2:マジックポケット
ミリアが寝静まった後、私とエミリーは医療用としているテントへやってきていた。
住民の様子を見に行くというのも目的の一つだが、一番はマジックポケットになってしまっているような…そんな気がする。
「…お邪魔します」
「あ、勇者様。いかがなされましたか?先生には、勇者様やそのご一行をお見かけしたら「さっさと休め」と追い返すように申しつけられているのですが…何か、必要なものがございますか?」
「先生?」
聞き慣れない単語を復唱すると、私たちの応対をしてくれた魔法使いさんは私たちが先生とは呼んでいないことに気がついたようで、すぐに私たちにでもわかる呼び方をしてくれる。
「ユズルさんです」
「ああ。私たち、彼に会いに来たんです。少し聞きたいことがあって。どこにいらっしゃるかご存じですか?」
「持病があり継続治療が必要な患者さんと重症患者がいるテントに移動しましたよ。ここから右に三つ移動した先です」
「ありがとうございます」
お礼を告げた後、右に三つ先のテントに移動する。
そこでは…。
「ありがとうなぁ、魔法使いさん」
「お気になさらず」
「しかし、これから薬はどうしたらいいのかしら…いつもの医局は潰れてしまったし」
「今、帝都の知り合いに救援の依頼を出していますので、そう遠くないうちにいつものお薬が手に入るかと。それまでは魔法で対応しますので」
「助かるわぁ」
「…お取り込み中みたいだね」
「なんで魔法医官の真似事までしているんですかあの人…」
「二人とも。休まないと布団に括るって言ったよね?何しに来たの?」
「「ひっ!?」」
「…何か足りないものがあるのかな?」
「い、いえ。お尋ねしたいことがありまして!」
「んー。もう少しで終わるから、外で待っていてくれる?」
「わかりました」
テントからでて、のんびり彼がやってくるのを待つ。
周囲が私たちを見つけても、手を振るだけに留めているのはきっと…。
「休ませるようにって指示を出しているのかな」
「あの人ならやりかねませんね…私たちへ話しかけるのも禁止しているかも」
「ところでエミリー。魔法医官ってなあに?」
「魔法で治療行為を行うことを専門にした魔法使いのことです。医学校を卒業した魔法使いしかなれない高等職ですね」
「へぇ…」
「魔法で治療を行うので、その魔法使いの力が強ければ強いほど治療できる病や怪我の範囲は広がります。普通のお医者様が病なら病、怪我なら怪我と一点を極めている存在なら、魔法医官は全ての医療行為に対応している存在になりますね」
「資格の都合上、魔法医官の数は少なさそうだもんね。エミリーは魔法医官を目指せそうだけど」
「…学業はどうにかなるとしても、回復魔法は現状魔法医官の水準並みに使えないので」
「あぁ…」
「けれど、貴方の相方…カズサは話を聞く限り、本来はあんな攻撃バカではなく回復魔法や支援魔法に特化した魔法使いなのですよね」
「うん。本人も「回復が得意」って言っていたし、回復なら椎名さんを超えられるって」
「あの魔法使いを超えられると自負する力は凄いですね。貴方は彼女の回復を受けたことは?」
「ついさっき。足の骨を折った時にね」
「ちなみにですが、普通の治癒魔法では一時間かけ続ける必要があるのですが」
「あっという間に治したよ」
体感時間は一分程度。本来が一時間かけて行うものなら…。
「なんといいますか、マジックポケットの件といい…驚かされてばかりです。鈴海の魔法使いはみんなこうなのですか?」
「さあ…あの二人と、もう一人が特殊なだけかと」
「もう一人?」
「椎名さんにはもう一人お弟子さんがいるんだよ。一咲ちゃんは二番弟子だから」
「一番弟子がいるんですか…?今度は何に特化しているのですか?」
「結界だよ、エミリー。彼は凄いよ。僕の攻撃も防ぐからね」
テントから出てきた椎名さんが話に混ざってきてくれる。
先程まで仕事をしていたとは思えないぐらい、その表情は明るい代物だった。
「おっかないお弟子さんが二人もいるようですね」
「そうだね。自慢の弟子達さ」
「ところで、話は変わるのですが…貴方からは疲労を感じさせませんね。どうなっているんです?」
「膨大な魔力量と今までの社会経験の賜物さ。それで、僕に聞きたい事って?歩きながらでいいかな?」
「勿論です。あの、ところで」
先程まではなんとも思っていなかったのだが、エミリーの話を聞いてから少しだけ疑問に思ったことがあるので、まずは私から。
「椎名さんはなぜ医療行為が?」
「ああ。在学中に死んだけど、一応僕は医学部生だったから。大社の仕事に集中するため、単位の取得は大学が設けていた特例制度を使って終えているよ。けど、国家試験は受けられなかった。受ける前に死んだから」
「と、いうことは」
「知識はあるけど資格はない。つまりのところ闇医者というやつさ。よい子は真似したらいけないよ」
「な、なるほど。しかしなぜ医学部を?理由を聞いてもいいですか?」
「自分の病を初めとする能力者特有の病への対抗策を探りたくてね」
「そうでしたか」
正直、皆でバカやってる椎名さんばかり見てきたから…勉強できる人と思っていなかったとは言わないでおこう。
良くも悪くも魔法で生きている人と思っていたが、そうではなかったらしい。
それ以外でも、ちゃんと生きる術を手に入れていた。
「それよりも、椎名さん。あの、私、マジックポケットのことを伺いたくて」
「ああ。何かに使いたいの?予備はまだあるから…」
「欲しい!欲しい!」
耳をぴんっ!と立てて、尻尾をふにゃふにゃ揺らすエミリーを見た彼は、目を細めて何かを察する。
「…エミリーさんが使いたいのか。確かに魔法使いには必需品だもんね。作れば?」
「作り方知りません」
「面倒は見るから。覚えて」
「今あげる素振りで用意していたマジックポケットが」
「気が変わった。魔法が使えるのにマジックポケットを作れない魔法使いにあげるマジックポケットはないよ?自作して?」
「そんな!無茶言わないでくださいよ!初心者に作れると思っているんですか!」
「皆誰しも最初は初心者だから。アリア、ついておいで。マジックポケットの作り方を見せてあげるよ。エミリーさん、ちゃんと作り方教えるから。作れるようになって。将来的に今覚えた方が楽になるよ」
「休憩はいいんですか?」
「…満足のいく結果が出てくるまで寝ないだろ、君」
「わかっているじゃないですか」
椎名さんに連れられ、私たちは私たちが寝泊まりする事になっているテントの近くに戻っていく。
ベリアとヴェルとパシフィカが何事か、とテントの外から様子を伺うと、三人も彼から手招きをされる
ミリアはまだ眠ったままらしい。テントからは出てこなかった。
「で、魔法使い。これなに?布の山?」
「エミリーの要望でマジックポケットを作ることになってね。せっかくだから君達の分も用意しようかと」
「へえ。でもあたし達は魔具技師じゃないし、魔法も使えないんだが…マジックポケットなんてお前の教えを受けても作れないぞ?」
「使いたい生地を選んでくれたら、僕が手本を兼ねて作らせて貰うよ。エミリーさんは自作してね」
「…魔法使いは自作命令がでているのですか。大変ですね、エミリー」
「私の分も作ってほしいです・・・」
「まあまあ。エミリー。私たちは作れないから作って貰ったマジックポケットを使うけど、貴方は自分で作ったものを使えるでしょう?きっと愛着を持って使えると思うよ」
「そうとはわかっているんですけど…私、あまり手先が」
「不安はわかる。でも大丈夫。僕にでもできた。君ならできる」
「・・・握力3の男が言うと説得力あるな」
「「「「!?」」」」
そんなこんなで、私たちはエミリーがマジックポケットを作る様子を見ることになる。
なんか、その前にとんでもないことを聞いた気がするが…これは深堀して聞いていいものなのだろうか。




