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(番外編) 夢のしずく ーアグロスー

 フロイアと自分を繋ぐ魔力が絶たれた時、アグロスは歓喜した。

 まさか、従属の魔法を無効化する方法があるとは思ってもいなかったのだ。フロイアが魔術師としての才能に目覚めたのか、はたまた、別の者が何らかの方法を編み出したのか。どちらにせよ、高位魔族である自分の特殊魔法を破ったからには、ただ者であるはずがない。


 百年もの間求め続けてきた『理想の器』が見付かるかもしれないと、アグロスは喜びに打ち震えた。だが、繋がりが消えたためフロイアを探し出すことが出来なくなった。近くにいれば気配を追えるが、よほど遠くに逃げたのか、フロイアの痕跡はどこにも見当たらない。思わぬ誤算に、アグロスは苛立った。


(ならば、別の方法で呼び寄せるまで)


 そう考えたアグロスは、エドワードを利用することにした。

 エドワードとフロイアは、半魔の子を宿すほど愛し合っている。

 エドワードが窮地に陥れば、フロイアは必ず助けに来るはずだ。術を破った仲間を連れて。


 便利な顧客であるサルナーン子爵からは、息子を産むか、娘が名家に嫁ぐまではエドワードに手を出すなと言われている。しかし、『魔王の器』を集めるためにサルナーンの財力と立場は大いに役立ったが、それももう必要ない。アグロスの目的は魔王になることであり、奴隷商人として栄華を極めることではない。サルナーンとの関係など、簡単に捨ててしまえるものだ。


 サルナーンとの約束を破り、アグロスはエドワードに従属の魔法をかけた。

 フロイアにかけた術は、封じられているが破られたわけではない。エドワードの中に自分の魔力を流すことで、同じ術で縛られているフロイアに何らかの反応が起きることを期待した。エドワードとフロイアの想い合う気持ちが、アグロスの術を封じた方法に打ち勝つのではないかと考えたのだ。

 しかし、フロイアは全く気配を見せなかった。


「フロイアめ……。なぜ探しにこない」


 業を煮やしたアグロスは、更なる刺激を与えるためエドワードに封魔の術をかけた。

 アグロスの名前の由来でもある『闇の檻(アグ・ロス)』と呼ばれるその術は、強制的に相手の魔脈に『何か』を送り込み、相手を操る禁呪だ。『何か』とは、異界の穴から溢れた魔素が人の陰の感情を取り込み、蟲の様な姿になったものだ。この術は魔物や魔力の高い者ほど有効であり、アグロスが望めば封魔……魔脈を閉じさせ、魔力を使えなくすることが可能である。そして、魔力の無い者は『何か』を受け入れきれず、魔脈が破綻して廃人と化す。


 エドワードにこの術を使うつもりは無かったのだが、フロイアを呼び戻すためには仕方のないことだった。しかし、それでもフロイアは現れなかった。


(ちっ。こんなことなら、もう少しエドワードに探させればよかった。焦り過ぎたか……)


 フロイアが行方不明になって以降、エドワードは寝る間も惜しんでフロイアを探し続けた。どれだけ妻や娘が泣いても、家臣達が止めても、黒髪の女性が居ると聞くと他国にも探しに行った。その様子は魔族であるアグロスでさえ「憐れ」と感じるほどに悲惨だった。このまま埒が明かないと、強硬手段に出たのが良くなかった。


 エドワードは廃人同然となり、役に立たなくなってしまった。


 今は、サルナーン子爵の屋敷の地下牢で死を待つだけの存在だ。それでも死なせないように定期的に回復魔法をかけているのは、まだフロイアが現れる可能性を捨てきれないからだ。

 半年前、言い訳が面倒になり、アグロスに異議を唱えたサルナーン子爵にも従属の魔法をかけた。このことはまだ子爵領の外にバレてはいない。が、ビトレール地方で起きた異変は王都にも伝わり、そろそろ調査団が押しかけてくるころだろう。


 それに対処するために、奴隷を大量に掻き集めた。

 兵力が大きければ大きいほど、レダコート王国は優れた騎士や魔術師を送ってくるはずだ。その中に、アグロスが求める器が見つかるかもしれない。


(……?)


 チリッと、首の後ろ辺りに痺れるような感覚があり、アグロスは階段を降りる足を止めた。エドワードに回復魔法をかけにいく途中だった。

 エドワードの身の回りの世話をするために連れてきた奴隷達に「動くな」と命じ、地下牢の近くに転移した。

 笑い声が出そうになるのを堪えながら、アグロスは気配を消してゆっくりとエドワードの牢に向かう。

 地下には、エドワードの他にも10名ほど奴隷を繋いでいる。彼らは世界中から集めた違法奴隷であり、器として素質のありそうな魔力容量の高く美しい子供達だ。あまり小さいうちから強力な魔法をかけると身体を壊すことがあるため、弱い従属の魔法しか使えない。そのため、逃げ出せないように牢に入れているのだ。

 ある程度大人になった奴隷達は、使えない者は転売し、使える者はアグロスの奴隷として強力な従属の魔法をかけ直し、子爵領や屋敷の警備兵として要所に配置している。魔術師が貴重な王国で、これほどの数を集めた領地は他になく、子爵領の守備力は王都に匹敵するはずだ。


 だからこそ、先程感じた違和感に胸が躍る。


 アグロス自慢の守備をかいくぐり、エドワードの牢に辿り着いた者がいる。気配からして、フロイアではない。おそらく、フロイアにかけた従属の魔法を封じた者だろう。


「エドワード! 聞こえるかい? エドワード!」


 牢の近くまで来た時、中性的な美声が聞こえてきた。エドワードの知り合いだったらしく、必死に名を呼び続けている。


(……ほう)


 中を覗いて、アグロスは感嘆のため息を漏らした。

 エドワードの頬に優しく触れる青年は、フロイアに引けをとらぬほど美しい外見をしている。男性であることや貴族好みの金髪であることを考えると、フロイア以上の逸材かもしれない。


 しかも、人ではない。

 魔物というにも異質な存在であり、まるで、異世界から紛れ込んだ魔族のようだ。


(素晴らしい!!)


 かつて感じたことのないほどの興奮が、アグロスの乾いた身体に沸き起こる。


 まさに理想の『魔王の器』だった。


(欲しい。欲しい。欲しい。欲しい……!!)


 渇望するまま、アグロスは目の前の獲物に腕を伸ばした。


「俺のものになれ! 『アグ・ロス』!!」


ブックマーク、評価、感想、いいね、等ありがとうございます。


今回はアグロス氏のほぼ独り言でした。

夢のしずく編も佳境でございます。がんばれ、皆!

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