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(番外編)ランヒルドの恋 パート2 ー1

「お前は誰だ!」

「ランを虐めるな、白龍ババア!」


 巨大な白と青のドラゴンがぶつかり合う。


 それを見つめる乙女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。

 

 ◇◇◇◇


 2日前。

 母ラエスローズに稽古をつけてもらうため、ランヒルドは愛しのリュークと父の元を離れ、青龍マールと共に旅立った。


 白龍の里は、広大な岩場が続く巨大な孤島の中央にあるという。


「行ったことがあるゾ!」と胸を張るマールに導かれるまま海の上を飛び続け、ようやく島が見えるところまでやって来た。転移で来ることもできたそうだが、急に現れると敵とみなされ総攻撃を受けることがあるらしい。恐ろしい話だ。


 ランヒルドにとっては、初めて訪れる故郷である。

 そればかりか、母に会うのも初めてだ。

 母は他のドラゴン族と同様、子育てには関心がなかった。父の話から察すると、ランヒルドの入った卵を産み落とすと、すぐにどこかへ飛び立ったようだ。もしかしたら妊娠していたことも、産んだことも気が付いていなかったのではないだろうか。

 そんな母であるから、感動の対面とはならないだろうし、傷付くだけだと分かっている。

 それでも会いに行くのは、強くなってリュークや父の力になりたいからだ。


 ランヒルドは決して弱いわけではない。


 古代龍と古代エルフから生まれた唯一無二の存在であり、潜在能力だけを見ればSSS級に該当する。実際に、弱い魔王をランヒルド一人で倒した経験もある。

 しかし、『魔王が覚醒したと同時に目を覚まし、魔王を倒すと数日で眠りにつく』という人生を歩んできたランヒルドは、実際には20年ほどしか起きていた時間が無く、圧倒的に経験値が不足していた。

 心も体も、まだまだ未熟。せっかくの血統が、宝の持ち腐れだ。

 そのため、同じSSS級の他の古代龍達からは『SS級の小娘』としか思われていない。


 ランヒルド自身も、先の魔王ヒューとの戦いを思い返す度、魔王相手に手も足も出ないばかりか、リュークに守られてキュンキュンしていた自分の不甲斐なさを恥じていた。


(もっと強くなりたい)


 その願いを叶えるためには、ドラゴンとしての能力を開花させることが必須である。

 そのためには最強の古代龍であり、自分と同じ白龍である母から学ぶのが一番だと考えたのだ。


 それに……ほんの少しだけ、母からの愛情を期待していた。


 ランヒルドは、年上の女性からの愛情を受けたことがない。物語に出てくる母親達は無償の愛を子供に注ぎ、時にそれは奇跡を起こす。

 母は、ドラゴン族で最も美しい白龍だと聞いている。

 そんな母の胸に抱きしめられたら自分はどうなってしまうのだろうと、母のことを考える度にランヒルドのペタンコの胸は早鐘をうつのだ。


「もうすぐ着くゾ。ラン、疲れてない?」


 龍化したランヒルドの10分の1の大きさもないチビドラゴンのマールが、飛ぶ速度を落として振り返った。

 マールは白龍や黒龍と並ぶ古代龍の一匹であるが、人型のランヒルドが抱っこして歩けるほど小さくて可愛らしい。まだ人化した姿を見たことはないが、きっと幼児の様に愛らしいのだろうと、ランヒルドは想像している。


「大丈夫だ。ありがとう」

「疲れたら運んでやるゾ! 疲れてなくても、乗っていいゾ!」


 ルンルンと、楽しそうにマールが一回転する。一人だったら、母と会う前に怖気づいてUターンして帰っていたかもしれない。マールの明るさと可愛らしさが、ランヒルドに勇気を与えてくれている。マールに感謝だ。


 そう言えば、とランヒルドは首を傾げた。


 古代龍達は、それぞれに『番』が居る。

 神々が、子孫を残せるようにと雄と雌をセットで創り出したからだ。


 母にも白龍の夫がいるはずだし、リュークの父ジークにもリアという番がいる。

 目の前でパタパタと小さな羽で飛んでいるマールにも、きっと奥さんがいるはずだ。マールの見た目が子供すぎてピンと来ないが、ひょっとしたら、子供もいるのかもしれない。


 そもそも、古代から生きているマールの見た目が幼いのは何故だろう。


 昔、リュークから「古代龍は体が最も成熟し、心もある程度落ち着いた頃に成長が止まる」と聞いたことがある。そのため、ほとんどの古代龍は見た目が20代後半から30代である。マールの人化した姿を知らないため何とも言えないが、少なくとも中身は成熟しているとは思えない。ランヒルドが人化していると、「わーい」と言って甘えてくるくらいなのだ。


 ちなみにランヒルド自身は、見た目は20代半ばから後半くらいだが、まだ成長期な気がしている。長期の眠りについている間は成長が止まるため、もしかしたら、マールも人生のほとんどを寝て過ごし、見た目通りの期間しか起きていないのかもしれない。


 だとすると、雌の青龍はどうしているのだろう。


 幼い夫が成長するのを夢見て、何処かで眠りについているのだろうか。マールと番になることを諦めて、別の誰かと暮らしているのだろうか。


 マールの小さな尻尾を眺めながら、幸せだといいな、とランヒルドは会ったこともない雌の青龍に思いを馳せた。


「むうっ!」


 突然、ピタッとマールが止まった。

 慌ててランヒルドも停止する。


「どうした、マール殿」

「ラン! 構えて! 来るゾ!」

「むっ?」


 ランヒルドが首を傾げたその時だった。

 凄まじい咆哮が二人を襲った。まるで巨大な魔力の岩をぶつけられたかの様な衝撃だった。


「あああ!」

「ラン! 僕に捕まって!」


 マールが手を伸ばしてくれなければ、遥か彼方に吹き飛んでいたに違いない。


 魔王と対峙した時のような圧迫感がランヒルドを襲う。肺も心臓も、脳みそまでも握りつぶされていくような感覚に、言いようのない恐怖心が芽生える。

 死んだ方がマシだ、という想いが沸き起こり、耐えきれずにランヒルドは目を閉じた。


「があ!」

「!?」


 マールが吼えた。

 すると、パアン、という破裂音と共に、圧迫感が消滅した。

 はっ、とランヒルドが目を開ける。先程の恐怖が、嘘の様に消えていた。

 マールが守ってくれたのだ。

 その小さい背中が何故か歴戦の戦士の様に思えて、ランヒルドの胸が小さくトクン、と疼いた。


 マールは無言で正面を見つめている。

 ときめいている場合ではない。

 ランヒルドも気持ちを切り替え、マールの視線を追った。


 その先に……一匹の白く輝く古代龍がいた。


ブックマーク、評価、感想等、大歓迎です。

励みになりますので、是非よろしくお願いします!


今回からはランヒルドの話になります。

実は本編で書きたかったんですが、本編作成中にTIA(一過性脳虚血発作)を起こしてしまい、完結出来ないかも!と焦って、サラと関係ない所をかなり省いた経緯があります。

なので、いつの間にか『いい感じ』になってたランちゃんとマール君のなりそめを、改めて書かせていただくことにしました!

本編第三章はバタバタと終わらせた感があるので、番外編で補完してしまって申し訳ございません!


これからも応援していただけると幸いです。


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