47:最新鋭の学び
結界内にいるのか、周囲を見渡しても舞園さんの姿はない。
「水さん、舞園さんはどこに?」
「…ここだ」
「どこ」
「ここだよ、ここ」
水さんが差し出した手の上には人形が乗せられている。
よくみたらそれは人形じゃなくて、小さくなった舞園さんだった。
「…男の方、なんか高火力の技ばかすか使っていて、デメリットとかないのかって考えていたけど、こんなデメリットがあったとは」
「ちっちゃくなっても可愛くねー。性格の悪さがにじみ出ているよ。つついとこ。ほれ、ほれ」
「…」
「うわ、舞園、ミニ舞桜で刺してきたな!?指先流血したんですけど」
「それは応急処置が必要!ご主人、私の口を貸す!あがー!」
大きく口を開けて「ご主人の指先、いつでもウェルカム!」みたいな状態で待ち受けるヴェルの前でノワは指を自分の口の中へ突っ込む。
「あぁ…」
「…ヴェルは私の血を飲みたい欲を隠してくんない?さっきまで食事してお腹いっぱいでしょ?」
「デザートは、別腹だよ?」
「女子か。女子だったな…」
「女子です。だからデザート…」
「砂漠の砂でいい?」
「それはデザート違い。私が所望するのはおやつ」
どうやらヴェルは英語まで履修済らしい。
ん?英語?
「この世界に英語ってあるんだ…」
「エイ語…ああ、エイラシア公国の言語か?」
「エイラシア…?」
「オヴィロから南に進んだところにある国だよ。今回の旅ではルート外だから、眼中になかった感じか?」
うっ…確かにベリアの言うとおり。今回の旅路に必要な知識だけ蓄えて、他のことは気にも留めていなかった。
そうだ。エイラシア公国。お父様の話と自分の知識をまとめると、南国の暖かい地域に存在する国で英語に似たような言語を扱う国。
前世で言えば、ハワイみたいな国が存在しているようなんだよな。
物語の中で私たちはメルクリア王国とオヴィロ帝国しか歩いていなかったからか、それ以外の国のことなんて知らなかった。
しかし実際この世界には、まだまだ未知なる世界が存在しているらしい。
機会があれば行ってみたいけれど、今は状況が許してくれないだろう。
もしもこの旅を無事に終えることができたら「次の目的地」として考えてもいいかもしれない。
「そこの二人は、事情を知っているってことでいいんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、その前提で話を進めていくとして…まずは永羽ちゃん、かなぁ」
「はい」
「まずは意識しての初勝利、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
開口一番、水さんが述べたのはお祝いの言葉。
まさかそれが飛んでくるとは思わなくて、調子を崩された気がした。
勿論、その隙を彼女が見逃してくれるわけがない。
「でもまさかあのタイミングで来るとは思わなかった…」
「ひゅ」
「しかもまだ技術は荒削り。舞光だって、魔力コントロールが上手くいっていないんだから」
「は、はい…」
「今回は上手くいったけれど、今後はわからない。私たちも呼び出しがあったから戻らないと行けない。修行をつけるとかそういう話をしていたのに全然だからね、譲君に頼んであるものを作って貰ったんだ」
水さんから手渡されたのは、小さな水晶玉。
透明なそれは私が触れると、上にスクリーンを作り出す。
『ぴにゃ〜。ぴにゃ〜』
「…可愛い」
「これはローディング中ね」
『ぴにゃにゃ…ぴにゃぁ!』
「これは電波の確認中。あ、ここ電波良好みたい」
『ぴこーん。ようこそ。すいちゃそブートキャンプへ』
ピニャが回り始めて、何か探して、最後はリーダーピニャの声が案内を始めてくる。
なんなんだこれ…すいちゃそブートキャンプとは一体。
「…あの、水さん。これは?」
「動画記録媒体だよ。今後はこれを見ながら剣の練習をしてね」
「最新鋭、ですね」
「そうです。最新鋭なのです」
まさかの通信教育開始。なんということでしょう。
どんな魔法を使用しているのか興味津々のノワにそれを手渡し、実際に使って貰う。
「これまた複雑な魔法を多重がけしてますね…解体したい」
「駄目だからね、ノワ」
「わかっているよ。けれどまあ、アングルは全方位対応だし、一時停止もできるし、何度も見られるし…動画って結構ありかも。おっ…スケスケじゃないですか。どエロいですね」
「なるほどなるほどって、最初に何を確認しているの?」
「お前は何を見ているんだ」
「いてっ!いてっ!舞桜刺すな!」
舞園さんから刺され続ける彼女から私は水晶玉を奪い取り、守るように収納する。
これ以上は、動画を撮って記録を見えるようにしてくれた水さんに申し訳がない。
「あはは…後で譲君に修正報告とお仕置き依頼出しておこう。更新は時雨ちゃんがしてくれるから、毎日日付が変わったタイミングで何本か更新予定だよ」
「何から何までありがとうございます」
「霧雨、俺も何本か上げることになる。できれば、参考にしてほしい」
舞園さんは水さんに指示を出して、私にもきちんと声が届くように位置を調整して貰う。
彼が動画を出してくれる…確かにあの素早さは参考にしたいものだが。
「舞園さんと私の剣は異なるので、参考には、その…」
「俺が出すのは舞踊というか、ダンスの基本動画。舞うのが前提条件の能力だ。色々なダンスを実践するから、能力を使う際の参考にしてほしい」
「できるんですか?」
「覚えてくる。暇だし任せろ」
「なにからなにまでありがとうございます」
なるほど。聖剣は水さんが。能力は舞園さんがそれぞれサポートをしてくれるらしい。
二人とも忙しいだろうに、ありがたい提案ばかりだ。
それに、二人のおかげで新しい可能性を見つけることができたかもしれない。
少なくとも舞光はまだ、進化できるらしい。その情報はかなり大きいものだ。
「ねえ、水さん。私には?」
「セクハラ魔のお弟子さんには出すものはありませんよ?」
「すみませんでした…」
「まあ、謝られても出すものはないけれど」
笑顔で告げる水さんにショックをうけたのか、足下近くに蹲るノワ。
ふと、小さな声で「今日はヒモかぁ」なんて言っていた。聞かなかったことにした方がよさそうだ。
「話したいことは以上!私たちはそろそろ戻るね」
「今後も気をつけてな」
いそいそと帰るあたり、二人とも急いでいたのかもしれない。
慌てる二人の背を見送った後、ノワは結界を解く。
その先で待っていたのは…。
「アリアちゃん」
「ミリア…っと、どうしたの?」
「無事でよかった…急に飛び出して、心配だったのよ」
勢いよく抱きついて、両腕で私の身体を締め付けてくる。
痛いけれど、それほどまでに心配して貰っていたと言うことがひしひしと伝わってきた。
「って、ひっ!?さっきの子!?」
「私が隷属魔法をかけたから、襲わないよ」
「ぶい」
「そ、それならいい?けれど…」
ヴェルの存在に驚いてはいたが、ベリアとヴェルが同時に首輪を出すことで、ミリアも少しは安心したらしい。
「てか、ここに来たってことはパシフィカもいるよな?あいつは?」
「パシフィカは先に帰ったわ。エミリーの様子も心配だからって」
「ああ。そういう…確かに、置いてきちゃったし心配だね。戻ろうか」
「ええ」
「アリアちゃん、歩ける?ふらつかない?」
「大丈夫よ、ミリア…おっと」
歩き始めた瞬間、視界が大きく揺れた気がした。
ミリアが支えてくれたことで転倒は避けることができる。
「…典型的な魔力切れの症状ね。頭が痛いでしょう?後でポーションを飲みましょう。魔力が回復したら、落ち着くからね」
「…うん」
「あんなに強そうな力を使ったのには驚いたわ。歩くのはきついでしょう?おんぶをするから、乗って!」
「ありがとう、ミリア」
「いいのよ。それに、わかったこともあるから」
「…?」
「たとえ貴方がお伽噺の「勇者」じゃなくても、私を救ってくれた「勇者」であることは変わりないってこと!」
この意味は、貴方が目覚めた後に。
そうミリアが告げた声を聞いた後、私の意識は遠のいていった。




