14:数行しかなかった物語の先に
爆破魔法が収まる中…彼女たちはそれぞれ「次」に向かって動き出す。
「ミリア、大丈夫か」
「え、ええ…貴方は背中燃えているわよ。大丈夫?」
ベリアの背中では、ミリアさんの言うとおりごうごうと燃えている。
今まで熱くなかったのだろうか。気がつくこともなかったのか。
ベリアはそれを一瞥して、しばらく黙り込んだ後…。
「ひょえっ!消して!消して!」
「驚くだけなのは変な感じだけれど…少し待っていて。消すから」
ミリアさんの手には白金の魔法陣。
手をかざし、短い詠唱を終えると共に魔法陣の中心から水が出てきた。
「ふわ〜」
「鎮火したわね。でも、背中はお見せできない代物に」
「後で回復して貰えば。それに耐久力を考えれば、あたしが盾になるのは当然だろ?あたしが盾になってなかったら、お前がこれだぞ?」
「うっ…。そうかもしれないけれど、あまり怪我はしないでよ。見てられないんだから」
「心配ありがと」
「じゃあ、回復を…」
「まだいい。まだ仕事が残っている」
流れで回復を行うかと思えば、予想外の拒否。
あの怪我を放置するのはよくないと思うのだけれど…。
「エミリーからの指示だ」
「指示とはいえ、痛みはあるでしょ?平気なの?」
「すぐに消えるから」
「…?」
「エミリーが後でタイミングを出す。最大火力の浄化魔法をお望みだ。後は頼むぞ!」
「わ、わかったわ!」
ミリアさんに指示を出した後、ベリアは爆破魔法の中心部に向かって駆け出す。
それと同時に、反対方向からも影が一つ。
「…もう一仕事頑張ろうね、お姉ちゃん」
「ああ!最後の大仕事はあたし達にしか出来ないからな!」
「クソが…クソがぁ!ふざけるな!雌の分際でこの崇高な私に爆破魔法だと!?服を汚したな!私の皮膚を焦がしたな!崇高なる私に穢れを与えたな!」
二人が駆ける先にはまだ息の根があるメフィストフェレス。
先程までの振る舞いはどこに消えたのだろう。あれじゃ癇癪を起こしている哀れな老人だ。
「この罪は死を持って償いたまえ!いや、それだけでは足りない!穢らわしいお前達は私が直々に綺麗にしてやろう…!手始めにその血を全て抜いて…!」
「お断りさせていただきます。ミリア、それに付着した不浄とやらを浄化して差し上げてくださいな」
「え…」
「いいから」
エミリーさんはやれ、というように目配せをするが、ミリアさんは動けずにいる。
その場にはメフィストフェレスだけでなく、ミリアとヴェルもいるのだから。
「大丈夫。信じてください」
「…いいのね?」
「ええ。あの二人は死なせません。死なないようにしてくれます」
「わかったわ」
ミリアさんは手のひらをかざし、白金の魔法陣を足下に展開する。
彼女が浄化魔法の詠唱文を述べた後、周囲に眩い光が降り注いだ。
「来るぞ、ヴェル。ヘマはするなよ?」
「ん。こっちの台詞。私はいつでも準備おーけー。いつでもいいよ」
「はっ…はは!ベリアルの姉妹、残念だったな!お前達が手を貸した人間共は、お前達を裏切り、浄化魔法を発動させたぞ!」
「こんなのは…裏切りなんかじゃない」
「これは信頼の証。あたし達が大丈夫だと信じてくれたから…ミリアは浄化魔法を使ってくれた」
懐から水晶を取り出し、二人は収納していた人形体に魂を移す。
それにより、浄化魔法の効果を受けなくなった彼女たちは、悪魔としての力を失う代わりに、その場で上手く立ち回れるようになる。
ヴェルはいつもより能力が半減しているだろうけど、その代わりベリアがよく動けるようになってくれる。
あの二人なら、ダメージを負った悪魔を押さえつける程度———造作も無い。
「ぐわああああああああっ!」
「効いているらしいな、浄化魔法」
「なぜだ!なぜだなぜだなぜだ!なぜお前達はぁ!」
「どうして浄化魔法の影響を受けていないのかって?お前に答える義理はねぇよ。ほら、ヴェル。使えそうなやつ」
ベリアはメフィストフェレスを一瞥もすることなく、瓦礫の中からあるものを取り出す。
「おっ。これは…お姉ちゃん、センスいいね。魔法使いに似て、悪趣味」
「なぁに。あたしは悪魔だぞ。悪趣味は褒め言葉じゃねえか?」
「それもそうかも?」
「さて、そろそろ引導を渡してやろうか」
「そうだね。もう飽きたし…そろそろご飯食べたいかも」
双子の悪魔が、メフィストフェレスに近づいていく。
浄化魔法を受け、もう動けなくなっている彼はもうすぐやってくる「死」に震えながら、双子を見上げていた。
「お前の敗因は、私たちを見くびったことでいいだろうな。後、お前…なかなか能力使わないと思ったら、能力持ってないだろ」
「…!」
「お前はメフィストと名乗っていたが…「メファイトス・M・フェレス」の方だな。噂に聞いたことあるぞ。フェレス家の無能長男。次男のメフィストに才能を吸われた男。こんなところで会えるとは思わなかった。遂に身分詐称か?」
「その、なを…くちに…」
「…こういうところに来る悪魔が能力を持ってないわけがない。弟を不意打ちで殺してその名前を自分の物にしたのかな」
「な、ぜ…それ…を」
「弟をどう殺したのか、周囲をどう騙していたかというのは気になるけれど…それもどうでもいいや。死人には口がないらしいよ。だからさっさと死んで」
「…あがっ」
ヴェルが勢いよく、彼の頭部を潰すように突き刺したのは「十字架」
彼女はベリアが拾ったそれをメフィストフェレスの頭に貫通させた。
「ここでお前たちに弄ばれた人間達からのプレゼントだ。よくお似合いだよ」
「墓標としてもセンスいいね。ま、後で爆散して土地ごと消失して貰うけどね〜」
頭部は弾け飛び、魔力器官だけでなく頭蓋まできっちり砕く。
ミリアの浄化魔法を合わせているおかげで、メフィストフェレス…メファイトスは想定よりも早く灰になった。
「消えたと言うことは、私たち」
「…悪魔相手に、勝てたのかしら?」
「おう。大勝利だ」
「ぶいっ」
現実を理解するまでに数秒。互いに顔を見つめ合い、やっと全てを受け入れた瞬間。
エミリーさんとミリアさんは互いを抱きしめ、その場で跳びはねる。
戦った後なのに。元気なものだ。
しかし、パシフィカさんはどこに?
今の今まで、姿が見えないのだが…。
「あ」
「…」
「大丈夫かい、パシフィカさん」
「椎名さん。今すぐヴェルを呼んできてください。ぶっ殺します」
そういえば、パシフィカさんは爆破魔法の安全地帯に向かう際にヴェルへ投げられていたな。
…悪魔の腕力というのは凄まじいものらしいね。
ちょっとというか、なんというか…パシフィカが目も当てられない状態になっている。
「やめさない。というか、君は何で半分になっても生きているの?」
「頑丈なものですから」
「その一言で片付けないでくれる!?痛くないの!?」
「頑丈なものですので」
「それしか言えないだなんて…脳まで半分に削れているのかい!?」
「頑丈ですので?」
「気を保ち続けてね!死ぬんじゃないよ!」
「頑丈ですので…」
これはまずいと思い、すぐに時間遡行魔法をかけて、パシフィカの肉体を復元させる。
こう言っては何だが、死んでいないのが不思議なぐらいな状態になっても平然としているこの精霊は何者なんだ?
精霊は不老に近い時間を生きる種族だが、不死ではない。半分になれば普通の精霊は死ぬはずだ。
でも彼女は生きている。ちゃんと意思疎通が取れる程度に。
ミリアさんといい、パシフィカさんといい…まだ何かあるのだろうか。
「助かりました」
「…よかった。元に戻った」
時間遡行魔法によって元通りになったパシフィカさんは、喜ぶ四人を遠目に僕の近くに立つ。
なにかあるのだろうか。
「本来ならば、私達三人はここで終了していたのでしょうか」
「ミリアはおそらく地下空間に組み込まれ、君とエミリーはここで殺されたんだと思う。断言はできない。作中でも「三人が死んだ」って情報は出ていなかったから」
「けれど、ここから先に待ち受けていたアリアの側にいなかった時点で…ということですね」
「そういうこと。アリアもその章で死んじゃうから真相は闇の中さ」
「…その件についても、話し合わないといけませんね。もう遠い未来の話ではなく、数日後の話なのですから」
パシフィカの言葉に息をのむ。
メサティス大聖堂の一件が終わったと言うことは、次の話に移る。
メサティス中央区…そこで待ち構えている「あれ」の話も、しなければならないだろう。
アリアとノワが対峙することになる魔王ルシファーもとい、シフォルよりも厄介な彼女の「置き土産」
ここを乗り越えたからと全てが終わったわけではない。
彼女達の戦いはこれからが本番。
ノワが殺すことになる、アリアが魔に堕ちた姿。
「失うのを恐れし怪物」…アングスフェアリレンに関する話も、する時がやってきたらしい。




