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(番外編) 異世界だって歯は命

本日3話目です。『魔族の子』が重かったので、おふざけ回です。

 最近、何かがおかしい。


 レダコート王国の大聖堂で病人の手当てを手伝いながら、サラは首を傾げた。


 サラは聖女ではなくなった後も、時折、武器屋の業務の合間を縫って治癒魔術師として働いている。

 本来、大聖堂の治療院は貧困層の平民のための施設であるが、ここ最近、サラの強力な治癒魔法目当てで裕福な平民や貴族の患者も増えている。しかもその多くが、歯痛、つまりは虫歯や歯槽膿漏といった歯の病気なのである。


 お金のない民からは金銭をとることはないが、裕福な者……一定以上の収入がある者からは多額の寄付金を請求しても良いという暗黙のルールがあるため、大聖堂としては懐が潤い大歓迎ではある。


 しかし、この世界には『歯医者』も『歯科医院』も無いどころか、虫歯の原因が菌であることも知られていないため、歯磨きをする習慣がない。つまり患者の数が膨大であり、サラ一人では手が回らなくなってきているのだ。

 むろん、サラ以外にも優秀な治癒魔術師はいる。しかし、重症患者の治療を優先しているため、歯のように「抜いてしまえばいい」という部位や、目や鼻のように命に直接かかわることが少ない部位の異常は後回しにされがちなのである。

 もちろん、その考えは大きな間違いなのだが、医術が発展していないこの世界では仕方のないことといえる。

 丁寧に患者を診察し、出来るだけ歯を温存しようと努力するサラの方が異例なのだ。


「だあー! もう限界です! 助けてください、デュオンさーん!」


 ある日、あまりの忙しさにキレたサラは、エルジア王国で診療所を開設したデュオンの元を訪れた。デュオンはサラを見ると、嫌な顔一つせずに時間を作った。


「なるほど。歯を悪くした患者が急増しているんですね?」

「そうなんです!」


 ふむふむ、とメモを取る手を止めて、デュオンはサラの目をじっと見つめた。その眼光は鋭い。まるで診察……というよりも取り調べに近い。


「しかも、裕福な方が多いと」

「はい!」

「心当たりは?」

「え? ……ありませんけど……」

「本当に? この数年で、レダコート王国に大きな食の変化はありませんでしたか?」

「………………ぁあああああ!! S会のスイーツ事業!?」

「心当たりありましたね」

「ありました! 私が犯人です!!」


 午前10時22分。サラ容疑者確保。


 サラはあまりのショックにガクリと項垂れた。

 レダコート国民を苦しめていたのは、まさかの自分だったのだ。自分自身は食後に浄化魔法をかけるのが習慣になっていたし、周囲のエルフも鬼も精霊もドラゴンも、人間の病気とは無縁だったため深く考えたことが無かった。 


 よくよく思い返すと、S会の商品が出回り始めた頃、ボブ辺りが「なんか歯が痛え! サラ、何とかしてくれ!」と言っていた気がする。あの時は重症化する前だったため、浄化とミスリルで歯の表面をコーティングしたことで事なきを得た。その後もサラの熱血歯磨き指導の甲斐もあり、周囲の人間で虫歯になる者はほとんどいなかった。


「デュオンさん! 私、歯磨きを世に広めます!!」


 そう宣言してから一月後。


 再びデュオンの元を訪れたサラは、謎のペーストの瓶詰を何種類か机の上に置いた。


 サラがS会と死ぬ物狂いで完成させた歯磨き粉である。


 ロイが輸血されるときに使っていた高い抗菌、殺菌作用のあるチルという植物のエキスと塩がベースであり、柑橘やミントの香りがするものや、甘味のあるもの、より強力な滅菌作用がある『ドラゴンエキス』が入った物もある。ドラゴンエキスの材料と出所は秘密だ。父ドラゴンの胃液とかではないはずだ。……たぶん。


「素晴らしいですね! 商品名は決めたのですか?」


 文化的な品を前に、デュオンがキラキラと目を輝かせている。この一カ月の調査で、ハミルトン王国においてもバンパイア以外の国民の歯の健康が損なわれていることが発覚し、デュオンも気に病んでいたのだ。

 デュオンは医者だが、歯は専門外である。薬や治療の助言をしながら、S会が歯磨き粉を完成させるのを心待ちにしていた。


「それがなかなか決まらなくて……『ツーヨイハ』とか駄目ですよね」

「駄目ですね。巷で出回っている育毛剤『モウドゥンドゥン』くらい駄目ですね」

「だ、駄目ですね」


 『ツーヨイハ』は『強い歯』をもじったものだが、『モウドゥンドゥン』は(モウ)がドゥンドゥン生えるイメージなのだろう。何処の誰かは知らないが、ネーミングセンスがサラと同レベルだ。某パンダのキャラクターの名前に似ていることについては、気にしてはいけない。


「じゃあ、デュオンさんは何か思いついたんですか?」

「うーん。私も色々考えたのですが、前の世界の『ヘアコーン』という育毛剤の名前に引きずられて『デンタルコーン』しか出てこなくなってしまって……」

「コーンって、トウモロコシですか? 確かにフサフサ……」

「一応、コーン由来の成分が入っているので決してウケ狙いではないと思います。ユニコーンの絵柄のパッケージでしたが」

「……使ってたんですか?」

「誰に言ってます?」

「すみません!」


 何だか話がおかしな方向にずれてきたので、サラたちは改めて商品名を真面目に考えることにした。危ない、危ない。


「パルマ様は何と?」

「う。訊いてません。毎回毎回パルマに頼りっきりだから、今回はお世話にならずに自力で頑張ろうと思って」

「確かに。世界一お忙しい方に訊くのは申し訳ないですね」


 『安心安全、困った時のパルマ様』は今でも健在だが、みんなが事あるごとに頼りにしているため、そのうち過労死してしまう。長生きして欲しいので、なるべく頼らないようにしようとサラは心に決めている。


「なので、リュークに相談したんですが」

「自力は止めたんですか?」

「パルマ以外ならセーフってことで」

「賛成です」

「それでリュークからは『ドラゴンパンチ』はどうかと。あ、パンチのパは歯にかけているそうです」

「……夫婦揃ってネーミングセンスが地に落ちてますね」

「ぐさっ! 彼なりに虫歯菌をやっつけるイメージだと……そういうデュオンさんは、誰かに相談しなかったんですか?」

「……A王からは『ピッカ・マ・エバ』と」

「なんで前歯限定!?」

「Z王からは『ミスリルケンシ』と」

「あ、かっこい……って、ケンシって犬歯!? なんで二人とも限定してるの!?」

「A王曰く『エルフは虫歯になりませんもの。見た目が良ければ何でもいいでしょ!』。Z王曰く『バンパイアは犬歯さえ無事ならどうとでもなる』と」

「う、うわー」

「王への忖度で『いいですね、候補に入れさせていただきます』と笑顔で言うしかなかった私の気持ちを、4文字でお答えください」

「む、な、し、い? か、な、し、い? く、や、し、い?」

「死、に、て、え、です」

「ごめんなさい」


 何故かサラが謝った。


 その後も二人でうんうんと唸りながら考えたが、『モウドゥンドゥン』と『ヘアコーン』が頭から抜けず、『モウコーン』になりかけた。育毛剤どころか、ただの毛根だ。


「で、僕の所に来たと?」

「「はい。すみません」」


 結局、二人は最後の砦に頼ることにした。

 世界一忙しい男・パルマは「過労死させてごめんなさい」と泣きそうな顔の二人から歯磨き粉を受け取ると、「うーん」と頭を捻り、パッと顔を上げた。


「要するに、歯を守るんでしょ? 歯の騎士……『デンタルナイト』でどうですか?」

「「……それだああああああ!!」」


 サラとデュオンが丸一日かけて決められなかった商品名が、2秒で決定した。


 こうしてS会の新商品『デンタルナイト』は、庶民でも買いやすい低価格商品から富裕層向けのスペシャル商品(ドラゴンエキス、ミスリル研磨剤入り)まで幅広く取りそろえ、瞬く間に世界中で大ヒットすることとなる。

 歯ブラシを持った騎士が歯の上で魔物を倒している絵柄のパッケージも、分かりやすいと評判だ。後に絵本化され『12歳の大人の教科書(通称:エロ本)』よりも売れたという。

 また、「食前手洗い、食後歯磨き!」というキャッチフレーズで、スイーツと一緒に石鹸と歯磨き粉をセット販売したところ、こちらも飛ぶように売れた。


 この後、エルフ以外の人族の平均寿命が1割から2割伸びたと言われている。

 だがサラは、それが『デンタルナイト』を契機とする口内環境の改善や手洗い習慣の効果だとは知らない。


 ただ今日も「最近患者が減ったなあ。良かった良かった」と、まったりしながら思うだけである。


ブックマーク、評価、感想、いいね、等、いつもありがとうございます。


最近、歯が痛すぎて反省の意味を込めて書きました(笑)

おふざけ回は、書いていて楽しいです。


おふざけ、と言えば(と言ったら失礼ですが)

少年ジャンプ+に掲載されているギャグ漫画「トマトイプーのリコピン」が、

時々めっちゃ刺さります(笑)

毎回好きですけど、時々天才過ぎてめっちゃ好き。

大石先生をデビュー前から(こっそり)応援している身としては

是非これからも頑張って欲しいです!

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