(番外編) 夢のしずく ー共生への道ー
光の矢が、花びらへと変わる。
その場に居る全ての者が、キラキラと降り注ぐ花びらに埋もれながら、呆けたように夢を見ていた。
それは、別の世界で天使族のジョイスがサラに語った、『そうなるはずだった未来』の物語だ。
魔王ヒューが勇者カイトと聖女サラらによって討たれ、その勇者も魔王ソフィアの手にかかり死亡する。そしてソフィアは聖女らによって倒され、聖女も『異界の扉』を閉じるためにこの世を去る。
―――魔族も人類も。ほとんどが滅びる、傷だらけの未来。
それは、双方にとって好ましくない世界だった。
「未来は、変えられるわ」
不意に、柔らかく清らかな少女の声が心に語りかけてきた。
それが『聖女サラ』の声だと気付いた者は僅かだろう。そして気付いた者のほとんどが、小さな驚きと感動を覚えたに違いない。
―――『聖女サラ』が、覚醒した。
サラは『共感と共有』の力で、魔族も人も関係なく、この場にいる全ての者と繋がっていた。
それはリーンでさえも抗えないほどの強大な魔力であり、『想い』であった。
本来、この世界の『聖女サラ』には起こすことのできない奇跡であり、これを成し遂げたのは別の世界のサラ……『シャラ』である。
レダコート王国でリーン達を見送った後、『シャラ』は天使族のジョイスに連絡を取った。ジョイスの目を借りて戦況を視ながら、『シャラ』は自分が経験した『魔王戦』を思い出していた。魔族や魔物の多くは人と相容れないモノであったが、少なくとも、ヒューやガイアードには『愛』があった。
自分達と何が違うのだろう。
皆で手を取り合っていく未来はないのかと、真剣に考えた。
だが、ヒューもガイアードも死んだ。
ソフィアとカイトと一緒になったが、結局、愛する息子を残して帰らぬ人となった。
(この世界では、同じ未来を繰り返したくない)
前の世界が『過ち』だっとは思わない。
だが、抱きしめ合うヒューとサラを目にした瞬間、『シャラ』の中で新たな選択肢が生まれた。
(見つけた! この世界だけの道……!)
無慈悲なリーンの光の矢が降り注いだ瞬間。
「「駄目えええええええええ!!」」
サラは『大切な人々を守りたい』という一心から聖女の力に目覚め、『シャラ』と意識を『共有』した。
そして『シャラ』は光の矢を魔力の花に変え、ジョイスの力も借りて、その場にいる全ての者達に『そうなるはずだった未来』を見せたのだ。
これは、この世界の『サラ』だけでなく、かつてのサラでも成し得なかった奇跡だ。
『サラ』と同じ器を持ち、リーンの魔力を受け継いだ、今の『シャラ』だからこそ起こすことのできた奇跡だった。
「未来は、変えられるわ」
心の底から、そう思う。
未来を変えるのは、人の想いであり、選択の結果だ。沢山の人々の選択が糸の様に絡み合って、いずれ道となる。
だから、『シャラ』は祈る。万感の想いを込めて、それぞれが大団円の道に続く選択ができるようにと。
「想像して。人も、魔族も……同じ世界に住んでいる全ての存在が、共に歩んでいける世界を。考えてみて。どうすれば、そんな世界になれるのか」
『シャラ』は呼びかける。
一人一人の、心の中に。
その声は、それぞれに『愛』の感情を呼び起こした。
家族、恋人、仲間、自分自身。あるいは、神、国、主君、自然……対象は何でもいい。
何かを大事に想い、幸せを願う心があれば、きっと道は繋がるのだ。
「俺は」
ポツリ、とヒューが口を開いた。
この状況で、己の意思を発信できる者はほぼいない。
それが可能なのは、『聖女』と同等以上の存在だけである。
ヒューもまた、光の矢に襲われた瞬間、ガイアードやソフィア、そしてサラを守りたい一心で『魔王』として覚醒していたのだ。あれほど恐れ、抗っていた『魔王』の力は、すんなりとヒューの一部になった。『サラ』の手から伝わる聖女の温もりが、『魔王』の狂気を抑えているおかげだ。
人としての心を持った『魔王』は、全ての眷属に呼びかける。
「俺は人類との争いを望まない」
それは、人の負の感情や肉体を餌とする『魔』にとっては、裏切りともいえる宣言だった。魔族らに反発と動揺が広がる中、ヒューは言葉を続けた。
「かといって、お前達の存在を否定するつもりはない。俺は、魔であり、人でもある。どちらの自分も誇れる世界を創りたい」
しっかりとした口調でそこまで言うと、ヒューはギュッと目を閉じた。
今まで避けてきた『魔王』と向き合い、初めて『逃げること』以外の道が見えた。だが、目覚めたばかりの『魔王』は無力だ。実績の無い、ただの象徴でしかない『魔王』に、誰が付いてくるというのか。
いままで逃げ続けてきたツケが、今になって後悔として胸に押し寄せる。
ヒューは父の胸に縋りつき、父だけに聞こえるように震える声で泣いた。
「……父上。俺は、父上やソフィアや、サラがいない世界は、絶対に嫌だ……! 未来を変えたい。でも、俺の力じゃ変えれない。助けて……父上!」
「!!」
ヒューの訴えに、ハッとガイアードは夢から醒めた。
「ヒュ……ヒュー」
まだ思い通りに動かすことの出来ない体で、必死に声を絞り出した。
人類と争うことは、魔物の性だ。
それは、人を食糧と見なしているからであり、人類が動物を食べることと変わりはない。したがって、その性を変えろと言うのは無理な話であり、到底受け入れられることではない。
だが、『そうなるはずだった未来』を視てしまった今、ガイアードは人類と争うことが正解だとは思えなくなってしまっていた。
ただの映像だと分かっていても、最愛の息子と娘の死を目の当たりにした衝撃が、頭から離れないのだ。
自分の死には何も感じなかったというのに、ヒューとソフィアが殺された瞬間、頭の中が真っ白になった。体が自由な状態であれば、辺り一面が灰になっていただろう。
あの痛みを避けられる道があるならば、目指してみるのも悪くない。
そして、それができるのは『魔王軍』の実質的なトップである自分だけだと、ガイアードは決意した。
「人の代表よ。『魔王軍』最高指揮官であり、旧アルバトロス国王ガイアード・アーサー・アルバトロスの名において、停戦を要求する。……子らのために、話し合いたい」
こうして、魔王軍からの希望により、歴史上初めてとなる『人と魔が共生できる道』を模索するための協議が行われることとなった。
聖女の『共有』の力から目覚めた一同は、『聖女の泉』の畔に簡易的な協議の場を設け、互いに向き合う形で席に着いた。
人類代表リーン、サラ(シャラ)、パルマ、アルシノエ、グラン、ラグドール。
魔王軍代表ガイアード、ヒュー、レオナルド、ギィ、ニーチェ。
仲裁役は天使族のジョイスが務めることとなった。
パルマとジョイスは、急遽レダコート王国から駆け付けた。
本来、『勇者』であるカイトも参加すべきだろうが、ソフィアと『二人の世界』に没頭しているため外した。そもそも、居ても役に立たない。
それ以外の者達は天使族が見張れながら、協議の行方を固唾を飲んで見守った。
―――数刻後。
ジョイスの口から、協議の結果が伝えられた。
「これより先、旧アルバトロス王国を『魔の国』とし、『人の国』とは完全に区別することとする」
それは、まだ誰も見たことのない『人と魔が互いの存在を認め合う世界』の始まりだった。
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だいぶ、終了が見えてまいりました!
あと数話で完了します。
ラストスパート、頑張ります!
最後まで見守っていただければ幸いです。




