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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第4章:帝都「ナティア」/賢者様の追放回避三者面談

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30:飛び込んだ先は

パシフィカを介抱してから一時間後。


「もぐもぐ。魔法使い、次は素焼きがいい」

「了解」

「あ、すみません…この大根おろしを追加してほしいです。結構好み…」

「はいはい。二人とも、ちゃんと食べてね。この後大仕事があるから」

「ん!」

「はい」


———今度は魚を食べていた。こいつら本当にブレないな。

あの山は半分以上どころか、残り一山に減っていた。椎名とあたしは数匹程度しか食べていないので、ほとんどパシフィカとヴェルの胃袋に収まっているのだろう。


「本当に凄いね、その食事量」

「ヴェルの胃袋だけ故障してんじゃねえの?」

「今度調整する?」

「いっぱい食べられるの最高だからこれでいい」

「…そうかい。魔石多めに預けておこうかな」

「市場狂わせるぞ。いつものより数倍劣る魔石で頼む。その方が売りやすい」

「そうする」


椎名も想定外な食いっぷりを見せつけるヴェルの異常に関して答えはでないまま。

食費の心配をしだしたので、助言を軽く行っておく。

こいつの魔石が大量に流れてみろ。魔石市場は狂うぞ。自分の魔石がとんでもなく出来が良いことをいい加減自覚しろ。

それよりも、パシフィカもかなり食っている。元気なのはいいことだが、こちらも食い過ぎでは?

本当に大丈夫なんだろうな。


「…そろそろツッコむのも面倒になってきたんだが、お前ら満喫しすぎじゃないか?」

「腹ごなしは必要」

「元気になるためには必要なことだよ。はい、二人とも」

「すみません、ベリア。私、魚は食べたことがなくて。凄く美味しくてついつい…」

「いや、いいって。食えるほど元気になったのはいいことだ。しかしこの一週間、お前はずっと飲まず食わずで徘徊していたのか?」

「ええ。エミリーがやらかしていないという証拠を得るために隠れながら色々と。捕まればエミリーの無罪を晴らせませんから」


ふーん。パシフィカはエミリーの無罪を確信しているのか。

捕まっていない理由といい、聞くことは多いな。


「はい。大根おろし完成。ヴェルは素焼き」

「ありがと。あむ」

「あ、ありがとうございます…ところで、今まで聞くのを忘れていたのですが、貴方は?」

「僕は椎名譲。ノワ・エイルシュタットの師匠と言えば君には通じやすいかな」

「…ノワの師匠、純粋かつこんなにも若い人間だったんですね。周囲から聞いているとは思いますが改めて。パシフィカ・グラウゴス。騎士をしています。以後お見知りおきを」


「うん。よろしくね、パシフィカさん。ところで君はなぜ逮捕を免れているんだい?二人と一緒にいたんだよね?」

「ああ…実は私たち、エミリーの箒でナティアに来たのですが、箒の三人乗りは定員オーバーでして」

「なるほど。操縦者であるエミリーさんと、ミリアさんは普通に乗って…君が若干無茶な乗り方をしていたのかな?」

「その通りです。そしてここ付近を飛んでいた際に、エミリーの箒の動きがおかしくなって…」


「おかしいというのは?」

「なんか、こう、何かにひっかかったように、ぎゅぎゅ〜ってなって、それから引き寄せられるようにばびゅーっと」

「もぐ。パシフィカ…見た光景、説明とても難しい感じ?」

「説明下手ですみません…」


「いや、構わないよ。ベリア」

「おう。パシフィカ。記憶を読み取らせて貰うが…ここ最近の分だけに絞るから」

「わかりました…なんですか、その水晶…思えば角もどこに…?」

「説明は後だ」


あたしは水晶を取り出して、悪魔の姿に戻る。

人形の姿だと悪魔とバレることはないが、能力が全て使えなくなるから厄介なんだよな。

それでも、街中で自由に動き回るためには仕方がないことだ。


頭に重みを感じつつ、パシフィカの額に自分の額を合わせる。

それがあたしの鍵。

能力を発動させる条件だ。


流れるのは最新の記憶から。

それは巻き戻るように私へ「記憶」を読み取らせる。

リラの結婚式の光景が見えた瞬間、額を離した。

約束通り、これ以上は読み取らない。


「ありがとう、パシフィカ」

「もういいのですか?」

「ああ」

「角…」

「積もる話はまた後で」

「はい…」


水晶を使って、再び人形の姿に戻る。

パシフィカが不思議そうな顔をしていたが、事情を説明するのはこの後にしたい。

今は、そんなことよりもやることがあるから。


「椎名。箒の動きは湖の上空で止まっている。術の形式はないな。同時に術者の気配も無し」

「同族は?」

「関与していないな。湖上空って言っても、かなり高い位置だ。湖に落ちて、無事で済んだのが奇跡だといえるぐらいの高さだと考えてくれ」

「そんなに高いところを飛んでいたの?術をかけるのが難しいぐらい?」

「ああ。お前とノワなら単独でもやれると思うが、他の術者は無理だろう。人数を増やせば可能かもしれないが、それだと目立つ。下には誰もいなかった」

「なるほどね。じゃあ、湖にある「何か」に引き寄せられた可能性が高いわけだね」

「そういうことになるな」


とりあえず、パシフィカが別行動をしていた理由もわかった。

まさか落下していたとは…その羽はほぼ飾りらしい。

椎名は気がついていないが、私の中にはもう一つ違和感が存在している。

それに関して、パシフィカの知ることを聞いてみようか。


「それからパシフィカ、エミリーの使っていた箒は三人乗せても折れなかったんだよな」

「ええ。無茶はしましたが、今も折れていないはずです」

「はず?」

「箒、湖の底にあると思うので。沈んでいるところだけは確認しました」


「もぐ…なんで見ているだけなの?」

「私、泳げませんので。ミリアとエミリーも泳げないから助けに行けませんでした」

「その羽は?」

「浮くことしかできません。アリア程度ならともかく、人一人持ち上げて飛ぶのは期待しないで貰えると」


確かに、アリアの体重はかなり軽い方だよな。

対して、ミリアとエミリーは…椎名の記憶にある「賢者ノワシリーズ」のキャラ設定集だと…んんっ。

彼女たちのプライバシーの為に具体的な数字は出さないが、アリアよりは重い。

それに湖に落ちているということは、衣服も水を吸っているだろう。

重さは段違いになるはずだ。

アリアが関の山であるパシフィカが二人を助けようとしたら時間がかかるだろうし、なんなら彼女も溺れる可能性がある。

二次被害を防ぐという点では、パシフィカの選択は正しいものだ。


「まあ、とにかく。ベリア、箒の件は何かおかしいところがあるのかい?」

「いや、エミリーの箒って滅茶苦茶耐久力がいいよなって。普通は二人乗りだろう?」


だろう、と聞いてもこいつはこの世界の住民じゃない。

この世界の常識は椎名に通用しないのに、何をしているんだろうか…。


「んー…僕は昔から箒じゃなくて杖で飛行していたからそのあたりは上手く答えられない。ごめんね」

「いや、問題ない」

「でも確かに、女性三人を乗せて無事どころか高所を飛んで、落ちても壊れていないという現象は無視できないね」

「何か不思議なことがあるのですか?」

「ああ。あたしが知る限り、魔法使いの箒は魔力の通りがいい干し草を使用しているだけの———どこにでもある箒と聞く。耐久力はその辺の掃除用箒と変わらないはずだが、何か特別な代物だったりするのか?パシフィカはそのあたり聞いていないか?」

「特別かどうかはわかりませんけど、少なくともエミリーの箒は彼女のお師匠さんが作ったそうです。乗る前に教えてくれました」


「エミリーの師匠っていうと…」

「例の娼館通いをしていた色欲魔…じゃなかった。龍族ですね」


龍族って確かかなり希少な種族なんだよな。

伝説ともいえる種族で、長寿種でも「生きている間に一度会えるかどうか」の数しか存在していないそうだ。

基本的に彼らに巡り会うことは珍しい。

他種族を忌み、自種族としか関係を持たない種族だからだ。


「そう思うと、エミリーの師匠は異質だよな」

「もぐ。お姉ちゃんの言うとおり。あの種族は自分たち以外嫌いじゃん。他種族とかゴミ扱いだし」

「そうですよね。性欲が強い種族とは聞きますが…他種族の娼館に通って、他種族の弟子を取る。エミリーの師匠は変わった方と言えるでしょうね」

「魔法使いってただでさえ変わっている奴が多いけど、その師匠も全員変わってんな。まあ同じく魔法使いだから仕方無いだろうけど」

「全員、僕の方を見て言わないでくれる?」


エミリーはその点、環境と運に恵まれていたと言うべきだろう。

ああ、悔しいな。龍族って存在が嫌いだから生物座学の時も眠りこけていたんだよな。

おかげで龍族の習性は全然知らない。

今回の一件は龍族が作った箒で起きた事象だ。

ここは彼らの習性を把握することが一番だと思うが…。


「ヴェルは、生物座学起きていたか?」

「いや、寝てた。戦って勝てそうにない相手の事を知っても無駄。逃げるが勝ち」

「ババアに似て脳筋思考しやがって…椎名は論外だろ。お前、この世界の事知らないだろうし」

「…ベリア、首絞められたいの?」

「あ?事実だあだだだだだだだ…なんで首輪を絞める!?」

「お馬鹿にはお仕置き」


「お姉ちゃん、パシフィカパシフィカ」

「パシフィカはいるだろう。何言ってんだ」

「パシフィカに魔法使いとご主人達の世界に関わる話したら、あだだだ…」

「君もだよ、ヴェル。君たちは失言が大好きみたいだね?ピニャの餌にしちゃうよ?」

「…「この世界」の事を知らない?」

「…」


やらかした。

そういえば、パシフィカは椎名たちの事情を知らなかった。

知っている前提で話してしまった。失言だな、これは。首を絞められるのは理不尽だが…こればかりは仕方が無い。


椎名は静かに杖を構える

記憶を消した方がこれから円滑に進むと判断したのだろう。

けれど、パシフィカはまだ手を隠している。

記憶消去から逃れられる為に、彼女は隠し持っていた情報を提示する。


「…キリサメ、トワ」

「どこで、それを?」

「アリアとノワの会話を盗み聞きさせて貰いました。その反応からしてトワとカズサの事は、貴方に聞けばわかるようですね」

「バカ弟子の事も知られていたか…聞かれないように注意をしろと言っていたのに」

「貴方はやはり、トワとカズサの関係者なのですね」

「ああ、そうさ。こうなってしまったら…仕方無いね。君も巻き込もう、パシフィカ・グラウゴス。あの子達の為にも、協力者は多い方がいい」

「それがあの子を、アリアを手助けできる知識ならば私は全て得ます。簡単には信用できない話でも、それが事実であるのなら…受け入れる所存です。私が誰かに情報を漏らす心配があるのなら、ベリアの様に隷属なり、誓約なり結んでもらって構いません」

「君はこの二人よりかなり信用できるからそんなことはしないよ。それに、アリアにとって不利になることは君はしないだろうし」

「…信用してくれて、ありがとうございます」


パシフィカの決意は半端なものではない。

アリアの為に。そう願う彼女の原動力はどこから湧いているのかわからない。

あたしから言わせて貰うと、こんな厄介な話は知らない方がいい。

鈴海のこと、霧雨永羽と友江一咲のこと、そしてあたし達が「物語上の存在」だということを。


それでも彼女は、前に進む。

自ら二人の秘密に———この世界の秘密へ飛び込んだのだ。

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