10:これからも一緒にいるのなら
「…私はヴェルの作戦、いいと思います。現状、ノワを救い出すのには地道に削るというのが最善な気がしますし」
「私もアリアの意見に同感です。内側が脆いのなら結構。攻撃魔法を急所に当たらない程度に打ち続け、ノワを救出する!完璧だと思います」
「ありがと、アリア。エミリー」
私とエミリーがヴェルの意見に賛同する中、他の三人はいい返事を出す気配がない。
むしろ———。
「ごめんな、ヴェル。あたしはあまり賛成じゃない。外殻には呪いがあるって言っただろ。その呪いは瘴気化する危険性だってある。粉塵となったことで気がつかないうちに呪いが体内に侵入する可能性だってあるからな」
「私もその可能性を考えていました。基本的にミリアの浄化頼みになります。椎名さんが結界で守るとしても、どこまで守れるか未知数。最悪、結界を貫通する可能性だって否定できません。彼女を少なからず危険にさらす方法での戦闘は控えた方がいいのでは?」
「私は、できることは全力でやるつもり。ただ、私の魔力だって残念ながら無限じゃない。できる限り力を温存して、アングスフェアリレンに全力をぶつけた方がいいと思うの。だから、その…広範囲に散らばったものを浄化というのは」
三人の意見は最も。
今回、削りは私たちが行うとして…最終的にはミリアに頼ることになる。
彼女に全ての負担がかかる真似や、危険が及ぶ行為は回避しなければならない。
現状、ミリアがいなければノワを救う事ができないのだから。
「椎名さん、あの」
「ん〜。これは君達が話し合うべき事だよ。時間はまだある。互いが納得する意見を見つけ出さないと」
「そんな悠長にしていいと思ってるの?」
「僕はギリギリまで粘ってもどうにかなると考えているからね。期限日まで話し合い続けても問題はないよ。ただ、ヴェルの作戦で行くなら…早めに三人を説得しないと行けないだろうけど」
意見が分かれた私たちを横目に、椎名さんは「意見がまとまるまで待っているよ」と言って読書を始めてしまう。
間に立っていた時雨さんは複雑そうに笑った後、軽く一言述べてくれる。
「まあまあ。この物語は貴方たちのものですから。手は貸すけれども、決定には関与してはいけないと思うんです」
「時雨さん」
「それに、貴方たちは今後も一緒にいるのでしょう?で、あれば今回のように話し合いの場が増えるでしょうし、こうして意見が分かれることもあると思います」
確かに、この後も一緒にいて…いいのだろうか。
かつて彼女たちを拒絶した私たちが、彼女たちを都合よく仲間にしていいのだろうか。
「選択をしなければいけない場面に辿り着く度に、第三者へ選択を委ねていては意味がありません。ここから先は物語ではない貴方たちの人生です。貴方たちが決めなくてどうするんですか?」
「そうね。貴方の言うとおりだわ」
「流石にこれは、私たち自身で決めなきゃいけないこと、ですよね」
「きちんと話し合って、自分たちでどうするべきか決めないといけませんものね」
「…とりあえず、だ。実際に削りを担当する三人が揃いも揃って持久戦側に回っている。なぜそっちを選んだのか、ちゃんと理由があるんだよな?話して貰えるか?」
話を回してくれるベリアの言葉に私たちは頷き、それぞれ理由を述べ始める。
まずは、提案者であるヴェルから。
「実際問題、アングスフェアリレンが今も硬いのか、柔らかくなっているのかはわからない。けれど私はそのハンカチ…ご主人が持っているお守りの制作者の力量を見込んで脆い可能性に懸けている。それならば、外殻はご主人が傷つかないよう慎重に削る必要があると、私は考える」
「私もほとんど同じです。脆いのならば、慎重に削る必要がある。救助対象であるノワを傷つけては元も子もありません。確実な状態で彼女を救うには削る時間をしっかり確保するべきかと」
「私は、早く彼女を救える可能性があるのがこの作戦だと思ったから。理由、少ないけど…」
ヴェルやエミリーがしっかり考えている後ろで、理由がしっかりしたものではない。
情けなさを感じるけれど、逆の意見に座る三人はその点も含めて考えてくれる。
「慎重さを求めるために、時間を確保する…。狙い所がよければ外殻が自壊し、救出も早くなるかもしれませんね。時間があるのなら焦りもなく要点を叩くことができるでしょう。ヴェルの作戦は理にかなっているのかもしれません」
「アングスフェアリレンは呪いの塊。確かに、早く救うに越したことはない、けれど…私の魔力、持つのかしら。それに、浄化魔法って二人を危険にさらすのよ?大聖堂の時でもそうだったけど、なぜあの二人は自分へのリスクを考えていないのかしら」
「…慎重にしたからって、粉塵の問題が解決したわけじゃないからなぁ」
パシフィカはこちら側に意見を傾けてくれたけれど、二人はまだ不安が残っている。
ミリアの不安は大きいから後回し。
先に解決できるベリアの方を解消していこう。
ベリアの不安は粉塵が呪いをまき散らす可能性、だよね。
これがミリアに辿り着けば、私たちは全滅。ノワも救えないままになってしまう。
「粉塵を一つに纏めることができたら」いいけれど…。
椎名さんは結界や部分破壊に注力して貰わないと行けない。粉塵まで対処していたら彼でも手が足りないだろう。
一つに纏めることができそうな、なんなら粉塵を固めることができそうな能力とか魔法を使えるような———。
「あ、椎名さん」
「なにかな、アリア」
「椎名さんも協力していただけるのなら、彼女も協力してくれるんですよね?」
「勿論。あの子ならベリアの不安を解消できるからね。呼んであげようか?」
「お願いします」
椎名さんは必要となる存在がもうわかっているのだろう。
ゆっくりと目を伏せて、彼女の名前を呼ぶ。
「おいで、水」
「呼んだかな、譲君」
「うん。アリアがね。君に用事があるんだって」
「うんうん。なにかな、アリア」
「あ、ええっと…水さん。ミドガルでも出していたあの渦って、規模を縮小した場合何度出せますか?」
「結構出せる」
「雑ですね」
「まあね。具体的な回数は私にもわからないや」
術者である水さんにもわからないというのはどういうことだろうか。
からかわれているということはないだろうけど…。
「それは、つまり?」
「私と桜哉君は守護霊の契約で譲君の魔力を使って能力を使用できるの。剣だけじゃなくて、自分自身の能力もね」
「じゃあ」
「うん。考えているとおり、お望み通りあの渦はいくらでも出せちゃうよ〜。それから———」
「それから?」
「これは、そっちの子の不安も解消できる情報だと思うんだけど…譲君は自分の魔力を他人に譲渡できるんだ」
「昨日、僕は時雨ちゃん相手に行っていたよね。あれ、やろうと思えば相手を変えてできるよ」
「…意外と簡単そうに聞こえるけれど、エミリーはできる?」
「できません。魔力の質は人それぞれですから、譲渡するとするならば、魔力の送り手は送る人に合わせた魔力に調整を施す必要があるんです。調整を間違えば、送り先に苦痛を与えてしまいますから」
「な、なるほど…」
「とにかく。渦も出せます。魔力の心配もありません。他に悩みはあるかな、若人達?」
ベリアもあの光景は見ていた。暴風で周囲の空気を集約し、渦で全てを絡み取る水さんの渦があれば粉塵も恐れる代物ではないことを。
「…そういうの早く言えよ」
「君こそ僕の記憶があるんだから早く思い出してよ」
「ぐっ…」
「とりあえず、意見としては持久戦ということでいいのですが…私からもう一ついいですか?」
ミリアの不安はもう一つ。
浄化魔法に関わることだ。ちょうどいい。私も気になっていた事がある。
あの二人の、切り替えに関することだ。
「…ベリアとヴェルは大丈夫なんですか?そもそも彼女たちはなぜ平気なのか、きちんと説明していただけませんか?」
「お前まだ説明してなかったのかよ!?」
「私達の方が先に知っていたのね…」
「そうだね。そろそろ説明しておこうか、アリア」
椎名さんはマジックポケットをごそごそと取り出し、小さなケースを三つ取り出してくれる。
うち二つは、木製の球体関節人形だったが…最後の一つにはなぜか、生前の一咲ちゃんを少し成長させたような姿をした人形が収められていた。




