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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第5章中:聖教都市「メサティス(中央)」/君と私の誓約

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5:終末病棟の記憶

前世の私たちが過ごした最期の秋。鈴海大社付属病院にて。

今日のお見舞い客は三人。

師匠と紅葉さんと夜雲さん。三人合わせて「大社の三バカ」トリオがやってきていた。

あの場にはデブ鳥もいて、師匠じゃ無くて夜雲さんにもにょられていた。


「ぴにゃ〜」

「おー。ピニャ。今日ももふもふだなぁ」

「お前らはいつも通りだなー」

「…夜雲、紅葉。何しに来たんだい?」


師匠が怪訝そうな声で、自由に病室で遊んでいる二人に問う。

彼にしては若干低い声。でも、彼らにはいつもの声。

夜雲さんはデブ鳥をもにょる手を止めないし、紅葉さんはずっとスケッチブックに何か描き続けている。


「え?遊びにだけど?」

「むしろそれしかないよな?」

「さも当然の様に言っているけど、君達今日は任務が」

「「和夜に押しつけた。一人で大丈夫だと思って」」

「君達ねぇ…和夜、また十円ハゲができてたんだよ?君達のせいで和夜がハゲちゃったらどうするの?責任取れるの?」

「ふんっ。お高い育毛剤程度、何本でも買い与えてやる」

「俺たち一応小隊長だし、給金は普通に多いしな〜。モーヴ41とか登録してやってもいいぞ」

「いや、そういう問題じゃないから」


和夜さんはさん付けしてはいるけれど、私たちと同い年だ。

忘れがちだけど、和夜さんは時雨さんの双子の兄。

つまり、当時十六歳の男子高校生なのだ。


「…和夜、まだ十六歳だよ?僕らより普通に年下だよ?」

「そんなこと重々承知しているが?」

「ストレスと与えないようにしてあげるとか、そういう方面で頑張って欲しいんだけど」

「和夜は譲与えとけばすぐに元気になるからな〜」

「変に気を遣ってくるだけだから!空元気だからね!?」


いつも大人びていた師匠が年相応らしく見えるのは、紅葉さんと夜雲さんの前だからだろう。

気負いせずに関われる。三バカと纏められるほど、長い時間を共にしている。

私にも、そんな間柄だった友達がいたのだろうか。


ああ、いや。違う。ちゃんといる。


気を抜いたら忘れそうになるけれど、これだけは日記に書き留めていた。

私の隣で眠っている霧雨永羽ちゃん。私の大事な友達。

師匠にとって紅葉さんと夜雲さんみたいな存在が、私にはちゃんといるんだ。


「どうしたんだい、一咲さん」

「ああ、いやぁ。師匠達は相変わらず仲がいいなって」

「「いいだろ〜」」

「うん。でも私と永羽ちゃんも負けてないっぽいから。羨ましいとは思わないし!」


「ぽいから」に反応したのかもしれない。

師匠達の表情が一瞬だけ暗くなるけれど、すぐにいつも通りに戻って話の続きをするのだ。


「譲を与えるのも駄目なら、和夜のハゲはどう阻止しろって言うんだよ」

「ストレスを与えない方向で考えてよ。もう少し優しく」

「え〜。師匠達はわかってないなぁ」

「…?」

「ハゲが気になるならいっそのこと和夜さんを坊主にしちゃえば解決じゃね?」

「「超名案!一咲天才だな!」」

「名案じゃないから!」


「…ふ」

「あ、永羽ちゃん笑った!」

「おー。そんなに面白かったか」

「次は和夜の断髪式で笑わせてやるからな〜。永羽も見られるよう、ここでやるから」


「するなバカ共」

「いたっ」

「いてっ」

「うっ。なんで僕まで…」


カルテで三バカの頭をリズミカルに叩く白衣の女医こと戸村夏乃先生。

私たちの主治医で、師匠の養母をしている人だ。


「病院は遊び場所じゃ無いわよ、三バカ」

「だから夏乃さん。なんで僕まで叩くの?」

「譲が悪くないのは知っているけれど、大社の制服を着ている以上は大社の職員として連帯責任を負って貰うからね、司令官殿?」

「…厳しいなぁ」

「厳しくて結構。それから三バカ。今すぐ隠れなさい」

「「「なんで」」」

「「お偉いさん」がお見舞いに来られてるから。もうすぐ到着よ」


夏乃さんからその言葉を聞いた瞬間、夜雲さんはデブ鳥を抱えて窓から飛び出した


「じゃあなお前ら!病室でかくれんぼでもしてろ!」

「「裏切ったな夜雲ぉ!?」」


師匠も紅葉さんもその気になれば十階から飛び降りることなんて容易なんだろうけど…。

今回は時間制限付き。一枚だけ開いていた窓を使い、夏乃さんの一言と同時に逃げなければ———。


「こんこん」


———逃げる時間を、逃してしまう。


「譲、透明化!」

「あいあいさー…」


逃げ遅れた者達に待つのはかくれんぼ。透明化の魔法を発動し「お偉いさん」———つまりのところ、永羽ちゃんの両親に見つからないように隠れる準備を始める。

夜雲さんは遭遇しても問題ないらしいが、そういう権力者と会うのが面倒だから逃げるらしい。


問題は師匠と紅葉さん。

二人はなんだかんだで家柄のいいお坊ちゃん。

そして、永羽ちゃんの家とは対立派閥に属している家の出身なのだ。

二人して「なんで来るんだよ…」とぼやきながら、姿を消す。


師匠達はどこにいったのだろうか。

私は師匠から教えて貰った魔力の流れを見て二人の行動を追うことにした。

魔力の流れにうっすらと声が乗っている。

師匠と紅葉さんは通信魔法で見えなくなった互い同士でやりとりをしているらしい。


『紅葉、絶対に立たないでよ!?姿は消せても影は消せないからね!?』

『わかってるよ!それで、お前今どこにいんの?』

『夏乃さんの足下…』

『なんでそんなところいるんだよ!変態!』

『だだだだだだって!ベッド下は意外と荷物がいっぱいで入り込む隙がなくて!』

『なんでそんなに荷物があるんだよ…普通は空いてるだろ』

『終末病棟だからじゃないかな。何かあった時用に色々と準備してるとか』

『なるほどな。それは触れないし、安全圏は夏乃さんの足下になるのも納得だ』


『そういう紅葉はどこにいるのさ』

『…き、霧雨夫妻の足下』

『なんで自ら見つかってはいけない人に寄ったの!?バカなの!?バカだったね君はぁ!』


見ているか、鈴海の全住民よ。

これが皆の憧れをやっている大社の若手最強コンビの惨めな姿だ。

片や保護者の足下に潜んで、片や見つかってはいけない人物達の足下に潜む。

…片方は自他共に認めるアンポンタンだけども、もう片方は私の師匠だ。


過去の私。もう忘れてしまったけれど、この人の弟子になりたくて、自分から弟子入りのお願いをしたんだよね?

…後で「なぜこの人に弟子入りをお願いした」のか確認しておこう

このままじゃ、私が気まぐれで変人に弟子入りを志願したとしか思えない。

コロコロと転がりながら病室中を移動する変人二名に遠い目を向けつつ、私はカーテン越しに聞こえる会話へ耳を傾けた。


「…はぁ」

「…如何なされました、霧雨さん」

「…治療費、また高くなっていないか?」

「これなら、早く死んで貰った方が助かるのだけれど」

「うちの跡継ぎをしてくれる永翔の為にも、ねぇ?用済みな事ぐらいわかってほしいわぁ…」


…今、この人達は何を言った?

私の耳がおかしくなったのだろうか…?

いいや、そんな訳はない。

私は確かに聞いた。私の大事な友達に対して、死んでくれなんて言う人間の声を。

それは紛れもなく彼女の母親から発せられた言葉だと。


「失礼ですが…」

「…っ!」

「譲!?」


私のお見舞いに来ていた風を装いつつ、師匠は私と永羽ちゃんを遮っていたカーテンを突き破って、永羽ちゃんの両親の頬にそれぞれ拳をめり込ませた。

私が聞いた言葉は、事実らしい。

師匠が感情にまかせて動くところなんて、紅葉さんでも見たことがなかったようだ。

相方に押さえつけられながら、師匠は感情のままに叫ぶ。


「ふざけないでください…それが病と闘っている娘に告げる言葉ですか!」

「落ち着け、落ち着けって譲!身体に障るから!」

「なっ…なんで椎名と二ノ宮が…」


狼狽える永羽ちゃんの両親は、自分の頬を押さえながらゆっくりと立ち上がる。

それでも、娘には目を向けない。

師匠の言葉なんて何一つ響いていないのだ、この人達には。

悪いことを言った自覚なんて、何一つないのだ。

これじゃあ家族自ら「いらない」と言っているようなものじゃないか。

そんな「贅沢」が存在していいわけがない。


「じゃあ…ください」

「…なによ」

「永羽ちゃん、貴方たちはいらないんでしょう?」


重い身体を頑張って起こしながら、私は永羽ちゃんの元に向かう。

彼女には聞こえているはずだ。

だからきっと、これからも実の親に言われた言葉が枷になって彼女を苦しめる。

だから、それ以上の言葉を私があげよう。

永羽ちゃんにとって私が大事な人物であってくれたならきっと。

この言葉を告げることにも、価値がある。


「だったら、永羽ちゃんを私にください。世界一幸せにするんで」


眠る彼女の手を握り、彼女の両親をしている人物たちを睨み付ける。


「いらないなら、頂きます。なので早く手放してください。親である責任も、家族の繋がりも全部捨ててください」

「な、なんなんだどいつもこいつも…」

「こんなのもういらないから好きにして頂戴!」


二人は捨て台詞を吐きながら病室を後にする。

残された私はそのまま床に座り込んで、師匠と夏乃さんは塩を撒く。

そして二ノ宮さんは…。

「俺とお前は能力が似てるなぁって思ってたけど…「親に見放される」なんて共通点が加わるなんて。嫌な話だよ、本当に」

「もう少しいいのがなかったもんかね…」と、永羽ちゃんの目元に浮かんだ涙を指先で拭いながら、ぼんやり呟いた。

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