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(番外編)ランヒルドの恋 パート2 ー5

久々の投稿です。お待たせしてすみません!


 遥か昔。

 まだ、この世界が『古代』と呼ばれていた頃、一人の少年神が『古代龍』を創り出した。

 その最初の一匹……試作品として生まれたのが、青龍マールだ。


 人化した時の見た目も、性格も、そっくりそのまま創造主を真似て創られたマールは、神々のペットとして大層可愛がられた。


 ある時、神の一人がマールの番にと、『アンジェ』という名の雌の古代龍を創った。


 二匹は兄妹のように、あるいは幼い恋人たちのように仲睦まじく成長していった。


 だが、二匹が成体へなろうとしていた頃、悲劇が訪れる。


 アンジェがマールを食べたのだ。


 神の怒りに触れたアンジェは肉体を破壊され、その核を元にマールは再生した。


 それ故、青龍マールに番はいない。


 アンジェの核と、壊れかけた自分の核を持つマールは『不完全な古代龍』と呼ばれた。

 二つの核を持つが故に誰よりも強大な力を秘めながら、番を持たないが故に誰よりも幼いまま時が止まってしまったマール。


 心身共に未成熟な彼のことを、いつしか皆は『出来損ない』と呼ぶようになっていった。


 小さな古代龍は、今でも番を求めて彷徨い続けているという。


 ◇◇◇◇


「マール殿……」


 星空を眺めながら、ぽつり、とランヒルドが呟いた。


 夕刻にラグドールから聞いたマールの話は衝撃的だった。

 いつも明るく元気いっぱいのマールに、そんな過去があるとは想像もしていなかったのだ。


 大好きな相手から、食べられてしまったマール。


 その気持ちを思うと、自分のこと以上に胸が締め付けられる。


「む……痛っ……!」


 母の攻撃で傷付いた核が、鋭い爪で引っ掻かれた様に激しく痛んだ。自分にも古代龍や魔物の様な『核』があるとは知らなかったのだが、運悪く母の攻撃が当たりヒビが入っているらしい。兄やマールのおかげで普段は気にならないほど回復したが、時々、冷や汗をかくほど痛むことがある。


「マール殿……」


 ランヒルドは三回ほど深く呼吸をして、マールに思いを馳せた。


 もし、自分が父やアルシノエ、リュークや兄……そしてマールから食べられたら、どう感じるだろうか。

「彼らが望むのなら。彼らが喜んでくれるなら、喰われてやろう」と思うだろうか。相手を傷付けてでも生き残ろうと、足掻くだろうか。


(マール殿。あなたは、食べられることを選んだのですか……? それほど、アンジェ殿を愛しておられたのですか?)


 ズキン、と、先程とは違う痛みが胸に走る。


 アンジェというマールの番の存在が気になって頭から離れない。マールから愛されたことも、マールを傷付けたことも、死してなおマールの中に居続ける事にもモヤッとする。  

 アンジェの事を考えれば考えるほど、胸の奥にじわじわと赤黒い影が生まれてくる。


(これは嫉妬……??)


 はっ、とランヒルドは目を見開いた。


 リュークが聖女と並んで笑う光景を見た時は、とても切なく、寂しかった。

 その場所は自分の場所なのに、と泣きたくなった。

 だが、マールがアンジェを想う姿を想像すると、心の中でマグマがグツグツと溢れ出しそうになる。


(嫌だ!)


 自分は何て心の狭い生き物なのだろう。

 誰を想おうと、マールの自由なのに。

 なぜ、マールの事を考えると、こんなにも醜くなってしまうのだろう。

 こんな自分は、大嫌いだ。


「……マール殿に、会おう!」


 兄が、マールはランヒルドのために薬を採りに出かけているのだと言っていた。


 とても、嬉しかった。

 だが、このままでは自分はもっと醜くなってしまう。

 このままでは、きっと嫌われてしまう。

 そうなる前に、マールから離れよう。

 マールに会って、今までの礼を言って、もう大丈夫だと笑って、さよならをしよう。


 ―――そう心に決めて、ランヒルドはベッドへ潜り込んだ。


 ◇◇◇◇


 翌朝。

 眠れない夜を過ごし、初めて兄の結界から足を踏み出したランヒルドは大いに混乱していた。


 マールの気配が何処にもないのだ。


 例え世界の裏側に居たとしても、ランヒルドの魔力であれば思い浮かべた対象の所に転移できるはずだ。しかし、どれほど念じてもマールの存在を感じられなかった。


 理由としては、二つ考えられる。

 一つはダンジョンや強力な結界内にいる場合、二つ目は死んだ場合だ。


 普通に考えれば、古代龍であるマールが簡単に死ぬはずはないと分かるのだが、過去に喰われて死にかけた経験があると聞いたばかりのランヒルドは、パニックを起こしていた。


「母上っ!!」


 完全に冷静さを欠いたランヒルドが真っ先に向かった先は、母の所であった。

 母がパクリと小さなマールを丸呑みにする姿が思い浮かんだからだ。


「ぬっ! エルフだ! 誰だ、お前」


 母は昼寝をしていたのか、面倒くさそうに首だけを上げた。


「ランヒルドです! マール殿を見かけませんでしたか!?」

「マール? あの出来損ないのチビッ子か。……喰った!」

「母上えええええ!!」


 初めて出す音階の悲鳴を上げながら、ランヒルドは母への腹へと突進した。

 予想より痛かったらしく、母が小さく「ヌフッ!」と唸った。


「マール殿! マール殿! マール殿ぉ!」


 ドガン、ドガンと、ランヒルドがラエスローズの腹を殴りつける。母が数段格上の戦闘狂だという事も忘れて、ランヒルドは必死でマールに呼びかけた。


 全長30メートル姿のラエスローズにとって、2メートル程度のエルフなど気にするほどの存在ではない。先程の一撃は効いたが、まあいいかと昼寝を続行するつもりであった。


 しかしこの娘、エルフのくせに良いパンチをしている。


 ラエスローズは、初めてまじまじとランヒルドを見た。

 すると、このエルフが息子に瓜二つであることに気が付いた。という事は、自分とも似ているはずである。

 自分に娘が居たら、こんな感じだろうか、とラエスローズはようやく頭を働かせる気になった。


(そう言えば、この娘は自分を『母上』と呼んでいたな……知らんけど!)


 無駄だった。


「お前、気に入った。喰ってやる」

「!?」


 ランヒルドは一言も発することも出来ぬまま、パクリ、と考えることを放棄した母の口の中に吸い込まれていった。


 ◇◇◇◇


 マールは、ラエスローズの腹の中で迷子になっていた。


 ランヒルドの傷付いた核を修復するには、母親であるラエスローズの体から採れる白い魔石の粉でヒビを埋めるのが確実だと、ラグドールに聞いたからだ。

 ランヒルドの修行をラグドールに任せ、マールはラエスローズの元に飛び、口の中に飛び込んだのだった。


 予定では、すぐに魔石を見つけ出し、その日の内に帰れるはずだった。

 だが、ラエスローズの体内は、例のごとくダンジョンになっていた。

 宿主の性格を反映したのか、ラエスローズのダンジョンに出現する魔物達は好戦的である。戦略と呼べるものはなく、ひたすらぶつかってくるだけなのだが、数が多い上に、一匹一匹がでかい。

 マール自身も頭を使うことを嫌うため、「もー! 面倒くさいゾ!」と正面からペチペチと叩き落としていたのだが、流石に疲れてきた。

 水中で休もうと、血管の中に潜り込んだのが悪かった。

 ゴンゴンとぶつかってくる赤血球や白血球と共に、とてつもない速さで体中を押し流され、自分が今どこを彷徨っているのかさっぱり分からなくなってしまったのだ。

 血管の外からは簡単に侵入できたのに、内側の壁は弾力があり拳が通らない。


 それから何カ月も、流され続けている。


「うがああ……目が回るゾ……気持ちが悪いゾ……早く可愛い女の子の顔が見たいゾ……ん?」


 ふと、ランヒルドの気配がした。

 ここはラエスローズの体内だ。ランヒルドが居ていいはずがない。


 ゾッと、背筋が寒くなる。


 マールでさえ、面倒だと感じるほどの魔物がひしめいているのだ。ランヒルドが無事であるはずがない。それに、どんな理由があったとしても、実の母に食べられてランヒルドが傷付かないはずがない。


 ランヒルドの涙が、浮かんだ。


「ラーン!!」


 居ても立っても居られない衝動に駆られ、マールは全力で血管壁を貫いた。


ブックマーク、評価、感想等、いつもありがとうございます!

仕事と体調不良のため、中々投稿できずに申し訳ありませんでした!

ちなみに、昨日、新型コロナワクチンの2回目を打って、今37.8℃です(笑)

良かった。ちゃんと免疫が機能している!


さて、次回でランちゃんとマール編は終わりです。

その後、一話だけロイの死の直前の話を投稿します。


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