(番外編) 夢のしずく ー新たな別れ 1ー
今日は2話投稿予定です!
ロイとフロイアが旅立って、サラは「ぼーっ」とすることが多くなった。
なにしろ、当初の目的だった「フロイアを助けてロイを愛情いっぱいの環境で育てる作戦」が完了してしまったのだ。燃え尽き症候群というやつである。
しかも二人がいなくなって数日後に、グランもサフラン大陸を去った。エドワードと意気投合したグランも、ビトレール領の復興に力を貸すことになったのだ。奴隷から解放された者達はグランの元で魔術を学び、レダコート王国の礎になっていくだろう。もちろん、ロイも立派な魔術師になるに違いない。将来が楽しみだ。
楽しみ、だが……
「つまんないよぉ」
診療所の裏庭でゴロゴロしながら、サラがボソッと呟いた。ロイが大人になるまでまだ数年ある。待ち長くて仕方がない。
「シャラ。医術を教えようか?」
「んー。まだいいや」
「シャラ。顕微鏡で血液細胞見るかい?」
「んー。もういいや」
「シャラ。筋肉触るか!?」
「!? 触る!!」
ルカは冒険者として出稼ぎに行っており、ここ数日不在だ。診療の傍ら、ヒーローズがサラの面倒をみている状況である。
「シャラちゃんは、オースティン様がお気に入りね」
オースティンの上腕二頭筋と胸筋を堪能していると、食べ物の入ったバスケットを抱えたカドレアがやってきた。カドレアとオースティンは近々結婚する。サラが自由に筋肉を愛でていられるのも、あと数日だ。
「うん! この筋肉の造形美たるや、かのシュワルツイネイガーもビックリだよ!」
「しゅ、しゅわ?」
サラの意味不明な発言に、コトン、と首を傾げるカドレアは何とも可愛らしい。フロイアが美しすぎて目立たなかったが、カドレアもなかなかの美形である。白い歯が光り輝く逞しいオースティンと並ぶと、アメリカのアニメ映画を観ている気分になる。
本来であれば、カドレアは隣の男爵家に輿入れする途中で、野良のバンパイアに襲われ死亡する。オースティンとネイソンも死亡し、デュオンはバンパイアになってしまうはずだった。
しかし、サラから事前に情報を得られたことにより、グランの元で修行を積んだヒーローズの手によって既にサフラン大陸一帯の野良バンパイアは掃討済みである。
半年後にカドレアの代わりに四女のロメリアが嫁ぐことになっているが、過去の悲劇が繰り返されることはないだろう。
あの悲劇がなければ、セイレーンだったルーラの母ウラの一族が滅びることもなく、ルーラはきっと、ウラと恋人のタオの娘として幸せに暮らせるはずだ。こっそり会いに行ってみるのも悪くない。今度こそ本当の友達になれるかもしれない。
「シャラ、どうしたニヤニヤして。俺の筋肉がそんなに魅力的か?」
サラがルーラに想いを馳せていると、オースティンがニカッと笑った。
「うん! 筋肉大好き! 安心する!」
わざと子供らしくキャッキャと笑いながら、サラはオースティンの太い首に抱き着いた。
うらやましそうにデュオンとネイソンが見つめているが、特別にオースティンの事がお気に入りという訳ではない。皆大好きだ。
ただどうしても、オースティンの太い腕に抱っこされていると、シグレの事を思い出すのだ。
アグロスを倒したことで、色々な人の運命が変わった。
以前のシグレは、自分のいないところで妹のシズを死なせたことを酷く後悔していた。アグロスがいなくなったこの世界では、シズは死ぬことはなくサザレと一緒になるはずだ。きっとシグレは笑顔で二人を祝福するだろう。
それを想像すると、また顔がにやけてしまう。
(ふふ。エダム、過去に戻してくれて本当にありがとう。今度のお供え物、奮発するからね!)
サラが上機嫌で神に感謝していると、突然、ルカが帰って来た。
「んあ! ルカ、お帰り!」
「うん。ただいま。ちょうど良かった。皆に話があるんだ。談話室まで来てくれる?」
「ルカ? どうしたの?」
ルカの表情が険しいことに気が付き、サラも眉を寄せた。
談話室に移動し、それぞれが思い思いの場所に座るのを見届けてから、ルカはようやく重い口を開いた。わざわざカドレアまで呼ぶなど、よほど重大な話に違いない。みな、真剣な顔でルカを見つめている。
「昨日、ハミルトン王国に行ったんだ。依頼が入って、ずっと避けていた場所に行かなければならなくなった」
「避けていた場所……? あ! まさか、ルカ湖!?」
「うん」
サラが聞き返すと、ルカは神妙に頷いた。「ルカ湖」はハミルトン王国では神聖な地として有名だが、他の国にはほとんど知られていない。そのため、他のメンバーは「?」と首を傾げている。
ルカが「ルカ湖」を避けていた理由は、サラが「聖女サラ」を避けるのと同じ理由だ。「ルカ湖」は、ルカ本来の体が溶けて核だけが眠る場所だ。
ルカの話によると、ルドラス王国からハミルトン王国まで商人の護衛を頼まれた際、どうしても「ルカ湖」の畔で野営をせねばならなくなったそうだ。
そして、深夜。
見張りをしていたルカは「ルカ湖」が光るのを見た。光は何かを中心に同心円状に広がっている。ルカはそれが、自分の核だとすぐに分かった。
「は? ちょっと待て。ルカの核って、前に見た金の玉だろ? なんで2つあるんだ?」
「オースティン様! 破廉恥ですわ!」
「何が!?」
「僕は、シャラと出会うまで『ルカ湖』に眠っていたんだ。今も、この時代の僕は、あそこに溶けている。僕は、デュオン達がいた世界の『ヨーロッパ』で生まれた土の魔物なんだ」
「「「へ?」」」
ヒーローズが目を丸くする。
ルカが魔物であることはアグロスとの戦いで気付いていたが、詳細は聞いていなかった。悪い魔物でないことは確かだし、プライベートなことを聞くのはマナー違反だという認識があったからだ。
他の魔物とはずいぶん雰囲気が違っているとは思っていたが、まさかの地球生まれだったとは、完全に予想外だ。
「じゃあ、ルカも偶然『穴』に飲み込まれてこっちに来たのか?」
「少し、違うよ。僕が通った『穴』は偶然じゃない」
オースティンの質問に、ルカは少しだけ困った顔をした。
サラは、ルカが何を言おうとしているのか察してしまった。
確かに、これは重大な話だ。
彼らの運命の船が、大きく舵を切ろうとしている。
サラは思わずルカの袖を掴んだ。
ルカはサラの目を見つめると、大きく頷き、サラの小さな手に自分の手を重ねた。
「『ルカ湖』の『穴』は、常に開いている。二つの世界は、不安定に繋がり続けているんだ」
「「「!!」」」
ヒーローズが、同時に息をのんだ。
ブックマーク、評価、感想、いいね! 等、いつもありがとうございます!
1話で納めようとしたら、6000文字を軽く超えてしまったので2話に分けました。
もう一話は20時になると思います。
よろしくお願いいたします。




