隊魂ですわ。もう理解を示してくれているだなんて」
「優梨。変な事吹き込むな。そんな魂あってたまるか・・・」
「光輝君に同じ〜」
「そうですねぇ。さて、そろそろ時間もいいところだし、とりあえず今日の寝床に案内させて貰おうかな」
「あら、陽雪が案内するんですの?ここは私が案内をと思っていましたし・・・それに」
「それに?」
「陽雪、風呂場の案内とかできるのか?」
「・・・女装したらいけるかも?」
「君の外見なら通用すると思うけど・・・普通に犯罪だよ、陽雪君。今夜は独房で過ごしたいのかな?」
「冗談ですよ・・・死んでもしません。司令の弟子としてふさわしい行動を心がけていますので。親衛隊No9980812として!誓います!」
本当か?と言いたげな目線を優梨さんだけでなく、光輝さんと伊依さんからも向けられている陽雪さん
・・・正直、あれが兄弟子とは思いたくないな
それにあのカード。師匠の親衛隊の証だ・・・前にネットで見たことがある
実在していたのか、ガチで生き残っていたのかとか
兄弟子、あのガチッぷりで七桁かぁ・・・という哀れみとか
あのカード一枚で色々と複雑な気持ちが渦巻いてしまう
しかし、七桁人に師匠は愛されている、愛されていたと言うことなのだろうか
一体どんな変態共に師匠は愛されているんだか
「No.9。日々音優梨。確かに聞き届けましたわ」
「No.55。葉桜光輝、確かに聞いたからな」
「No.101。卯月伊依!確かに聞きました!」
「あんたら全員親衛隊なの・・・?」
「「「当然」」」
当たり前だが?と言わんばかりにカードを見せつけてくる三人の番号は申告したとおりの代物だ
しかも優梨さん、一桁だし・・・変態の中の変態じゃん
「入隊はいつでも歓迎いたしますわよ。隊長は今、病院で頑張っている頃なので・・・入隊なら私が代理で処理をいたしますわ」
隊長、もしかしなくても千早さんだな?
あの人マジで何やってんだ?
・・・まあいい。この話題に触れ続けたら一生かけても私達は寝床に迎えない
それにこんな変態共の変態ムーブより望まれるモノがあるだろ
私は需要ぐらいちゃんと理解しているからね・・・!
「とりあえずさ、優梨さん。私達も色々と疲れたって言うのもありますし、情報も交換する時間が欲しいんですよね。今日の寝床とお風呂の場所、早めにご紹介していただけます?」
「そうですわね。では光輝。夕飯の買い出しは任せましたわ!」
「おう、ピザ頼んどくな」
「そろそろ自炊を覚えなさいな。魔法鍋にカレーの具材突っ込むだけでもいいですから」
「俺が言うのもなんだけど、それを料理認定していいのか?」
優梨さんは光輝さんに家のことを頼んだ後、私達に今日の寝床を紹介してくれる
それからお風呂の場所。大社の職員が仕事終わりに利用している場所らしい
普通にしていたら事情を知らない職員と鉢合わせをしてしまう可能性が在るため、優梨さんが第二部隊名義で貸切の時間を作ってくれた
その時間であれば自由かつのんびりお風呂に入れるようだ
「今夜はこちらでゆっくりと」
七人で十分快適に過ごせる大部屋を用意してくれたらしい
布団もしっかり敷かれてある。すぐにでも寝られそうだ
「さて、早速ですが明日の予定を私から提案させていただきますわ」
「「「「「「「えっ」」」」」」」
私達が靴を脱いで、部屋の探検を始めようとした瞬間
優梨さんが私達の動きを止める言葉を投げかけた
「貴方たち、目的を果たす為に自己研鑽に勤しむのは結構ですが・・・日常生活にも気を配るべきですわよ」
「そう、ですかね?」
「ええ。永羽。今の貴方は戦うことしか頭にない第二部隊らしい能力者ですが・・・年頃なのですから、そんな堅苦しい制服じゃなくてお洒落をしなさいな」
「・・・動きやすくていいのに」
「勿論、永羽だけではありませんわ」
彼女の目が私達全員に向けられる
師匠のよりは明るい紫の・・・赤が強い紫の瞳は、好奇心や明日への楽しみを反射してキラキラと瞬いていた
「役目を忘れろとはいいませんから、行動を起こす半年間はつかの間の休息も楽しんではいかがです?この世界でしかできないことは沢山ありますわよ」
「そりゃあ、そうだろうけどさ・・・」
何というか、緊張感のない提案だなぁと思わされる
けれど優梨さんは心の底からそう思って告げているんだなぁ・・・って事は、目を見たら嫌でも理解できる
確かに、この世界でしかできないことは沢山ある
賢者ノワを改めて読み返すことも、その一つだ
けれど、それ以外にも・・・休息を取るだって、今の私達には大事なのかもしれない
せっかくの「立ち止まれる機会」
それが過ぎた後、物語の終着点まで・・・こうして立ち止まれる機会が設けられるかはわからない
少なくとも、旅の始まりからメサティスまで、半年も休める機会はなかった
「とりあえず、全員明日は私服を買いに行きますわよ!」
「お、お金は大丈夫なのかしら・・・?」
「私達、この世界のお金は持っていませんよ」
「ろ、労働で返せという奴ですか・・・!?」
「もぐ。このご飯も後日請求?あくどいな・・・流石魔法使いが指揮していた組織。性格が悪い」
「異世界人の保護も大社の役目。貴方たちにかかる経費で落ちますし、落とさせますから安心しなさいな」
「「「「「「おおっ・・・!」」」」」」
頼りがいのある大人の姿に、私達は一斉に沸き立った
すげえ!これがお金に余裕がある女の姿!
じゃねえな!これが任務の度に鈴海のどこかを破壊!大社の経理課を全力で泣かせている第二部隊職員の姿だ!
経理課をいじめることに何の罪悪感も抱いていないその笑顔に痺れもしないし憧れもしないぜ!むしろ恥だと思え!
「けれど、自分達で稼ぐのも大事だ。バイトには積極的に参加しような」
「そうですね。ベリア、智影から面白い仕事斡旋して貰いましたもんね。魔物採取!魔物飯!」
「もぐっ!?」
「そうだな、パシフィカ。確かに智影の仕事は楽しそうで、興味をそそられる。けれどあたしはそっちにはあまり参加できない」
「えー」
ベリアは一人だけ、神妙な顔立ちで優梨さんの前に立つ
「日々音」
「なんですの?」
「話は終わったよな」
「そうですわね。明日の朝、今の服装で九時にロビー集合と伝え終われば、完了ですわ。で、貴方は私に何用で?」
「・・・連絡を取ってほしい人間がいる。そいつは「本土」の人間だから、半年の内に呼び出す必要がある。できれば、早いほうがいい」
「いいですわよ。貴方は別で相手をしますわ。付いてきなさいな」
「ああ。と、いうわけだ。あたしはいつ戻るかわからない。先に風呂に行って、寝ていてくれ」
ベリアはそう一言だけ告げて、優梨さんと共に部屋を出て行く
・・・なんとなくだが、彼女が纏う空気は私と同じ気がした
確かにあの時、隷属魔法が解かれると共に彼女の封筒は燃えて消えた
しかし彼女はそれで終わりとは思っていない
それはきっと、封筒が完全に燃えた面々も
半分しか燃えなかったらしいパシフィカも同じだろう
課題というのはあっけなく終わった
でも、あの性悪師匠がその程度で終わらせるはずがない
それらはあくまで「問題提起」
それは課題を与えられただけの私以外の全員にも当てはまる話
それを自分の力として身につけられるかは、自分次第であり
まだ、確実ではない話




