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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第5章中:聖教都市「メサティス(中央)」/君と私の誓約

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18:加護の指輪

今日は酷く疲れた。

宿に辿り着いた瞬間、その気持ちが強くなる。

それでも勢いよく扉を開けることはせず、そっと静かに扉を開ける。

ドアの隙間から、中の様子を伺った。

見たこともない道具を頭に装着して、万年筆を指輪に向かって動かしている彼女の邪魔をしないよう、静かにゆっくり部屋の中へ。


「…ふう、これでおしまい」

「お疲れ、ノワ」

「あ、アリアだ。帰ってきたのなら教えてくれたらよかったのに」

「帰ってきたのはちょうど。それに、流石にあの集中だし、邪魔はできないよ。はい、これ」

「わ、クッキーだ!いいの?」

「うん。疲れた時は甘いものだろうし、是非」

「うん。はい、アリア」


袋の中からクッキーを一枚取り出したノワは、私にそれを差し出してくれる。


「いいよ。ノワの為に買ってきたんだから」

「まあまあ。一人で食べるよりは二人でだよ。ほら」

「あ、ありがとう」


半ば強引にクッキーを手に乗せられる。

せっかく受け取ったものだ。食べないのは悪い。

口の中にそれを運び、一口。しっかり甘い感覚が口の中に広がってくれる。

…私も、糖分を欲するほどに疲れていたらしい。


「美味しい!」

「それはよかった」


どうやら、ノワの口にも合ったらしい。

お腹が空いていたのか、欠片を衣服に零しつつ、一気にばりぼり食べる姿には…まあ、何も言わないでおこう。

品性の欠片も無い、普段の彼女なら絶対にしなさそうな事。

どうしてこの状態が生まれているのか、理由はわかっている。


「朝からこの時間までずっとやっていたの?」

「うん。ぶっつづけ」

「朝ご飯と、昼ご飯は」

「食べてないね」

「集中しすぎ。ほら、一気に食べたから口元に欠片ついてるよ。動かないで」

「んー」


口の端についたクッキーの欠片を一つ一つ取り除く。

ふと、口元へ指が触れた。

昨日、これが私の額に…いや、思えばスメイラワースで私の口に触れた代物なんだよな。

艶めくそれをチラチラと視界に入れる度、謎の雑念を抱いてしまう。

柔らかかったなぁ。もう一度触ってみたいなぁとかいう、最悪な雑念だ。

それを振り払いながら、クッキーの欠片を回収する。


「ほら、終わったよ」

「ありがとー。アリアはついてないの?」

「多分。見てみる?」

「ん」


顔を近づけて、ノワに口元を確認して貰う。

彼女の震える指が頬に添えられてからしばらく。


「…ついてないね」

「そ。それなら、大丈夫かな。ありがとう」

「いえいえ。さて、お腹も満たされた事だし、そろそろ本題に入っていいかな」

「勿論。指輪、完成したんだよね?」

「うん。早速、嵌めてみ…アリア?」

「あ、いや。嵌めてくれないのかなって」


こういうのは、互いに嵌め合うものだと思っていたので、さりげなく疑問をぶつける。

しかし、どうやらノワの反応を見る限りその認識は異なる代物らしい。


「いいいいいいいいいいいいいいいいんですか」

「う、うん。私はそう言うものだと思っていたけど、もしかして違う?」

「あ、いや。ペアリングだから嵌め合うのが正当かもしれないね。そういうことにしておこうね。私はそれがいいからね。というわけで嵌め合おう!」

「う、うん。それから、どの指にする?」

「ゆび」

「うん。昔、聞いたことがあるよ。指輪をつける場所にはそれぞれ意味があるんだって。私も昔、椎名さんに聞いたことがあるの」

「へえ、師匠もこういうことを予測していたのかな。こういうペアリングはどこがいいかって言ってた?」

「うん!椎名さんが左手薬指の指輪には「絆を深める」って意味合いがあるって言っていたの。意味もぴったりだし、ここがいいと思うの」

「師匠!?」


「わ、どうしたの?何かおかしいことでもあった?」

「お、おかしいも何も…その、アリアさんや」

「何?」

「左手の薬指…結婚指輪の定位置だよ?わかって言ってる?」

「うん。で、でも椎名さんが…「君達はそこがぴったりだよ」って」

「な、何を企んでいるんだろうか師匠は…あのね、こういうのは」

「ノワは嫌?」

「嫌じゃないです。むしろウェルカムです」

「だったら、左手の薬指でいいよね?」

「勿論です」


なんとなく、押し切ったような気がするけれど…本当にいいんだよね?

しかし、椎名さんは時雨さんにも指輪を贈っているわけだし、流石に意味を知らないわけでは無いはずだ。

…なぜ、私たちに左手の薬指を勧めたのだろうか。

まあ、そのあたりは考えても一緒だろう。聞いても絶対にはぐらかす。

こういうのは将来ベリアに聞いておこう。彼女なら教えてくれるはずだ。

とりあえず、位置の件は置いておいて…そんなことを気にするよりもやるべき事がある。


「じゃあ私からするね」

「よ、よろしくお願いしまぁす!」


机の上に置かれた指輪を手に取り、彼女の左手を持ち上げる。

ゆっくりと、輪を薬指に通し…それを奥まで進める。


「そういえば、サイズとか大丈夫なの?」

「ああ、一応魔道具だからね。つけてぴったりになるよう自動調整が入るから」

「そうだった。はい、これでどう?」

「う、うん。いいね。最高だよ。じゃあ次はアリアだ」

「うん。よろしくね」


今度はノワの手が私に添えられ、同じように指に輪を通す。

それが付け根に辿り着いた瞬間、指輪のサイズがちょこっとだけ変わり、指にぴったりの形状になって私の指に留まり始めた。


「…どうかな」

「うん。ばっちり」

「それはよかった」

「ありがとう、ノワ」

「いえいえ」


ノワは軽く返事をした後、手を胸に当てて何度か息を吸い込んだ。

少し、安心したのかな。


「なんだろうなぁ。なんか、つけているだけで安心するや。精神安定の魔法はかけていないんだけど」

「…薬指は心に一番近い指らしいよ」

「それも師匠が?」

「うん。椎名さんが教えてくれた事の続きがそれ」

「まだあったんだ」

「うん。だから、友達でも恋人でも———一番近くにいたい人と指輪を贈り合う関係になったり、ペアリングをつけようと提案するような仲の存在がいるならば…」

「迷わず、左手の薬指につけなさいってか」

「そういうこと。どんなに遠く離れていたって、心と意志は共にある。だからどうか安心して欲しいと、願いを込めて」

「そっか。どこまで見透かしてんだろうな、あの魔法使いは」


しばらく、互いに寄り添いながら時間を過ごす。

そうしているうちにいつの間にか眠ってしまい…次の日、私たちは床の上で顔を見合わせることになることはまた、別の話だ。

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