(番外編) 夢のしずく ーパメラ救出作戦2ー
本日2話目です。
深夜、ハノイ王国とレダコート王国の国境近くの村に、直径3メートルほどの岩が運び込まれた。
岩を運んだAランク冒険者パーティ2組は、その中身を知らない。
気心の知れたパーティと共に、ハノス王国の魔術師1名と巨大な荷を運ぶだけの簡単な仕事。ちょうど故郷のレダコート王国に戻るつもりだった彼らには、手頃な依頼だった。
そのため、魔術師が突然岩に向かって雷を放ち、中から中位魔族が現れた時には全身の血の気が引いた。
騙されたのだと、即座に理解した。
爆音で目を覚ましたのか、村人達が続々と家から出てくる。
いけない、と冒険者パーティのリーダーは仲間を振り返った。
「みんな、覚悟を決めろ!」
「「「おお!」」」
自分達が安易に引き受けた依頼のせいで、何の罪もない村人が殺されてしまう。そして、ここから一番近い別の街はレダコート王国側にある。魔族はレダコート王国へと移動し、人々を蹂躙するだろう。
できるだけ時間を稼ごう。
たまたま前の町で知り合った旅人3人組には、村人を逃がす手伝いをしてもらおう。巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだが、運良く助かって欲しい。
ハノス王国からは見捨てられるだろうが、きっと、異変に気が付いたレダコート王国から助けが来るに違いない。それまで自分達が耐えきればいい。Aランクパーティが2組もいるのだ。ただでは死なない。
そんな想いで冒険者達が剣を構えたその時……
「第一隊、結界! 第二隊、障壁! 第三隊、肉体強化!」
魔力を含んだ女の声が響いた。良く響く、若い声だ。
すると、村人だと思っていた人々が一斉に女の指示通りに動いた。
村を覆う様に結界が張られ、魔術師たちを守る様に土魔法の障壁が出現する。
魔術師の攻撃の隙間を縫って、肉体強化魔法をかけられた騎士達が一斉に魔族に襲い掛かった。
ハノス王国の魔術師は転移を使って逃げる機会を失い、慌てて空へと逃げた。が、三人組の一人が空を飛び、容易く捕獲した。
「があああ!! 何事だ、人間ども!!」
突然、魔族が吼えた。
魔族にしてみれば、数百年前に岩に封じられ、落雷で目覚めたと思ったら魔術師と騎士に襲われている状況である。意味が分からなくて当然だ。
「我に刃を向けるとは愚かなり! 我が血肉となるがよい!」
再び魔族が吼えた。
いかに肉体強化していようと所詮は人間の攻撃であり、中位魔族である自分に傷を負わせるには至らない。
とはいえ、寝起きに全方向から攻撃を受けていい気分はしない。
魔族は皆殺しを決意し、水魔法を使うべく魔力を核へと集中させた。過去に大洪水を引き起こし、数万人を犠牲にした大魔法である。
目覚めたばかりで十分な魔力が貯まっていないが、この辺りの山を崩し、村ごと人間どもを押し流すくらいのことはできるだろう。
が、……僅かな水しか集まらない。
「何故だぁ!?」
思わず叫んだ。
今までこんなことは無かった。
リザードマンの魔術師だった彼にとって、水を呼び出すことは呼吸するのと同じくらい容易いことだった。なのに、水がこない。
「悪いわね、蜥蜴さん。この結界は大賢者様特製なの。外から水は呼べないわ」
突然、魔族の前にゴージャスな赤毛をたなびかせる女が立ちはだかった。
「何だと、小娘……ぐはあ!!」
焦る魔族の胸を鋭い鉱石が貫き、カーン、と核が壊れる音がした。
レダコート王国最強の土系魔術師パメラの攻撃魔法である。
「ば……かな……」
真っ赤な目を見開いたまま、目覚めたばかりの中位魔族は光の粒となって消滅した。
あまりにもあっけない最期だった。
「終わりましたわ。ご協力感謝いたします。大賢者様、ルドラス王国の皆様」
ぽかん、と口を開けて呆然と立ち尽くす冒険者たちの前で、魔族を撃破した美女は優雅に膝を曲げた。
すると、混乱する冒険者たちの間を抜けて魔術師の一人がパメラに近付き、楽しそうに笑った。エルフの老魔術師、グランである。
「ふぉふぉふぉ。ワシらはハノス王国の計画をクライス夫人に伝えただけじゃよ。魔族を倒したのはお前さん方じゃ」
「いえ、その計画を知ることが出来たからこそ、事前に村人を逃がし、戦闘の準備ができたのです。魔族は人を殺せば殺すほど力をつけます。今倒さなければ、私達が気付いた時には手遅れになっていたでしょう。私の命と引き換えでも倒せたかどうか……。本当に、ありがとうございました」
「ふぉふぉふぉ。大変なのはこれからじゃ。なんせ、ここはハノス王国。レダコート王国の魔術師と騎士が無断で暴れたんじゃから、侵略だの条約違反だのと何癖をつけてくるに違いない」
「承知しております。そのために、その魔術師を生かしておくのです。洗いざらい、証言してもらいますわ。レダコートに喧嘩を売ったのですもの。ハノスにはそれ相応の対価を支払ってもらわねば」
怪しく微笑む貴婦人に、ハノスの魔術師が「ひいっ」と小さく悲鳴を上げた。
「おお怖い、怖い。さすがは英雄レダスの母じゃ。後は任せたぞ」
グランが楽しそうに笑う。この三カ月の苦労が報われたのだ。元々はアグロスを倒すための戦力を得るためだったとはいえ、死ぬはずだった若い命が輝いているのを見ると、感慨深いものがある。
「もちろんです」
パメラも笑った。
2週間前、大賢者グランが突然クライス公爵家を訪れた時には驚いたが、信じて良かったと心から思う。愛する夫と息子の元に、無事に帰れるのだから。
「グラン様、このご恩を我々は忘れません。今後、グラン様から依頼があれば、レダコート王国魔術師団がいつでも力になります」
パメラがもう一度敬意を示すと、ざっ、と一斉に魔術師と騎士が膝を突き、頭を下げた。
(これで良いか? シャラよ)
グランは遠く離れた愛弟子に語りかけた。
サラは歓喜の涙で答えた。
―――パメラ救出作戦、成功である。
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さてさて、戦力も揃ったことですし、
アグロス&サルナーン子爵にお仕置きしないとですね!
頑張りましょう!!




