表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
347/365

(番外編) 夢のしずく ー救済ー

「なんで逃げるの!?」

「う……うわああああ!」


 叫びながら逃走したロイを、サラはハンターのごとく追跡した。


 途中で、目が点になっているエドワードとフロイアの横を「お久しぶりです! また後で!」と言いながら通り抜け、ロイを部屋まで追い詰めた。


「捕まえた! なんで逃げるの!?」


 背後からロイの背に飛び付き、ソファの上に押し倒す。「ぐふっ」と小さくロイが呻いたが、逃げたロイが悪いので謝ってあげない。


「に、逃げるよ! だってっ」

「だって?」


 息がかかるほどの至近距離で問い詰められて、ロイは恥ずかしそうに視線を逸らした。


「だって……もう少し、大人になってから会うつもりだったから……」

「きゅん!」


 サラの、残り少ない理性が飛んだ。


「ロイ、愛してる!!」

「あ、愛っ!?」


 ガバッと正面から襲い直し、ロイの額に思い切りキスをした。ロイがまた「うわあああ」と小さな悲鳴を上げた。


 ロイ曰く、まだグラン師匠よりも強くなっておらず、ルカよりもカッコよくなっておらず、シャラをクラクラさせるには不十分だと思っている、とのことだ。もう少し大人の男になって、自信をもってサラに会いに行くつもりだったそうだ。


 何ソレ、カワイイ。


 しかし、「なんで来ちゃったの、シャラ」と言いながらも、ロイはサラに再会できたことが相当嬉しいらしく、駄々洩れした精霊達の歓喜の舞で、屋敷中がポルターガイスト現象に襲われている。

 ロイの部屋も、花瓶やら机やら枕やらベッドやらが飛んできて、危険な状態だ。


「ロイ、聞いて。実はね……」


 サラはここに来た理由を話しながら、ロイが落ち着くのを待った。

 すると、サラが『異界の扉』をルカと閉める予定だと伝えた時、ピタリ、とポルターガイストが止んだ。ズドン、とベッドが床に落ちる。


「それ……危険、だよね?」


 酷く真剣な表情で、ロイがサラの両肩を掴んだ。力強いが、大きくて優しい手だ。

 思わず、ドキッと心臓が跳ね上がる。


「で、でも2度目だし。今回は扉を大きく開けることもないし、私は中に入らないし、大丈夫だと思うよ?」


 ロイの眼差しが記憶にあるよりもずっと大人っぽくて、サラは何だか落ち着かなくなってきた。


「僕も行く」

「え!? 駄目だよ、危ないよ!?」

「ほら! 危ないんじゃないか!」


 しまった、と思った時にはもう遅い。

 ロイは少し怒った顔で、逃げようとするサラの腰に片手を回し、グイッと引き寄せた。「ひゃあっ!」と、悲鳴が洩れる。完全に形勢逆転だ。


「あ、いや、それは言葉のあやで」

「僕はシャラを守るために鍛えてきたんだ。まだ、成長途中だけど、その辺の冒険者には負けない」


 本人は成長途中だと言うが、ロイは立派な青年に育っている。

 向こうの世界では、どれだけ鍛えても筋肉がつかないと嘆いていたが、ここのロイは着やせして見えるが、かなりの筋肉質だ。ゴリラ男爵やオースティンやシグレのようなゴリマッチョタイプではないが、彫刻の様に均整のとれた無駄のない美しい肢体は、リュークやリーンを彷彿とさせた。


(いったい、どれほど頑張ったの……?)


 魔術だけじゃなく、剣術もかなりの腕前に違いない。

 たった10年ちょっとでここまで成長するには、相当な苦労があったに違いない。それを全て「シャラを守るため」の一言で片づけてしまうのだ、このロイは。


(ロイ……かっこいいな)


 以前のサラは、ずっと「ロイを守りたい」と思っていた。

 だが、今、初めて「ロイから守られたい」という衝動に駆られた。


(あ……ああ……!)


 急に、サラの中で何かが弾けた。


 ロイの死後、ルカから「サラはロイを対等の相手として見ていなかった」と言われてショックを受けた。「サラはロイの保護者みたいだった」とも言われ、そんなことはない、なんでそんな酷いことを言うのだと、ルカに反発した。

 だが、今『初めてロイを大人の男性として意識した自分』に気付き、ルカが正しかったのだと、思い知らされた。


(ロイ……ロイ、ごめんなさい……! ごめんなさい!)


 育った環境が違うと、こうも差が出るのかと、改めて向こうのロイの生い立ちに胸が痛む。

 同時に、そんなロイを可愛がるだけで、『頼れる男性』として接してあげられなかったことが、ひどく悔やまれた。

 どれだけ後悔しても遅い。今頃気が付いても、あのロイにしてあげられることは、何もないのだから。


「え……シャラ? 泣いているの!?」


 急に黙り込んでポロポロと大粒の涙を零し始めたサラに、ロイは大層驚いた。ロイの知るサラは、豪快に笑い、豪快に泣く、感情が分かりやすい少女だった。こんな風に、じっと何処かを見つめて泣く姿など、想像したこともなかった。


「どこか、痛かった? あ……ごめん! 急に引き寄せたから、怖かったよね?」


 自分達がもう子供ではない事を思い出し、ロイはサラから離れようと腰から手を離そうとした。

 が、逆にサラの方からロイの胸に飛びこんできた。

 ロイの胸に顔を埋めて、サラは縋りつくように腕を背中に回した。


「ううん。ううん。違うの。ロイが私のために強くなってくれて、嬉しいの」


 自分は、本当に残酷な人間だった。

 あのロイも、必死に頑張ってくれていたのに。

 今のこのロイよりも、ずっと強い魔術師だったのに。


「でも、いいの……? 私、本当に馬鹿で、甘ったれで、人の気持ちを考えられない、酷い人間だよ?」


 嘘じゃない。本当に、自分は最低な人間だった。


「そんなことない! シャラは賢くて、自分に厳しくて、皆を大事にしてくれる、最高のレディだ」


 そんな自分を、ロイは全肯定し、キラキラした瞳で見つめてくれている。別人のはずなのに、本当に、本当にそっくりだ。


(ああ、どうして、たった一言……この言葉が言えなかったのだろう)


 万感の想いを籠めて、サラは言葉を紡いだ。向こうのロイに、最期まで言ってあげれなかった一言を。


「私を……守って……!」

「当然だ!」


 ロイが力強く吼えた。


 その瞬間。

 サラの胸で霞んでいたロイの面影が、パアッと笑った。


(ああ……そうか、そうだったのね)


 この世界に来たのは、ロイを幸せにするためだと思っていた。

 そのついでに、色々な人の哀しい運命を出来るだけひっくり返して、多くの人が幸せになる未来を築こうと頑張ってきた。

 実際に多くの運命を変え、これからも変えていく予定だ。


 だが、違ったのだ。

 ここに来たのは、『誰か』のためじゃない。


(これは、『私』の救済なのね……エダム!!)


 サラの中で、ずっとわだかまっていた黒い塊が、一気に溶けていく。

 心の中に、色とりどりの花が咲き始め、同心円状に広がっていく。その花畑には、ロイの笑顔が満ち溢れているような気がした。


「それに、シャラが危険な時に傍にいないなんて、婚約者失格だ……あ! ご、ごめん。勝手に婚約者扱いして! 小っちゃい頃に『結婚する!』って宣言しただけで、正式に返事をもらった訳じゃないのに……ああ、恥ずかしいっ!」


 さっきまでのカッコよさは何処に行ったのか。

 ロイは急に顔を赤くして、乙女のように両手で顔を覆った。

 その様子が可愛くて、愛おしくて……懐かしくて。

 サラはまたポロリと涙を零しながら、豪快に笑った。


「あはは! 私、皆に『婚約者がいます!』って宣言してきちゃったよ!? 駄目だった!?」

「ええ!? ち、違わない! え? いいの!? まだ、僕、中途半端だよ!?」

「こんなにカッコよくて、優しくて、可愛くて、逞しく育ってくれたのに、中途半端とか言わないで! 私、ロイに会うためにこの世界に生まれてきたのよ? 今度こそ、『ロイを幸せにしたい』じゃなくて、『ロイと幸せになりたい』の」


 対等な相手として。生涯の伴侶として。もう一度、あなたを選ぶ。


「ロイ。私と結婚してくれる?」

「……もち……もちろんだよ! シャラ、愛してる!」

「私も! 私も愛してる!」


 心から、やり直す機会をくれた神に感謝する。

 そして……心から祈る。


「お願い。長生きしてね? 私を一人にしないでね?」

「うん! 約束する」

「絶対だからね!? 約束破ったら、私、本当に、怒るからね?」

「うん! シャラ……シャラ!」


 サラは、力の限りロイを抱きしめた。


(なんて、温かい)


 あの日の、冷たくなっていたロイの記憶が、ゆっくりと塗り替えられていく。

 同じ鼓動を感じながら、サラはロイの胸から顔を離し、そっと唇を近づけた……。


 が。


「お取込み中のところ、すみません。夕食に誘われて、来ちゃいました」

「「ひゃあああああ!!」」


 思わぬ邪魔が入った。

 サラとロイは、揃って悲鳴を上げた。


 見ると、開きっぱなしのドアの前に、赤い顔のパルマと、涙目のフロイアと、満面の笑みを浮かべるエドワードが並んで立っていた。


「フラれた上に、イチャイチャしてるところを目撃するなんて、僕ってなんでこんなに間が悪いんでしょう」

「シャラちゃんが本当の娘になるなんて、感激だわ。また『おかあしゃま』って呼んで欲しい……」

「ロイ。その方が噂のシャラ様だね? 結婚には大賛成だけど、まだロイは実質13歳だから、もう少し待とうね? せめて『15歳の大人の教科書』を読破するまで駄目だからね?」


 三人が立て続けに、好き勝手なことを言っている。

 サラはパッとロイから離れた。


「え!? 15歳!? てことは、『12歳の大人の教科書』はもう読んだの!? ロイが!?」

「ええ!? 反応するの、そこ!? ていうか、なんで女の子のシャラがその本を知ってるの!?」

「え!? え、えーと、作者のパルマから聞きました!」

「えええええ!? 僕のせいですか!? って、なんで作者って知ってるんですか!? あ、向こうの僕が教えたんですね!? あいつめ、余計なことを!!」

「「先生」」

「うわ! ついにロイまで『先生』って言うようになっちゃった!」

「大人の教科書……?」

「フロイアは知らなくていいんだよ」


 急速に、日常が戻ってくる。


 だが、さっきまでのサラと、今のサラは違う。

 前よりもっと、笑える気がする。ロイの存在が、ロイの愛が、サラを強くする。


 ―――この日。

 ビトレール家の両親に歓迎され、サラは正式にロイの婚約者となった。



ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!


今回の話が、『夢のしずく』編で一番大事なシーンかも、と思いながら書きました。

その時はどれだけ考えても気が付かなかったことが、時間が経ったり、環境が変わったりして、ふと理解できる事ってありますよね。

だから、いっぱい悩んでも解決しない時は、一旦手放していいと思うのです。

きっと、『その時』が来たら気付けるはずだから。

サラちゃんも、私も、まだまだ成長途中です!

これからも応援していただけると嬉しいです!


あ、次回こそ、扉閉めに行きます。では!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ