36. 復讐
「カシワギ マシロ……」
サラの居なくなった部屋で、ノリアはその名を繰り返す。
カナに口うるさく指図していた女教師に復讐するため、探偵を雇って『カシワギ ケイコ』の素性を徹底的に調べ上げた。数ある調査報告書の中にあった、数年前に自宅で心筋梗塞で亡くなったという伯母の名が『カシワギ マシロ』だったはずだ。
カナは天才だった。
その上、有り余る財力で幼い頃から様々な英才教育を施されてきた。
そのため、大した努力をせずとも大概の事は理解できたし、覚えている。
だからこそ、マシロという女がゲーム中に亡くなったことも、いつ、何時に、何処で亡くなったかまで明確に覚えている。
ゲームのタイトルまでは資料に無く今まで気にもしていなかったが、おそらく『聖女の行進』の第一作目だろう。六十歳を過ぎたババアが乙女ゲームにはまり込んで死ぬなど狂気の沙汰かと思ったが、最期の瞬間まで第二作目をプレイしていた自分といい勝負かもしれない。
(計画変更ね)
ノリアは椅子を引いてよじ登ると、ペンを握った。
日記には『聖女の行進 第二作目』の詳細なルート別ストーリーと共に、今後の人生設計が書かれている。
今日は、8つのルートの内『異国の王子ルート』についてまとめる予定だったが、予定を変更して人生設計を見直すことにした。
ノートをパラパラとめくると、そこにはヒューを婿に迎え自分が王になるための綿密な計画がびっしりと書かれていた。メリルと聖女を利用して、邪魔なグラシア妃を排除するのも計画の一部に過ぎない。
魔王の居なくなった世界では、ノリアがヒロインとして活躍できる要素はない。
とはいえ、マシロが同じ立場であれば、一国の王女として世界の平和や貧困問題の解決、医療の発展などに取り組み、より良い社会を構築するために奮闘したかもしれない。
しかし、はなから他人のために力を使うという概念の欠如したカナという少女は、『将来自分の邪魔になる者を上手に取り除きながら、『乙女ゲーム』の要素はしっかり楽しみつつ、逆ハーレムを築き、世界を牛耳る』という事を当面の目標として掲げていた。
カナにとって、今の自分が置かれた状況は『第二の人生』ではなく、ゲームの世界を舞台にした『死後の世界』に過ぎないのだ。
だからこそ、簡単に計画は変えられる。
(あの女の幸せなど、許さない)
カナの記憶が戻った後も、自分の死因など気にはしていなかった。だが、あの女教師の親族が目の前にいるとなると、話は別だ。
きりっと唇を噛む。
(復讐してやるわ)
しかし、魔王を倒し世界に平和をもたらしたサラは、多くの者に慕われている。
うかつに手を出せば、身を滅ぼすのはこちらだ。
(『ボッチルート』……ということは『救済ルート』?)
ノリアは机をトントンと指で叩きながら頭をフル回転させる。
(だとすると、サラは既に大魔術師リーンを手に入れているはず……。いえ。そうとも限らないわね。ティアナの話だと旦那を亡くしてずっと落ち込んでいたと言っていたわ。『救済ルート』なら、ロイの死後一年以内に結ばれるはずだもの)
だとすると、第二作目の隠しルート『孤独の魔術師(別名「復活のエロフ」)』が再現できるかもしれない。リーンは第一作目に引き続き、二作目でも攻略対象キャラなのだ。
リーンを味方につけることができれば、聖女とも魔力が釣り合うだろう。争いになっても王家とリーンが組めば、シェード家など簡単に捻りつぶせるだろう。適当な理由をでっちあげて、聖女ごとシェード家を破滅に追い込むか。
(いえ。この世界のサラには『天使族』がついている。下手な策略は暴かれるわ)
ならばどうするか。
今のノリアの武器は、王家と勇者一家だけだ。
(勇者一家……? そうだわ)
トン、と机を叩く指が止まる。
ニヤリ、とノリアはほくそ笑んだ。
ノリアはこれまでの計画書に大きく×を付けると、パタン、とノートを閉じた。
ここから先の計画は、ノートには書かない。天使族に視られると困るからだ。
(聖女は『異界の扉』を閉じて死ぬ)
そして、そのイベントの引き金となる小駒はこちら側にいる。
(『聖女の行進』の世界を再現してあげるわ。聖女サラ。ゲームを始めましょう?)
全ては、身勝手な復讐のために。
ノリアは今、世界を滅ぼす選択をした。
ブックマーク、評価、感想等、いつもありがとうございます!
励みになってます!
今日もお休みだったので、『転生したら~』と、ホラーを1作品投稿しました。
良かったらご覧ください。『〇〇駅』というタイトルです。
ホラーは滅茶苦茶苦手なので、あまり怖くありません(笑)。
さて、今回は短かいお話でしたが、ノリアちゃんが悪女の道に踏み込む決意をしました。
迷惑な話ですね!
第三章も中盤です。次回からは急展開していく予定です。ではでは。




