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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第5章中:聖教都市「メサティス(中央)」/君と私の誓約

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24:そして時は現在へ

「そんな軽いの、意味ない!」

「まあね!」

「さて、アリアとも遊び飽きただろう?ここからは私と遊ぼうか!」


アリアと入れ替わるように出てきたのはノワ。

今度は後ろではなく、前で戦うらしい。


「その安っぽい杖で?」

「そう見えちゃう?一応、歴史はある代物なんだけどなぁ…多分!」


ノワが杖を一振りすると、氷の飛礫が彼女の周囲に出現する。

あれが、この世界の魔法。

かつて帝都大学の地下図書館に忍び込んだ際、パスカル魔法帝国に関する歴史書に触れたことがありますが…それと同じような魔法原理のようです。


「貴方、記録でもそうだったけど氷と水が好きなの?」

「別に?個人的に使い勝手がいいだけっ!」


無数の飛礫を飛来させて、彼女はシフォルの「位置」を調整しているようだ。

勇者像の地点に誘導しているようですね。


「何をしたいのかわからないけど、そろそろ「本気」で当ててみたら!?」

「うん。これを本気で当ててあげるよ」

「は?何言ってるの?そんなのあたらなっ…!?」


氷の飛礫は当たらない。

けれど油断が隙を生んだのか、背後に仰け反り飛礫を避けたシフォルの背に魔弾が撃ち込まれる。

いつ、出現させた?

それにパスカル式の魔法原理と同じなら、杖を使い魔法発動…その途中で別の魔法を発動させることはできないはずだ。

一つの杖で一つの魔法を使う。それが鉄則のはず…。

まさかその法則から抜け出す方法を見つけたのか?


魔道具を使用したと言うこともない。見える範囲でそれらしきものはないし、何よりも「攻撃」に特化した魔道具というのは倫理的に存在していないはずだ。

魔道具は生活や探索に使うために作られたのが魔道具。有限な魔力を節約するためのツールなのだから。


それに、魔弾をあらかじめ撃って…と言うこともないだろう。

芸当としては難しく、限られた者しかできないだろうけど———今、この場でその芸道を行えばシフォルに魔力の動きを探知させられ、逆に利用される可能性がある。

よって、あの魔弾は…飛礫の影で生み出されたと考えるべきだろう。

しかし「どうやった?」

あれを成す為の理屈は…まさか!


「…いつの間に」

「シフォルちゃん私に不意を突かれてばっかでちゅね〜?私と一桁以上の年の差があるのに、若造に不意打ちされまくってやんの、ぷすす!」

「…やっぱむかつくわ、クソ賢者」

「そうだよ。これが私の戦い方だしね。師匠がふさわしいって言った私の戦い方さ」


流石にここからでは彼女の小細工が見にくい。

使わないと決めた矢先にオペラグラスを使うのはなんとなく気が引けますが、好奇心には勝てません。

オペラグラスを開き、ノワの動向を追う。


…おや、彼女の袖に何か光り物が

腕に小さな魔法の杖を仕込んでいるようですね。なるほど。それなら一つの杖に一つの魔法…その前提を守ったまま、二つの魔法が行使できる。

飛礫は見せている方の魔法。魔弾は隠している杖。

それはある意味、複数の魔法を同時に行使しているということ。

…器用な真似をするものだ。彼女の魔法使いとしての力量は、想像よりも高い水準にあるらしい。


「嫌な戦い方を考えるものね、貴方の師匠は。そう思わない、友江一咲?」


シフォルがノワの———いや、ノワの前世に相当する少女の名前を呼ぶ。

けれど彼女は狼狽えることなく、追加で何かを足下に仕掛け続ける。


「…飛ぶ先々で落とし穴!?」

「ついでに穴に落ちると毒沼マグマ剣山マムシ畑と罠よりどりみどりにしておいたよ!是非とも楽しみな!」

「…悪趣味!」


穴を器用に避け、シフォルはノワが放つ魔弾を避ける。

罠付き落とし穴を作りながら、魔弾を撃ち込める…?複数の魔法を使い続けているのは…?


「一つの杖で一つの魔法ではないの?」

「それが鉄則だけど、私…一度発動させた魔法なら指先で一時間は保てるんだよね。発動後は魔力流し続けるだけで良いし」

「…汚っ。魔法使いの鉄則ぐらい守ってきてよ」

「そういう枠組みに収まる魔法使いじゃないものでね!」


…あの子、友江一咲って言うんですね。苗字違うけどひ孫かぁ。

なんとなくですが、色々と厄介な子がひ孫になるらしいですね。

…これから会話したりするんだろうか。今後が心配だ。


「…その程度でブレると思われているのは侵害だね」

「あれ、驚くかと思ったのに」

「アリアから曾お婆ちゃんが星見された時点で予想はしていたよ」

「…ちぇ。隙を見つけて腹に穴開けてやろうと思ったのに」

「私の攻撃を避け続けた結果「ママ」のところに逃げ込んだ情けないマザコン三桁ババアには言われたくないよ。そうだよね、アリア!」

「…流石に言い過ぎだと思うなぁ。あ」

「あ」


…シフォルの元へ駆けてから、少しだけ攻防を繰り広げ、入れ替わるようにノワがシフォルの相手をしていた。

その間、彼女はずっとどこにいたのか。


その答えが、今…この瞬間。

驚きましたね。彼女も現在進行形で驚いたように私を見ていますが。

———双方共に、互いが隣にいることに気がつかないとは。


「———ひっ、光を舞わせ、天より降らせ、ちゅいの星」

「詠唱上手くいってないですよ、アリア」

「黙ってください、鴇宮さんっ!」


それでも詠唱としては完成していたらしく、空に光の剣が無数に現れる。


「光星喪葬。行ってください!」


指示を出した瞬間、小さな広間を埋め尽くすように光の剣が降り注いだ。

これは決着だろうか。

…いや、まだ一悶着あるな。


「あー…これは逃げられなさそう」

「私、防御で逃げるんで!頑張って!」

「いや〜。それは無しでしょ…っ!」


無数の剣を全身に浴びながら、シフォルは最期のあがきをノワに向かって行う。


「…この力、お母様が嫌うから使いたくなかったんだけど」

「…へ」

「ノワっ!」


結界を貫き、シフォルはノワの腹に腕をめり込ませる。

それと同時にシフォルの足下には魔法陣が出現した。


「貴方への置き土産。貴方を苦しめる死の呪い」

「…あー。なるほどね。これかぁ」

「どうなるか知っているなら話は早いわね。私が死んだ後、その自我を保ったまま私の傀儡として、あの子に立ち塞がってよ。死ぬまで足掻いて足掻いて、双方共に苦しんで」

「…やなこった。お前の思い通りに何てなってやるか」

「ふうん。ま、私はこれから先を見ないから知らないけど、せいぜい足掻いてよ。死ぬまでね」


一足早く、シフォルの身体が霧散する。

これで彼女との戦いは終わりということだろう。

問題は、この後だ。


「…ノワ」

「来ないで。危ないよ」


光の剣が消えた後、アリアが屋根を降り…ノワの元へ駆けようとするが、彼女自身から止められる。


「大丈夫だよ。運命は変わった。君じゃない。私だ」

「でも、それは…」

「大丈夫。この世界には師匠がいる。強くなった皆が、君がいる」

「…」

「連戦を強いてごめん。一緒に戦えなくてごめん」

「いいよそんなこと、私は」

「…運命は変えられた。ここから先は「先が決められていない私たちの物語」私たちは辿り着けたんだよ。ここは笑っとこうよ」

「無理だよ…」


少しずつ、ノワの身体が黒ずんでいく。

皮膚は硬くなり、その肉は歪んで肥大していく。

それでもまだ、彼女の意志は途切れない。


「だからね、変えられるよ。私が死なない未来をつかみ取ることができるはずだよ」

「かずさちゃん」

「泣かないの、永羽ちゃん。私は大丈夫だから。でも、なるべく早く終わらせて貰えると助かるな」

「…うん。必ず」

「約束だよ…っが!?」


それを最後にして、ノワの身体は歪み、人の原型を崩して化物になった。

それからしばらくして、アングスフェアリレンとなったノワは暴れて街を崩壊させていった。

私はどうしてもあれがノワだと信じられなくて、指輪の探知でノワを探した。

でもいくらやっても…アングスフェアリレンの方をさして、ノワはここにと指輪は示す。


アリアに課された運命は、この瞬間…確かに変えられた。

でも私が側にいてほしい人は側にはいてくれなかった。

事実を受け入れられず放心した私を、エミリーが見つけるのはもう少しした後だ。


・・


「それが、椎名さん達と合流する前の私たちです」

「…」


話を一通り終えた私は、一息つく。


「…正直、まだ理解が追いつきません」

「特にシフォル周辺の情報ですね。先代勇者の娘だったとは」

「パシフィカさん、君は結構軽めだね…。僕はこの場にミリアさんがいなくてよかったと心から感じる程度には驚いているよ…」

「彼女の設定上、この事実は発狂して気絶する威力はありそうですよね。なんせ、普段なら平気な顔をしていそうな彼女がああなのですから…」


「もぐ…もぐ?」

「ヴェル、戻ってこい。お前が食ってるのは自分の手だ。マジで戻れ。自分を食うぞ」


パシフィカが割と平気そうな顔をしている以外、それぞれが驚きの表情を浮かべている。

ヴェルに至っては完全な放心状態だ。


「…とりあえず、衝撃事実のせいで混乱しているだろうけど。僕たちにはやることがある」

「賢者の、ノワの救出で」

「休息ですね」

「休息だろうな」

「ごはん…お腹空いた。魔法使い、パン」

「そうだね。お腹も空いただろうし、何よりも疲れただろう。疲れている状態だと頭も回らないだろうし、今日はお開きにしよう。ヴェル、君にパンはないよ」


「で、でもノワの事は!」

「箱庭にいる間は大丈夫だから。だから今は兎にも角にも休息。いいね、エミリーさん。救出で随分魔力を使ったんだ。しっかり休まないと、身体も魔力生成器官も壊しかねないよ」

「…はい」


ナティ湖の時は衝突しそうだなと思っていたけれど、二人は意外と仲良くやっているようだ。

まさかここまで普通の会話ができる間柄になっているとは…少し安心したかも。


「僕はミリアさんに変わって引き続き怪我人の治療に回るよ。ピニャ達に寝床やドラム風呂、食事の準備をするように頼んでおくから」

「あ、ありがとうございます」

「パシフィカさん。君はミリアさんの監視。起きたら「こっち来んな。寝ろ。来たら布団に縛り付ける」と伝えておいて」

「了解です」

「ベリア、君はまだ余力があるだろう。今日の出来事をできるだけ纏めておいて」

「ああ。言われなくてもやる予定だった。任せてくれ」


「ヴェル、エミリーさん、アリア。君達は動こうとしたらミリアさん同様の扱いをする。下手な事はしないように」

「「「は、はい…」」」

「じゃあ僕は医療テントにいるから。時雨ちゃん、行こうか」

「はい」


時雨さんと共に椎名さんはテントを出ていく。

残されたのは、私たちだけ。

ノワがアングスフェアリレン化したのもだけど、ミリアにパシフィカ、エミリーの三人が私達の前世を知っていることも想定外。

予想が出来ない続きの夜。

私はこれから、どうするべきなのだろうか。

不安を紛らわせるよう、指輪へ触れる。

時は過ぎていく。

私達は、私達がいなかった先の未来の中で———歩む準備を始めなければならない。

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