表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
363/365

(番外編) 夢のしずく ー幸せの代償 3ー

「あーあ。バレちゃったか。ごめんね、サラちゃん」


 いたずらがバレた子供の様な顔をして、リーンがぺろりと舌を出した。


 ここは、人里離れた白亜の城だ。

 サラ達が来ることが分かっていたのか、リーンは一人きりで待ち構えていた。


 ロイが死にかけているというのに、悪びれもせずふざけているリーンの様子に、サラは心の中で何かが崩れていくのを感じた。


 やはり、リーンは全てを知った上で子作りを勧めたのだ。


「どうして……」

「どうして? 決まってるじゃない。サラちゃんを手に入れるためだよ」


 何を分かり切ったことを聞いているの、と、リーンはキョトンと首を傾げた。


「あんなに僕がアピールしたのに、君はロイを選んだ。でも『ギャプ・ロスの精』の寿命は20年だから、君を手に入れるのはその後でいいと思って許したんだ。なのに、新婚旅行で『不老長寿薬』を採りに行くって言うじゃない? じゃあ何とか方法を考えなきゃ、って。ふふふ。君たちの望みも叶えられたし、僕の望みも叶うし、一石二鳥だったでしょ? 我ながら名案だね!」


 にこやかに、リーンが笑う。罪悪感などまるでない、澄み切った笑顔だった。


「狂ってる……」


 ぼそっ、とサラは呟いた。


 リーンに会うまでは、「もしかしたら深い理由があったのかもしれない。ロイを救う手段を知っているのかもしれない」と、淡い期待を抱いていた。


 サラの知っているリーンは、おどけていても思慮深い男だった。どんな困難に直面しても、リーンがいれば大丈夫だと信じさせてくれる、守護者の様な存在だった。


 こんなにも、別人だとは思わなかった。


 このリーンは、自身の欲のために嘘をついたのだ。


 ロイを早逝させるために。

 サラを手に入れるために。


 かつて感じたことが無いほどの絶望感と怒りが、サラの中に沸き起こった。


「リーン。あなたのこと、一生許さない……!」

「なんでさ? ロイの寿命が短いのは僕のせいじゃないし、僕は君らの願いを叶える手伝いをしただけだよ? 感謝して欲しいくらいさ」

「人の命をっ! ロイの命を何だと思っているのよ!!」

「僕からすれば10年も100年も大して変わらないのに、いちいち悲しめと言うのかい? ああ。君は元聖女だから羽虫が死んでも悲しむのかな?」 

「ぅああああああああああ!!」

「サラ! 落ち着きなさい!」


 我を忘れるほどの感情が込み上げた。

 ジョイスが制する間もなく、サラはリーンに向けて大魔法を放った。魔族にさえ使わなかった初めて見せる魔法だった。

 さすがのリーンも命の危険を感じたのか、真顔で結界を張った。


「っ! サラちゃん、僕を殺す気かい?」

「返して!! ロイを返して!!」


 バリバリと音を立て、リーンの結界の周囲が大きく抉れていく。意図して発動させた技ではなかったが、空間魔法を得意とする『鬼』の血が怒りで目覚めたのだろう。リーンの結界を丸ごと包み込むほどの空間が、何処かへと削られていく。

 同時に、サラの魔力も凄まじいスピードで消費されていった。


「サラ! 止めなさい! このままでは貴女の命が危ない!!」

「うわああああああ!! ロイ! ロイィィィ!!」


 ジョイスがサラを抱きしめながら呼びかけたが、心にヒビが入ったサラには届かない。泣き叫びながら、サラは一心不乱にリーンの存在を消そうとした。ロイの仇を討つのだと言わんばかりに。


「うっ!?」


 ジョイスの翼が一枚、サラの魔法に巻き込まれて散り散りになった。サラの作り出した亜空間が、どんどん広がっているのだ。

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 予想外の痛みに思わずジョイスの手がサラから離れた。


 その時。


「シャラ。大丈夫。俺は、大丈夫だよ」


 フワッと、慣れ親しんだ温もりに包まれた。

 広くて、逞しい胸。

 夜空を溶かし込んだような、漆黒の髪。

 誰よりも美しい、最愛の人。


「ロ……イ……?」

「うん。心配かけてごめんね? ルカが起こしてくれたんだ。間に合って良かった」

「う……ロイ……ロイィィ。うわああああん!!」


 嵐は止まない。

 ロイに抱きしめられていても、サラの攻撃が止む気配はなかった。それほどまでに、サラの落胆は酷かった。リーンを信じていたが故に、一層、失望が大きかったのだ。


「ごめん! ごめんね、ロイ!! 赤ちゃん欲しいって、願わなければ良かった!!」

「そんなこと言わないで。俺も、本当に欲しかったんだから」

「でもっ!! 私はロイが大事なの! また失うなんて嫌! リーンの話なんか聞くんじゃなかった! リーンを信じなきゃよかった!!」

「違う!! 違うんだ、シャラ!!」


 力が思うように入らない体で、精一杯、ロイはサラを抱きしめた。

 ロイが大事だと言ってくれる愛する人を残して逝くことへの、恐怖と罪悪感が胸を締め付ける。


 太陽の様に眩しくて、星空の様に美しいシャラが震えながら泣いている。

 自分の命を削る様な無茶な魔術を使いながら、全身で現実と戦っている。


(ああ。シャラ。本当に、本当に大好き)


 向こうの自分も、こんな気持ちで死んでいったのだろうか。

 自分が死んでも子供達がいれば大丈夫だと、安易に考えていたことを心の底から後悔する。


「シャラ。俺、知ってたよ」

「!?」

「寿命が減ること。知ってて、やったんだ。だから、リーンさんを責めないで」

「「「!?」」」


 はっ、と、サラだけでなくジョイスやリーンも目を見張った。


 混乱したのか、サラの魔術が大きく揺らいでいる。

 今にも壊れてしまいそうなサラを抱き寄せ、ロイは子供をあやす様に頭を撫でた。

 息をすることすら、ままならない状態だというのに。


(あれ……?)


 そんな二人の様子を見て、リーンはふと、ある事に気が付いた。


(ひょっとして、向こうの僕、ロイのことを凄く可愛がってた……?)


 何かがストンと腑に落ちた。

 この世界では、リーンとロイはただのライバルだった。直接話をしたのも、ほんの数回だ。そのため、リーンはロイのことを詳しく知らなかった。


『愛情いっぱいに甘やかされて育ち、美しい見た目以外は何の取柄もないくせに、あっさりサラを手に入れた幸運な青年』


 それくらいの認識だった。

 だからこそ、ロイが死ぬことに何の感慨もなかった。むしろ、「まだ生きてるのかぁ。意外としぶといね」と思っていたくらいだ。


 だが、今、目の前で苦しんでいる青年は、リーンを恨むどころか「責めないで」と言っている。自分の寿命を奪い、最愛の人を哀しませた相手を思いやっているのだ。


(……そっか。おかしいと思っていたんだ。どうして向こうの僕は、ロイにサラちゃんを譲ったんだろうって)


 ああ、と、リーンの冷え切っていた心に火が灯った。


(ロイの幸せも願っていたからなんだね)


 そう思った途端、急にロイに情が湧いた。

 リーンは元々、関心のない相手には無慈悲だが、一度懐に入れた相手にはどこまでも寛容だ。


「ジョイス。こっちに来られるかい?」


 リーンは自分でも不思議なほど落ち着いた気持ちで、ジョイスに呼びかけた。

 サラ達から少し離れた位置で個別に結界を張り翼の修復をしていたジョイスは、何かを『視』て一瞬ためらった後、リーンの近くに飛んだ。


「いいのか、リーン」

「自分のやったことには、自分で責任取らないとね」

「……分かった」


 泣きそうな表情を浮かべて、ジョイスが頷いた。


「サラちゃん、ロイ君!!」


 ジョイスを自分の結界内に招き入れてから、リーンは明るい声で二人に呼びかけた。


 ビクッとサラが肩を震わせ、そんなサラを守るようにロイが身構えた。

 少しだけ傷付きながら、自業自得だと笑って、リーンはジョイスと真正面から向き合った。


「痛くしないでねん」

「冗談言ってる場合?」


 怪訝そうに見守るサラとロイの前で、ジョイスが大きく翼を広げた。

 その内2枚の翼が捻じれるように形を変え、ドリルの様に変化した。


 そして……一気にリーンの胸を貫いた。


「リーン!?」

「リーンさん!?」


 サラとロイが同時に悲鳴を上げる。

 ゴボッ、と、リーンの口から大量の血が噴き出した。


「や、止めてジョイス!! 何してるの!?」


 思わず、サラが叫んだ。

 あまりの衝撃に、サラの嵐がパッと消える。

 つい一瞬前までリーンのことを憎んでいたというのに、傷付くリーンを見て『異界の扉』のことを思い出した。

 リーンの死もまた、サラにとっては強烈なトラウマだった。


「ジョイス! 止めて!?」

「サラちゃん、ロイ君」


 悲鳴交じりに近付くサラとロイに、リーンは飛び切りの笑顔を向けた。

 いつものおどけた笑顔ではなく、慈愛に満ちた笑みだった。


「遅くなったけど、本当の結婚祝いを贈るね」


 息を飲む二人の前で、ジョイスはリーンの体から虹色に輝く小さな球体を取り出した。

 それは、かつて邪神エダムがサラにくれた魔石に似ていた。


「リーン!?」

「リーンさん!!」


 血相を変えて、サラとロイがリーンに飛び付いた。

 意識を失った血まみれのリーンをジョイスから受け取ると、サラは必死で治癒魔法をかけた。死んでほしいのか、生きていてほしいのか、自分でも良く分からなくなっていた。


「ロイ。この『核』を、君の中に埋めるよ」

「!?」


 ロイが何か言う間もなく、ジョイスは虹色の球をロイの胸にねじ込んだ。


「きゃあああああああ!!」

「大丈夫だよ、サラちゃん」

「!? リーン!」


 リーンが荒々しく呼吸をしながら、そっとサラの頬に手を触れた。治癒魔法が間に合ったのだ。


「あれは女神セレナが僕の体に埋め込んだ『核』なんだ」


 本来、エルフに『核』は無い。

 かつて、『異界の扉』を閉じる使命を負ったリーンに、女神セレナは『永遠の命』を吹き込んだ魔術の『核』をリーンに与えた。

 『異界の扉』が完全に閉じたことでリーンは使命を果たし、『核』は不要となった。

 それをリーンはロイに譲ったのだ。


 自分で自分を傷付けることができないため、ジョイスに辛い役目を負わせたことに罪悪感は残るが、不思議と気持ちはスッキリとしていた。


「ふふ。これで、ロイはもうしばらく生きていけるはずだよ。僕の体から取り出した時点で、ほとんど力はなくなったと思うけど」 

「どうして、そこまで……?」

「僕なりの罪滅ぼしだよ。それにね、二人の幸せを、僕も応援したくなったのさ」

「リーン……! ごめんなさい! 私、あなたを殺そうと……!」


 うわあああん、と声をあげてしがみ付いてくるサラの背中を擦りながら、リーンは崩れた天井から覗く晴天を仰いだ。


 『核』を譲ったことで、リーンの命は有限となった。

 とはいえ、元々若い古代エルフだったのだ。あと数百年は生きられるだろう。


 急に『死』が身近になったせいか、『生』というものが一層輝いて見える。


(幸せにおなり。可愛い子供達)


 ロイにもしがみ付かれ、号泣するジョイスからはペチペチと頬を叩かれながら、リーンは『永遠の命』とサラへの想いに別れを告げた。


ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!


よかった。リーンは、やっぱりいい子でした!

親友の寿命を奪うことになったジョイス君には可哀そうなことをしましたが……


と、いうことで、後はもうエンディングです!

最後まで応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ