表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/365

(番外編) 夢のしずく ー共生への道ー

 光の矢が、花びらへと変わる。


 その場に居る全ての者が、キラキラと降り注ぐ花びらに埋もれながら、呆けたように夢を見ていた。


 それは、別の世界で天使族のジョイスがサラに語った、『そうなるはずだった未来』の物語だ。


 魔王ヒューが勇者カイトと聖女サラらによって討たれ、その勇者も魔王ソフィアの手にかかり死亡する。そしてソフィアは聖女らによって倒され、聖女も『異界の扉』を閉じるためにこの世を去る。


 ―――魔族も人類も。ほとんどが滅びる、傷だらけの未来。


 それは、双方にとって好ましくない世界だった。


「未来は、変えられるわ」


 不意に、柔らかく清らかな少女の声が心に語りかけてきた。

 それが『聖女サラ』の声だと気付いた者は僅かだろう。そして気付いた者のほとんどが、小さな驚きと感動を覚えたに違いない。


 ―――『聖女サラ』が、覚醒した。


 サラは『共感と共有』の力で、魔族も人も関係なく、この場にいる全ての者と繋がっていた。

 それはリーンでさえも抗えないほどの強大な魔力であり、『想い』であった。


 本来、この世界の『聖女サラ』には起こすことのできない奇跡であり、これを成し遂げたのは別の世界のサラ……『シャラ』である。


 レダコート王国でリーン達を見送った後、『シャラ』は天使族のジョイスに連絡を取った。ジョイスの目を借りて戦況を視ながら、『シャラ』は自分が経験した『魔王戦』を思い出していた。魔族や魔物の多くは人と相容れないモノであったが、少なくとも、ヒューやガイアードには『愛』があった。


 自分達と何が違うのだろう。


 皆で手を取り合っていく未来はないのかと、真剣に考えた。

 だが、ヒューもガイアードも死んだ。

 ソフィアとカイトと一緒になったが、結局、愛する息子を残して帰らぬ人となった。


(この世界では、同じ未来を繰り返したくない)


 前の世界が『過ち』だっとは思わない。

 だが、抱きしめ合うヒューとサラを目にした瞬間、『シャラ』の中で新たな選択肢が生まれた。


(見つけた! この世界だけの(ルート)……!)


 無慈悲なリーンの光の矢が降り注いだ瞬間。


「「駄目えええええええええ!!」」


 サラは『大切な人々を守りたい』という一心から聖女の力に目覚め、『シャラ』と意識を『共有』した。


 そして『シャラ』は光の矢を魔力の花に変え、ジョイスの力も借りて、その場にいる全ての者達に『そうなるはずだった未来』を見せたのだ。


 これは、この世界の『サラ』だけでなく、かつてのサラでも成し得なかった奇跡だ。

『サラ』と同じ器を持ち、リーンの魔力を受け継いだ、今の『シャラ』だからこそ起こすことのできた奇跡だった。


「未来は、変えられるわ」


 心の底から、そう思う。

 未来を変えるのは、人の想いであり、選択の結果だ。沢山の人々の選択が糸の様に絡み合って、いずれ道となる。


 だから、『シャラ』は祈る。万感の想いを込めて、それぞれが大団円の道に続く選択ができるようにと。


「想像して。人も、魔族も……同じ世界に住んでいる全ての存在が、共に歩んでいける世界を。考えてみて。どうすれば、そんな世界になれるのか」


 『シャラ』は呼びかける。

 一人一人の、心の中に。


 その声は、それぞれに『愛』の感情を呼び起こした。

 家族、恋人、仲間、自分自身。あるいは、神、国、主君、自然……対象は何でもいい。

 何かを大事に想い、幸せを願う心があれば、きっと道は繋がるのだ。


「俺は」


 ポツリ、とヒューが口を開いた。


 この状況で、己の意思を発信できる者はほぼいない。

 それが可能なのは、『聖女』と同等以上の存在だけである。


 ヒューもまた、光の矢に襲われた瞬間、ガイアードやソフィア、そしてサラを守りたい一心で『魔王』として覚醒していたのだ。あれほど恐れ、抗っていた『魔王』の力は、すんなりとヒューの一部になった。『サラ』の手から伝わる聖女の温もりが、『魔王』の狂気を抑えているおかげだ。


 人としての心を持った『魔王』は、全ての眷属に呼びかける。


「俺は人類との争いを望まない」


 それは、人の負の感情や肉体を餌とする『魔』にとっては、裏切りともいえる宣言だった。魔族らに反発と動揺が広がる中、ヒューは言葉を続けた。


「かといって、お前達の存在を否定するつもりはない。俺は、魔であり、人でもある。どちらの自分も誇れる世界を創りたい」


 しっかりとした口調でそこまで言うと、ヒューはギュッと目を閉じた。

 今まで避けてきた『魔王』と向き合い、初めて『逃げること』以外の道が見えた。だが、目覚めたばかりの『魔王』は無力だ。実績の無い、ただの象徴でしかない『魔王』に、誰が付いてくるというのか。

 いままで逃げ続けてきたツケが、今になって後悔として胸に押し寄せる。


 ヒューは父の胸に縋りつき、父だけに聞こえるように震える声で泣いた。


「……父上。俺は、父上やソフィアや、サラがいない世界は、絶対に嫌だ……! 未来を変えたい。でも、俺の力じゃ変えれない。助けて……父上!」

「!!」


 ヒューの訴えに、ハッとガイアードは夢から醒めた。


「ヒュ……ヒュー」


 まだ思い通りに動かすことの出来ない体で、必死に声を絞り出した。


 人類と争うことは、魔物の性だ。

 それは、人を食糧と見なしているからであり、人類が動物を食べることと変わりはない。したがって、その性を変えろと言うのは無理な話であり、到底受け入れられることではない。 


 だが、『そうなるはずだった未来』を視てしまった今、ガイアードは人類と争うことが正解だとは思えなくなってしまっていた。


 ただの映像だと分かっていても、最愛の息子と娘の死を目の当たりにした衝撃が、頭から離れないのだ。

 自分の死には何も感じなかったというのに、ヒューとソフィアが殺された瞬間、頭の中が真っ白になった。体が自由な状態であれば、辺り一面が灰になっていただろう。


 あの痛みを避けられる道があるならば、目指してみるのも悪くない。

 そして、それができるのは『魔王軍』の実質的なトップである自分だけだと、ガイアードは決意した。


「人の代表よ。『魔王軍』最高指揮官であり、旧アルバトロス国王ガイアード・アーサー・アルバトロスの名において、停戦を要求する。……子らのために、話し合いたい」


 こうして、魔王軍からの希望により、歴史上初めてとなる『人と魔が共生できる道』を模索するための協議が行われることとなった。


 聖女の『共有』の力から目覚めた一同は、『聖女の泉』の畔に簡易的な協議の場を設け、互いに向き合う形で席に着いた。


 人類代表リーン、サラ(シャラ)、パルマ、アルシノエ、グラン、ラグドール。

 魔王軍代表ガイアード、ヒュー、レオナルド、ギィ、ニーチェ。


 仲裁役は天使族のジョイスが務めることとなった。


 パルマとジョイスは、急遽レダコート王国から駆け付けた。

 本来、『勇者』であるカイトも参加すべきだろうが、ソフィアと『二人の世界』に没頭しているため外した。そもそも、居ても役に立たない。


 それ以外の者達は天使族が見張れながら、協議の行方を固唾を飲んで見守った。


 ―――数刻後。


 ジョイスの口から、協議の結果が伝えられた。


「これより先、旧アルバトロス王国を『魔の国』とし、『人の国』とは完全に区別することとする」


 それは、まだ誰も見たことのない『人と魔が互いの存在を認め合う世界』の始まりだった。


ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!


だいぶ、終了が見えてまいりました!

あと数話で完了します。

ラストスパート、頑張ります!

最後まで見守っていただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ