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1.魔王誕生

第2章始まりました。完走に向けて頑張ります!

 レダコート国よりはるか西に、アルバトロスと呼ばれる王国があった。かつて、魔王により滅ぼされたカチャフという小国の後に興った国だ。初めはどこにでもある小さな新興国の一つでしかなかった。しかし、体格の良さを生かした屈強な騎士団と、大陸全土に名を轟かす魔術師団の活躍により、アルバトロスは周辺国をまとめ上げ、大国へと成り上がった。アルバトロスは、更なる領地を求め侵攻に次ぐ侵攻を続けていた。


 幾度もの戦場で、多くの命が失われた。死ぬのはいつも、新しくアルバトロスに組み込まれた領地の兵士達だ。正確には、それぞれの国の、ただの平民だった者達だ。逆らう者は殺され、従う者は奴隷か兵士にされた。アルバトロスで市民権を得るには、新しい領土から別の生贄を連れてくるしかなかった。そうやって、戦が広がっていった。人々は疲弊し、理不尽な運命を恨み、自分たちの日常を奪ったアルバトロス王国を呪った。


 そんな憎しみが渦巻く戦場の一つで、一人の魔族が生まれた。

 彼は生まれながらの強者だった。そんな彼が『魔』を取り込み、人としての一線を越え、魔族となった。彼は、戦場を一瞬で蒸発させると、より大きな魔力を求めて王都へ向かった。


 更に、魔族に呼応するように魔物によるスタンピードが起こった。

 度重なる戦により、膨れ上がった生き物達の『負の感情』が魔物達を狂わせたのだ。

 スタンピードは一夜にして王都を飲み、抗う間もなく王都は消滅しようとしていた。


 ほとんど人の気配の無くなった王都の端を、二人のエルフが逃げている。一人は端正な顔立ちの若い男、もう一人は大きな腹を大事そうに抱える美女だった。細かい刺繍の施された白いローブは、二人が王都魔術師団の実力者であることを示している。

 二人はつい半刻前まで、スタンピードから生き残った僅かな者達とともに、地下室で息をひそめていた。だが、臨月だった妻が産気づいてしまったのだ。


 もし、今、赤子が生まれたら。赤子の産声を魔物に聞かれたら。


 誰も、何も言わなかった。絶望だけが、地下室に広がっていた。

 二人は、地下室を後にした。二人は生き残った者達の要であったが、誰も止めなかった。


 もう少しで古い教会に辿り着くというところで、苦痛に美しい顔を歪ませながら女が膝をついた。破水している。女は必死に悲鳴をこらえていた。男は妻を抱きかかえた。

 二人とも、とっくに魔力は使い果たしていた。魔石も飲み尽くした。

 どう見積もっても、二人が生き残れる可能性は残っていなかった。

 それでも二人は、一億分の一の奇跡を信じて逃げていた。

(この子達に、一瞬でもいいから会いたい)

(一瞬でも、光を見せてあげたい)

(たとえ一瞬の命だったとしても、父と母が居たことを覚えていて欲しい)

(愛してる)

(愛してる)


 教会の枯れた井戸の中で、女は一人目の赤子を産み落とした。赤子は双子だった。産声と血の匂いに引き寄せられた魔物から、男は井戸を背にして、魂を削るように魔力を振り絞り戦った。二人目の赤子の鳴き声が聞こえた時、男は力尽きた。

 女は、一人目の赤子を胸に抱いたまま、既に力尽きていた。


 静まり返った王都に、産声だけが響く。


 その声に、魔物達が集まってきた。男の遺体を腹に収めた魔物達も井戸に近づいた。

 血の匂いのする若い女と、生まれたての赤ん坊。

 魔物達は極上の餌を前に興奮していた。

 一匹の猿型の魔物が、井戸を覗き込む。

 その時。

「去れ。下賤な魔物ども」

 良く通る低い美声と共に、一瞬にして井戸の周りに居た魔物達が蒸発した。

 遠巻きに見ていた魔物達は、突然の強者の出現に凍り付いた。

 そこに居たのは、魔族だった。

 『魔族』とは、大量の『魔』を取り込みながら自我を失わず、しかし、僅かに容量が足りずに『魔王』になりきれなかった半端者だ。

 だが、強い。

 目の前の魔族に太刀打ちできる魔物など、ここにはいなかった。

 魔族はゆっくりと井戸に近づくと、ふわり、と底に舞い降りた。

 女の柔い胸で泣く赤子と、硬い石の上で泣く赤子。

「ほう……」

 魔族は瞠目した。

 石の上の赤子は、魔族を遥かに凌ぐ魔力容量を持っていた。既に、周辺の『魔』を取り込み始めている。魔族の魔力ですら、気を抜くと吸い取られそうなほど、凄まじい吸引力だった。


 『負の感情』が渦巻くこの国で、魔物に囲まれて生まれた、高位魔族である自分よりも魔力を秘めた赤子。


 魔族は赤子から臍の緒を切ると、高々と抱き上げた。


「魔王、誕生だ」


 レダコート国にサラが生まれる、1年前の話である。


 


ブックマーク、感想、評価、誤字報告等ありがとうございます!


第2章がやっと始まりました。番外編長くてすみませんでした。

プロットでは30話くらいで終わる予定なんですが、きっと倍近くなるんだろうなあ、と思ってます(遠い目)。

最後までお付き合いいただけると幸いです。


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