32:新たな情報源
「道中は順調だったのですね、ミリア」
「ま、まあそんなところよ…」
「何もないことはいいことです。はい、そこの。これ呼んで」
ちっ!ミリアとの感動の再会でごまかせると思ったのに!やはり店名試験からは逃げられないか!
しかし私も馬鹿ではない!既に対策済だ!
「ヴァジュウェギュシェミュミョっ!」
「よろしい」
ふっ…流石私。小細工に関しては完璧すぎるね。
無事に店名を言えたことで入れ墨回避を成した私に対して、相変わらず残念そうな視線を向けるエミリーには、いつも通りノーコメントを貫き通しておこう。
「…パシフィカもなかなかだと思ったけれど、エミリーもノワの扱いがなかなか酷いわね」
「人の名前を間違える頭の弱い賢者(笑)にはこの程度でおーけーですっ!」
年甲斐もなく頬を膨らませてぷんすこ怒る姿は、彼女の見た目が若干幼いことも相まってアリア以下の子供に見えてしまう。
「もう、二人して子供なんだから」
「「十八歳と比較したら子供!」」
「そうね!私、十八歳だもの!貴方たちとは違って大人だから!こういうところ利用できる大人だから!」
「聞きました、エミリーさん。あの修道女、娼館を正しい目的で利用する気ですぜ…」
「敬虔なる神の子が、堕落を覚えているだなんて…残念です。でもうちのお客になってくれるのなら歓迎です」
「その気はないから。貴方たち、実は仲良しでしょ。息ぴったりすぎてびっくりよ」
ミリアから二人揃ってげんこつを入れられた。
あまりの痛さに私もエミリーもたんこぶができてしまった。悲しい。
「それ、回復魔法で治したら駄目よ」
「「えぇ〜…」」
「消したらお仕置きにならないからよ!全く…!」
しっかしこの修道女、げんこつの痛さが半端ない。
一緒に住んでいた子からしたらお姉さんみたいな立ち位置だったのかもしれないし、こんなのは日常茶飯事だったのかもしれないなぁ。
…つまり、彼女からしたら私たちは手のかかるガキということなのでは?
「エミリー」
「は、はい!」
「事情は聞いているわ。私にもできることはあるだろうから、手伝わせて貰える?」
「も、勿論です!ミリアがいれば百人力です!」
「おい、エミリー。私への態度と全然違うな。私の方が強いんだが!強いんだがぁ!」
「はいはい。勿論わかっているから。それでノワ…貴方、今後どうする気なの?」
ミリアには一応、私が知るリラの情報を話している。
彼女が混血悪魔であることも、勿論。
しかしエミリーにそれを悟られるわけにはいかない。
私たちは彼女がきちんと受け入れられる状況を、外堀を作った上でリラの事実を突きつけなければならない。
「とりあえず、リラに話を聞きたいって所なんだけど…どうせ仕事終わりで疲れてるでしょ?他に話を聞ける人はいる?」
「では、エファルに声をかけましょうか」
「あ、その人がエミリーに依頼を寄越してくれたのよね」
「ええ。リラから相談を受けて、私に連絡を寄越してくれた方です。だから、リラと二人で依頼人といった感じではあるのですよ」
「そのエファルってのは人間でいいの?」
「ええ。混ざりではない人間です。後、その…ノワ、貴方はいない方がいいかもしれません」
「どうして?」
今回ばかりはおふざけ抜き。
私と言うよりはエファルの方を心配して提案した話みたいだな。
しかし、エミリーに私の血に関する話をした覚えはない。
「ぱく・ぱく・ぱく(ご・め・ん)」
「…」
エミリーの背後で、ミリアが私に向かって口パクで何かを伝えてくる。
感じからして「ごめん」かな。
…どうやら、私が混血である事実とその中の一つが魔族であることをミリアが話したようだ。
「ぱくぱくぱく…(大丈夫、気に障ってなんていないから。お気遣いどうも)」
「…!(頭の中に直接声が聞こえる…!)」
「…(通信魔法。後で教えてあげるね)」
「…何をしているんですか?」
「いや、エミリーが私のことを心配して提案してくれるのが嬉しいなと」
「別に貴方なんて心配していません。私が心配しているのはエファルです」
「ですよね」
「エファルは人間の男。妹を悪魔に殺された過去がある影響で、その、悪魔とか、魔族とかを憎んでいるんです」
「…おとこ?あれ?まえお母さん代わりだって…?へ?」
「…一応、この世界の悪魔と魔族は同一種族ではないんだけどね」
「ほぼ同一ですから、普通の人間に「差に気がつけ」というのは難しいのではないでしょうか」
ふむ。確かに…エミリーの言うことはもっともだ。
この世界の悪魔と魔族というのは別種族に相当する。
違いは角の有無程度。他は全て一緒。
得意なことも、特徴もなにもかもだ。
この世界では「魔族の角は悪意を凝縮したもの」と言われている。
私は混血だからということもあるだろうが、角は生えていない。もちろん私の血縁に連なる存在も角は生えていないはずだ。
けれど、身近な悪魔であるベリアにはちゃんと立派な角が生えている。
これが魔族と悪魔の違いだ。
もちろん角の大きさにも差がある。
髪に隠れて見えないなんてことはよくある話。
今まで無害な魔族だと思っていた存在が、角を隠した悪魔だったなんてこともあるそうだ。
おかげで魔族側にも風評被害だ。これだから悪魔とか言う生き物は…。
「確かに、角が隠れたりするもんね。区別をつけるのは難しいか」
私は四分の一ではあるけれど、魔族の混血。彼にとっては憎い対象によく似た種族に相当する。
それをひけらかして会うのは避けた方がいいだろう。
「エファルは普通の好青年なんですよ。ただ、悪魔や魔族の話題になると、猟奇的になるというか…」
「了解。じゃあバレないように創意工夫をこらすよ」
「正気ですか?バレたら袋叩きですよ」
「それでも。貴重な情報源を前に逃げることはできないから。それに、私が勇者と一緒に旅をしていると知った反応も気になるしね」
「勇者の盾は効きそうね」
「立場の有効活用ですか。まあ、貴方が小賢しいのは嫌というほど理解していますので、貴方にお任せします」
「おうともさ」
エミリーはそれから、私たちを先導して歩き始める。
どうやら元々エファルの所に向かう気だったようだ。
「エミリー」
「なんですか?」
「エファルは娼館関係者じゃないの?」
「んー…エファルは化粧品を取り扱う商店の店主。うちもお世話になっている云々以前に、リラの恋人なんです」
「「ふーん…」」
私もミリアも、想定外の事実に同じ反応をせざるを得なかった。
そんなの初耳だぞ。
流石にまずいと思ったのか、ミリアが私にそっと耳打ちをしてくる。
「…どうしましょうか、これ」
「…とりあえず、エミリーから聞けるだけ聞こう。付き合い始めたとか、一応恋人とか破局寸前とか、知ってるかもだし!」
「ミリア、狙わないでくださいね。もうすぐ二人は祝言を挙げる予定なんですから」
「なぜ私だけピンポイントで…そんな気もないのに」
『困ったね』
『私の風評被害が、かしら』
『まあ色々あるけどさ。とにかく、私が理解したことはただ一つだ』
『何を理解したの?』
『私たちが今から会う相手は、筋金入りの馬鹿だという事さ』
憎い相手を娶ろうとしている商人と、そんな事情を知っていても結婚しようとする混血夢魔———つまりのところ、悪魔である娼婦。
この設定に関しては、物語と同じだろう。
エミリーも、リラも、エファルも…ベリアとヴェルという例外が動いていること以外は、物語と同じように動いているはずだから。
次に考えるのは「私がリラを殺すことになる理由」だよな。
物語の私は、そもそも聖剣以外で殺せないと言われている悪魔をどう殺したんだ?
…そもそも、ベリアたちが引き起こした被害の方が目立っている影響で、エミリーがここに呼ばれた一件が見えてこない。
リラは何を考えている?
その答えがエファルにあるわけではないだろうけど、ヒントは隠されているはずだ。
情報を手に入れて、まとめる。
それがこの話を、できるだけ被害を最小限にして終わらせる鍵であるはずだから。




