10:始まりはいつだってあの言葉から
解放された曾お婆ちゃんは誓約に従い、私たちに情報を吐き出してくれた
「・・・聖女ちゃんはお察しの通りです。精霊さんは永翔と和夜、双子は綾と唯。猫さんはその飼い猫と関係性が生まれてしまっているようです」
「紅葉どこにでもいるねぇ」
「エミリーの扱い雑〜」
「あまり驚かないんですね」
「「どこか驚く要素あります?」」
周囲がいい感じに影響を受けてる中、飼い猫て
飼い猫は反則すぎるでしょ。ただの猫じゃん
「その飼い猫ちゃん、動物なのに魔法を打てるそうです」
「「何それ凄い」」
「それは驚くんですね」
一応、鈴海にもこの世界でも純粋な獣が魔法を発動させるという事象は前例がない
エミリーに影響を与えている猫とやらは、初めて確認された「魔法を発動できる獣」
その力量は当然私も師匠も知らない未知数の代物
・・・一見して扱いが雑に見えるが、影響を受けている存在が判明している誰よりも恐ろしい存在に仕上がるかもしれない
「師匠、どうします?私、一番「猫ちゃん」がヤバい気がするんですけど」
「奇遇だね。僕もそう思うよ。どうする?マタタビで言うこと聞かす?猫アイテムは効果あると思う?」
「それだ!ししょえもん。量産よろしくっ!」
「任された!」
「・・・なんとなく、私は貴方たちとの付き合い方が掴めてきたような気がします」
「僕も貴方との付き合い方を把握させていただきました。次はこの程度で済ませませんので、行動にはお気をつけて」
「はんっ・・・性格の悪い魔法使いですねぇ。次は何を出すんです?舞園姉ですか?生憎ですが、私はあの女のことが心底嫌いなので、次会ったら「弟」だとしても、殺すかも」
「あ、いや・・・」
師匠が私に助けを求めるような視線を向けてくる
「この「痛いの」どうしよう・・・」と言いたげな目線だ。師匠としてもこの返しは予想外だったらしい
うん。私も、これが曾お婆ちゃんというか身内とか嫌すぎる
厨二病量産地域・・・じゃなかった。能力者だらけの鈴海出身だとしても、流石にこいつは嫌だ。身内という事実をなかったことにしたい
ついでにこの重苦しい空気もどうにかしたいので、ここは体を張っておこう
「・・・師匠、これは貸しですからね」
「え」
「師匠、見ました?暗黒微笑に加えて「殺すかも」発言。痛すぎて鳥肌たっちゃいました。この鳥肌は雪山にいるからとかそういう理由でできた物じゃないです。精神的な冷えですね。ヤバいです」
「あっ・・・あ〜。なるほどね。道理で言葉に詰まるわけだ。僕は反応に困るタイプでヤバい代物を見せられた訳ね」
「何を言っているのかわかりませんけど、とりあえず悪口を言われていることは理解しました」
「ま、この話は置いておいて・・・とりあえず、問題は残り一人ですよ」
色々な人の影響を受けて、五人の道は作られた
けれどもう一人・・・誰が関与しているのかよくわかっていない人物がいる
「パシフィカの片方、誰なんです?えいとis誰?」
「霧雨永翔。永羽さんの弟さん。ここで名前を聞くことになるとは思っていなかった」
「永羽ちゃんの弟ぉ!?」
「うん」
「つまりパシフィカって実質」
「永羽さんの弟要素が・・・」
「だからあの懐きようか!」
最初から妙に好感度高いなと思っていた
まさかそれも「影響」の副産物なのだろうか
「でも、なんというか君の好感度が異様に低い事が引っかかるんだよね」
「そうですよね」
パシフィカとの初対面
特に何もしていないのに、明確な敵意と嫌悪を向けられていた
普通ならあり得ない。あのパシフィカ・グラウゴスというキャラクターの性格を考えると、何かやらかさない限り好感度が下がることはないはずだ
物語上のノワがパシフィカに毛嫌いされていたのは、彼女の故郷であるスメイラワースを破壊したという明確な理由が存在している
けれど、今の私にその理由というのは存在していない
性格の相違とか、些細な粗相とか長い付き合いが生まれた今は嫌われてもまあ多少はね?と考える部分もあるのだが
正直、初対面のパシフィカに嫌われる要素なんてないはずなのだ
「私と会った直後から滅茶苦茶辛辣だったのって・・・」
「影響のせいかもね。もしかしたら、永翔君は永羽さんにきちんと出会えていたら」
「ガチやばシスコン系弟に成長するらしいです。確かな情報源からの情報なので!間違いありません!」
「「そりゃあの家庭環境ならそうなるわ」」
曾お婆ちゃんは爆弾を投下したつもりだろうが、私と師匠は察している
永羽ちゃんの家庭環境はゴミ以下
そんな環境で永羽ちゃんが頑張っても、あのクソ親がクソなのには変わりない
弟がそんな真っ当な空間で真っ当に育つわけがないんだ
「どう足掻いても、永翔君は永羽さんの庇護を受けながら家出する未来しか見えないしねぇ」
「自由を教えてくれた姉に依存する未来しか見えない。あ、だから私が嫌いなのか。私は何があっても四六時中永羽ちゃんと一緒だからね〜」
「本当に貴方たちは変なところで理解度高めですよね」
「「そういう仕様なんで」」
とりあえず、影響に関する話はこんなところか
それから私はもう一つ、このババ・・・間違えた
曾お婆ちゃんに聞いておきたい事がある
「そういえば、曾ババア」
「なんですか?」
「ババアがいう確かな情報源って誰の事なんです?」
「教えませんよ。というかその言葉遣いなんですか?」
「バレてた」
「バレますよ!?そんな失礼なクソひ孫には何も教えあだだだだだだだだだだだだだ!」
急に曾お婆ちゃんの首元が光り出し、彼女の首を締め出す
そういえば誓約で隠し事を禁ずるって・・・取り決めたばかりだったな
早速引っかかるとは
「早速引っかかった・・・」
「師匠もドン引きレベルな速さなんですね。で、曾お婆ちゃん。首取れちゃう前に早く答えようよ。誰が情報源なんです?」
「貴方の師匠の母親!私も条件で「名前を言うな」と言われているのでこれが譲歩ラインです!」
その言葉は、私どころか師匠も無言にさせる威力を持った一言
「・・・母さんが、なんで」
「貴方を終わりに導くために。必要なことだから」
「それはいいとしても、なんで母さんがそんなことを。だって母さんは・・・母さんも父さんも、絶対に僕の事を」
「わからないのですか?」
「わからないさ。僕は二人から恨まれる自信はある。けれど、成仏の手伝いをして貰うほどの事は何一つしていないのだから」
「・・・残酷ですねぇ。まあいいでしょう。とにかく、そういうことなので。私は最後まで彼女の依頼をやり遂げる所存でいます」
「・・・それってさ。師匠をこの旅から」
「そうですねぇ。でも、コンセプトとしてはいい代物ではありませんか?そもそもこの物語は「そういう」物語なのでしょう?」
曾お婆ちゃんはにこやかな笑顔で、そして張りのある声で叫ぶのだ
あの、言葉を
「賢者様の師匠さん。私は手始めに貴方をこの物語から追放してみせます!正直言って貴方の存在は邪魔です!」
「・・・いいね。やってみなよ、鴇宮先生。創造主らしく、邪魔者を排除してみたらいい。僕も僕でやり遂げなければいけないことを終えるまでは抵抗をさせて貰うから」
「勿論です。せいぜい短い旅路の中で足掻いてください」
師匠と曾お婆ちゃんは互いに目を細め、何を考えているかわからない笑みを浮かべながらそれぞれ別の道を歩いて行く
私は曾お婆ちゃんではなく、師匠の後ろを付いていった
少しずつ、終わりへと近づいていくこの道の先
私はいつまで師匠の背中を見て、学ぶことができるのだろうか
・・・私は、師匠無しでもやっていけるのだろうか




