4:両手に悪魔。片手はカトラリー
「ごはんっ、ごはんっ」
「テンション高いね、ヴェル」
「ご飯の時間大好き!」
「なんか、人間文化に染まってるね…」
「ほんとだよ。まあ、こんなご満悦なヴェルを見られるのなら悪いことじゃないと思うかな」
マジックポケットの作り方を記録に取ると残ったエミリーと、食事の気分じゃないパシフィカを置いて、私とベリアとヴェルは三人でピニャの案内を受けていた。
避難場所にも食事場所が設けられているそうだが、私たちは周囲に気を遣わなくていいよう、少しだけ離れた場所に食事場所を設けているようだ。
「雛鳥ピニャ君、ここでいいの?」
「ぴにゃっ(うん!ここ!)」
「連れてきてくれましたね、同士よ」
「ぴにゃっぽ!(頭!任務完了ですぜ!)」
黒髪を靡かせた見覚えのない青年…あ、リーダーピニャ君か。
彼は周囲に溶け込む為、人間体で行動をしていたらしい。
「ぴにゃ!(エミリーとパシフィカ、食事は後!)」
「ふむ。エミリーとパシフィカは後で、とのことですね。お伝えいただき、ありがとうございます」
「ぴにゃぁ!(優秀なピニャなんで当たり前!)」
「そうですね。貴方達にも主より食事が支給されています。ゆっくりされてください」
「「ぴにゃ!(ごはん!)」」
「さて、お三方。食事は既に用意していますので。おかわりは自由ですが…」
「?」
「ヴェル。貴方は加減してくださいね?」
「え〜」
「今日の食事を人並みに加減できたら、主から魔道具「なんでもオーダーご飯マット」を贈呈していいと」
「ヴェル・ベリアル。死ぬ気で節制頑張ります」
「欲に忠実だなおい」
「よろしい。今回は主の指定で個別に用意させて頂いた食事がございます。一週間の間、貴方達のコンディションを整えるために考案された食事ですので、残さず食べるように!」
指を鳴らすと、背後からピニャ達が出現し、テーブルに食事を並べていく。
「まずアリアの特別メニューから。こちらのサラダになります」
「…普通のサラダっぽいけど」
「魔力の流れをよくする薬草「ジョコラッタ」を使用したサラダを用意しております。マヨを付けて食べてくださいね」
「に、苦いの…?」
「マヨをつければ気になりませんよ。それから魔力循環の処置は主が後に行います。風呂上がり後、声をかけてほしいとの事でした」
「色々とありがとう。頑張るよ」
「ええ。次にベリア。貴方は付け焼き刃かもしれませんが頭の回転と記憶力をよくする魚の魔物「オボーエ」を使用したお刺身です。生で食べるとより効果を得られるようですよ。はい、醤油」
「サンキュ、ピニャ」
「そしてヴェル。貴方はより効率的にエネルギーを摂取するためにピニャ印のプロテインシェイクを用意しました。食後にぐびっとお願いします」
ことんとテーブルに置かれたコップと粉。
私とベリアのぎょっとした顔で、ヴェルもおかしいことに気がついたらしい。
「なんで私だけファンタジーじゃないの…?」
「おや、そういうのがご希望で?」
「これは魔法使いの指示?」
「ではないですね。ただ注文として「効率よくエネルギーを摂取できるようにして欲しい」と伺っています」
「その結果が」
「これです。これが一番効率よくエネルギーを摂取できます。とりあえずこちらのフリップボードをご覧いただ」
「わ、わかったから。効率いいの、わかったから…ご飯食べていい?」
「ええ。私は奥にいますので、ごゆっくりどうぞ」
彼は素早く併設されている小屋に入り込んでいく。
どうやらあそこで食事を用意しているらしい。
「あ、よくかんでくださいね」
思い出したように扉から鳥状態の顔を出し、私たちに一言告げた後…また引っ込んでいく。
「うるせ〜。お前はあたしらのお父さんか」
「確かに小言がお父さんみたい…」
「とりあえず、いただきますしよっか」
「そうだな」
三人揃っていただきますをした後、それぞれ用意された食事を頂いていく。
…変な名称の草も、思っていたよりも美味しかった。
これならいくらでも食べられそうだ。
「そういえば、二人のお父さんに関する話って聞いたことないかも」
「ん?ああ…今後にも関係ありそうだし、話しておくか。うちのお父さん、ヴェール・ベリアルって言うんだけど」
「凄くクソババアが大好き。それから知性的…お姉ちゃんの能力もお父さんからの遺伝なんだよ」
「何をしているの?」
「暇さえあればいつも書庫で読書」
「仕事…」
「元々は探偵だよ。仕事の時だけふらりと外に出て、事件を解決してくるの」
「ここ最近はクソババアの頼みで軍師やってるよ…魔王直属部隊だから、順調にいけば遭遇するよ」
「頭の回転が滅茶苦茶速いの」
「単純な知識量じゃあたしもお父さんに勝てる気はしない」
「そこまでなんだ。凄い人なんだね」
「うん。自慢のお父さん」
「同時に、越えなければいけない存在だ」
二人の表情を見る限り、それは心の底から告げた言葉なのだろう。
大好きなんだろうな、お父さんのこと。
…お母さんの事は、クソババアだのなんだので言い放題だけど。
「…プリンを食べていたら、久々にお父さんのおっぱい枕を味わいたくなってきた」
「あれ偽物だぞ。父さんだってあたしと同じガリガリ族だし」
「…はい?」
お父さんというカテゴリーについているとおかしい代物の名称が飛んできた気がする。
そういえば、その件をミドガルでベリアに聞こうと思って…なんだかんだでここまで来ちゃってないかな…?
呆然とする私を目に、ヴェルは首をかしげるだけだったが…。
「ん、あ?あ、そっか。人間って異性同士だもんね」
「…いせいどうし」
「うちの両親、人間的に言えば両方女なんだよ」
ベリアはさらりと告げるが、割と重大な情報じゃないかこれ。
女?両方女!?
「ふ、二人は自分がどう生まれたとか聞いてる?」
「血を交えるとか聞くけど、その時にならないと教えられないから一生の謎。私たちもどう産まれたかわからない」
「少なくとも、あたしたちは双子だけど…」
「私がお父さんから、お姉ちゃんがババアのお腹から生まれたとは聞いてる」
「どうなってるの…」
「それはあたし達も聞きたい」
「意味わかんないのは私たちも一緒。むしろ今まで疑問を抱かなかったのがおかしく感じる」
「…こういうのを椎名に話題として提供してみたいんだが、あいつこういうの絶対苦手だろうからさ。相談できなくて」
ベリアの悩みはわかる。
自分たち悪魔の繁殖は、他の生物の繁殖と比較すると凄く異様な代物だ。
椎名さんに相談できればという気持ちは理解できる。
しかし、彼はおそらくこの手の話題は無理だろう。
聞けるとしたら、それこそ原作者である鴇宮さんになるはずだが…あいにく、彼女はまだこの疑問に答えられる状態ではない。
真相は私たちで探ることになるのかもしれないな。
「ところでさ、今度は永羽としてのお前に聞きたいことあんだけど」
「何かな?」
「…お前、椎名に抱きついたことあるか?」
「ないよ。そんなことしたら絶対に吐くもん。それがどうしたの?」
「あ、いや。あたし達さ、大聖堂にいた時に敵の術中に嵌まって幼児退行してたんだよ」
「その時、私たちは基本的に魔法使いに抱きついていたけど…具体的には、こんな感じ」
ヴェルは椅子から立ち上がり、私の方に回ってきてお腹の方に腕を回して抱きついてくる。
「ほら、お姉ちゃんも」
「あ、ああ…あたしの場合は基本的に抱っこされてたから違うけど、こんな感じ」
ベリアも私の隣に腰掛けて、自分の身体に腕を回すよう促してくる。
…小さかったとはいえ、椎名さんはこの二人を抱えて大聖堂にいたらしい。
「意外と安心感があって。変な感じでね」
「それこそ、親に抱っこされてるときのような安心感でさ。永羽もそういう経験があったりしないかなって思って…」
「んー…ベリアも知ってると思うけど、椎名さんは女の子に触れると吐くっぽいから、こうやって抱きつくとかしたことがないんだよね」
「だよな…」
でも、二人の感覚はなんだか無視できないような気がする。
親以外に、親に抱っこされているような安心感を覚えるだろうか。
「永羽、険しい顔してる」
「眉間に皺が寄ってるよ。それはぶちゃいくになる顔って、お父さんが言っていた。とりあえず美味しいものを食べて、気分転換。はい、あーん」
「え、流石に…」
「まあまあ、今日の永羽さんはお疲れでしょうし、ここはあたし達が食べさせてやるよ。ほら、こっちはスープ。熱いのは嫌か?ふうふうしてやろうか?」
「そ、それは流石に…」
「お三方、食事は行儀よ」
「ぴにゃぁ…(リーダー。ここは水を差すのは野暮ってもんだ)」
「ぴにゃにゃ(これぐらいの気分転換は必要。今日は見逃せ)」
頼みのリーダーピニャ君も他のピニャ君から止められて、二人の行動を止められない。
それから私は二人に抱きつかれたまま、デザートまで食事のお世話をされることになるのは言うまでもない話だ。




