14. プレ冒険者
サラがリーンスレイ魔術学園へ入学してから2年が過ぎた。
サラが『聖女』であることは、古代龍ジークをテイムしたあの日の内に箝口令が敷かれ、学園の外部へは洩れてはいない。しかし、サラの魔術師としての才能や人物像は授業や他学園との交流試合などを通し、王都中の知るところとなっていた。
リーンスレイ魔術学園では、冒険者に登録される前のお試し期間として、プロの冒険者と共に簡単なクエストをこなす授業が用意されている。冒険者にしてみれば、青田買いが出来る絶好のチャンスである。レダコート学園やアテイニア学園でも同じような授業はあるのだが、貴重な質の良い魔術師をスカウト出来るとあって、リーンスレイ魔術学園の募集はいつも競争率が10倍を超える。
特に今年は、美少女で家事も出来、あらゆる低級魔法を上級魔法以上の威力で使え、空間魔法(収納魔法)が使える『噂のサラ様』がいるとあって、10枠の募集に対し、国内外から300もの冒険者パーティの応募があった。サラ、モテモテである。
「パーティ名『猛き筋肉』。男5名」
「却下!」
「パーティ名『ウサギと亀』。男4名、女1名。Cランク」
「却下」
「パーティ名『薔薇の加護』。女4名。Bランク」
「保留!」
「パーティ名『エロスの導き』」
「却下!」
リーンスレイ魔術学園の理事長室では、大量の履歴書を前に、教師総出で応募パーティの選別が行われていた。
履歴書には、パーティ名、男女の構成、ランク、受け入れ可能な生徒の特長(使える魔術の種類、威力、性別、年齢など)、その他アピールポイントを書く備考欄があり、ほとんどのパーティがサラを指名していた。
本来であれば冒険者と生徒が教師立ち合いの元、直接会ってパーティを組むかどうかを決定するのだが、応募が多すぎることと、『聖女』様に不適切なパーティを紹介する訳にはいかないという学園の意向があり、事前に選別を行うことになったのだ。
最終的に、サラに声を掛ける権利を得たパーティは5組にまで減らされた。
将来を期待される学生であれば、10や20から声を掛けられるのも当たり前であったため、「何て言って断ったらいいかしら!? やっぱり『私では皆さんのご迷惑に……』かしら? 『他に、心に決めたヒトがいるの』かしら? いっそ『およびじゃないのよ、お前達!』かしら!?」と脳内シミュレーションに花を咲かせていたサラは「5組!? 私、人気ない……!」と激しく落ち込んだ。
厳しい選考を勝ち抜いた5組のプロフィールは、以下のとおりである。
1.パーティ名『賢者の知恵』。男3名。女2名。Aランク。
2.パーティ名『祝福の大地』。男2名。女2名。Aランク。
3.パーティ名『薔薇の加護』。女4名。Bランク。
4.パーティ名『歌う大鷲』。男2名。女3名。Aランク。
5.パーティ名『紅の鹿』。男3名。女2名。Aランク。
早い話が『最低でも女性が2名いるBランク以上のパーティ』である。女性冒険者は少ないため、必然的に5組しか残らなかったのだ。……大した選考基準ではなかった。
自分に300もの募集があったとは知らないサラは、貴重な獲物を逃がすまいと、5組全てに同行することを決めた。
せっかくの授業であったが、クエストが簡単だったこともあり、サラは難なく4組とのプレ冒険者研修を終えてしまった。簡単とは言ったものの、クエストの難易度はBからAであり、通常の見習い冒険者ならば命懸けである。しかしサラの場合、大概のことは「やっておしまい!」の一言で従魔(古代龍は未使用)が解決してくれため、サラ自身は何もせず、冒険者達もポカンとしただけという、物足りない冒険となってしまった。
サラはフラストレーションが溜まっていた。
「こんなのは、授業ではないと思うの!」
バンッと、サラは最後のパーティを前に机を叩いた。
「私、もっと、ちゃんと冒険者として活躍できるようになりたいの! ちゃんと学びたい!」
「いやさ、サラが魔術使わずにテイムした従魔ばっかし使うからじゃね?」
「やっぱり!?」
「分かってんじゃねーかよ!」
不平不満を訴えるサラに、『紅の鹿』リーダーのボブが突っ込みを入れた。ボブは、サラが王都に初めて来た頃からの知り合いであり、かれこれ6~7年の付き合いになる。当時はBランクだったが、5年前にAランクに昇格しており、ドラゴンスレイヤーの称号と妻子まで手に入れていた。『紅の鹿』はノルンを拠点に活動していることもあり、サラは全員と顔見知りであった。他のパーティと一緒の時は、礼儀正しい可憐な魔女っ娘を演じていたが、気心の知れたボブ達の前だと、素が出てしまっている。
「あら、でもサラちゃんのテイムは凄いって評判よ? 『歌う大鷲』のソルが『ケンタウロスに組体操させるテイマーなんぞ、初めて見たわ!』って言ってたわ。私も200年くらい生きてるけど、初耳よ!」
エルフの魔術師であるライラがけらけらと笑った。
「ケンタウロスの無駄使い止めろや! ……そういや俺も『薔薇の加護』のカラから『ミノタウロスの乳って、意外とイケた』って聞いたぜ?」
タンク役のモーガンが顔をしかめた。
「ミノタウロスって乳牛だった!? メスいるの!?」
巨人族のハーフであるピコが、目を見開いてぎょっとしている。ピコは2メートル50センチを超す巨体になっていたが、本人は3メートルにならなかったことが不満らしい。
「だいたい、なんでモーガン『薔薇の加護』と知り合い? あそこ、女しかいない」
ピコはふくれっ面だ。
「うっせーな。俺はモテるんだよ」
「嘘じゃな。サラが心配で『薔薇の加護』に話を聞きに行ったんじゃろ」
「ばらすなよ! ホッケフ!」
ドワーフのホッケフは今年で120歳になるベテラン冒険者だ。自慢の髭をサラに三つ編みにされてホクホクしている。どうやら田舎の孫を思い出すらしい。
隣では「ミノタウロスのメス? ……巨乳……!」と何かに目覚めたボブと「巨乳、滅びろ」と呟くライラがいた。
相変わらずAランクパーティらしくない、和気あいあいとした『紅の鹿』の様子に、あははは、とサラは声を上げて笑った。
(やっぱり、このパーティ大好き!)
実はサラは、卒業したら『紅の鹿』に入れてもらおうと目論んでいた。今回の授業は、ボブ達に仲間として売り込む絶好のチャンスであった。
「はい! 皆さんにお願いがあります!」
サラはビシッと右手を挙げた。何事かと皆が一斉に目を向ける。
「私、皆さんと一緒にダンジョンに行ってみたいです!」
「「「「「おおー!」」」」」
サラの発案に、『紅の鹿』のメンバーのテンションが上がった。しばらく民間からのクエスト続きで、冒険らしい冒険ができていなかったのだ。ダンジョンでは様々な魔物が出現するが、貴重なアイテムが手に入るため、冒険者達の小遣い稼ぎと修行の場としてもってこいの場所である。Aランク冒険者となり金の不自由は無くなったとは言え、ダンジョンという場所は、いつまで経っても冒険者達の『冒険心』をくすぐるのだ。
「行こうぜ!」
ボブが即答する。ライラが慌ててボブの腕を掴んだ。
「ちょっと待って! サラちゃん、初ダンジョンでしょ? 危ないわよ!?」
「だな。ダンジョンの中は狭い場所が多いからな。ミノタウロス呼んだらギュウギュウになるぜ?」
「「「「「牛だけに?」」」」」
「……正解!」
「モーガン、つまんない」
「うるせー!」
「『月花のダンジョン』ならどうじゃ? 10階層しかないし、最下層のボスでさえAランクじゃ。ワシらが居れば、問題ないじゃろ。なんせ、近い」
「「「「「いいね!」」」」」
満場一致でダンジョン行きが決定した。
「よろしくね! モブおじさん、モーガンさん、ライラさん、ピコさん、ホッケフ爺さん!」
「「「「「おお!!」」」」」
ボブだがな! と付け加えるのを、ボブは忘れなかった。
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久しぶりの『紅の鹿』登場です。
「飛べない鹿は、ただの鹿だ」と、言いたくなるようなパーティ名です(笑)
これからダンジョンに潜りたいと思います。どうなることやら。




