(番外編) 夢のしずく ー幼馴染との再会ー
「姐御! よそ者がシャバを荒らしてるらしいですぜ!」
「姐御! うちの嫁が産気づきました! 来てくだせぇ!」
「姐御! 金貸してくだせぇ!」
一目で荒くれ者と分かる男達が、仮面の少女の前にひれ伏した。
小柄な少女が「ふっ」と笑っただけで、男達の間に緊張が走る。男達が「ごくり」と喉を鳴らす目の前で、少女は軽やかに立ち上がった。
「赤ウシ、ルカとチュールを派遣するから、やっちまいな! 青ウシ、すぐに行くから待ってなさい! 緑ウシ、却下よ!」
「へい!」
「へい!」
「そんなぁ!」
男達にテキパキと指示を出す少女こそ、サフラン大陸に名を馳せる謎の組織『S組』のボス『シャラ』ことサラである。
サラは今年で15歳になった。
学校には行かず、12歳から冒険者としてルカと一緒に行動している。
いつの間にか、圧倒的な戦力と卓越した問題解決能力のせいで冒険者から『姐御』と呼ばれる存在になり、ギルドとは別の非公式組織が結成されている。現在は子爵家を離れ、ルドラス王国の首都で幅を利かせている。ちょっとしたヤクザである。
なるべく目立たないように美貌を隠し、大人しくしていたはずなのに、不思議なこともあるものだ。
ある日、そんなサラの元に客が訪れた。
質素だが一目で上質と分かるセンスの良い衣服に身を包んだ、清潔感と人の良さが滲み出る美少年だった。
シャラの噂を聞きつけ、はるばるエウロパ大陸のレダコート王国からやって来たのだと言う。
(ていうか、パルマだ!!)
がーん、と、じーん、の両方の効果音を背負いながら、応接間の扉を開けたままサラは立ち尽くした。
仮面を着けていて良かった。泣きそうになっているのを、何とか誤魔化すことができるから。
「はじめまして、シャラさん。母から話は聞いています。ずっとお礼が言いたかったのですが、遅くなってすみません。レダコート王国公爵家、パルマ・レダス・クライスです……って、どうして泣いてるんですか!?」
「泣いでまぜん! ……うわあああああん!」
耐えきれず、涙腺が崩壊した。
(名前くらい知ってるよ、友達だもん……! 会いたかったよぉおぉぉぉう!!)
すっ、と差し出されたハンカチを無視して、サラはパルマに抱き着き、服をびちょびちょにするまで豪快に泣いた。パルマは一瞬困惑した表情を見せたが、サラの気がすむまで黙って見守ってくれた。
母パメラの影響なのか、以前よりも、ずっとお洒落でイケメンに育っているが、中身は『安心安全、皆のパルマ』のままだ。それが、何よりも嬉しかった。
「ひぐっ、えぐっ……泣いてません」
「はい。シャラさんは泣いてません。とりあえず、座ってお話しましょうか」
ハンカチでサラの涙を拭おうとして、パルマの手がピタッと止まった。
「あの……仮面がぐちゃぐちゃなんですが……少し外していいですか?」
「ゔん……って、ああああ! だめ!!」
「あ……」
思わず「うん」と言ってしまい、事の重大さに気付いた時にはあとの祭りだった。
既に仮面は外され、顔を見られてしまっていた。
―――『聖女サラ』と、瓜二つの顔を。
数分後。
パルマの優しい尋問により、サラはこれまでの経緯を全て白状していた。もともと、親友のパルマに隠し事をし通せる自信が無かったため、ペラペラと喋り過ぎた気もする。
案の定、パルマはポカンと口を開けたまま固まってしまった。
だが、そこはパルマである。しばらく呆けた後は、すぐに頭をフル回転させ、状況を把握し、整理し、問題点を洗い出した。
「要するに、シャラさんはサラさんであり、未来から過去にやって来たと。そしてロイや母の運命を変えたものの、これ以上の変化を恐れ自身は身を潜めて暮らしていたんですね? そこに僕が現れた。サラさんの幼馴染で、一番の親友だった僕に会って緊張の糸が切れ、尋問するまでもなく自白したと……あってます?」
「はい……おっしゃる通りです」
二人は机を挟んで向かい合わせに座っている。
パルマ刑事の前で、サラ被告は大人しく頭を垂れた。
「サラさん……えっと、区別したいのでシャラさんと呼んでもいいですか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。シャラさん、大変言いにくいのですが……かなり、シャラさんの経験した世界と変わっていると思います」
「ええ!? パルマの髪型と存在感だけじゃなくて!?」
「ええ!? 僕、そんなに違うんですか!?」
ガタッと、パルマが立ち上がった。が、すぐに座った。突っ込んでいる場合ではないのだ。
「……じゃなくて、僕の知っている『聖女サラさん』と、シャラさんの性格が全く違うんです」
「えええ!?」
今度はサラが立ちあがった。確かに、15歳のサラよりも今のサラの方が人生経験も豊富であり、考え方も変わっているだろう。だが、『全く違う』訳ではない。むしろ、根っこのところはマシロの時から全く変わっていない自信がある。
「僕と『聖女サラさん』は幼馴染ですけど、母がゴルド・シェード伯爵の後輩だったからで、リーン父上とは関係ありません。それに、サラさんは引っ込み思案で大人しく、少なくとも、チンピラ共をまとめ上げるなんてこと、到底できません」
「うそぉ!?」
「いや、僕からしたらシャラさんのほうが異常ですからね!? それに、サラさんはリーンスレイ魔術学園ではなく、僕達と同じレダコート学園に通っています」
「え!?」
「ロイから聞いてませんか?」
「ロイがレダコート学園に通ってるのは手紙で知ってるけど、サラのことは聞いてない!」
寝耳に水だ。
ゲームでのサラはレダコート学園に通っていたので、サラもどちらに行こうかさんざん悩んだ記憶がある。確かあの時は、アグロスの一件でサラが『邪悪な魔女』だと噂があり、人目を避ける目的もあってリーンスレイ魔術学園を選んだはずだ。
そう考えると、アグロスの件に『聖女サラ』が関わっていない今の世界では、レダコート学園を選んでも不思議ではない。
なるほど、と一人で納得して、サラはソファに座り直した。
「でもまあ、有り得る話かな? サラは皆と上手くやれてるの?」
「そうですね……。サラさんは誰とでも仲良くなろうと頑張っていて、ロイともよく二人で話していますよ」
「何ですと!?」
再びサラは立ち上がった。先程よりも凄い剣幕だ。
「まさか私の可愛いロイを口説いてんの!?」
「口説く!? いえ、そういうわけでは……いや、そうなのかな……ってきり『聖女』は誰にでも優しいのだと疑いもしなかったのですが……確かに、シャラさんと話しているとサラさんの言動は不自然な気が……え? 僕、騙されてた……?」
何か思い当たる節があるのか、パルマの顔がサアッと青ざめた。その様子に、サラの頭にもある考えが過り、心臓がドキドキと鼓動し始めた。
「ひょっとしてパルマ……サラのことが好き?」
「もちろんです! って、シャラさんに言うの恥ずかしい」
「照れてる場合じゃないよ! これはとっても大事なことなんだけど、ユーティスやカイト、それにリーンもサラが好き? そんでもって、女子から嫌われてない!?」
「……その通りです。男子はみんなサラさんが好きなんですが、どういう訳か、女性陣とは距離がありますね。醜い嫉妬から守ろうと、男子は一層サラさんを大事にして、更に溝ができるという……」
「う、うわあ……」
パルマの話を聞いて、サラは愕然とした。嫌な予感ほどよく当たる。
サラとは全く性格の異なる『聖女サラ』。
男子からの好感度は抜群だが、女子から嫌悪される存在。
そこから導き出される結論は一つ。
(この世界の『聖女サラ』は、私じゃない!!)
ぐああ、とサラはソファに突っ伏した。ビクッとパルマが身を縮める。
サラの言う『私』とは、カシワギ マシロの記憶を持ち、一人で魔王を倒そうと奮闘した自分のことだ。
恋愛に無頓着で、男女に関わらず友達や仲間がいた。
おそらく、この世界のサラは誰の生まれ変わりでもない『本来のサラ』だろう。
―――つまりは、ゲームのヒロイン属性の塊だ。
「サラが『記憶持ち』って話聞いたことある?」
「ええ!? ありませんよ。え? シャラさんは『記憶持ち』なんですか?」
「だよ! レオンハルトくん!」
「えええ!? どうして僕の前世を……って、『記憶持ち』同士、そういう話をしたってことですね?」
うわあ、と、パルマは頭を抱えた。
ぐわあ、と、サラも思わぬ展開に胃を押える。
ずっと、これ以上この世界の未来を変えないように気を遣っていたが、そもそも『この世界』と『自分のいた世界』は別世界のようだ。
以前、エダムから『この世には無数の世界線が広がっている』と聞いたことがある。『誰か』の、ほんの少しの選択の違いで無数に世界は枝分かれするのだという。
一般庶民の選択で大きく変わることはないが、特定の力を持った人間の選択は、新しい世界を生み出す力があるのだ。
『この世界』は、『マシロの生まれ変わりであるサラ』がいない世界だ。
そしてそれは、以前天使族から聞いた『そうなるはずだった未来』を踏襲する世界を意味する。
「や、ヤバいよ、ヤバいよ!」
前世で好きだったお笑い芸人のような口調になって、サラはパルマの手をガチッと握りしめた。
「この世界、滅びちゃう!!」
「えええ!?」
サラ達は、新たな課題に直面することになった。
ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!
今回は、久しぶりのパルマ君の登場でした!
母パメラが良い仕事をしてくれて、この世界のパルマ君は地味ではありません。
レダコート学園でも、王子と勇者と人気を3分する強者です!
さて、今回は新たな課題と直面しております。
さてさて、どうやって解決することやら。
次回は、懐かしい面々が登場いたします。よろしくお願いします!




