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(番外編)シズとサザレ1 ー幼馴染との再会ー

 サラが生まれ育ったノルンの街を離れて王都へ旅立つ一年前。


 シズは実に七年ぶりとなる長期休暇を取得し『鬼の里』に向かっていた。


 『ゴルド命』と背中に書いて歩くシズにとって、ゴルドから離れる休暇など無用の長物、月夜に提灯、蛇足に他ならない。

 前回の休みも、里で開催される15歳の成人式に出席するため、仕方なく帰ったに過ぎない。しかもその時、帰りたくなかったシズは暴れに暴れ、こともあろうにゴルドの部屋に立て籠もり、シズを捕獲しようとした『鬼』数名に怪我人が出る騒ぎを起こした。いつもなら「子供のすることだ」と笑って許してくれるゴルドだったが、流石に成人を迎える『鬼』を甘やかす訳にもいかず、隣国でスパイ活動を行っていた兄のシグレを呼び出す事態となった。要するに「お前の妹だろ。何とかしろ」というやつだ。結局シズは、全身に血管を浮き上がらせ涼しい顔で怒るシグレに捕獲され、里まで強制送還されたのだった。

 『鬼』としては珍しく転移が使えないシズは、ゴルドと数日離れることとなり里に帰ってからも荒れていた。

 そんなシズを、仕事に戻ったシグレに代わって慰めてくれたのがサザレという少年だった。サザレはシズが幼い頃から一緒の屋敷で育った幼馴染だ。シズよりも一つ年下で、少女のように可愛らしい顔立ちをしていたせいで、シズからは完全に弟……というより子分扱いされていた。サザレは二本の角を持つ『鬼姫』であり、並みの『鬼』達よりも優れた魔力を持って生まれてきたのだが、本来外へ放出するはずの魔力を全て体術として昇華させたシズには歯が立たず、良い玩具になっていた。


(そう言えば、あの時はあばらを2本折ってしまいましたね……)


 暴れるシズを宥めようとして、サザレは派手に投げ飛ばされて崖から落ちた。鬼姫の驚異的な回復力がなければ死んでいたかもしれないと、シズは頭領のテスから本気で怒られた。


(サザレに会ったら、謝らないといけませんね。私ももう大人ですから)


 と、シズは露天風呂に浸かりながら月を見上げた。


 今回、シズがゴルドの傍にいる時間を削って里帰りする理由は、このサザレにある。

 数日前、里からゴルドの元に「サザレが任務に失敗して大怪我を負った」と報告が入ったのだ。幼い頃に両親を亡くしたシズにとって、同じ家で育ったサザレは『家族』同然だった。兄であるシグレと同様、いつも無事を祈っていた相手の突然の不幸に、シズは居ても立っても居られなくなった。

 そうして、まさに断腸の思いで休みを取り、僅かな荷物を背負ってシズは旅に出たのだ。


 王都を離れて二日。

 温泉地で宿をとったシズは、「せっかくだし」と、露天風呂を満喫していた。夏場で閑散期という事もあり、他に客はいない。

 ゆっくりと足を伸ばし、岩に頭を預けて月を見上げる。

 頬に当たる風が冷たくて心地好い。

 考えてみれば、ゴルドに仕えるようになってから、これほどのんびりとした事はなかった。毎日が「ゴルド様、素敵!」と興奮していたのだから仕方ない。


(怪我は大丈夫かしら……あの子、ひ弱だから)


 最後に見たサザレは、シズよりも小さく、線の細い美少年だった。あれから七年が経ち、21歳になっているはずだが、シズの中ではあの頃の姿のまま時が止まっている。そんな可愛い弟が大怪我と聞いて、情の厚いシズの胸はズキズキと痛んだ。自分が怪我を負わす分には良いのだが、赤の他人がサザレを傷付けることは許せない。


(任務も失敗したと言っていましたね。心身共に傷付いているのではないかしら)


 シズは唇をギュッと噛みしめると、ざぱん、と勢いよく立ち上がった。


「私が守ってあげます」

「誰を守るの?」

「誰っ!?」


 気配はなかったはずだ。

 急に背後から声をかけられ、シズは戦闘態勢をとった。

 ……が、湯煙の向こうに立っていたのは、腰にタオルを巻いただけの麗人だった。ここは女湯のはずだが、どう見ても骨格が男だ。そして均整のとれた細身の逞しい肢体の上に乗った美しい顔には、見覚えがあった。


「ふっふーん。私よ! お久しぶりねぇ、シズ」

「……は……?」


 可愛かった弟は、オネエになっていた。


「あなた、怪我はどうしたの!? 瀕死じゃなかったの!?」


 あまりの事態に、シズは自分が一糸まとわぬ姿であることも忘れ、サザレの元へ駆け寄った。やーん、と顔を赤く染めながらも、嬉しそうにサザレはクネッと腰を曲げた。 


「してるわよ? ほら、見て。肩んとこ!」

「なっ! 結構深いわ」

「ほらほら、こっちも。チラリ」

「ソコは見せるな!」

「いやね。ソコじゃなくて、お・し・り!」

「尻も見せるんじゃありません!」

「えー。全身大公開しちゃうわよ……シズみたいに!」

「は?」


 シズみたいに、と言われてようやくシズは自分が裸である事を思い出した。

 隠密である『鬼』達は、幼い頃からあらゆる訓練を受けているため、異性の前で裸になることにさほど抵抗はない。命のかかった場面において、恥ずかしさで身動きが取れなくなっては、自分だけでなく仲間や主人まで危険に晒すことになるからだ。

 とはいえ、わざと見せ合うというシチュエーションを想定した訓練はない。

 いくら弟同然の相手とはいえ、21歳の成人男性だ。女性の様な言動と色っぽい顔のせいでうっかりしていたが、記憶の中のサザレよりもずっと大人びて、客観的に見ると「かなりいい男」である。

 急に恥ずかしさが込み上げてきて、シズはクルリと後ろを向くと、ざぼん、と風呂に浸かった。全身が熱いが、風呂に入っているせいだと信じたい。


「何が大怪我ですか! 全然、元気そうじゃないですか!」

「え!? シズったら心配してくれてたの? アタシ、嬉しい! 抱いていい!?」

「却下します! 触ったら折りますよ!」

「ドコを!?」

「アレとアレとソコです」

「嫌よ!? サザレさんのサザレ君に手を出さないで!」

「何を言ってるんですか!」

「え? ソコってコレでしょ? チラリ」

「見せないでください!」

「男のチラリ……ダンディズム・チラリズム、よ」

「ただのセクシャル・ハラスメントです!」


 ガンッ、とシズから殴られ、「シズったら怖いわー」と額を擦りながら、サザレもお湯に肩を沈めた。少し離れてシズと並ぶ。


「冗談はさておき、大怪我をしたのは本当よ。ただ、『瀕死の重体』ってことにしたのには、理由があるの」

「理由?」


 サザレが言うには、これも任務の一環なのだそうだ。


 サザレは数カ月前から、隣国サリワリルでとある任務に携わっていた。

 この半年ほど、奇妙な噂がレダコート国王に流れてきた。サリワリル王国の現国王に第二王妃として嫁いだレダコート国王の妹ユーリアが、違法に奴隷の売買をしているというのだ。しかも、その資金を得るために国宝を盗んだという。そのことを理由に、王妃の処刑と多額の賠償金をレダコートに求めるべきだと、サリワリル王国内で重臣たちが騒いでいるらしい。その真意を見定め、必要とあらばユーリアの亡命を手助けすることが、今回のサザレの任務だった。

 一貴族でしかないシェード家がここまでする理由は一つ。

 ユーリア殿下の母カミラが、ゴルドの従妹だからである。ゴルドの父の姉の娘であるカミラは、幼い頃ゴルドと共に育った時期があり、ゴルドにとっては実の姉の様な存在である。その姉の娘であるユーリアを、サリワリル王国に嫁ぐ前、ゴルドは目に入れても痛くないほど可愛がっていた。そんな可愛いユーリアのピンチに『鬼』が動かないはずがない。


「もちろん、ユーリア殿下に非はなかったわ。反レダコート派の貴族の仕業だと思って調査してたんだけど……色々あって、怪我しちゃったってわけ。せっかくだから『瀕死』ってことにして、相手を油断させようって作戦よ」

「では、まだユーリア殿下はピンチのままなのですね?」


 難しそうな顔で、シズは顎に右手を添えた。


「これは……チャンスですね」

「やだ、嫌な予感」


 ゴルドの愛するユーリアの危機を救ったとなれば、ご褒美にあんな事やこんな事をしてくれるかもしれない。


「サザレ! 私も手伝います!」

「言い出すと思った!」


 思い込んだら一直線。

 一度シズが決めたことを覆せる者はいない。

 はあ、とため息を漏らして、サザレは右手を振った。


「仕方ないわね。詳しい話は明日するから、先に上がって? アタシ、もう少しゆっくりして出るわ」

「分かりました! 待っていて下さい、ゴルド様! シズが必ずユーリア殿下をお救いいたします!」


 ざばん、と勢いよく立ち上がると、シズは一糸まとわぬ姿のまま脱衣所へと消えた。


「やあねえ、シズったら……無防備すぎんだろ」


 嫁入り前の若い娘が、男の前で全裸で飛び跳ねるなど狂気の沙汰だ。

 耳まで赤くなりながら、ざぷん、とサザレは湯の中に消えた。


ブックマーク、評価、感想等、いつもありがとうございます。

励みになっています。


今回から3話ほど、シズとサザレが主役のお話になります。

サラがまだ7歳の頃になります。シズと出会う前ですね。

シズが久々すぎて戸惑っておりますが、頑張ります(笑)


最後までよろしくお願いします!

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