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(番外編) 魔族の子 ーローベルトー

 ローベルト・アシュレイは、旧アルバトロス王国の騎士の家に生まれた。

 裕福ではなかったが、厳格な父と優しい母、美人の姉とやんちゃな弟に囲まれて、それなりに幸せな少年時代を送った。

 将来は父と同じ騎士になるつもりでいたが、魔術としての才能が発覚してからは魔法騎士を目指すようになった。

 アルバトロス王国は圧倒的な武力で近隣諸国を制圧、吸収している大国であるが、その最も中心的な働きをしていたのが『魔法騎士団』である。

 通常、希少な魔術師が前線に立つことはない。しかし、潤沢な人材を有するアルバトロスは、魔法の才を持った子供の一部を騎士として育成し、『魔術の使える騎士』として最前線に立たせたのだ。

 元々騎士家の子息として幼い頃から修行を積み、剣術に精通していたローベルトは、たちまち頭角を現した。入団から僅か1年、17歳で小隊の隊長を任されるまでになった。ローベルトの隊は数々の戦場で戦果を上げ、その功績が認められて18歳で魔法騎士団の副団長に抜擢された。

 その時、魔法騎士団団長であったのがレオナルド・モンタギューという男である。

 副団長に就任した当初、ローベルトはレオナルドに反感を抱いていた。アルバトロス王国の名家に生まれ、王の乳兄弟であり王妃の兄というレオナルドが、コネで団長になったのではないかと疑ったからである。最前線で死闘を繰り広げてきた若いローベルトが、面白くないと感じるのも当然であった。

 それ故、ローベルトは実力で団長の座をもぎ取ってやろうと、心に決めていた。

 しかし就任早々、ローベルトはレオナルドとの実力の差を嫌と言うほど思い知ることになる。そればかりか、自分と同じ副団長の地位にいる他の5名にすら全く歯が立たない事を知り、生まれて初めて挫折と劣等感を味わった。仲間達は「経験の差だ」と慰めてくれたが、ローベルトには乗り越えることの出来ない大きな壁のように思えた。

 それでも、負けず嫌いなローベルトは腐ることなく腕を磨き続け、一人、また一人と副団長達から認められるようになっていった。その度に、ローベルトは心の中が満たされていくのを感じていた。


 そんな時、魔法騎士団本隊に遠征の命が下った。

 名目は強力なテイマーを有する隣国ドルミナの制圧であったが、レオナルドの活躍をやっかむ貴族達の反感から目を逸らさせるための、王の配慮があったことは明らかであった。 

 レオナルドは2名の副団長を王の傍に残し、ローベルトらを伴って王都を出た。

 どんなピンチに陥っても、レオナルドは冷静に判断し、優雅に剣を振るい、上級魔術師並みの魔力で敵を制圧していった。単純で純粋なローベルトがレオナルドに憧れを抱くのに、時間はかからなかった。

 すっかり目標となったレオナルドの隣で胸を躍らせながら、ローベルトは奮闘を続けた。この人に付いていけば、もっともっと強くなれる。そう信じながら。


 だが、謀反が起きた。

 第一王子と第二王子が手を組み、王の留守に王妃と王女を殺害したのだ。


 当時、他国へ出兵中であった王は強い怒りと深い悲しみで魔族となり、一夜にしてアルバトロスを滅ぼした。

 その知らせを聞いた時、レオナルドは転移が使える部下を連れて王都へと舞い戻った。ローベルトも必死で戦ったが、魔物の数と強さが尋常ではなかった。生き残った民が避難していた地下室に辿り着いた時には、世界最強と呼ばれた魔法騎士団は8名にまで数を減らしていた。

 頼りの魔法騎士が次々に命を落としていき、誰もが絶望に打ちひしがれる中、若いローベルトだけは希望を捨てていなかった。現実が見えていなかったともいえる。


 レオナルド団長なら、何とかしてくれる。

 レオナルド団長がいれば、自分もまだ戦える。


 そんな風に考えていた。

 しかし、奮戦するも力を使い果たし、ローベルトが敬愛したレオナルドは……魔族となった。それは、人として最期まで戦うつもりだったローベルトにとって最大の裏切りであった。


 その後、レオナルドの計らいで命を救われたアルバトロスの民は、ほとんどがポルカという小さな町に移された。しかし、ローベルトを含む魔法騎士の4人は、ニーチェという魔族の所有物となった。ニーチェは、燃える様な赤い髪と豊満な肉体が魅力のサキュバスである。若くて体格の良いローベルト達は、彼女に魅入られてしまったのだ。


 それから1、2年ほどの記憶はほとんどない。


 だが、()()、ニーチェの留守に屋敷に立ち寄ったレオナルドを見た瞬間、ローベルトは自分が何者であったのかを思い出した。

 その時、ニーチェを捨て、レオナルドと、かつての主君の元へ逃げることもできたろう。

 だが、ローベルトも他の仲間もそうしなかった。

 魔族となり祖国を滅ぼした王と、その王に忠誠を誓うレオナルドに対し、複雑な想いを抱いていたからだ。それに……魔族となったレオナルドを恨みながら、魔族の女を本気で愛してしまっている矛盾に、心の整理が追い付かなかったのだ。

 それでもいつかまた、上司と部下として笑い合える時が来るに違いないと、心のどこかで期待しながら、ローベルトは操られているフリをしてやり過ごしていた。


 そうして和解の機会を見いだせないまま時は過ぎ……レオナルドは死んだ。


 愛した女性も、同じ女性を愛した仲間達も、元の主君も死に、ローベルトは独りになった。


(俺はいつもそうだ。何かに期待して、誰かに期待して、夢ばかり追いかけている)


 魔王戦が終わり、一人の人間として現実に引き戻されて、ローベルトは自分には何も残っていない事に気が付いた。家族も、友も、妻も、上司も、王も、国さえない。全て、ローベルトの手から零れ落ちてしまった。夢など見ずに、泥臭く本気で向き合っていたら、どれか一つでもこの手に残せていただろうか。


 耐えがたい孤独の中で、何度も死を願った。

 だが、覚悟を決める度に、笑顔を浮かべながら光の花びらとなって消えたニーチェの姿が邪魔をした。最期の最後で自分の妻になってくれたニーチェへの愛が、胸を熱くさせるのだ。


 死ぬことも出来ぬまま世界中を彷徨い、3年が過ぎた頃。


 ローベルトは『猟犬』が魔族の子を追っているという噂を耳にした。

 自身も『猟犬』に追われる身であったローベルトは、情報ギルドから定期的に『猟犬』の情報を買っていた。その中の一つにそんな話が出てきたのだ。


 魔王軍には100名を超える魔族がいた。その中には人間やエルフといった人族と交わり、子を成した者もいる。その子達のほとんどは、魔王戦で力を欲した魔物に喰われたか、人に狩られたと聞く。魔物にも人にもなれない憐れな存在。それが『魔族の子』だ。自身もニーチェという高位魔族と愛し合っていたローベルトにとって、他人事とは思えない問題だった。

 あの時ニーチェを連れて逃げていれば、今頃自分達にも子供がいたかもしれない。

 そう思うと、居ても経ってもいられなくなった。


 ローベルトは情報屋から魔族の子が居るという娼館の話を聞き出すと、急いで向かった。その子を見付けてどうするのかと自問自答したが、答えは出なかった。とりあえず、『猟犬』の手から逃がして、今後のことはそれから考えることにした。

 だが、ローベルトが娼館に着いた時には『猟犬』の襲撃は終わっていた。瓦礫になった娼館の傍で身を寄せ合う娼婦達から、『猟犬』が誰かを追っていったと聞き、ローベルトは後を追った。『猟犬』が何処に向かったかは分からない。だが、屋敷の焼け跡に僅かに残る魔力の中に、良く知っている気配があった。

 その気配を追って走り……ローベルトは弟と再会した。


ブックマーク、評価、感想、いいね等、いつもありがとうございます!


ローベルトって誰だよ、と思っていた方。

愛を知る魔族、ニーチェ様の愛人で、一人生き残った彼です。

計算したところ、魔王戦の時点で36歳みたいです。シグレ兄より1つ年下ですね。


次話もローベルトの話です。よろしくお願いします。

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