15:語られなかった物語の裏側へ
そういえば、ここは小説の世界だった。
それに本編が始まる前の、書かれていない時間の話。
賢者ノワ…本編が始まる前の私の人生というのは、鳩燕先生自身も書き切れていないもので。
勿論それは、アリアもミリアにも該当する話。
そして彼女たちは言ってしまえばモブ。
アリアは三巻と四巻で多少なり過去が書かれるけれど、ミリアは勇者パーティーの一人で出身地や、どうして勇者に従うかぐらいの情報しか書かれていなかった。
「思えば、疑問ではあった」
アリアは勇者。けれど、それ以上でもそれ以下でもない。
言ってしまえば「今は勇者だけど、勇者たるカリスマはない」存在なのだ。
そんな存在を、なぜ作中のミリアは妄信的に信じていたのか。
聖剣すら抜けていなかったただの女の子を、どうしてあそこまで献身的に支えたのか。
ずっと疑問だった。けれど答えは単純だった。
自分が心から信じていた存在を勇者に「悪」だと暴かれ、それを彼女に討って貰ったからだ。
実際にこの時間が来ると、本当に言っていいのか悩んでしまう。
ミリアの事は苦手だ。初対面からあんなに敵愾心をむき出しにした女なんて、今後も関わっていたくはない。
けれど、彼女の事が苦手でも。
彼女を傷つけたくはないし、傷つける理由にはならない。
「…どうしたもんかなぁ。思いっきりストレートかなぁ」
「お待たせ」
「お疲れ様です、勇者様」
「ええ。ミリアもお疲れ様。それで、何かわかったかしら」
「…」
大衆を解散させたアリアは額の汗を拭いつつ、私たちの元へ帰ってくる。
彼女の声かけで、ミリアが縋るように私へ視線を向けてきた。
そろそろ、真実を話さないといけないらしい。
けれど私がこの真実を話すことで物語は大きく転換を迎えることができる。
「結論から述べていい?」
「そうね。犯人は誰?」
「教会の神父」
「…は?」
ミリアが驚くのも無理はない。なんせ、理由が見当たらないから。
けれど、多分それは「お金」の為。
ミリアの勇者パーティー加入条件以外にも、疑問はまだあった。
教会の人間にしては、装備がしっかりしすぎている。
本編だけの知識であれば「ああ、これはパーティー加入後に勇者側が揃えて与えたものなのだろう」と考えられる。
けれど彼女は最初から、本編と同じ装備だった。
今の私たちよりしっかりした装備を身につけているのだ。
彼女が僧侶として外に出ている存在ならばそれも納得だろう。
けれど彼女は、攻撃魔法は苦手。自衛すらできない。
攻撃が苦手だけれど、自衛ができて、支援もこなせる僧侶役はごまんといる。
それにミリア自身、教会で一日を過ごすような修道女。
わざわざここまで整える必要はないのだ。
「魔力を辿った先にあったのは教会だったから」
「け、けれどそれだけで神父様が、犯人だなんて言い切れないのでは?」
「動揺する気持ちはわかる。けれど、この事件は犯人が神父じゃないと説明がつかないことがいくつか存在する」
「どういう、こと?」
「…私は無宗教だ。だから全ての教会事情を知るほど教会に通っているわけではない」
「え、ええ…」
「けれど、ウェクリアの教会は他の教会に比べて裕福だと思えるよ」
「そう、かしら。私は他の教会には行ったことがないから…」
「じー…」
とりあえず、アリアに視線を向けておく。
彼女なら色々な場所を渡り歩いているはずだから、他の都市に存在する教会事情も理解しているはずだ。
「助けを求めるように私を見ないでよ」
「アリアなら知っていると思って」
「…わかるけれど」
「じゃあ教えてよ」
「頼み方ってものがあるでしょう?」
「お願いしますアリア様。ご要望とあらば、靴を隅々まで舐めますゆえ、どうか!どうか!この願いを聞き届けてくださいませ!」
「そ、その頼み方じゃ私が人でなしみたいじゃない!そんなことをされなくても、それぐらい答えてあげるわよ!?」
アリアは空気を整えるように、小さく咳払い。
それからゆっくりと、自分の考えを述べてくれる。
「とりあえず、貴方はこの国の宗教に関しての知識は十分に持ち合わせているのよね?」
「無宗教で無知です!」
「…この国はね、三人の女神を信仰しているの。空の女神、海の女神、大地の女神…まとめて三女神ね」
「おおー」
なんだかんだ言いつつも、最初から教えてくれるらしい。
「教会は、それぞれの女神の為に建てられるものよ。私に勇者の神託を与えた存在は空の女神「シルフェリード」…最初に訪れた、ミリアが住まう教会も空の女神の為に建てられた教会ね」
「つまり、この都市には他にも大地用と海用の教会があるってこと?」
「ええ。どこにあるかはわからないけれど…探せば見つかると思うわ」
「探せばって、あの教会みたいに大きくないの?」
素朴な疑問だった。
あの教会は都市の中央付近に建てられ、地の利がない私たちでも辿り着けた。
けれど、他の教会は探さないと見つけきれないなんて。
同じ神様なのに、格差を感じる。
「ほとんどの都市はそうよ。空の女神はこの国で一番信仰者が多い存在。立派な教会が建てられている場所が多いわ。ウェクリアの他女神教会も同様だと思うの」
「他の女神を一番に信仰している人たちは、それでいいと思っているの?」
「ほとんどの、と言ったでしょう?海の女神を一番に信仰する都市や、大地の女神を一番に信仰する都市だって、同じように存在する。そこでは一番に信仰している女神の教会がひときわ立派に建てられていると聞くわね」
「へぇ…」
「ここは水上貿易都市だし、航路の安全を祈るため、海の女神「アリフェリーデ」の教会は小さくとも、きちんとした作りをされていると思うわ」
この世界の信仰はなかなかに面倒くさそうだ。
関わらないでおきたいが、アリア自身が空の女神の選ばれた存在。
今後もこの面倒な宗教問題に巻き込まれることがあるだろう。
勘弁していただきたいなぁ…爆破魔法で全部蹴散らせることができたらいいんだけど。
「むぁ…」
「…大丈夫?頭パンクした?」
「若干」
「気持ちはわかるわ。けど、話は続けるからね」
目を閉じて、彼女は静かに考え込む。
ここから先は推察。そして彼女が疑問に思ったことを語る。
「あくまで予想の範囲を出ない話だから、鵜呑みにしないでほしいのだけれど…」
「確かにウェクリアの教会は大きいと感じたわ。けれどここは貿易都市。王都と同等の教会があってもおかしくはないと思うわ」
「そ、そうですよね勇者様。この場所はなにもおかしくは」
「けれど、利用者は王都の教会より圧倒的に少ない。それもこの都市に住まう人、訪れる人の宗教が異なるというのもあるとは思うけれど…それでも、教会の運営って、基本的に寄付でしょう?」
「え、ええ…それに加えて、聖都からの支援が」
「それでも、その装備といい、教会の装飾品といい、気にかかることが多すぎるわ。別の財源があるんじゃないかって思うぐらい」
装飾品?私から見たら、教会にあるとしては普通そうなものだとは思ったけれど…。
それにミリアの登場で色々と吹っ飛んだ。だから教会の記憶は言ってしまえばおぼろげ。
しかし、その中にアリアが違和感を抱く程度の代物があったのだろう。
「仮にそれがあったとして、どういう風にお金を工面して…あ」
「どういうやり方をしているのかはわからないけれど、精神干渉の魔法で人を操り…」
「特定の場所に集めている。その後、どうしているかはまだわからないけれど、その人たちを財源としているのではないかしら」
アリアも私と同じ答えに辿り着いていたらしい。
そしてミリアもまた、同じ場所に辿り着いた。
こんな悪魔以外問題がなさそうな平和な世界でも、犯罪は存在しているらしい。
「…人身売買、ですか」
「そうなるわね。でも、まだ憶測にしか過ぎないわ」
「けれど答えから逃げることも許されない。私たちは教会に行くけど、ミリアはどうする?ここで震えてる?」
「…役に立てるかわからないけれど、親の不始末は子の不始末よ。けじめはつけるわ」
「決まりね。今すぐ教会へ向かいましょう。逃げられる前にね」
そうして私たちは、長話を終えて教会へと向かう。
笛の答えを、人が消えた原因の答えを求めて。




