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27. パルマ、武器屋を訪れる

仲良し3人組が4人組になりました。

「こんにちは。リュークおじさんいます?」

 ガランガラン、と呼び鈴を鳴らして、武器屋の敷居を跨ぐ者がいる。パルマだ。

「あれ? 君、もしかして」

「失礼しました。店間違えました」

「えええ!? 待ってよ、僕だよ、パパだよ、お父さんだよ!」

 無表情で店から出ていこうとする茶髪の少年に、リーンは慌てて追いすがった。その腕を掴み、がばりと抱き寄せる。長身のリーンの懐に、少年はあっさり収まった。

「息子ちゃーん!!」

「うわ。放してください。僕に変態の知り合いはいません。一体、どちら様ですか」

 パルマはひらりと腕から抜けると、身を翻した。

「お小遣いあげるよ?」

「お久しぶりです。父上。お元気そうで何よりです」

 金で釣る、という最終手段を最初から使ってきた父に、パルマはあっさり手の平を返して向き直った。満面の笑みである。

「……何か、父は寂しい」

 リーンはいじけた。

「大丈夫ですよ、父上」

「え?」

「しばらく会わないと神聖化してしまうのに、会うと『ああ、こんな人だった』と幻滅する僕がいますよ」

 だから、寂しくありませんよ? と親指を立てる息子に、「君、地味に意地悪だよね」とリーンは更にいじけた。


 武器屋にはリュークとリーン、そして、サラが今日も休むことを伝えに来たシズがいた。昨日の件について、リーンを交えて三人で話をしようとしているところにパルマが現れたのだ。

「父? 息子? どういうことですか? そういうプレイですか?」

 シズが首を傾げる。

「どういうプレイ!?」

 何でそうなるの!? と、リーンは突っ込んだ。

「レダスは本当の息子だよ?」

「レダス? もしかして『レダスの記憶持ち』ですか?」

 シズは目を見開いた。『()』としてこの国の裏社会で生きるシズは、当然の様に『レダスの記憶持ち』について学んでいる。『鬼』がシェード伯爵家固有の隠密組織なら、レダスを祖とする『(ふくろう)』は王家の隠密なのだ。格上の相手だ。

「ちょっと混乱しているのですが、このお坊ちゃまがレダス様として、その父君と言うことは、つまり……!」

 シズは口元を手で覆った。

「妄想がひどすぎます! リーン様!」

「妄想じゃないよ!? 伝説の救国の魔術師に憧れて、勝手に名乗ってる痛いエルフじゃないよ!? 僕、本人だよ!?」

「あんなこと言ってます。嘘ですよね? リューク様」

「本当だ」

 リーンを指さして、憐れんだ目で見つめるシズに、リュークは静かに口を開いた。

「リーンは現存する唯一の古代エルフだ。……言ってなかったか?」

「聞いてません!」

 シズはリュークのフードに掴みかかった。

 古代エルフは神話の時代に神々によって作られたと云われている。

「あの耄碌(もうろく)具合から言って、そうとう年季の入ったエルフだとは思っていましたけど、そんな重大事項をなぜ黙っていたのですか!? リューク様がドラゴンと聞いた時より驚きましたよ!」

「もうろく……」

 リーンは涙目だ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 シズの勢いに呆気にとられていたパルマが、話に割って入る。

「父上もリュークおじさんも、そんな超機密事項を何故この人にペラペラしゃべっているんですか!? この国の根幹に関わるトップシークレットですよ!?」

 黒髪に深い茶色の瞳という時点で、シズが『鬼』の一員であることは分かり切っていたが、この二人がこれほどまでに『鬼』と接することは過去になかったはずだ。女性に対し懐が広いリーンは兎も角、リュークが首を絞められて大人しくしているなど、考えられないことだった。

「大丈夫だよ。レダス。彼女は、現代の聖女サラちゃんの侍女だから」

「サラ?」

 それは昨日聞いた名前だった。

「なるほど。……繋がりました。聖女様の従者なら、仕方ありませんね」

 頭の回転の速いパルマは、聖女、というキーワードだけで状況を理解した。

「でも、くれぐれも他言無用ですよ? 『鬼』が知っていい範囲を超えている」

 ピリッとした空気を身に纏うパルマに、シズはリュークから手を離し向き直った。右手の拳を胸に、左手の拳を腰の後ろに回し、片膝を突いて軽く頭を下げた。『鬼』の最敬礼を示す所作である。

「皆様の許可がなければ、私が他言することはありません」

「『梟』に誓って?」

「『梟』に誓って」

 国のシンボルである神聖な『梟』に誓いを立てることは、神に誓いを立てることと同義とされる。口に出して誓うことで、僅かではあるが、契約に似た効果ももたらされる。

「今更何だが」

 ぽつり、とリュークが呟く。三人の視線がリュークに集まる。

「何故、梟なんだ? 確かに梟は美しくて珍しい生き物ではあるが……」

「え、ええええええええ?」

 リュークの問いに、リーンが素っ頓狂な声を上げる。何事かと、パルマとシズはリーンを見た。二人は、梟がかつて大魔術師リーンが乗ってきた動物であり、それに敬意を払ったことが由来だと、認識している。『それを知らないことに呆れている』にしては反応が大げさだった。

「昔、この辺りの人たちが魔物の襲撃にあって困ってた時、僕たち助けに入ったよね?」

「ああ」

「急に現れても混乱を招くかも知れないから、助けがきたことをアピールするために、空から飛んでくる演出をしよう、って君と話したよね?」

「ああ」

「それで僕、龍化した君に乗ったよね?」

「……ああ」

「正直、過剰演出だったよね? 魔物に襲われてる上に、ドラゴンまで現れたんだもの。人々は混乱して、パニック状態だったよね?」

「…………」

「そんな人々を見て、君、言ったよね」

 リーンは一度、言葉を切る。

「『私はドラゴンではありません。ただの『梟』です』って」

「俺のせいかあああああ!」

「「あんたのせいだあああああ‼」」


 『梟』の由来は、人々のドラゴンへの忖度(そんたく)だった。


 息ぴったりにパルマとシズが突っ込みをいれたところで、パルマはふと来店の目的を思い出した。

「あやうく忘れるところでしたが」

 今度はパルマに注目が集まる。

「おじさん、昨日、奴隷商人のところにいましたよね?」

「ああ」

「あの半魔のこと、詳しく教えてください」

「彼は半魔ではない」

 リュークは、鎖に繋がれた漆黒の青年の姿を思い浮かべた。


「彼は、『ギャプ・ロスの精』だ」


いつもありがとうございます。



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