(番外編) 夢のしずく ー朗報ー
「シャラ。ずっと一緒にいようね」
「うん。ロイ。愛してる」
ステンドグラス越しの光が満ちる大聖堂で、サラとロイは結婚式をあげた。
魔王戦から、2年後のことである。
結婚式には、シェード家とビトレール家の面々に加え、パルマやパメラ、グラン、ルカ、オースティン、そして結婚したばかりのユーティスとティアラらが参列した。
あやうく国王まで参加しそうになったのだが、パルマが止めた。その代わり、ノーリス王からの結婚祝いとして、シェード家は伯爵家から侯爵家へと陞爵した。もちろん、表向きは『聖女サラ』の功績を称えて、となっている。
子爵家の令息と結婚するにあたり、ゴルドが「聖女サラの双子の姉シャラ」としてシェード家に迎えてくれた。そのため、サラは『サフラン大陸の冒険者』ではなく、堂々と『レダコート王国の侯爵令嬢』として嫁ぐことができた。
正式に娘となった『シャラ』を送り出すため、結婚式はシェード家が全面的に費用を捻出してくれた。
当初、サラは向こうの世界での貯蓄と、この世界で溜め込んだ資産もあったので断ったのだが、実の娘サラの結婚式をあげてやれなかったゴルドの想いを汲み取り、思い切って甘えてみることにした。
ロイが「せめてドレスはビトレール家が準備します!」と宣言したのだが、「馬鹿なことを言うな! それが一番の醍醐味だろうが! ドレスは俺が選ぶ!!」とゴルドと喧嘩になり、最終的にロイ、ゴルド、アイザック、グラン、パメラ、オースティンがそれぞれ選んだドレスを着ることになった。魔法で着替えられるので苦ではない。
(私、愛されてるなあ……ありがとう。みんな)
キラキラと、世界の全てが輝いている。
参列者一人一人に感謝しながら、サラはロイと口づけを交わす。
向こうのロイよりもずっと大人びた、逞しいロイの腕に抱かれながら、サラは再びロイの伴侶となった。
結婚式から一カ月後。
新婚旅行先に選んだ『トルク王国』への出発準備を進めるサラの元に、客がやってきた。
わがままセクシーエロフ、リーンである。
リーンは式の少し前まで「ロイじゃなくて、僕ちゃんと結婚しよう」と猛烈アピールを繰り返していたが、ようやく諦めてくれたらしい。
さらに最近では、積極的に応援してくれるようになった。
向こうのリーンと違って目の奥が笑っていない気がするが、応援されるのは素直に嬉しい。
「サラちゃーん。僕ちゃん、お祝い代わりに良い事教えてあげるね!」
「え、なになに?」
テーブルから身を乗り出すようにして、サラはリーンの顔を覗き込んだ。
リーンは、サラと二人きりの時は『シャラ』ではなく『サラ』と呼んでくれる。
ゴルドが正式に『シャラ・フィナ・シェード』と公表したこともあり、サラを今でも『サラ』と呼ぶのはリーンとルカくらいだ。
素のままの自分を認めてもらっている気がして、何となく嬉しい。
ニコニコと微笑みながら、リーンはテーブルの上に一冊の本を置いた。
古びて色褪せた、古代エルフ語で書かれた薄い本だ。当然ながら、サラには読めない。
「アルちゃんの旦那のラシャド君の故郷から発掘してきた『ギャプ・ロスの精』に関する書物だよ。サラちゃん、ママになれるかもだよ」
「ええ!?」
リーンによると、『ギャプ・ロスの精』の伴侶が子供を産んだ例があるらしい。
『ギャプ・ロスの精』を分けて、伴侶の卵子に潜り込ませるのだそうだ。
ただし、自分の精霊を分け与える分、力が弱くなってしまう欠点がある。
「え……え? ええええ!? 私、産めるの? ロイの赤ちゃん、産めるの!?」
「そうだよ。すごいでしょ! この本探すのに手間取って、結婚式に出られなかったんだよ」
「……!」
思わぬ朗報に、サラは言葉を失った。
リーンの娘アルシノエは、この世界でも無事にラシャドと結婚している。しかも、ラシャドはまだ生きており、これはデュオンが帰還したことで、ラシャドがカレンの生まれ変わりではなくなったためだ。
デュオンとのハッピーエンドの代わりに、アルシノエはラシャドとの永い永い幸せな時間を手に入れていたのだ。子供も3人産んでおり、エルジア王国は向こうの世界よりも堅固なものになっている。
そして、そのラシャドが生きているおかげで、『ギャプ・ロスの精』に関する古い文献を手に入れることができたのだ。
「リーン……ありがとう……本当に、ありがとう!」
願って、願って、夢にまで見た子供達。
まさか、この世界でその夢が叶うかもしれないとは……!
涙が止まらなくなったサラに、リーンはそっとハンカチを手渡した。
その夜。
サラはロイに、リーンから聞いた話を打ち明けた。
ロイは一瞬目を丸くし、その後すぐに破顔した。
「嬉しい! 俺はシャラに何も残せないと思っていたから、すごく嬉しい!」
「でも、でも、精霊を分けたら力が弱くなっちゃうよ? せっかく強くなったのに、いいの?」
「当たり前だよ! シャラの願いを叶えることが、俺の何よりの望みなんだ。それに、精霊の力が無くても、騎士としてやっていけるくらいの力はあるよ」
「でも、世界一の魔術師になりたいって……」
「ああ! もうっ、そんなの二の次だよ! ぅわあああ、シャラ、嬉しい!」
ガバッと、ロイはサラに抱き着いた。
大きな子犬のようにサラに頬ずりしながら、ロイは喜びを爆発させて無邪気に笑っている。
(ああ……ああ、ロイ)
サラもロイの背中に腕を回した。
するとロイは一層嬉しそうに、サラの体をギュッと抱き寄せた。
「シャラ! シャラ! 子供は何人がいい? あ、精霊って、何人まで分けられるかなぁ。俺はね、男の子も女の子も、いっぱい欲しい。父上みたいに子沢山になるんだ」
「ちょっ、待って! まだ具体的な方法まで聞いてないのにっ」
ロイが心からサラとの子を望んでいるのが伝わってくる。
(ロイ……ロイ。あなたも、こんなに望んでくれていたのね)
向こうのロイが、楽しそうに『夢で見た子供達』の話をしていた姿を思い出し、思わず目頭が熱くなった。
(こんな手段があると知っていたら、もっと違う喜びを……人生を、あなたに与えてあげられたのに)
愛しい、愛しいロイ。
(ロイ。あなたの分まで、このロイを幸せにするわ)
そう胸の中で呟いて、サラも笑った。
二人の楽しそうな笑い声が、屋敷中に広がっていく。
いつの間にか、エドワードとフロイア、そして二人の間に生まれたロイそっくりの妹とエドワードによく似た弟も加わり、この日は夜中までビトレール家に笑い声が絶えなかった。
……まさかこの朗報が、悲劇を生むとは思いもせずに……。
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ラシャド氏は、アルシノエと出会う時期がズレたので魔族と遭遇しなかったようです。
そうしてサラに朗報をもたらした……。
これも運命の赤い糸の奇跡かもですね。
この物語も
リーンが我が儘を言わなければ、あと3話くらいで終わる予定です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです!




