17:舞い散る桜を携えて
「パシフィカ、足引っ張んないでよね」
「こちらの台詞です。ところで、素手でやるんですか?」
む、確かに私の普段は素手。
やはり拳。拳は全てを解決するのだが…今回は流石に触れたら駄目だから、魔法使いに便利なアイテムを借りている。
「いや、流石に今回はまずいから、これ使う」
「…それ、なんです?」
「パシフィカ知らないの?ツルハシだよ」
「いや知ってますよ。ツルハシぐらい」
「もしかして、ピッケル?」
「話を聞いてください。それと、ツルハシとピッケルは似ていますが別物です。私が聞きたいのは「なぜこの場にツルハシを用意しているのか」ですが」
「これ、砕きやすそうだったから」
「まあ、そうですね…とりあえず、試し打ちしてみては?戦闘中に壊れたら元も子もないので」
「おーけー」
その辺に落ちていたアングスフェアリレンの外殻に向かって、思いっきりツルハシを振り上げる。
すると———。
「…魔法使い、使えない!」
「文句を言いたい気持ちはわかってやりますので、とりあえず私の頭に刺さったツルハシを抜いて貰えます?」
なんということでしょう。外殻を砕いた衝撃で壊れたツルハシの一部がパシフィカの頭にぶっ刺さっちゃった。
抗議をしてくるぐらいにピンピンしています。元気そう。
「…なんで生きてるの?」
「私、その辺の精霊よりも頑丈のようで」
「頑丈にも程度があると思う。よいしょっと」
パシフィカの頭から壊れたツルハシを抜き取り、その辺に捨てておく。
代わりの武器、貰いに行かないと。
「魔法使い〜。ツルハシ壊れた〜!何かだせ〜!」
「君ねぇ!あれ以外にも気に入らないだとかなんだとかで大量に壊しまくったのに、まだ要求するのかい!?」
「マジでごめんな、椎名…」
「パシフィカは治療するわね…」
「ありがとうございます」
眉間に皺を寄せながら、マジックポケットに手を突っ込んで適当な武器を出してくれる。
魔法使いも魔法使いで、なんでこんな大量な武器を持っているのだろうか。
絶対使わないのに。
とりあえず、適当にまた物色してみる。
なんかとげとげがついたハンマーっぽいの…なんかダサい。
とげとげボールを鎖で繋いだやつ。ぶんぶん振り回すのは危険。絶対パシフィカに当てる。
丸い刃に持ち手がついたやつ。扱える自信ない。
「全部ゴミ…」
「じゃあ何ならいいの?僕、ヴェルの気持ち教えて欲しいな?」
「聞き分けなく我が儘言いまくる娘の言い分を聞くお父さんかお前は…」
「パシフィカの剣より丈夫で、パシフィカの剣よりかっこよくて、パシフィカの剣より長くて、いかすやつが欲しい」
「こんな時に注文多すぎです!皆さん、こんな我が儘聞く」
「ごめん桜哉。もう僕には君しか選べる選択肢がないらしい」
「…え?」
…え?
・・
と、いうわけで気を取り直し…私たちは再びアングスフェアリレンと向かい合う。
「舞桜、ひたすら切られたこれをまさか武器として使うことになるとは思ってなかった」
それに憑いている方は、主人の足下で気絶していますが…。
これ以上は何も言うまい。
「じゃあパシフィカ、競争ね。どっちが早く足を壊せるか勝負。私には舞桜がある。現状さいつよ。パシフィカに負けない」
「道具の性能に頼ってどうするんですか…。では、行きますよ」
「ん」
同時に地面を蹴り、前へ駆ける。
私が左足を、ヴェルが右足を担当だ。
ベリアの指示だと、間違いなく「楽しむ」ヴェルはとりあえず放置。
愛用の剣を振り上げ、アングスフェアリレンの足を破壊しながらベリアの指示を振り返る。
『戦いになったらさぁ、ヴェル絶対話聞かなくなるんだよ。うちのババアとその辺そっくり。ババアは普段も話聞かねぇけど』
『ヴェルも普段話聞いてませんよ。血は争えませんね』
『…と、言うわけだから。第二段階目の要はお前。ヴェルの動きに合わせられる存在なんてお前ぐらいしかいないだろ、パシフィカ』
一応、ベリアの評価はよかったらしい。
認められているのは、素直に嬉しく思う。
『ヴェルは狂乱状態で足を破壊しにかかるから、お前はそれに合わせて足を破壊。同時に足の破壊を完了できるように調整できるか?』
『勿論です』
なかなか難しい注文だが、やらなければ意味がない。
期待には応えてみせる。
「っ…!」
ヴェルの動きに合わせながら、足の破壊を行う。
アングスフェアリレンの外殻は想像以上に脆くなっている。
破壊するのに時間はかからないが———。
「ひゃっはー」
ヴェルの動きは想像以上に速い!
なんだあの動きは!戦闘特化の悪魔はこんなにも速いのか!?
飛んでいるように見えるが、彼女はただ跳んでいるだけ。
純粋な脚力だけで、彼女は縦横無尽に駆け回り、足を破壊していく。
それにまだあの表情から察するに、余裕がまだ残っている。
彼女が焦った時の顔は、彼女が今握りしめている刀の持ち主が生み出した。
こちらはついていくのに必死だというのに。
「———期待されて有頂天。私らしくない」
純粋な戦闘力は高水準。誰もが強いと認めてくれる。
けれど私は、強者が立ち入った領域外までは立ち入れていない。
それを強く痛感させられる。
———もっと速く、もっとその先へ。
私も、飛ぶことができたのなら。
…なんて、二枚羽根の私が願えるようなことではないですね。
私は飛べない精霊なのだから。生涯それは、変わらない。
諦めなければいけない事象だ。
「起きて、桜哉。結界よろしく」
「ふぇ!?あ、ああ!」
ミリア達がいる安全地帯の方で、一度だけ結界が解除される。
また別の結界が張り直されて、自由になった彼が私に何か魔法をかけた。
「パシフィカ!速度強化の支援魔法!」
「あ、ありがとうございます!これなら十分!」
先程よりも速く駆け、アングスフェアリレンの足を破壊していく。
ヴェルの動きにも、これならついて行けている。
十分だ。十分な働きができている。
けれどこれは、自分の力だけで行えたことではない。
誰かの力添えと共に、行えた事だ。
それはきっといいことだと皆は言うだろう。
誰かと協力して、何かを成し遂げた———それはとても美しい光景だと。
けれど私は、今回のこれを「力不足を感じさせる光景」として一生忘れることはないだろう。
「あれ、もうおしまい?」
「これで終わりです!ベリア!」
私とヴェルが同時に声を出した瞬間、アングスフェアリレンの体が前へ傾く。
元々これは、二分の一の賭けだった。
前に倒れるか、後ろに倒れるか。
…尻尾があるから、後ろに倒れるかと思っていたのだが———現実はそう甘くはないらしい。
けれど私とヴェルの仕事はここまで。
後は第三段階。
アングスフェアリレンの体を丁寧に接地させる仕事を任された二人に託すことになる。
「じゃあ、そのまま仕事頼むわ。お二人さん」
「とりあえず…どちらを担当したいか聞こうか、エミリーさん?」
「では、難しい方を」
「じゃあ後ろだね。任せたよ」
「はい。任されました」
「では始めよう」
ここから先は魔法使いの仕事。
上空でエミリーが、地上では椎名さんが杖を構える。
「新たな可能性を運びし風よ!」
「雲と夜を切り開く、明日を運びし風よ」
「「今一度我にその権能を託し、明日を築きし力を!」」
珍しく詠唱を唱え、互いが出現させた魔法陣を中心に暴風が吹き渡る。
風で吹き飛ばされそうになっていたヴェルを捕獲し、私はミリア達がいる安全地帯へと駆けていく。
「パシフィカ、この風でも走れるんだ。凄いねぇ」
「むしろ貴方はなぜ吹き飛ばされそうになっているんですか…」
「身軽なもので。パシフィカはあれだね、地に足がついているというか堅牢?」
「はぁ…?」
「身軽なのが長所の私、丈夫なのが長所のパシフィカ」
「貴方も十分丈夫ですよ」
「私は流石に頭にツルハシ刺さったら喋れない。得意なことが全然真逆なのに、仕事はほぼ一緒に終えられた。流石私のライバル…強いね」
いつの間にかライバル認定されていたらしい。
でも、今はその言葉の全てが皮肉に感じる。
「…ヴェルは支援魔法、かけてもらってないじゃないですか」
「舞桜、握るだけで速度二倍強化だよ?実質支援魔法付き」
「は?」
「こんなイカれ効果あるなら早く言って欲しい。ミドガルの時も、知ってたら対策練れた。お姉ちゃんが」
「…つ、つまり」
「支援魔法で許可される速度もおおよそ二倍って言われているらしいじゃん?つまり、支援魔法をかけられていない状態で私にそこそこついて行けてたパシフィカって、普通に化物。むしろ焦った。なんでついてこれてんの?…って」
懐に入れていたらしいパンを囓りながら、事実だけを淡々と述べられる。
なんか、色々後ろ暗い気持ちになっていたのが馬鹿らしく思えてしまう。
「頑丈で、速くて、強くて、体力もあるとか…パシフィカずるい」
「これでも騎士ですから。それに私とて剣を破壊されてしまえば、ほぼ何もできません。身軽な上に拳が使える他、今回のように他種武器もきちんと扱える分、手数の多い貴方に分がありますよ」
「じゃあ格闘術覚えようよ」
「…考えておきます」
「考えるんじゃなくて今決めて」
「えぇ…」
「私のライバルなんだから、他の誰にも負けないようにして」
「ぜ、善処します」
後ろ暗い気持ちこそ晴れたが、これからの課題は多い。
私も、頑張らないと。
腕に抱えたライバルを一瞥し、深く考えさせられながら安全地帯へ足を踏み入れた。




