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(番外編)アラミス ー勇者の墓守 2ー

(寒い)


 転移した先は、大聖堂のある街よりもさらに北の土地だった。

 ここには、カイトが大魔術師によって『勇者』の力を封じられていた頃、冒険者仲間と共に一度だけ訪れたことがある。その時よりもずいぶんと冷える。

 ダンジョン内は外とは全く異なる気候をしているが、ダンジョンに潜る前に近隣の街で準備を整える必要があるため、あの時は寒がりのアラミスのために短い夏の時期を狙ってダンジョンに挑んだのだと今になって分かる。


(懐かしいな)


 夏と冬でかなり雰囲気は変わっているが、仲間達と通った酒場も、世話になった宿もそのまま残っていた。当時既にSSランクパーティとして世界的に有名であった『蒼穹の雷』の紅一点アラミスのことを、町の人々は今でも記憶していたらしく、立ち寄る先々で声をかけてくれた。「おお、あんたも来たのか」と笑顔で始まり、「この度は……いや、何でもない」と目を逸らせれることが大半であったが。

 町全体がどんよりと薄墨がかかった様に陰湿な雰囲気なのは、冬のせいだけではないだろう。

 SSランク冒険者ユエンの死は、ダンジョンで生計を立てている町にとっては非常に大きな意味を持つ。元々、ここのダンジョンは『コカトリスの巣』と呼ばれるA級のダンジョンであり、AランクからSランクの冒険者向けであった。それが突然、単独アタックだったとはいえ、SSランクの冒険者が死亡する程のダンジョンに変貌を遂げたのだ。当然、アタックを試みるパーティは激減した。今はまだ、ユエンが死んで間もないため、ダンジョン内に居る者や町に滞在しているパーティもいくらかはいるが、そのうち撤退するだろう。


 元『蒼穹の雷』のメンバーとはいえ、アラミスはSランクだ。全盛期はSSランクでも通用したかもしれないが、長い間ゴロツキ相手にしかしていなかったことと、寄る年波には勝てずSランクが精々だろう。もちろん、Sランク冒険者も世界には50人も居ないと言われており、アラミスの登場に期待を込めて目を輝かす人々も居る。しかし町人の多くが「SSランクのユエンが死んだのに、Sランクの女じゃなあ……」と諦めていることをアラミスは肌で感じ取っていた。


「お前も寒いか、▲▲▲」


 ダンジョンの入口を前に、アラミスが左腕を擦りながら尋ねた。

 アラミスに呼応する様に、左腕がブルンと波打つ。

 ▲▲▲はアラミスが体内に飼う蛇の真名であるが、人の言葉ではない。先祖に蛇の魔物を持つ『白蛇』の一族だからこそ発音できるのであり、人の耳には不快な音としか認識できないであろう。

 ▲▲▲と初めて出会った時、アラミスも▲▲▲もまだ幼かった。『テイム』という言葉すら知らなかったアラミスは「ちっちゃい蛇さん! 可愛いな。お友達になりたいな」と思った。一年かけて打ち解け、真名を知った。そうして計らずも▲▲▲をテイムし、『白蛇』有数の実力者となったのだ。


 魔物をテイムする方法はいくつかあるが、聖女サラのように『息をするようにテイム』できてしまう例は稀である。魔王の妹として生まれ、魔物が自ずと頭を垂れるソフィアも例外である。

 通常のテイマーは、魔物の真名を探り出し、自分の魔力で相手の真名を縛ることでテイムしている。この『真名を探る』という方法は人それぞれである。格下の魔物であれば力づくで聞き出すことが可能だが、同格、あるいは格上の相手となれば、あの手この手を使わなければならない。真名を知られることは魔物にとっても死活問題であり、手を尽くしている間に殺されることも多い。そのため、テイマーは最もハイリスク・ハイリターンな職業と呼ばれており、成り手が少なく希少価値が高い。

 たまたま強力な魔物であるウロボロスの幼体と出会い、友達感覚で契約できたアラミスもまたサラやソフィア同様、例外と言えよう。

 ▲▲▲以外の魔物と契約する機会がなかったため、アラミスのテイマーとしての実力は未知数である。


「本当に一人で行かれるのですか? アラミス様」


 心配そうな顔で、入口を守る冒険者ギルドの職員が声をかけてきた。以前会った時は、まだ駆け出しの少年冒険者だったはずだ。すっかり髭が生えて逞しくなったかつての少年の姿に、時の流れを感じる。


「はい。前に一度攻略したことのあるダンジョンなので、確か……40階層までは転移で行けたはずです。そこまで一緒に行ける人が、他に居ないでしょう? ユエンが死んだとされるのは最下層の42階ですから、ユエンの死を確認し次第、再び40階に戻ります。3日経っても私が戻らなければ、レダコート王国の冒険者ギルドに連絡して応援を頼んでください」

「分かりました……ご武運を」

「ええ。ありがとう」


 俺が行けたらいいのに、と肩を落とす青年の頭を一撫でして、アラミスはダンジョンへと足を踏み入れた。


 ◇◇◇◇


 入口付近の転移装置から地下40階の転移装置まで一気に飛ぶと、辺りの雰囲気がガラリと変わった。瘴気の濃さがまるで違う。並みの冒険者では息すら出来ないほどの禍々しい瘴気が洞窟内に満ちている。ダンジョンの主が代わったせいか、以前とは瘴気の質も変わっている。


 前のダンジョン主はコカトリスの変異体(S級)だった。

 当時Aランク以上Sランク以下だったカイト一人で立ち向かい、仲間達はサポートに徹した。格上の魔物相手に四苦八苦するカイトの様子に、アラミスは胃が擦り切れそうなほどハラハラしながら見守った。思わず手を出しそうになる度、ユエン達に抑え込まれたのが昨日のことのようだ。


(ああ、この部屋で休憩をとったな。私があの壁にもたれて、カイト様に膝枕して。ルーカスが魔法で火をおこして、ヤンがスープを作って、ユエンがパンを切り分けてくれたな。何度も手伝うと言ったのに、『カイトを寝かせてやれ』と断られたっけ)


 あの時は『私も料理くらい出来るのに』と卑屈に感じたものだが、今になって『お前も休め』という意味だったと分かる。

 勇者の力を封じられ、サイオン家から見放されたカイトとアラミスを『蒼穹の雷』の男達は家族の様に受け入れ、慈しんでくれた。生まれた時から『白蛇』の隠密として修業に明け暮れたアラミスにとって、普通の女性のように扱われることは違和感だらけであったが、妙な心地よさがあった。


『蒼穹の雷』として過ごした時間は、今でもずっと心の支えになっている。


 ヤンもルーカスも、魔王戦で死んだ。

 八年前にカイトも死んで、残っていたのはユエンだけだった。


 ユエンだけ、だったのだ。


「う……」


 思わず嗚咽が洩れる。

 涙など、カイトが死んだ時に枯れ果てたと思っていたのに。


(寒い……!)


 ガクッ、と膝が崩れる。どれだけマントを掻き寄せても、体の内側から凍っていくような寒気が襲う。


「……エン……ユエン……!」


(あなたまで私を置いて行くのか!?)


 ユエンまで居なくなった世界を想像し、急に言いようのない不安に襲われた。


 何のために生きているのだろう。

 凍えながら、何の希望も見いだせないままで、どうして私は生に縋りついているのだ。

 今日、明日ではない。

 十年後、二十年後、老いていくだけの人生を、独りで凍えながら生きていくのだろうか。


 そんな考えがグルグルと全身に纏わりつき、首を絞める。


(寒い)


 倒れ込みそうになった時、ふと何処からか声が聞こえた。


「!?」


 小さく、消え入りそうな声だったが、確かに「アラミス」と聞こえた気がする。


(まさか……!)


 逸る気持ちを抑え、アラミスは意識を集中させた。充満する瘴気の海の中を探ると、ダンジョンの奥から、強大な魔力の気配がした。

 恐らく、ユエンを喰ったとされるSS級の魔物だろう。


「!」

 

 自分でも驚くほどの気力が湧きあがり、アラミスは飛び跳ねるように立ちあがると、一気にダンジョンを駆け抜けた。


 幸い、新しいダンジョン主の存在に場が馴染んでいないのか、アラミスが苦戦するような魔物は出現しなかった。


(……ここか!)


 巨大な扉の前に辿り着き、アラミスは足を止めた。数を数えながら呼吸を整える。


 先程の声は、ただの空耳かもしれない。否、空耳に違いない。

 だが……


(ああ、カイト様。奇跡を……勇者の奇跡を……!)


 カイトから貰ったペンダントを握りしめ、アラミスは扉に手をかけた。


ブックマーク、評価、感想等、いつもありがとうございます。


コロナ、何処も大変ですね。怖いです。

皆様、ステイホームで小説を読みましょう!


アラミス編はもう一話続きます。

よろしくお願いいたします。

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