20:霧雨永羽と友江一咲
「とりあえず、一咲ちゃん」
「う、うん」
「まずは、おかえりなさい。無事とは言いがたいけれど、お互いに魂が無事でよかった」
「そうだね」
「それから、この姿では、姿相応の呼び合いをしようと思う」
「う、うん。勿論」
「まずは私たちが一咲ちゃんを助け出してから…起きるまでの間を伝えるね」
「お願い」
アングスフェアリレンになった後、私は皆に助けられた。
しかしシフォルが残した呪いでノワの体とアリアの体は危険な状態になっている。
このまま放置するのはまずいので、まずは魂だけ保護を行った。
私たちは師匠が用意した依代人形———仮初めの器に魂を移動させられ、こうして再び友江一咲と霧雨永羽として過ごす事になったそうだ。
「この技術、ベリアとヴェルにも使われているって、聞いた?」
「二人が人間と悪魔の行き来ができるのはこの人形の効果かぁ…」
私たちの魂を移動させた後、師匠は起きている五人を連れて離脱。
この避難所?という名の安全地帯に戻ってきたそうだ。
それから、永羽ちゃんが二日。
私が一週間眠り続けて…現在に至るというわけだ。
「それに加えて、ベリアとヴェルだけじゃなく」
「三人にも、私たちの事情は伝えてあるから。あまり驚かれることなく再会できると思うよ」
それはそれでなんか気恥ずかしいな。
事情を知られていて、私が前世の記憶があって…なんで皆それを受け入れられてるの!?私だったら狼狽えるし、絶対裏があると思って関わらないけど!?
「じゃあ、外出よっか」
「待って待って待って!心!心の準備がしたい!」
「そういいながら何時間粘る気でいるのかな?」
「永羽ちゃん辛辣!」
「だって、皆早く会いたがってるもん。待たせたら悪いよ。ほら!」
腕を引かれ、テントの外に出る。
久々に浴びた眩しい陽光に目を細め、その先を視界に入れる。
そこには———。
「あ、やっと起きたのね」
「遅い」
「…な、なんかあの人形が動き回っていると思うと、変な感じですね」
「気持ちはわかるぞ、エミリー」
「もぐもぐもぐもぐ」
「…お、おひさしぶりざます?」
テントの外にはまさかの全員集合。
こんな風にお迎えされるとは思っていなくて、変な口調で声をかけてしまう。
「もぐっ!」
「ぐべっ!?な、なんだよヴェル…タックルは流石に」
「超心配した」
「…ごめん」
「真剣味が足りない」
「ごめんなさい」
「誠意」
「申し訳ございませんでした」
「…姿が違っても、いつものご主人だ」
「…なんで謝罪だけでご主人判定されているんだろう」
「とにかく、おかえり。ご主人」
「…ただいま」
なんだかんだで、ヴェルとはちゃんとそれなりの関係を築けていた。
そこは少し安心した部分だし、帰りを待って貰えていたのはやはり嬉しい話だ。
…最悪、師匠同様「さっさと死ね。隷属解除しろ」と言われてもおかしくないことはしているし。
「なんで不安そうにしてるの?」
「それはね、ヴェル。貴方がちゃんと伝えてくれたこと。全部一咲ちゃんは知らないことだから」
「はっ!じゃあ後でゆっくり言い聞かせる」
「お、おう…」
何を聞かされるのかはわからないけれど、永羽ちゃんの表情から見るに悪い話ではないらしい。
「まあ、とにかくお前も無事でよかったよ」
「ベリアだ。元気?」
「おう。お前よりは元気。ほら、ヴェル。次に譲る」
「お姉ちゃん何魔法使いの名前呼んでんの?」
「呼んでねえよ。ほら」
ベリアが私にひっついたヴェルを回収し、それと入れ替わるように三人が私の前に立つ。
「あ〜…ええっと」
「まあ、ご無事でなによりです」
「…ありがと」
パシフィカは相変わらず簡潔に。
ほんと、アリアっていうか永羽ちゃん以外わりと対応が淡泊だよな。
…他の面々との関係には問題ないんだよな?
「パシフィカ照れ隠し?」
「そういうのじゃありませんよ、ミリア。別に声をかけるようなことも」
「全く…たまには自分の功績ぐらい自慢したらいいのに」
「そんなことは」
「いい、貴方たちの事情を最初に把握して、色々とサポートしてくれたのはパシフィカだから。そこはちゃんと覚えておきなさい」
「マジで!?」
ミリアから伝えられた順番。
なんとなくミリアが最初に伝えられたか、三人まとめてだと思っていたのだが…まさかパシフィカが最初だったとは。
「うん。さっき伝えそびれたけど、一咲ちゃんがアングスフェアリレン化した後、落ち込んでいた私に積極的に声をかけてくれたのはパシフィカとエミリーだから」
「マジか…」
「でも、ミリアも治癒や浄化を使える存在としていっぱい力を貸してくれたんだ。むしろミリアが功労者…。浄化無しじゃどうにもならなかったし」
「そういわれると照れるわね…」
「事実なんだから、胸を張って。ミリア」
「その様子だと…ミリア無しじゃ私帰って来られてないね。ありがと」
「どういたしまして、カズサ。どちらでも貴方だってわかっているから、私は対応変えないわよ?勿論、パシフィカもエミリーも、ベリアもヴェルも変わらないから」
変わらない。なにも変えない。
体がこうして違う今…ありがたい宣言だ。
「ところで、貴方。魔法は通常通り使えるんですよね」
「あ〜。多分。ノワ時代よりも攻撃魔法の出力は若干落ちていると思う。私が得意なの、支援と回復だから。でも、ちゃんと使える。安心して」
「それはよかった。張り合いがある相手を失ったらどうしようかと」
「張り合い…」
「私じゃ相手になりませんか?賢者様?」
「あはは…今はそう呼ばれるスペックはないよ。私はただの魔法使い。君と一緒だよ、エミリー」
「そうですか」
今までツンケンしていたエミリーも、なんとなく柔らかくなったのは気のせいだろうか。
師匠と何かあったのか。
それとも、彼女も私たちの事情を知って、何か変化があったのか。
まあ、その辺は追々聞いていけばいいだろう。
私たちには、時間があるのだから。
「…君達。全員が揃ったことだし、そろそろ今後の話をさせて貰っていいかな」
「師匠」
「先生」
「椎名さん」
「シイナさん」
ミリア、師匠のこと先生って呼んでんの?
エミリーよりミリアの身に何があったかの方が知りたいんだが。
てかパシフィカは事情を知るのが早かった分、日本語流暢だな…。
「あ〜。ええっとね。そろそろ君達の体調も以前の状態に戻ってきたと思う。永羽さんと一咲さんはもう少し慣れが必要かもしれないけれど…」
「私は起きていた時間が長いですし、問題ないですが」
「私は次の都市に移動しながらでも」
「…次の移動は少し長め。体に違和感がある状態なら連れて行けない。少なくとも体を馴染ませてから挑まないと、君死ぬよ?」
「ひゅっ…」
「ご主人、驚き方ルーメンと一緒。肉体が変わっても時間は裏切らない。流石親子…」
師匠が真面目な顔で脅すということは、ちゃんと慣れておかないとまずいということ。
しかし都市の移動をしないということは、どこに連れて行かれるんだ?
「問題です。この近辺にいて、ミリアさんの浄化を超えられそうな力を持つ存在ってな〜んだ?」
「…ガリアですか?」
「正解だよ、パシフィカさん。僕らは今からガリアの浄化を奪いに行く!」
「つ、つまり…椎名。お前、やるのか?」
「もぐもぐ、やりがいはありそうだけど…皆は大丈夫なの?」
「が、ガリアが棲んでいる場所って、あそこですよね?」
「…私、遺言状書いておこうかしら」
「マジで行くんだ。接待山」
「オードガリアね、一咲ちゃん」
「まあ、その前に入山許可とか君達の装備の調整を行いたいから…道中の炭鉱都市ヴィラロックに寄るけどね」
次の目的地は炭鉱都市ヴィラロック。そして霊峰オードガリア。
師匠しか挑めないだろうなぁと思っていた山に、師匠はどうやら挑んでくれるらしい。
ついでに、私たちも引きずり回してくれるらしい。
…いや、流石に師匠なら必要なしと感じれば私たちを置いて一人でガリアを殴りに行くはずだ。
けれど、私たちを連れて行く必要があると思ったから、オードガリアの踏破に私たちを連れて行くのだろう。
何をさせられるかわからない。
師匠は、何を企んでいるんだ?
おまけ:ひな祭りですってよ、の…一咲さん
一咲「ハロウィン以来のイベント出現!ありがとう!ありがとう!」
永羽(ノワとしてはまたイベント日に出られていないことはあえて言わないでおこう…)
一咲「そういえば、永羽ちゃんの家って帰っていないとはいえ雛人形あったのかな?」
永羽「さあ。どうだろう…一咲ちゃんの家は?」
一咲「親とお爺ちゃんたちが奮発したみたいでさぁ。雑用係がいる段まである立派な雛人形を買って貰ったんだよね」
永羽(仕丁の扱い…)
一咲「でもさ、そういうの…普通のご家庭で出すの面倒じゃん?でもお爺ちゃん…ああ、志郎の方ね。時期になったら毎年来て、雛人形をきちんと出して、きちんと直しに来てたんだよ」
永羽「どうして?」
一咲「破天荒な孫に良縁があるようにと」
永羽(婚期心配されてる…)
・・
時雨「懐かしいですね、雛祭り」
紫苑「そうですね。ひなあられ食い放題イベント」
時雨「絶対違いますよね」
紫苑「私は桃カステラ派なので、顔面ほどの大きさがある桃カステラ、お待ちしています」
時雨「そんなものないですよ…」
紫苑「中の人が食べてましたもん!ありますよ!あ、でも菱餅でもいいかも…」
時雨「一気に掻き込んだら喉に詰まらせますよ、曾お婆ちゃん…」
紫苑「私はなんだかんだで焼失したので、生まれた時に与えられた雛人形とは離別しているのですが」
時雨「話の落差が大きいんですよ」
紫苑「貴方の雛人形は、どんなものでしたか?ちなみに私は仕丁がいる立派な代物でした」
時雨「一応華族、ですものね」
紫苑「ごく普通の、現代の一般家庭はどういうものを用意されているんですか?」
時雨「…そうですね。私は三人官女までのものです」
紫苑「コンパクトで良さそうですね」
時雨「事実、置き場に困らなくてよかったですよ。数が少ない分、装飾品とか着物とか豪華でしたし、毎年見るのが楽しみでした」
時雨「でも、父が「そんなものは出すな」と言うようになって、出して欲しいと頼んでも出して貰えなくなり…和夜君の五月人形はよくても、ですよ?当時は不平等だと思いましたね」
時雨「最終的には、父が死んだ後…母が死んで、叔父夫婦の家に引き取られてから、雛人形を処分されたことを聞きました。だから私も、今は雛人形を持っていないんですよ」
紫苑「ちなみにですが、お父さんが雛人形を出すなと言い出したのは…」
時雨「私が譲さんに会ったことがバレた頃ぐらいからです」
時雨「…父は、譲さんの鍵を奪える私に、譲さんの側にいてほしくなかったようなんです」
時雨「鍵を失った魔法使いは制限を失い、誰にも止められなくなる」
時雨「鍵をうっかり奪って手中に収めれば…私は譲さんの両親を殺した相手に狙われるようになります」
時雨「しかしそれは上手くいけばの話です。最悪、鍵を奪う課程で…奪った譲さんの力に押しつぶされ、私は命を落としますから」
時雨「今は父の気持ちは多少なりわかるんです」
時雨「やった事は決して許されませんが…」
紫苑「…少なくともあの凶行は、私の為であったと?」
時雨「ええ。私を生かすために及んだ事象。許すこともないし、父親として認めることも金輪際ありませんが」
私は確かに…父と呼ばなければならない人に愛されていたということだけは、胸に留めています。
おまけおしまい




