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31. 僕は死なないよ

本日、2話投稿しています。(この回が2話目です)

 優しく、甘く、蕩ける様な大人の口づけ。


 たっぷりと堪能してから唇を離すと、キョトンと目を見開くサラの可愛い顔があった。


「ふふ、良かった。泣き止んだ」

「……ふぇ? え? ええええええ!?」


 サラはようやく思考回路が正常に戻ったのか、耳どころか胸元まで真っ赤に染めて驚きに目を見張った。

 口元を押えながら身体を離そうとするサラの肩を引き寄せ、リーンは強く抱きしめる。


「ひゃあああ! り、リーン、何でっ!?」


 サラは抵抗しようともぞもぞと身体を動かすが、いまいち力が入らない。

 リーンの細くて大きな手が、サラの耳にかかる髪をかき上げる。

 その赤く染まった耳元で、リーンは低く囁いた。


「こんなにも自分のことを心配して泣いてくれる女性を、好きにならないはずがないでしょ?」

「ひゃああ!」


 全身を貫く様な甘い痺れに襲われ、サラはパニック状態だ。

 逃げなくちゃ、と思うのに、全く力が入らない。


「でも、ずっとリーンは私のこと子供だって」

「ぷは! いったいいつのことを言っているの? 君はもう二十歳を過ぎて、愛し愛された経験があって、幸せも哀しみも知る、立派な大人のレディだよ」

「ふ……おおぅ」


 混乱中のサラの様子が面白くて、可愛らしくて、リーンは思わず笑ってしまう。


 ほんの数年前まで、サラは子供だった。

 リーンがサラを大人として認識するようになったのは、ロイが死んだ後からだろうか。

 サラがそれまでユーティスやパルマといった同世代の幼馴染との恋に終止符を打ち、ロイを選んだことは、リーンにとって軽い驚きだった。

 サラは、リュークに想いを寄せていた。それは、少年達に寄せる想いとは全くの別物だった。

 肝心のリュークが何を考えているのかよく分からなかったため、サラの結婚はまだまだ先だと考えていた。

 それが突然、ロイを選び、結ばれ、死に別れた。

 ロイを失った後のサラは見ていられないほどで、初めのうちは保護者のような気持で支えていた。それまでリーンは、サラはロイのことを子供の様に愛しているのだと思っていた。言い方は悪いが、暗く哀しい運命を背負った短命のロイを『幸せにしたい』という想いを、愛情と勘違いしているのではないかと分析していた。

 だが、ロイを失くしたサラの様子を見ている内に、サラがロイを深く愛していたことに気が付いた。それは少女時代の無邪気な恋心ではなく、聖女特有の博愛でもなく、一人の女性として、ロイという伴侶に捧げる愛だと知った時、サラを見る目が変わった。


 だからと言って、すぐにサラに恋愛感情を抱いたわけではない。


 夫を失ったばかりの大人の女性として、必要以上に距離を縮めないように注意しながら、サラが立ち直れるようにと心を配った。

 半年前、サラがようやく夢から覚めた時には、心底「おめでとう」と祝福を贈った。だが、ようやく、可愛くて、元気で、明るいサラが戻って来たと喜ぶと同時に、二人きりの生活が終わったことに対する寂しさが込み上げてきた。


(ああ、僕はサラちゃんを好きになったみたいだ)


 毎週末、畑の様子を見に帰ってくるサラを笑顔で出迎えながら、あえて今まで通りの関係を続けてきたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()へ遠慮があったからだ。


 だけど、「死んじゃ嫌だ、眠っちゃ嫌だ」と泣きじゃくるサラの温もりを、肌で感じてしまった。その上、今日のサラは綺麗に着飾っていて、いつも以上に魅力的だ。


(ああ、無理だよね、これは)


 気持ちを抑えるのは、もう止めだ。


 サラに口付けをしながら、リーンは自分の心が軽くなっていくのを感じていた。もう、遠慮はしない。


「サラちゃん。僕と生きよう」

「!? ……な、何言ってるの? 眠らないといけないくせに……」

「嫌だとは言わないんだね」

「!?」

「ごめんね。君が人を避けているのも……それと同時に、人恋しく思っているのも知っていて告白するなんて、ずるいよね」

「……」


 サラには、人を避けている自覚はあった。

 だが、リーンに言われて初めて『人恋しい』のだと気が付いた。ロイを失ってぽっかりと空いた心の穴を、誰かの温もりで埋めたいと願っている自分に気付かされてしまった。

 リーンのことは大好きだが、それは愛ではない。寂しさのあまりリーンを求めることは、ロイへの裏切りだと理性が言っている。

 なのに、今、リーンの温もりに心が癒されていることも確かであり、同時に、リーンが自分をおいて眠ってしまう事への恐怖が拭えない。


 サラは自分で自分の気持ちが分からず、何も答えることができないでいた。 


「聖女の癒しがあれば、起きていられるだけの魔力は回復するから、サラちゃんをおいて眠ったりしない。それに……」


 サラの背中を優しく擦りながら、リーンが歌うように囁く。


「僕は、死なないよ?」


 ああ、と思わず声が漏れた。

 ドキドキと胸が高鳴る。

 サラはギュッとリーンの背に回した腕に力を込めた。


 この言葉を、サラは知っている。

『ボッチルート』で、ロイの死後にリーンが現れ、サラを救うエンディングがある。その時に、リーンが言ってくれるのだ「僕はしにません」と。

 たった一人で、ロイを失った孤独に耐えていたゲームのサラは、その場でリーンを受け入れる。


 ゲーム通りの世界ではないのに、計らずも『ボッチルート(救済エンディング)』を辿っている。

 これは、運命なのかもしれない。


(でも……)


「リーン」


 リーンの胸に手を添えて身体を離しながら、サラはリーンの顔を見上げた。


「ありがとう。でも、まだ気持ちの整理がつかないの……考えさせて?」


 一瞬、哀しそうな目をした後、リーンは微笑み「もちろん。急がないでいいよ」と言った。その笑顔に、ホッとした様にサラも微笑んだ。


 その後、妙に気恥ずかしさを感じながら二人で遅めの朝食をとった。

 のんびり食後の紅茶をとりながら、『お茶会事件』の顛末を話した。その最中に、王城から呼び出しがあったことを思い出し、慌てて王城へと転移した二人を出迎えてくれたのはパルマだった。


「……えっと、聞きたくありませんけど、何かありました……?」


 微妙な距離感のサラとリーンに、パルマが突っ込んだことは言うまでも無い。


ブックマーク、評価、感想等、いつもありがとうございます。


ようやく、恋の狩人リーンが参戦ですね……遅いわ!

リーンは大人なので、どうしても子供のサラちゃんの相手をさせたくなかったのです。


次回は、王城での会議です。

ではでは!

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