(番外編) 夢のしずく ー聖女サラー
聖女サラ・フィナ・シェードは、シェード伯爵家の庶子として生まれた。
母は父に捨てられ、傷心のままサラを産んで亡くなった。そのため、サラは自分が母を殺したのだと思い込み、祖父母に優しくされる度に罪悪感に襲われていた。
そんなサラが、レダコート王国の王都レダにある伯爵家の別邸に引きとられたのは8歳の時だった。
やっと優しい生き地獄から抜け出せる。
そう思ったのは束の間で、王都での暮らしは本当の地獄だった。
父は一年の半分をノルン地方で過ごし、邸宅に居てもサラを避けていた。
父に代わり邸宅の管理を任されていた義母は、父の不倫相手であった母を酷く憎んでおり、母の面影を色濃く残すサラを嫌悪した。
兄妹は3人いるが、一番上の兄は滅多に王都に来ることはなく、二番目の兄とサラと一つ違いの妹は、義母を真似てサラを虐め抜いた。
幼いサラは、どうして自分が虐められるのか分からず、耐えることしか出来なかった。
いつかきっと、白馬の王子さまが自分を助けてくれると信じて。
そんなサラに転機が訪れたのは、12歳の時だ。
第一王子ユーティスの誕生パーティに、シェード伯爵家の娘として参加することになったのだ。
本当は、妹のエイミーが行くはずだった。
だが、数日前、サラを虐めるために放ったオークが、サラを無視してエイミーに襲い掛かったのだ。
幸い、近くに来ていた一番上の兄アイザックによって救出され、軽い怪我で済んだ。しかし、サラを虐めていたことがばれ、二番目の兄とエイミーは一年間の謹慎処分となった。
そのおかげで、サラはエイミーの代わりに夜会に行くことになった。
アイザックは優しかった。
サラを慰め、今まで気付かなくてすまなかったと謝ってくれた。アイザックのおかげで、サラはようやく十分な衣服と食事を与えられるようになった。
サラは兄が用意してくれた髪の色とお揃いのドレスと、瞳の色に合わせた宝石を身に着け、初めての夜会に参加した。
そこで第一王子ユーティス、英雄レダスの生まれ変わりであるパルマ、『勇者』カイトと出会う。夢にまで見た『白馬の王子様』達に囲まれて、サラは生まれて初めて胸のトキメキを感じた。
しかし、数日前まで全く貴族としての教育を受ける機会の無かったサラは、庶民的な振る舞いで多くの貴族から失笑を買うことになる。特に、同世代の少女達からは嘲笑の的となった。
ようやく自宅を離れてレダコート学園で寮生活を始めた後も、サラは虐められた。加害者が義母と兄妹から、貴族の令嬢達に代わっただけだ。むしろ状況は悪化したと言っても良い。
自宅にいた時は、サラが怪我をしそうになったり、あまりに度の過ぎた虐めの時は、使用人達がこっそり守ってくれた。義母も父の目を気にして、父やアイザックがいる間は手を出してこなかった。
だが、父も兄も使用人も、ここにはいない。
それでもサラは、健気に耐え続けた。
サラが『聖女』に認定されたのは、学園に入学して2年目のことだった。
自分が『聖女』だと知り、サラの世界は変わった。一介の庶子でしかなかった自分が『勇者』と並ぶ唯一無二の存在だったと気付いてから、魔法の腕もグングン上がった。
相変わらず女子生徒の目は厳しかったが、男子生徒達は一気にサラの味方になった。
初めから優しかったユーティスやパルマ、カイトに加え、入学式にいきなり手を握ってきた大人っぽいロイや、『聖女』の護衛として現れた大魔術師リーンらに囲まれ、サラの人生はバラ色に塗り替えられた。
ある日、『聖女』としての義務を果たすべく、初めて魔族の討伐に同行した。
少しでも役に立ちたいと意気込んで参加したサラだったが、目の前で繰り広げられる殺戮に、すっかり心が折れてしまった。
初陣は、散々な結果だった。
リーンやカイトの活躍で魔族は倒せたものの、サラは恐怖から動くことができず、簡単な治癒魔法すら発動することができなかった。
初めてだから気にするな、と皆が口を揃えて慰めてくれたが、サラは恥ずかしくて仕方がなかった。虐められて膝を抱えていた時よりも、ずっと、もっと、惨めだった。
(逃げ出したい)
いつからか、サラはそんな事を思うようになった。
中位魔族との戦いですら恐怖で動けなかったというのに、『魔王』と戦うなんて無理だ。
目を閉じると、目の前で首が飛んだ騎士の姿が蘇る。
魔族のおぞましい魔力が、体の中にまだ残っている感じがする。
(怖い。気持ち悪い……!)
耐えきれなくなったサラは、寮を飛び出した。
アイザックに会いたかった。だが、兄は今、王都に居ない。
ユーティスに会いたかった。だが、第一王子である彼には、国を捨てて欲しくない。
パルマに会いたかった。だが、対魔王軍の陣頭指揮を執る彼が逃げてくれるとは思えない。
カイトに会いたかった。だが、『勇者』が逃げるはずがない。
リーンに会いたかった。だが、誰よりも厳しい彼が、逃亡を許すはずがない。
(ロイ……ロイなら……!)
縋る様な思いで、ビトレール家の門を叩いた。
だが、ロイは逃げてくれなかった。
そればかりか、逃亡を計ったことがばれ、シェード家で謹慎することになってしまった。
(逃げたい。少しの間でもいいの)
薄暗い自室で、泣きながらサラは願った。
くしくも、ちょうど王都から強力な魔術師達が居なくなっていた時だった。
サラを監視する目が、全て『異界の扉』に向けられていた中で。
「どこでもいい。どこか、遠くへ……!!」
サラは、生まれて初めて転移を使った。
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あと数話、頑張ります!!




