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31. 角を折る者

今回はシリアスです。

 『鬼』一族の里に、『姫塚』という古い墓がある。

 500年もの昔、この世界に迷い込んだ『鬼姫』と鬼姫を守る4匹の鬼達、そして一人の侍が眠っている。


 サラ達一行は冒険の旅に出る前に、ゴルドの勧めもあってシグレやアマネの故郷である『鬼』の里を訪れていた。成人したシェード家の者は、ここを訪れるのが慣習らしい。アマネは異様に嫌がったが、例のごとくシグレに首根っこを掴まれて強制的に連行された。今は大人しく、実家で死んだふりをしていることだろう。


 『鬼』の里は、まさに日本の田園風景そのものであった。食事も和風の味付けのものが多く、サラはカボチャの煮物を食べて涙が出た。白いご飯も衝撃的だった。もう、一生ここに住みたい。『鬼』の里には転移で一瞬で来られるため、ちょくちょく来ようとサラは心に決めた。


 サラ達一行が里の人々の熱烈な歓迎を受け、ようやく解放された時には夜が更けていた。

 サラは初めて飲んだ酒に酔い、和室で横になっていた。久しぶりの布団の感触が気持ちいい。だが、浴衣姿のシグレとグランも素敵だったし、日本人形の様なアマネも可愛かったし、何故か女物の浴衣が異様に似合うロイに負けた気がしたりと、仲間のいつもと違う姿を思い出すと興奮して眠れなかった。


 サラはムクリと起き上がった。

 アマネは自室で死んでいるし、ロイは別の部屋だ。グランとシグレは、里の者達とまだ飲んでいるだろう。

(お散歩しよう)

 サラは布団から抜け出すと、浴衣の乱れを直して障子を開けた。虫の音が耳に心地よい。サラは縁側から足を伸ばし、下駄を履いて外に出た。


 少しの月明かりと夜風に誘われるまま歩き続け、サラはいつの間にか『姫塚』に辿り着いていた。

 『姫塚』は大きな2つの石碑を中心に、4つの石碑が四方に並べられている。

(あれ? 光ってる?)

 サラは中央の石碑の1つが淡く発光しているように見え、思わず手で触れた。

「え?」

 石碑から白い腕が伸び、サラの手を握る。悲鳴を上げる間も無く、サラは意識を失った。


 そうしてサラは夢を見る。『鬼姫と侍』の物語を。


 ――――――――――――――


 日本がまだ、室町時代と呼ばれていた頃、京に近い山奥に『鬼』の一族が住んでいた。

 大きな身体と鋭い牙と爪。そして、膨大な魔力を秘めた角を持つ彼らは、人里離れた山中でひっそりと暮らしながら、稀に戦場に現れ死肉を喰らって生きていた。 

 しかし、彼らの異様な姿は人々に恐怖を与え、時に戦の勝敗を左右することがあったという。


 当時の権力者は、侍達に鬼退治を命じた。

 侍達は徒党を組んで鬼達に挑むも、圧倒的な個々の能力差の前ではなすすべなく、戻ってくる者はいなかった。

 そこで白羽の矢が立ったのが、奥州に住む『鬼狩り』の一族であった。彼らの祖先は、角を折った鬼だったと言い伝えがある。

 長は人手不足を理由に鬼退治を断った。

 しかし、一族の女子供を人質に捕られ、苦渋の決断により、一人の青年を鬼退治に向かわせることになった。


 青年の名は、レンセイという。姓はない。


 レンセイは奥州を離れ、遠い京の町で一人の美姫と出会う。二人は互いに一目で恋に落ちた。

 それが『鬼狩り』レンセイと、『鬼姫』ツバキだとも知らずに。


 ある時、「鬼が出た」と噂を聞いたレンセイは、踏み込んだ古寺で、頭に2本の角を生やし、死んだ赤子を喰らうツバキと遭遇する。その周りには、多くの死体と、それに喰らいつく鬼達の姿があった。


 レンセイは鬼を切りながら、ツバキに問うた。

「何故、人を喰らうか」

 ツバキは泣きながら答えた。

「喰いとうて、喰らうのではない。喰らわねば、生きてゆけぬのじゃ」

「ならば、我らは相容れぬ」


 レンセイが、ツバキに刀を振り下ろしたその時だった。


 突然、時空が歪み、『鬼姫』と呼ばれた美しい魔物と姫を護る数匹の鬼、そしてそれを狩る一人の青年がこの世界に迷い込んだのだった。 


 彼らはこの異世界で、長い間戦い続けた。レンセイは強い。鬼達は主であるツバキを護るため、一匹、また一匹と数を減らしていく。


 追う者と追われる者。


 鬼達はこの世界で『転移』を覚え、レンセイから逃れこの地にたどり着いた。

 小さな村を作り、子を産み、育て始めた矢先に再びレンセイと邂逅する。


「覚悟せよ」


 レンセイが刀を構え、鬼達が牙を剥く目の前で、ツバキは自らの角を折った。


「もうよい」


 ツバキは力の象徴である角を折り、レンセイの胸に飛び込んだ。


「そなたに恨まれて生きるも、あの者達が死ぬも、もう十分じゃ。我らは角を折る。人も喰らわぬ。どうか、見逃してもらえぬか」

「角を折った鬼は短命だ。力も失い、只の人となる。それでも良いと言うのか」

「構わぬ」


 姫の覚悟に、子供を残し鬼達も角を折り、レンセイの前に跪いた。


「ツバキ」

「レンセイ」

 レンセイは刀を手放し、ツバキを抱き寄せ唇を奪った。

「只の女子となったそなたを、殺しはせぬ。ワシは、そなたの侍になろう」

「侍……?」

「護るべきものを得た武士を、侍という。ワシがそなたと、この村を護ろう」


 やがてツバキ姫は侍の子を成し、愛する者達に囲まれながら二度と覚めることのない眠りについた。


「ツバキ。ワシが出会った鬼が、そなたで良かった」

「はい。レンセイ」


 最期にツバキの心に浮かんだのは、産まれたばかりの我が子を抱く、侍の笑顔だった。


 ――――――――――――


「……ラ様! サラ様!」

 遠くから名を呼ばれ、サラは意識を取り戻した。夜はすっかり明けている。どうやら、『姫塚』で気を失ったまま一晩越したらしい。目の前には、心配そうな見知った顔が並んでいた。

「……アマネって、鬼姫様に似てる。向こうが一億倍上品だけど……」

「寝言ですか!? 寝惚けてるんですか!?」

「うがああああ」

「アマネ。 サラ様の頭を揺らすんじゃない」

 サラの肩を掴んでガクガクと揺らすアマネの頭をシグレが掴んだ。


「そうですか。ツバキ様とレンセイ様の夢を」

 シグレに背負われて屋敷に戻る途中で、サラは『鬼姫と侍』の物語をシグレに話した。他のメンバーには転移で先に戻ってもらっている。シグレと二人で話がしたかったのだ。

 シグレは黙って最後まで聴いてくれた。


 ツバキの死後、ツバキに従い角を折った鬼達やその子孫達は、人として鬼姫の残した種を守っていくこととなる。侍と姫の子を中心とした一族は、大陸の端で静かに暮らすうち、次第に周りの人間達とも交流を持つようになり、現在に至る。

 その子孫が『鬼』の一族である。彼らに鬼の外見的な特徴はないが、鬼姫と四人の従者の血脈だけは強い魔力を宿し現在まで続いている。

 そして、その最も若い『鬼姫』が、アマネである。

 ちなみに、『鬼』の一族がシェード家に仕えるようになった経緯は、この土地がシェード家の領土だったからである。角があったころほどの力はないものの、レンセイがそうであったように『鬼』の子孫は十分に強かった。『鬼』が忠誠を尽くす理由は、「力を貸す代わりに、安住の地を与える」というシェード家との契約に基づいているが、鬼姫の娘がシェード家に嫁いだこともあり、シェード家の者は『鬼』にとって本当の意味で主君の血筋なのである。

 ある意味、サラも『鬼姫』なのだ、とシグレが教えてくれた。


「鬼は元々魔物です。シェード家に鬼の血が流れているのは、嫌ではありませんか?」

「ううん! むしろ、嬉しい!」 

 シグレの問いに、サラは笑顔で即答した。このサラの身体にも日本人の血が流れていたのだ。前世との繋がりを肌で感じて、サラの中のマシロが歓喜の声をあげている。

(それに……)

「だって、魔物と人が分かり合えた実例があるってことでしょう?」

 サラはヒューとソフィアに思いを馳せていた。魔王を倒さずに済む道があるなら、進んでみたい。

「……我々は、人族と同じ価値観を持つようになった魔物を『角を折る者』と呼んでいます。ここでいう『角』とは、その者の力の核となっているものを指します」

 シグレは、道端に設置された竹製のベンチにサラを降ろすと、胸元から紫色の魔石を取り出しサラに差し出した。

「サラ様はまだお若く、魔物がなんたるかをご存知ない。ましてや、魔族であれば尚更です」

「……サキュバスはどんな人だったの?」

「初めて会った時、私はまだ若かった。サキュバスの精神攻撃に耐える修行のつもりで彼女に対峙しました。結果、私は精神攻撃には耐えたのですが、彼女を一人の女性として見るようになっていました。テス様からは早々に始末するよう命じられましたが、私は彼女に『角を折る者』になって欲しかったのです」

 シグレは真っ直ぐにサラを見つめている。恐らく、誰にも語るつもりのなかった話をしてくれている。目を逸らしてはいけないと、サラは感じた。

「私が彼女に望むように、彼女も私が魔に堕ちることを望んでいました。他を堕落させ、欺き、虐げることに価値を見出だす彼女を、若い私は『変えられる』と思っていたのです。ですが……私が望む清廉さや、他を慈しむ心というのは、人の価値観でしかないと、思い知りました」

 無表情で語るシグレだったが、その心は酷く傷付いている。サラはシグレの手を握った。

「サラ様。私は彼女を葬ったことを後悔していません。彼女は最期の最期に、私とは相容れない生き物だと気付き『角を折って』くれましたから」

 シグレは、サラの手のひらの上の魔石にそっと唇を当てた。

「サラ様。魔物が『角を折る』とは、人が『魔に堕ちる』のと同じことなのです。そのまま命を失う者も多い。強い意志を持つ者であればあるほど、容易なことではないのですよ」

「グレ兄様……」

「簡単にテイムが出来てしまう貴女には不思議でしょう。ですが本来テイムとは、相手の種としての価値観をねじ曲げ、強制的に従わせる、酷く暴力的な術です。それは、奴隷を縛る従属の魔法と同じなのです」

「私はそんなつもりは……!」

「貴女のテイムは特別です。自然に相手に貴女の価値観を『共有』させてしまう。貴女が飼っている魔物達は、全く本来の彼らではないのです。サラ様。貴女が望む道は、かつて私が望み断念した道です。私達『鬼』は、貴女がどの様な道を選ぼうと付いて参ります。ですが、それが本当に皆の望む道なのか、しっかり考えていただきたい」

 シグレは強く、優しく、そして厳しい。その厳しさはリュークとは似て非なるものだ。

「グレ兄様」

「……少し、話過ぎました」

 シグレはサラにも分かるように、不器用な笑顔を作った。

「戻りましょう」

「うん」


 『鬼姫と侍』の生き様が只の夢物語かどうか、今のサラには分からない。

 シグレの言うことは、今のサラには難し過ぎた。


 これから始まる冒険者としての旅で答えが見つかるだろうか。


 サラはシグレの大きな背中にしがみついた。

 今はまだ、何も分からない。でも、せめてこの人の苦しみが少しでも癒えますように、と祈りながら。

ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!

総合評価が1000を越えました!

とても励みになります!感謝いたします。


今回は、『鬼』って、鬼なの?人なの?という疑問があるのか無いのか分かりませんが、グレ兄も出てきたことですし、背景を書いてみようと思い、急遽割り込ませた話になります。

いつもと雰囲気が違うので、「え?」となっていたら、すみません!


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