6:龍骨魔杖と魔聖剣
「・・・じぃ」
「・・・」
テントの中から、何かを叩く音がする
テントの中を覗くと、そこには師匠と永羽ちゃん。どうやら二人とも起きていたらしい
「うわ師匠起きてる。永羽ちゃんも!」
「随分前から起きていたわよ」
出迎えてくれたミリアは私たちの上着を回収してくれながら、疑問に答えてくれる
「でも師匠何してんの?」
「アヴァンスの修理だそうよ。今は使用者と微調整中」
そういえば、聖剣は先の戦闘で壊れていた
まさか師匠が修理を担当していたとは
「永羽さん、これでどうかな」
「・・・うん。軽すぎる」
「それでいいのかい?」
「ええ。私にとって軽すぎる程度が、アリアにとって程よいはずなので。それに、軽くとも強度は保証されているでしょう?」
「勿論だとも。では、これで完成にしよう」
「名前は、どうしますか?」
「君がつけてあげなよ。それはもう聖剣アヴァンスと呼んでいい代物ではないからね
「師匠、どういうこと?」
少しだけ寂しさを覚えて、私は二人の会話に割り込んでしまう
「破壊された影響かもしれないけれど、アヴァンスから聖剣としての機能がほとんどと言っていいほど消えていてね」
「代わりの機能を混ぜ込まないと、聖剣としての役目どころか剣としての役目すら担えないぐらいまで」
「それで、この剣に永羽さんの魔力を練り込んで・・・「指揮棒」として魔力伝達を効率化するツールとしての役目を与えてみた」
「そうね。確かトワ、聖剣とか似たような剣を使って、あの光の剣を操っていたものね」
つまり、私たちにとっての杖みたいな扱い
永羽ちゃんは剣を杖に見立て、あの光の剣を操っていたらしい
その方が、上手く舞光を操れたのだろう
「魔力を練り込んだら強度が凄く増してね」
「そうして形を取り戻したこれは聖剣ではなく、魔法聖剣・・・略して「魔聖剣」と呼ぶべき代物だと僕は考えているよ」
うぉう。凄くナチュラルに厨二風ワードを並べないでくれ師匠
なんだか、なんだか心が痛む・・・!
「魔聖剣・・・!かっこいい・・・!」
「永羽ちゃん!?」
「君、この姿になってから思考が中学二年生になっていないかい?大丈夫?左手疼いたりしていない?」
「そんなことありませんよ。憧れますけど」
「「うわぁ・・・」」
師匠と並んで頭を抱えていると、永羽ちゃんが心配そうに私たちの顔を覗いてくる
「大丈夫、一咲ちゃん。頭痛い?」
「頭っていうか、心臓っていうか、羞恥心と言いますか・・・」
「椎名さんも、平気ですか?」
「だ、大丈夫だよ。永羽さん。一つだけお願いしていい?」
「なんですか?」
「アカシックレコードとか、そのへんのノートに作らもごもご」
「譲さん、これ以上は駄目です」
「師匠、燃料投下しないでください。永羽ちゃん書いちゃいますから」
時雨さんに合図して、師匠の口を防いで貰う
この場で師匠に触れられるのは時雨さんだけだ。師匠の暴走を止める。その役目はしっかり果たして貰おう
「てかなんであんたはそんなワードが」
「・・・夜雲が作っていたから。凄く痛いやつ」
「あの人厨二病罹患者だったの!?」
「鈴海で厨二病に罹患しない男子中学生はいないよ?」
「し、師匠は?」
「・・・僕はそれを眺めているポジションさ」
「でも技名。トゥインクルアーツ・フレナーレじゃないですか。こんなの罹患者にしか作れません」
「・・・勘のいい弟子は追放だよ」
「今は追放の呪縛から解き放たれているんで。追放言うのやめていただけますぅ〜?」
残念ながらうちの師匠も取り繕ってはいるが、立派に罹患者をしていたらしい
それもそうか。魔法とか超能力とか、厨二要素あるあるが使える島なのだ
・・・かかっていない方がおかしいな
「ぐぬぬ・・・」
「おっ、師匠照れてる?照れてる?」
「怒ってる」
「流星葬発動ムーブやめろください」
「冗談だよ。でもね、一咲さん。こういうのはからかったらだめ。絶対に。誰かの古傷を抉る行為はよくないよ」
「・・・はい」
「よろしい。ところで永羽さん。名前は決まったかい?」
「はい!決まりました!」
私と師匠が遊んでいる間に、永羽ちゃんは立派に仕事を果たしていたらしい
魔聖剣。アヴァンスが生まれ変わったその姿に、彼女はどんな名前をつけるのだろうか
発表を心待ちにし、私と師匠だけでなく・・・エミリーとミリア、ベリアの視線まで彼女に向けられる
「え、ええっと・・・一咲ちゃんだけにまず伝えていいですか?名前、大丈夫か確認しておきたくなっちゃって」
「どうぞどうぞ」
「で、ではお外に出てきますね!いこ、一咲ちゃん!」
「う、うん」
私の手を引いて、彼女はテントの外に出る
「あ、エミリー。君の杖も最後の仕上げをするから貸してくれるかな」
「このタイミングで!?」
「うん。だから君もこの杖に名前をつけてあげようねぇ」
「わ、私もあの羞恥心で大変なことになりそうなイベントがあるんですね・・・」
師匠とエミリーが何やら話している気配があった
多くは聞き取れなかったけど彼女も成り行きで厄介なイベントに巻き込まれたらしい
かわいそうなエミリー。でもくじけずに頑張るれエミリー
リュミエールに匹敵する杖を私より先に得る罰として受け入れてくれーーー!
・・
テントの外に出て、永羽ちゃんは周囲に誰もいないことを確認してから、名前を教えてくれる
「・・・変じゃない?」
「変じゃないよ。アヴァンスの再誕も含めて、この剣らしい名前だ」
「本当?」
不安そうに何度も聞いてくる永羽ちゃんはきっと不安なんだろう
こうして何かに名前をつけることなんて、これまでなかっただろうし
初めての事だから、なにもかも不安に思ってしまう
そんな彼女に私ができることは、しっかり支えることだけだ
「本当だよ。私が保証する。その名前は滅茶苦茶いい名前だよ」
「そっかぁ・・・ありがとう、一咲ちゃん。一咲ちゃんに相談したらなんか安心したや」
「相談相手に選んでくれて嬉しいよ。じゃあ、テントに戻ろっか」
「うん」
彼女の手を引いて、テントに戻る
その先では・・・身長ほどの高さがある杖を立ててドヤ顔を決めるエミリーが立っていた
彼女も準備が・・・いや、羞恥プレイの真っ最中だったらしい
「龍骨魔杖ナタリス・ドラゴ!杖もその名であるべきだと言っています!いかがですか!」
「杖がいうのなら間違いないね」
「ナタリスはどんな意味なの、ベリア」
「誕生」
「・・・あれ、死んでない?」
「杖としては死んでねぇって。バリバリの生まれたてほやほやだって」
くそっ、エミリーの羞恥プレイを録画するチャンスを失ってしまった!
まあいいか。師匠が「杖誕生記念」と録画しているだろうし。後で土下座して譲って貰おう
「と、永羽ちゃん?」
「私の名前あんなに格好良くない・・・」
「いや超かっこいいよ!?そんな不安にならなくていいから!」
「アヴァンス・ノヴァなんて安直なんだ・・・」
「安直じゃないよマジかっこいいって!新星アヴァンスとか、私たちだけの旅の始まりとか色々込められていて私超好きだなぁ!」
「本当?」
「マジで!だから、そんな名前の良し悪しで不安にならないで欲しい!君がつけた名前がいつでもどこでもナンバーワンだっ!」
変なところで落ち込んだ彼女を励ますために、できる限り大声で永羽ちゃんを励ます
息切れするほど全力で思いを伝えたら、背後に視線を感じた
「君はいい子だね、一咲さん。人を思いやれる自慢の弟子で僕は安心だよ」
「友達の為にそこまで全力になれる人、貴方以外にいませんよ」
「感動したわ」
「貴方、優しい人だったんですね」
「・・・まあ、なんていうか。お疲れ様」
ベリアの一言が、完全にトドメを差してきた気がする
師匠達は何事もなかったかのように、食事の準備をはじめてしまった
なんというか、その
何も触れられないのが一番恥ずかしいんだけど!?
「一咲ちゃん、ありがとう。自信ついたや」
「それなら、よかったよ・・・」
まあ、でもなんだ
永羽ちゃんが笑顔なら、どうでもいっか・・・
頭を空っぽにしながら、私はその日を終える準備へ合流する
今日の晩ご飯は何だろうか




