表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/365

(番外編) 魔族の子 ー目覚めー

「きゃああああああああ!!」

「レオナ!!」


 雷鳴でレオナの悲鳴がかき消された。


 ローベルトは瞬時にレオナを抱き寄せ、ありったけの魔力で結界を張った。

 が、A~Sランク並みの魔法騎士とはいえ、ローベルトの本質は戦士だ。肉体強化魔法や攻撃魔法は得意だが、防御や治癒に関する魔法は不得手である。

 息が止まるほどの重たい衝撃がローベルトの全身を貫く。肉体を強化して踏ん張っていなければ、地面に縫い付けられてしまいそうなほどの威力だ。近くにいた愛馬は……即死だ。

 おそらく、相手の『猟犬』はSランク並みの実力だろう。

 長年ニーチェの傍で過ごし、魔法耐性が異常に上がっている自分でさえ、この様だ。結界で守ったとしても、普通の少女として生きてきたレオナが何回も耐えられる攻撃ではない。


「やめろ! この子は人間だ!!」


 ローベルトが必死で呼びかける。しかし、『猟犬』は容赦なく次の一撃を放った。


「くそ……! レオナ! 大丈夫か!?」


 激痛に顔をしかめ、片膝を突きながら、ローベルトはレオナの様子を伺った。

 落雷の衝撃に目を見開いたまま震えているが、幸いレオナに怪我はなさそうだ。火傷くらいは負っているかもしれないと心配したが、むしろローベルトよりも平気そうである。


(あ……!)


 レオナが普通の少女に見えたため、すっかり忘れていた。

 レオナには魔族の遺伝子が組み込まれているのだ。

 魔族と人では魔脈の構造が異なる。人の魔脈は血管やリンパ管の様に細い管が全身に張り巡らされているイメージだが、魔族の魔脈は細胞一つ一つに存在している。細胞小器官の一つと言っても過言ではない。それ故、人よりも圧倒的に魔力を吸収できる容量が大きいのだ。


 ぐっ、とローベルトの胸が締め付けられた。


 レオナは人間ではない。

 その事実を突きつけられた気分だった。これから先、この子が人として普通に生きていくことは容易ではないだろう。


「仲間の仇だ! 死ね!!」


 『猟犬』が次の一撃を放つ。


「ぐわぁっ!」


 思わず苦悶の声が洩れた。上級魔法は一発だけでもかなりの負担になるはずだが、目の前の『猟犬』は出し惜しみする気がないようだ。おそらく、死ぬ覚悟をしている。

 それほどまでの恨みを魔族に抱いているのだろう。


 歯を食いしばり、レオナを抱き上げると、ローベルトは森に向かって走りだした。

 太陽は完全に眠っているが、落雷による火災で森の中は明るい。


 この先のことなど、考えている場合ではない。今はとにかく、この窮地を脱することに集中しなければならない。

 相手は魔術師だ。ローベルトの剣を恐れて近づいては来ないはずだ。


(俺はこの子に、レオナルド様の想いを伝える義務がある……!)


 『猟犬』は、仲間の仇だと言っていた。

 自分が殺した者の中に、彼の仲間がいたのだろうか。

 もしそうだとしても、大人しく死ぬわけにはいかなかった。


「レオナ聞こえるか!? あいつを倒すから、逃げてくれ!」

「お、おじさん。わたし、わたし」


 レオナは大きな目を見開いてガクガクと震えている。無理もない。戦場を知らない少女にとって、今の状況は理解が出来ないだろう。


「しっかりしろ! お前を守りながらじゃ戦えない!」

「おじさん、おじさん! 私、思い出したの! 前もあの人が」


 レオナが何かを言いかけたその時、今までとは比較にならない程の攻撃が二人を襲った。


「……っ!!」


 さすがの威力に耐えきれず、ローベルトの筋肉が硬直し、レオナから手が離れた。レオナも必死に手を伸ばそうとしたが、体中の筋肉が言う事を聞かない。レオナの小さな体は、ローベルトの腕から滑り落ち、惨めに宙を舞った。


 声にならない悲鳴を上げるローベルトの目の前で、レオナは電撃で黒く焼けた地面に叩きつけられた。


「っ!!」


 息が、出来ない。


 痛いのか、苦しいのか、今の状況をぴたりと表す言葉をレオナは知らない。ただ、この感覚を味わうのは2度目だと、はっきりと分かった。


 3年前のあの日。

『猟犬』に追いつかれたレオナ達は、森の中で行き場を失った。

 あの時の『猟犬』は3人だった。剣士が一人と、雷を使う男女。

 おじさんはレオナと母親を岩陰に隠すと、一人で飛び出していった。おじさんが戦っている間、レオナは震えながら母にしがみついていた。なぜ、自分達が追われているのか理解が出来なかった。


(おじさんが殺されれば、次は私達)


 逃げ方も分からぬ少女は、とにかくこの悪夢が早く去って欲しいと、櫛を握りしめて祈る事しか出来なかった。


「レオナ……」

「お母様!?」


 久しぶりに母から名を呼ばれて、レオナはハッと我に返った。母は何か恐ろしい物でも見る様な目で、レオナの首を両手で掴んだ。薄い爪が、柔肌に食い込む。


「い、痛いっ! お母」

「あなたは……何なの?」

「おか……やめ……」

「私は、何を産んだの……!?」

「!!」


 その瞬間。レオナは自分こそが『魔族の子』なのだと知った。

 胸に杭を打ち込まれるような痛みを感じると同時に、自分が居なくなれば母もおじさんも助かるのではないかと思った。


 レオナは母の細い腕を振り払うと、おじさんと『猟犬』達の間に割って入った。


 驚愕するおじさんにサヨナラを言って、そのまま真横に駆け抜けた。


 そして、落雷の衝撃。


 ああ、これでお母様は助かる。と死を覚悟したのも柄の間、レオナは自分が何かに守られていることに気が付いた。

 胸の辺りだけが、燃えるように熱い。

 それが父のくれた櫛だと理解するのに時間はかからなかった。


(お父様……!)


 櫛に嵌め込まれた色とりどりの宝石は、全て壊れていた。レオナの代わりに落雷の衝撃を受けたのだと本能で分かった。

 そして、中央にただ一つ残った赤い石だけが煌々と輝いている。

 その石が、レオナの中に眠る魔族としての意識に呼びかけてくる。


 ―――目覚めよ。目覚めよ。魔族の子よ。奪われるな。奪え。生き延びろ……我が子よ!


「!!」


 その呼びかけに導かれるまま、レオナは体の奥深くから膨れ上がる熱に身を任せた。

 指の先から髪の先にまで、プチプチと小さな音を無数に立てながら、熱が流れていく。細胞の一つ一つが目を覚ましていくような、不思議な感覚だった。


「まずいぞ! 一気に叩け!!」


 レオナの変化に気が付いたのか、『猟犬』が間髪入れずに攻撃を放った。レオナの小さな体に、凄まじい電撃が空を割って飛来する。周囲の山ごと消し去りそうな勢いで、『猟犬』達は吼え続けた。


「やったか!?」


 ゼイゼイと肩で息をしながら、黒い塊となった少女に『猟犬』の剣士と魔術師の女が近づいた。

 かつて、彼らの村は魔族によって滅びた。たとえ、罪のない幼い少女でも、魔族の血を引く子供を活かしておくことはできない。


 剣士は黒焦げの塊を足で転がして仰向けにさせた。

 胸元に光る赤い石を目掛け、真っ直ぐに振り下ろす。


「!? 待て……!!」


 嫌な予感に、少し離れた場所に居たもう一人の『猟犬』が仲間を呼び止めたが、既に遅い。


 剣先が石に触れた刹那。

 男と女は、赤い光の爆発に呑まれ消し飛んだ。残った男も遥か彼方へ吹き飛ばされた。


 本来、『猟犬』達の攻撃は、魔族として覚醒しきっていない少女に耐えられる威力ではなかった。

 だが、レオナは生き残った。

 全身にやけどを負い、生来の美しさを微塵も感じさせない姿になっても、生きていた。


 父の遺した赤い核が、『猟犬』の攻撃を飲み込みレオナを守ったのだ。父の核に納まりきらなかった魔力はそのままレオナの核へと流れ込んだ。

 レオナは人間から魔族へと身体が置き換わる衝撃に耐えられず、意識と記憶を失った。


「……ああ。そうだ。私は、魔族の子、だった」


 そうして再び『猟犬』の攻撃を受け、記憶が蘇った。

 ―――魔族としての、意識と共に。


ブックマーク、評価、感想、いいね、等、いつもありがとうございます!

更新が遅くなって申し訳ありません。

戦争が怖すぎて、気持ちが落ち着かなくなってしまって……うおーん。


更新が遅れた分、今日はもう2話投稿します! 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ