(番外編)ランヒルドの恋 パート2 ー2
白龍ラエスローズは、二人を品定めするかの様に、ゆっくりと旋回している。
その口が突然ニヤリ、と吊り上がった。
「お前、強いな! 誰だ!」
ビリビリと空気が振動する。
ビクッとランヒルドが肩を震わせる。
初めて出会う母への畏怖の念で、ランヒルドの心身はすっかり縮こまってしまっていた。
そんなランヒルドをマールはデデンと両手両足を広げ、ラエスローズの威圧から守っている。が、20メートルを超すランヒルドの前では、2メートル弱のマールはあまりにも小さかった。
案の定、ラエスローズはマールが目に入っておらず、先程、自分の威圧を跳ね返したのは自分と同じ白龍だと思いこんでいた。
白龍ならば自分か夫のイルセージ、または息子のラグドールの子に違いないが、この若い小娘には全く記憶にない。
「お前は誰だ! 答えろ!」
「僕は青龍マールだゾ! 久しぶりだな、ラエスローズ!」
「ぬっ! 腹話術か!」
「違うゾ! ここだ、ここ! もっと下を見ろ!」
「ぬっ!? チビッ子……青い……おお! 『出来損ないの青龍』か!」
「……!」
マールがビクッと固まった。
「むっ?」
『出来損ない』とはどういう意味だ、とランヒルドは不安げに首を傾げた。
マールは確かに小さいが、内に秘めた魔力は計り知れないものがある。未熟なランヒルドから見ても、マールはジークや母と同格……いや、それ以上に見える。
マールは怒りなのか、哀しみなのか、フルフルと小刻みに震えていた。
母が何を思ってそう言ったかは知らないが、少なくとも、魔王戦で共に戦い、この数日間、自分を励まし守ってくれたマールに対して、『出来損ない』という表現を使った母にモヤッと怒りが湧いた。
いつも陽気なマールが無言で何かに堪えている。その様子からは、『出来損ない』という言葉が酷くマールを傷付けるものだと伝わってくる。
いくら生物の中で最も位が高いと言われる白龍でも、言ってもいい事と悪い事がある。
小さなマールの小さな背中が一層小さく見えて、ランヒルドは思わず人化して後ろからマールを抱きしめた。人化したのは、ドラゴンの姿では上手く腕を回せないからだ。それでも左腕がまだ肘より少し先までしか再生していないため、マールを抱きしめるにはかなり力を入れて密着しなければならなかった。
突然の温もりと締め技に、「うひゃあ!」とマールは目を丸くして翼をバサバサとはためかせた。
「ラン! ビックリしたゾ!」
「母が失礼な事を言った。申し訳ない……!」
「……気にしてないゾ! ランは良い子なのだな」
傷付いているはずなのに、マールはおどけた様子でランヒルドごとクルリと回った。ランヒルドに癒されて元気が出たのか、マールはキリッとした表情でラエスローズを睨んだ。
「僕のことはどうでもいい。それより、後ろの可愛い女の子は、ランヒルドだゾ!」
「知らん!」
「!?」
今度は、ランヒルドが目を丸くする番だった。ポカンと、マールも顎が外れている。
「い……いやいやいやいや! お前の娘だろ!?」
「そんな弱々しい娘など、産んだ覚えはない! 知らん!」
ランヒルドの表情は見えないが、ギュッと、マールの腹に回された腕に力が入ったのが分かった。その瞬間、マールの胸がズキンと痛んだ。先程、『出来損ない』と言われた時よりも、ずっと痛いと感じた。
「よくもあのオババ……」
「大丈夫です、マール殿」
今にもラエスローズに飛び掛かりそうなマールの耳元で、「大丈夫です」と弱々しい声が繰り返した。
心配そうにマールが見つめる中、ランヒルドはマールから手を離すと、スッと母の目の前に浮遊した。
気を取り直すように大きく深呼吸をして、おずおずと口を開く。
「わ、私は……貴方と大魔術師リーンとの間に生まれたランヒルドです」
実の母親からの強烈な威圧と、存在を否定されたことに相当なショックを受けているだろうに、ランヒルドは歯を食いしばって対峙している。そんな健気な娘の気も全く考える様子も無く、ラエスローズは怒りを顕わにした。
「弱い者に用はない! 去れ! 去らねば殺す!」
「私はっ! 私は強くなりたいのです! 母上、修行を」
「死ね」
「!!」
ラエスローズの口が大きく開き、白い閃光が空を裂いてランヒルドに襲い掛かった。グッと、全身全霊を込めて魔力で身を固めたが、光が掠っただけでランヒルドの細い体は弾き飛ばされてしまった。
「きゃあっ!!」
「ランを虐めるな! 白龍ババア!!」
我慢の限界だ。
マールの小さな体が、ラエスローズの白い腹のど真ん中に激突した。
ドォォォン!! と、凄まじい衝撃が世界を揺らす。
「くわっ! お前、強いなああああああぁぁぁ……」
その衝撃でラエスローズは遥か彼方に吹き飛び、キラーンと星になった。
マールは急いで旋回すると、ランヒルドを探した。ラエスローズの攻撃を至近距離で喰らったとはいえ、白龍であるランヒルドが死んだとは思えない。だが、全くの無傷であるはずがない。
「ラン! 何処だ!? ラン!」
見回すが、ランヒルドの姿が見当たらない。
当たり所が悪く弱っているのか、魔力を探るが感知できない。
マールの胸に、不安の波がドッと押し寄せる。ラエスローズを無視してランヒルドを追いかければ良かったと、後悔の念が込み上げる。
「ラン! ラン! 頼むから返事してくれ!」
マールが泣きそうな声で叫んだその時、不意にマールの正面に白い影が現れた。
ランヒルドによく似た面立ちの青年の姿をしている。
「!? お前は……」
驚くマールに、青年はスラリと優雅に一礼した。
「案内します、マール様。……妹の所へ」
いつも応援ありがとうございます。
今回はランちゃんママとランちゃん兄の登場です。
ママは、何というか、戦闘民族な感じの方です。脳内がサイヤ人です。
ランちゃん編はあと2話くらいで終わります。
その後は、アルちゃん編を想定しています。
今後ともよろしくお願いいたします。




