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(番外編) 夢のしずく ーひとときの休息と、こちらの『聖女』ー

 『異界の扉閉鎖作戦』が決行されるまでの間、グランとサラはパルマの実家であるクライス公爵家で過ごすことになった。

 クライス家の使用人達は主人の性格をよく反映しているのか、執事から庭師に至るまで、皆が穏やかで親切だ。

 そのおかげで快適に暮らせているのだが、サラは日が経つにつれ元気がなくなっていった。


 理由は、ホームシックである。

 サフラン大陸にいる時はそれほど感じなかったが、いざレダコート王国に戻ってみると、急に懐かしさが込み上げてきたのだ。


 王都にはシェード家やビトレール家、そしてリュークのいる武器屋がある。『S会』のメンバーや、リーンスレイ魔術学園の友人達もここで生活している。散々お世話になった冒険者ギルドもあり、きっとそこには、ゴリラ男爵や『紅の鹿』のメンバーがいるに違いない。


 それに、この世界では大好きなシズが生きている。他の人々とは向こうに帰れば再会できるが、シズは別だ。一目でいいから元気な姿を見てみたいと思うのは当然のことであった。


 だが、シズの住むシェード家には『聖女サラ』がいる。


 この間の会議の際、二人のサラが遭遇する危険性についても話題になった。リーンの見解では、『二人が一定の距離より近づけば、どちらかが消滅、または吸収される可能性がある』とのことであった。そして恐らく、はじかれるのは別世界のサラの方だ。


 恐ろしすぎて、とてもじゃないが近づけない。


 そのせいもあり、サラは既に4日もクライス公爵家の屋敷に軟禁されている。万が一、こちらのサラと出会ってしまっては「うっかり」では済まされない。

 すぐ近くに会いたい人が山ほどいるのに、何もできない。


 そんな鬱憤が重石の様に心に積み上がっていき、ついにサラはベッドから出てこなくなった。

 そんなサラを心配して、パメラとパルマはある計画を立てた。


「シャラさん。ビトレール家にサプライズ訪問してみます?」

「!?」


 ガバッと、サラが布団から顔を出した。「よしっ」と母子は小さく頷き合って、サラのベッドに腰かけた。


「実は、既にクライス公爵家から『ロイに用がある』って、訪問の手紙を送っているのよ。シャラちゃんさえ良ければ、午後からでもどう?」


 パメラからの提案に、サラの目がみるみる輝きだした。相変わらず、チョロい。チョロいゴリラ、チョリラだ。


「行く! 行きます! え、でも、いいんですか? 危なくないですか? ご迷惑になりませんか?」


 サラが矢継ぎ早に質問すると、パルマはニッコリと微笑み、パメラは「あらあら!」と豪快に笑った。


「大丈夫ですよ。こっちのサラさんは学園にいるはずですから、ビトレール家で鉢合わせすることは無いと思います」

「それに迷惑だなんて、とんでもないわ。私達こそ、気が利かなくてごめんなさいね? さすがにご実家には連れて行けないけど、ビトレール家なら大丈夫だってことに今頃気付いたんだもの」

「そんな……ありがとうございます……! ああ、もうっ! パメラ様もパルマも大好き!!」

「じゃあ、うちの嫁に……」

「あ! 母上、それ言うとまた」

「無理です!」

「ほらぁ、またフラれた! 結構、ショックなんですよ!? 毎回っ!」


 何度目かになるやり取りをして、ひとしきり笑った後、パメラがお茶目に片目を瞑った。


「じゃあ、せっかく久しぶりに婚約者君に会うんだもの。目いっぱいお洒落しましょうね? うちは男の子ばっかりだから、娘を着飾らせるのが夢だったのよ」

「はいっ! いくらでもお付き合いします!」 


 シュバッと右手を挙げて、サラはベッドから飛び降りた。


 数時間後。

 パルマが呆けるほどの美少女に仕上がったサラは、満足気なパメラに見送られてパルマと共に転移でビトレール家の門の前に立った。

 この世界で訪れるのは初めてだが、もう一つの実家と呼べる場所だ。懐かしくて愛おしい。


「……こうしてみると、やっぱりシャラさんは貴族なんですね。綺麗です」

「まあ、パルマ様ったら。そんなに見つめられては……恥ずかしいです(ぽっ)」

「うはっ! 止めてください、そういうの! 本気になっちゃうでしょう!?」

「きゃっ! 大きな声、シャラ、怖い(涙目&上目遣い)」

「ひゃはああああ!」


 門番が開けてくれるまでの間、二人で遊んでいると、屋敷から執事が慌てた様子で飛び出してきた。向こうの世界でもお世話になっていた人だ。執事はサラの顔を見ると一瞬目を見開いたが、すぐに屋敷へと案内してくれた。


 パルマとは屋敷の前で別れた。

 帰りは一人で転移して帰って来てもよいそうだ。「お泊りは駄目ですよ!」と念を押されたが。


 サラがドキドキしながら一人で応接間で待っていると、ドタドタと足音が近づいてきて、やや乱暴にドアが開いた。


 現れたのは、美しく成長したロイだった。


 20歳前後に見える。やはり、向こうの世界より苦労が少ないせいか、成長が緩やかなようだ。

 走って来たからか、少し上気した頬と乱れた前髪が妙に色っぽい。

 サラが知る中で、最も顔色の良いロイの姿だった。

 思わず胸が熱くなる。


「ロ……」

「お引き取り下さい!」

「!?」


 サラが名前を呼ぶより早く、ロイが険しい顔でサラの腕を掴んだ。

 勢いよく引っ張られたせいで、手首に着けていたブレスレットの糸が切れ、バラバラと宝石が床に散る。


「い、痛っ」


 突然の暴力に、訳も分からず悲鳴を上げると、はっ、とロイが手を離した。


「! す、すみません! でも、何度来られても、僕はあなたのパートナーにはなれません」

「!?」


 なんですと、とサラがロイに目を向けると、ロイはパッと視線を外し、背を向けた。


「ブレスレットは弁償します。もし、先程怪我をされたとしても、治癒魔法をかけたので治っているはずです」

「いや、あの、話を」

「話なら、先程終わったはずです! 何度も言いますが、僕が入学式であなたに声をかけたのは、知り合いによく似ていたからです。知人が、サプライズで会いに来てくれたのだと勘違いして、あなたの手を握ってしまいました。本当に、申し訳ない事をしたと思っています。ですが、僕には心に決めた人がいるのです」

「ロイ……」


 どうやら、ロイはサラを『聖女サラ』だと勘違いしているようだ。この1分程で、『聖女サラ』がしつこくロイに付きまとい、実家にまで訪れて口説いているのだと分かった。

 ロイがサラの話を全く聞いてくれないのは哀しいが、同じ「サラ」にも関わらず、こちらのサラに関心が無いことを知り、胸が熱くなる。同時に、サプライズを期待してくれていたのかと、期待に応えられなかったことに目頭も熱くなった。


「あなたは魅力的な方ですが、僕の好きな人じゃない。それに、あなたは第一王子の恋人ではないのですか? 婚約者のいる王子を本気にさせておいて、僕やパルマ……それに勇者や大魔術師様とも懇意になろうとしている……」

「う、うわぁ」


 マジか、と心の中で『聖女サラ』に突っ込む。天然の『聖女サラ』は無垢な心を持った小悪魔だ。知らず知らずに、ゲームの『節操なしファンタジー』に突入しているのだろう。


「ずっと不思議だったんです。ほとんどの男子生徒があなたに夢中だというのに、女子生徒はあなたを避けている。あなたの言い分を信じて、王子はティアナ様を目の敵にしていますが……僕はティアナ様を信じます。あの人は、嘘をつけない性格だ」

「うん、うん」


 良かった。ちゃんとロイは人の内面を見ている。

 それにしても、「あなたの言い分」とは何だろう。定番なところだと「ティアナ様に怒鳴られた」とか「礼を強要された」とか「出自を馬鹿にされた」とかだろうか。

 ティアナからすれば「貴族の女性が、子供の様にはしゃいではなりません!」と注意したとか、「目上の立場の者に気安く声をかけるのはマナー違反です」と常識を教えたとか、「お家の名誉を傷つける様な、はしたない言動はおやめくださいませ。ここは社交界と同じですのよ? 誰が見ているか分かりませんわ」と心配して声をかけたとか、そんなところだろうか。ヒロインの「なんでも被害者変換」術は恐ろしい。完全に病んでいる。

 ここのサラは、そういう性格なのだろうか。心配になる。


「正直、僕には、あなたの感覚が分かりません。最初は、『聖女』として魔王と戦うための仲間を集めているのだと思っていました。でも、そうじゃなかった。……今日、『一緒に逃げて』と言われて、僕は本当にあなたに幻滅しました」

「うん、私も幻滅した」


 ゲームですら、特定の人物と『魔王戦から逃げる』というルートは無かった。それをこの世界のサラはやろうとしたのだ。もはや『聖女』と呼んではいけない。


「僕の愛する人は、絶対に仲間を見捨てたりしない。たった一人でも、歯を食いしばって立ち向かう人だ。逃げたいなら、僕以外の人を選んでください」

「ロイ……!」


 ああ、もう我慢できない、と、サラは強引にロイに後ろから抱き着いた。以前とは比べ物にならない程、体に厚みがあることに気付き、ドキッと心臓が跳ねる。

 突然抱きつかれて、ビクッとロイも震えた。


「なっ……! いくら何でも、無礼ではありませんか!? 嫌がる相手に抱き着くなど」

「嫌なの? 昔は自分から抱き着いてきたくせに」

「僕がいつ……え……?」

「ここで、『ぐらんじいちゃ』より強くなって、『るか』よりかっこよくなって、シャラおねえちゃんが『くらくら』するように頑張るって言ってくれたのに、忘れちゃったの? 私は、一日も忘れたことなかったのに」

「え……えっ? シャラ……?」

「うん。シャラだよ、ロイ」


 バッと、ロイが振り返った。

 視線が合う。

 ロイの警戒していた険しい顔から、棘がすぅーっと抜けていくのが分かった。ロイはプルプルと震えながら、幻に触れるようにサラの頬に触れた。「ああ」と思わず嗚咽を漏らした。


「本当に? 本当に、シャラなの!? 僕、夢見てる!?」

「夢じゃないよ。ほら……」

「!?」

「ね?」

「……ぅうわああああ!」


 頬にキスされただけなのに、ロイは真っ赤になって……逃げた。


ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!

ラストスパートに向けて、励みになってます。


さて、久々のロイ君でした!

こちらのサラ様に口説かれて大変なご様子……


次回もサラとロイの会です。

よろしくお願いいたします。

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