(番外編)アラミス ー勇者の墓守 3ー(挿絵あり)
全身全霊を込め、ゆっくりと扉を押す。ギギギ……と軋む音がして、僅かに人が通れるほどの隙間ができた。
「!?」
思わず、息を呑む。
アラミスが目にしたのは、上半身が裸の女、下半身が蛇の姿をした巨大な魔物だった。周りには巨大な水晶石が無数に転がっている。その水晶の一つ一つに、人が閉じ込められていた。
ここは食料の貯蔵庫なのだ。
恐らく水晶内の人間はもう死んでいる。……一人を除いて。
「ユエーン!!」
主の間に、アラミスの声が響き渡る。
魔物の前だというのに、腹の奥から込み上げる感情を抑えることができなかった。
剣を抜き、部屋に滑り込んだ。
アラミスに気付いた魔物が、音にならない歓喜の声を上げる。
魔物にとっては久々の新鮮な餌だ。しかも、若く美しい。
絶対に逃がすまいと思ったのか、魔物は長い尾を伸ばし扉を塞いだ。
「くっ!」
魔物の尾を避け横に跳びながら、アラミスは相手の力量を探った。
偶然にもアラミスの先祖である『デルピュネ』と呼ばれる魔物の変異体に違いないが、SS級ではなくS級~SS級の中間くらいに見える。SSランクのユエンであれば油断しなければ倒せる相手のはずだ。
(……なるほど)
魔物の顔を見て、アラミスは少しだけ笑った。ユエンが囚われた理由が分かった気がした。
ユエンの入っている水晶は、デルピュネのすぐ後ろにある。よほど気に入っているのか、他の水晶よりも大きく、込められた魔力も多い。外側から破壊するのは無理だろう。ユエンを救い出すには、デルピュネ自身が術を解く必要がある。
(……やれるか……?)
ドクドクと心臓が走る。
本来、テイマーがテイム出来るのは格下の相手だ。
▲▲▲をテイムして以来、テイマーとして力を使ったことが無いアラミスにとっては大きな賭けだ。
(だが、やってやる)
チロリと舌で唇を舐め、剣の柄を握り直す。
(ユエンの魔力は、まだ消えていない。ユエンはまだ、ここに居る)
つい先程まで凍えていたのが嘘のようだった。
胸の内側から、轟轟と熱が生まれアラミスの魔脈を駆け巡る。こんな感覚は、ずっと忘れていた。
(なんだ。まだ、熱いじゃないか)
ふふ、と笑みがこぼれる。
文字通り、血が滾る。左腕に宿した▲▲▲の魔力が、アラミスの感情に呼応する様に膨れ上がる。
「はっ!」
短く息を吐いて、水晶の間を一気に駆け抜ける。デルピュネの尾が水晶を破壊しながら鋭く迫る。
水晶を足場に壁を駆け、デルピュネの首を狙う。
「はぁ!」
うねる様に伸びたアラミスの剣をしなやかに身をくねらせて躱しながら、デルピュネは大きく口を開いた。冷気を纏う魔力がゴゴゴとアラミスを襲う。
「▲▲▲!」
アラミスが叫ぶと同時に▲▲▲が具現化し、相手の冷気を呑み込んだ。デルピュネが僅かに怯んだ隙を突き、アラミスの剣がデルピュネの胸を貫く。
「屈せよ!」
「―――!」
デルピュネが不快な悲鳴を上げ、アラミスの肩を掴んだ。その手が蛇の頭へと変化し、アラミスの肩を噛む。
「っ!?」
全身が凍る様な痛みが突き抜ける。
並みの人間であれば、その瞬間に凍え死ぬだろう。だが、アラミスはニヤリと笑った。
「かかったな」
「―――!?」
デルピュネの体が、ビクンと大きく跳ね上がった。その弾みでアラミスの体が離れた。
「▲▲▲! あいつを縛れ!」
言葉にならない声で応え、▲▲▲は本来の大きさに戻るとデルピュネの体に巻き付いた。デルピュネが苦しそうに暴れるが、動けば動くほど▲▲▲の体が喰い込んでいく。▲▲▲はまだ幼体とは言え、本来SS級のウロボロスである。SからSS級の相手に後れはとらない。
デルピュネが口から青い血を吐きながらアラミスを睨んでいる。アラミスは喉に魔力を集め、蛇語で呼びかけた。
「私の血は、熱いだろう?」
「―――!?」
ビクン、と再びデルピュネが跳ねる。
この部屋に入る前、アラミスはカイトの遺したペンダントに祈りを捧げた。カイトがアラミスのために「何があってもアラミスを守るよ」と勇者の力を込めて作ってくれたお守りだった。アラミスは自分の血を通して、デルピュネの体内に勇者の力を注ぎこんだのだ。
魔物にとって、勇者は天敵である。
アラミスの思惑通り、デルピュネはもがき苦しんでいる。
「貴様の名を言え!」
「―――!」
デルピュネはなおも抵抗している。アラミスは更に語気を強めた。
「答えろ! 我に屈せよ!」
「―――!!!!!」
デルピュネの咆哮がダンジョンを揺らす。アラミスは全ての魔力を声に託した。
「……屈せよ……! ■■■!」
相手の真名を、呼ぶ。
デルピュネが音にならない悲鳴を上げた。
「くぅっ!」
デルピュネの抵抗に遭い、アラミスの魔力もみるみるうちに削られていく。全身の血液が沸騰しそうだ。意識が飛びそうになる。
『何があってもアラミスを守るよ』
「!?」
不意にカイトの声が聞こえた気がして、アラミスはハッと我に返った。
そうだ。負ける訳にはいかない。
ユエンを死なせない。
私は、ユエンと生きる……!
「ユエンを解放せよ! ■■■!!」
アラミスの命令に呼応する様に、カイトのブレスレットが光を放った。
光の精霊達がアラミスに力を与える。
体内を襲う勇者の力と、自由を奪う▲▲▲、そして魂を縛ろうとするアラミスの支配力に押さえつけられ……ついにデルピュネは屈した。
「……はぁ、はぁ、はぁ……!」
デルピュネが水晶を溶かすのを確認し、アラミスは膝を突いた。酷い脱力感に襲われる。肩で息をするが、上手く肺に空気が入らない。完全な魔力切れだ。全身全霊でテイムした代償だろう。
(ああ。ここまでか。……ユエン)
目の前が真っ暗になり、アラミスはその場に崩れ落ちた。
「ったく、無茶しすぎだろ」
突然、ふわり、と温かいものに包まれた。
「あ……」
すぅっと、光の精霊達がアラミスの中に入り込み、枯渇した魔脈に活力を与えていく。魔力が回復するにつれ、次第に視界がクリアになっていく。
「言ったろ? もう二度と死なないって」
「……死にかけてたじゃないですか」
そこにある顔に手を伸ばし、思わずポロリと涙が零れた。ユエンは一瞬目を見張り、すぐに蕩ける様な笑顔になった。
「心配をかけたな。アラミス」
「魔物相手に、油断しましたね?」
アラミスが少し怒った様に指摘すると、ユエンは「うっ」と言葉を詰まらせた。
「……アラミスに……似てたから……」
照れながら目を逸らしたユエンに、胸の奥がジュワっと熱くなる。
アラミスは涙を隠す様に、ユエンの肩に腕を回し、胸に顔を寄せた。
「私、ここに来る前に、若い殿方からプロポーズされました」
「いつものことだろ?」
「少し、心が揺れましたよ」
「!?」
「あなたに、似ていたから」
「!!」
ギュッと太い腕に抱きしめられ、唇が重なった。
息が出来ない程の激しい抱擁。
(……熱い……)
アラミスは、そっと目を閉じた。
◇◇◇◇
「アラミス、そろそろ行くぞ」
「はい!」
大聖堂の外からユエンに呼びかけられ、アラミスは振り返って返事をした。
すっかり旅支度を済ませた夫と、ヒューが手を振っている。あれから時々、三人で冒険の旅に出ている。ユエンもアラミスも引退してもおかしくない年だが、「どうしても!」と甘えてくるヒューの頼みを断れないのだ。
「では、カイト様。ソフィア様。行ってまいりますね」
仲睦まじく眠る二人に深々と礼をしてから、アラミスは駆け出した。
その顔には明るい笑みが浮かんでいる。
―――まるで本物の家族の様な彼女らの周りは、いつも温かな光に包まれていたという。
[おまけ]
「うう。この地図よく分かんないよ!」
「僭越ながら、逆さまでございます。ヒュー様」
「そもそも、この辺の地図じゃないしな」
「「!?」」
「ニヤリ(可愛いな二人とも)」
ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!
アラミス編、完結しました。
見た目はクールなのに、意外と熱いアラミスさんが書けて楽しかったです。
アラミスと言えば、私の年代だと「三銃士」だと思いますが……きっと若い子には分からないんだろうなあ……! くっ!
そう言えば、今日は宮城で地震がありましたが、皆様ご無事ですか??
まだ余震とかあるかもしれないので、十分にお気をつけてくださいませ。
次回こそ、アルちゃん編が書けたらいいなと思ってます。
今後ともよろしくお願いいたします。




