29. 冒険者ギルドに行こう
翌日。
サラ達一行は、冒険者登録をすべく、冒険者ギルドを訪れていた。ギルドのある建物は、王都のほぼ中心、王城の西側にあるレンガ造りのレトロな建築物だ。レダコート王国では最大規模のギルドである。
両開きの大きなドアを勢いよく開け、サラは元気いっぱいに声を張り上げた。
「たーのーもー!」
「え!?」
と目を見開いたのはパーティ内ではロイだけであったが、何事かとギルド内に居た50人程の冒険者と20人程の従業員が一斉にサラ達に注目した。
元気のいい薄桃色の髪の美少女と、クールな印象の黒髪の美女。この二人だけでも注目を浴びて当然なのだが、威厳のある老エルフに、細身の仮面の男、さらには、2メートルはありそうな巨体のくせに涼し気な目元の色男からなる五人組は、個性豊かな冒険者達の中にあっても目立っていた。
ギルド内は、冒険者達がたむろするエリアと、カウンターの向こうに事務処理を行う従業員用のエリアに分かれており、マシロの世界でいうところの銀行や郵便局を彷彿とさせる作りになっていた。
「冒険者登録しに来ました! よろしくお願いします!」
ニコニコと、サラは上機嫌である。
ようやくメンバーが揃ったのだ。しかも、大好きなロイと、仲良し(?)のアマネと、頼れるグランと、シズによく似たシグレ兄様という、サラにとっては最高のメンバーである。
「サラ様!?」
カウンターの向こうから、慌てた様子で一人の女性が駆け寄った。柔らかなブロンドを顔の横で束ね、眼鏡をかけた知的な美人だ。
「エミリアさん!」
サラも笑顔でエミリアに駆け寄った。エミリアは20代後半だが、リーンスレイ魔術学校でのサラの同級生である。元々Bランク冒険者だったエミリアは、Aランク戦を前に魔術を学び直そうと学園に入学した。しかし、サラに出会ったことで、自分がAランク冒険者になるよりも、ギルド職員としてサラをサポートしたいと考えを改め、卒業後すぐにギルドに就職したのだった。
「サラ様、無事に仲間が見つかったのですね! 中々ギルドに現れないので、心配していたんです」
「えへへ。ありがとう。早速、登録したいんだけど、いい?」
「もちろんです。皆様も、こちらへどうぞ」
エミリアに案内されて、サラ達一行は一番奥のカウンターへ向かった。冒険者だけでなく、ギルドの職員達も興味深げに様子を伺っている。そこに、割って入る者が居た。
「ちょっと待てよ! 俺達が先だろうが!」
見ると、如何にも駆け出し冒険者といった風情の少年4人組が、苛立ちをあらわに立ち塞がっていた。
「どいて下さい。サラ様はお忙しいのです」
エミリアはサラをかばう様に立ち、少年達を睨みつけた。
「サラ『様』、って、貴族かよ! けっ。冒険者には身分がねえんだろ!? 俺達はもう2時間も待ってるんだ。貴族だからって優遇とかありえねえ。なあ、皆もそう思うだろ!?」
少年の一人が声を張り上げた。
仲間の少年達は一斉に同調したが、他の冒険者達の反応は様々だった。サラの名を知っている者の多くは、「あのサラ・フィナ・シェード伯爵令嬢に喧嘩を売るなど、自殺行為だ」と、少年達に同情しながら、ニヤニヤと見物している。
サラの名を知らない者の中には、少年達に同調する者が多かったが、サラのパーティの異様な戦闘力に気が付いた実力者達は、すっと席を立って壁際へ移動していた。
「あ……。ごめんなさい! 順番待ちとか知らなくて。エミリア、私ちゃんと並ぶから」
サラは申し訳なさそうに、少年達に頭を下げた。そのサラの行動に、エミリアは青ざめた。エミリアにとって、サラは誰よりも尊重すべき『聖女』なのだ。
「なりません! サラ様が頭を下げるなど……!」
「おいおい、何の騒ぎだよ」
エミリアの声を遮って、低い男の声がギルドに響いた。この国有数の実力者の登場に、冒険者達がざわっと色めき立った。
「あ!」
サラは目を見開いた。
「タイコ・バーラ・ゴリラ男爵!」
「ダイ・ゴバール・ラコラだ! 馬鹿野郎!」
「「「ぶほっ!!」」」
ギルド内の9割がむせ、1割は耐えた。
ギルドの奥から現れたのは、レダコート王国の冒険者ギルドマスターであった。ゲームの登場人物であり、冒険者として散々世話になった人物だ。その独特の見た目から、プレイヤー達から「タイコ・バーラ・ゴリラ男爵」と呼ばれるようになった男である。要するに、太ったゴリマッチョである。一応、SSランク冒険者だ。王都を始めとして、近隣諸国の多くの冒険者の憧れでもある。
「なんだ、この失礼なガキは!」
「サラです!」
「いや、名前を聞いたんじゃねえよ!」
「ノルン出身の15歳です! 魔術師兼テイマーです! よろしくお願いします!」
「自己紹介してんじゃねえ! おい、エミリア! 新人冒険者をつけ上がらせるな!」
「いえ、その、サラ様はっ」
「久しぶりじゃな。ダイよ」
こめかみに血管を浮き上がらせるゴリラ男爵と、それに慌てるエミリアを見かねて、老エルフが前に出た。その隙に、ロイがサラの肩を掴んで下がらせる。
「ぁあ? ……って、おい! グラン・オリビエか!?」
「グラン・オリビエ!?」
ゴリラ男爵の叫んだ名前に、ギルド内に居た一定以上の年齢層がざわめきだす。
「グラン……様……」
エミリアなどは放心状態だ。
魔術師にとって、グラン・オリビエは伝説級の魔術師なのである。
ふらっと倒れそうになったところをシグレに支えられ、顔を見てクラッとしている。「エミリア、ずるい!」とカウンターの奥から受付嬢達の悲鳴が上がった。
「おい! マスター! そいつら順番無視して割り込んできやがったんだ。何とかしてくれよ!」
空気の読めない少年の一人が、ゴリラ男爵に詰め寄った。
「うるせぇ! グランを知らねえヒヨッコが粋がってんじゃねえぞ! お前ら出直してこいや!」
「「「「ええ!?」」」」
中立のはずのギルドマスターに怒鳴られ、少年達は青ざめた。それを見たグランは優しく微笑むと、少年達の前に立った。
「冒険者に身分は関係ないが、年長者には敬意を払った方がいいのぉ」
グランは普段はもう少し若々しい話し方だが、わざと老人ぶった話し方をすることがある。
「な、なんだよ、じいさん」
「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ。じいさん、か。久しぶりに聞いたわい。お前さん以来かの。のう、ダイよ」
「ぐっ! あの頃は俺も若かった。許してくれ! お前らも謝れ!」
「何でだよ!」
「馬鹿野郎! あの人は『魔狩りの賢者』……」
一旦、ダイは言葉を切り、大きく息を吸い込んだ。
「『大賢者グラン・オリビエ』だぞ!」
「「「「……大賢者ぁあああ!?」」」」
少年達だけでなく、ギルド中がどよめいた。
「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ」
楽しそうな老エルフの笑い声が響き渡る。
少年達は大人しくなった。
ブックマーク、感想、評価、誤字報告等、いつもありがとうございます!
少し長くなりそうだったので、話を分けることにしました。
前回は知的マッチョでしたが、今回はゴリマッチョが登場しました。
はっ! ユーティスがスレンダーマッチョだったので、ここ数話はマッチョ祭りですね!
わっしょい、わっしょい!(←何故かテンション高め)




