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26. 二人のヒロイン -罠に落ちた少女ー

サブタイトルを変えました。

「ちょっと、よろしくて?」


 一人でお手洗いに行った帰り、メリルは甘く香しい声に呼び止められた。


 ◇◇◇◇


 サラが公の場に復帰したノリア姫の誕生パーティから、半年が過ぎていた。


 サラは今日、王城で月に一度開催される『お茶会』に参加している。


 本来は、3歳から11歳までの子供とその母親が参加する会なのだが、「私には無理です!」と恐れおののくシャルロットの代わりに、姪のメリルの保護者としてサラが付いて来たのだ。


 後宮のお妃様とのお茶会など面倒ではあったのだが、ティアナやノリアに会いたかったこともあり、サラは快く引き受けた。何より、可愛い姪っ子を独り占めできる機会などそうそうない。気分はウキウキワクワクであり、羨ましそうなゴルドにドヤ顔で手を振って家を出た。


 ところが、会が始まって1時間が過ぎた頃、サラは真顔で青ざめていた。


「ねえ、ティアナ様。うちのメリルを見ませんでしたこと?」


 何となく怪しい令嬢言葉を使いながら、サラは背伸びをして辺りをキョロキョロと見回した。

 お行儀が悪いのは承知の上だが、体裁に構ってなどいられない。

 初めて参加するサラが珍しいのか、あちこちから声をかけられて身動きが取れなくなっている隙に、姪のメリルが居なくなったのだ。


「メリル様なら、一人でお手洗いに行かれましたわ」


 ティアナの近くにいた青みがかった銀髪の美少女が、ノリアの手を引きながらティアナの代わりに答えた。ティアナがサッと青ざめる。


「一人で!? メリル様はまだ4つですのよ? 誰か付いていかなければ駄目ではないの」

「申し訳なく存じます、ティアナお義姉様。私も気になったのですが、グラシアの姫君に話しかけられて席を外せなかったのです」


 美少女が申し訳なさそうに、上目遣いでサラとティアナを見上げた。

 居場所が分かった事への安堵と、幼い姫の愛らしさに「いやん、ユーティスの妹、可愛い! 美少女万歳!」と、脳内で悶えながら、サラは何か言いたげなティアナの肩に手を置いた。


「ティアナ様。アイリス王女に非はございませんわ。むしろ、保護者である私の失態です。ちょっと探して参ります!」


 下品にもドレスをたくし上げて走り出そうとしていたサラを、小さな声が呼び止めた。


「おまちくらしゃい。おばしゃま」


 ノリアだ。


「メリルしゃまは、さっき、おちゃをくばってまちた。おてちゅだいちてまちた!」

「え!? ………………なんて?」

「メリル様はお茶を配るお手伝いをなさっていたそうですわ」


 ノリアの言葉を解読できずに首を傾げるサラに、ティアナが助け舟をだした。


「え!? お手伝い? 偉い!」


 流石、うちのメリル、しっかり者! と、喜ぶサラの手を、ティアナがペシッと扇ではたく。


「何をおっしゃいますの、サラ様! ゲストであるメリル様に給仕の真似事をさせるなど、ホストである王家の恥ですわ! すぐに止めさせませんと……」

「はっ、そうか! ……ですわね!」


 サラがいつもの口調を取り繕ったその時だった。

 グラシア派が固まる方角から、悲鳴があがった。


 毒だ、という単語が耳に届き、サラ達はパッと顔を見合わせた。


「サラ様、ティアナ様! ノリア様達は私に任せて、早く!」

「うん! ソフィアそっちはよろしく!」


 人波を割ってサラ達が駆け付けると、数人の大人と子供が転げまわって苦しんでいた。幸い、まだ息はある。

 恐怖のあまり泣きだす者や、パニックになる者もおり、場は騒然となっていた。


「ティアナ! 浄化魔法使える!?」

「もちろんですわ!」


 オロオロとうろたえるだけの高貴なご令嬢達を押しのけて、サラとティアナは近くにいた者から順に解毒作用のある魔術をかけていく。


「あっ!」

「大丈夫!? ティアナ!」

「大丈夫ですわ! 少し爪がかすっただけですわ!」


 子供でも手を焼くというのに、暴れまわる大人を押えながら魔術をかけるのは骨が折れる作業だ。元ゴリラのサラはともかく、ティアナにはかなりの負担だろう。


「どなたか! 押えるのを手伝ってください!」


 サラが助けを求めるが、高貴なご令嬢達は怯えるばかりで誰も手伝おうとしない。「遠巻きに見てないで手伝ってくれればいいのに! 仲間でしょ!?」と、サラは悲しい気持ちになりながら、術を使い続けた。


 その時。


「なんの騒ぎですの?」


 深みのある落ち着いた声が騒ぎの元へやって来た。「グラシア妃」と、小さくティアナが呟くのが聞こえたが、後宮のことに疎いサラには「厚化粧のお妃!」ということしか分からない。


「毒が盛られたようです」

「まあ! 毒ですって!? カタリナ、ケドン……セリドアまで! 私の身近な者ばかりではないの! 誰がやったの!?」


 お付きの者の報告に、仰々しくグラシア妃が声を荒げた。


「第三王妃! 怪しい者を捕らえました!」

「なんですって!? 連れていらっしゃい!」

「はっ!」


 騎士らしい男が、人波を割ってグラシア妃の前にやって来た。その手には、頬を腫らしたオレンジ色の髪の少女が引き摺られている。


 ぞわり、とサラは全身の毛穴が粟立つのを感じた。

 近くでティアナが息をのむ。


「この娘が、怪しい小瓶を抱えておりました」

「なんてことをしてくれたの!? 腕を切り落としてやるわ!」


 グラシア妃は流れる様な動きで騎士の腰から剣を抜きとると、少女の頭上に振りかざした。きゃあ! と、あちこちから悲鳴があがる。


「止めて!!」

「!?」


 グラシア妃の振り下ろした剣が、ドン、と地面にぶち当たった。


「ひっ……」


 思わず、グラシア妃が喉を引きつらせた。

 地面に当たった剣が、氷の様に粉々に砕け散ったのだ。


「な……」

「止めて、と言ったはずです」


 ずん、と辺りの空気が一変する。

 結界で護られ、一年中春の陽気をたたえる中庭に、一気に冬が来たようだった。

 膨大な魔力を前に、バタバタと意識を失う者が続出する。


 グラシア妃の目には、冷たく、暗く、少しでも動けば氷の棘に貫かれそうな、そんな研ぎ澄まされた空気を纏った一人の女の姿が映った。


 女は、先程の小娘を大事そうに抱きかかえている。


「う……」

「もう大丈夫よ、メリル。怖かったね」

「……うわああああ!」


 女……サラが優しく微笑みかけると、真っ青になって震えていたメリルの顔に生気が戻った。サラの柔らかな胸に顔を埋めて、声をあげて泣き始めた。


「邪魔をしないでちょうだい! その娘は毒を盛った殺人鬼よ!?」


 気丈にも、グラシア妃が抗議の声を上げる。流石は大国の姫と言うべきか。大した胆力だ。


 サラの気迫に圧倒されていたグラシア妃の取り巻き達も一斉に息を吹き返した。「そうだ、邪魔をするな」「お前も仲間か」「子爵家の分際で!」「魔女め!」「人殺し!」「処刑だ!」等々、罵詈雑言が無遠慮に飛び交う。


「無礼な! お黙りなさいな、あなた方! この方を誰だと思っているの!?」


 ティアナがサラとメリルを庇う様に立ち、声を張り上げた。そのティアナを嘲笑うかの様に、グラシア妃が高笑いをする。


「ほほほほほ! 罪人の孫だと聞いているわ。この場にいることすら汚らわしいのに、娘に毒まで盛らせるなんて、なんてあさましいのかしら! それとも、指示を出したのはティアナ様? そんなに私が邪魔なのかしら? 何て恐ろしい」

「んな……!?」

「そう言えば、昔、ティアナ様の母君の奴隷遊びも問題になりましたわよね? ああ! なんて下品な者達かしら! 類は友を呼ぶと言いますものね。ああ、嫌だ! こんな者が王城に出入りするなんて世も末ですわね。二度と出入り出来ないようにしてさしあげますわ! もちろん、そちらの親子は処刑よ!」


 ほほほほほ、とグラシア妃の勝ち誇った笑い声だけが辺りに響く。

 だが、いつもならグラシア妃に追従して笑い声をあげる取り巻きがいるはずなのだが、誰も乗ってこない。

 グラシア妃が周りを見回すと、薄桃色の髪の女以外の全ての者が、その場に膝を突いていた。……ティアナでさえも。


「ほほほ……何ですの? 急に」

「ふむ。私の城に誰が出入りするかは、私が決めることだと思うのだが」

「王様!?」


 ばっ、と勢いよくグラシア妃が振り返った。そこには、ノーリス王、さらにはユーティス、パルマ、近衛騎士が続いていた。


「なぜここに?」


 瞠目しながらも、グラシア妃は笑みを浮かべて、恭しく礼をした。王が『お茶会』に顔を出したことなど、過去に一度もない。


「なぜだと? 今日は世界の宝である聖女様がお見えなのだ。私が足を運ぶのは当然であろう?」


 王は「へ?」と固まるグラシア妃には一瞥もくれず素通りすると、真っ直ぐに立ったままの女の前まで進んだ。


「のう、サラよ」

「「「!?」」」


 はっ、と、『お茶会』に参加していた全員が身を強張らせた。


「お久しぶりです。ノーリス王。姪を抱えたままで、申し訳なく存じます」

「ははは。構わぬ」


 楽しそうに、王が笑う。


「……え? 聖女、様?」


 信じられないものを見る様な目で、グラシア妃がサラに向き直った。


 そんなはずはない、あの女はあの娘の母親で、子爵家出身の罪人の孫のはずだ、という思いが脳裏をよぎる。同時に、ティアナがあの女のことを「シャルロット様」ではなく「サラ様」と呼んでいたことを思い出す。そして、見事に少女を転移で救った魔術の腕前に、膨大な魔力。


「……馬鹿な……」


 ガタガタと、グラシア妃が震え出す。『恐怖』という感情を、グラシア妃は生まれて初めて感じていた。


 グラシア妃と視線を合わせたまま、サラは形の良い唇をキュッと引き上げて、魔力を籠めた声を放つ。

 最愛の姪っ子に傷をつけられ、サラは過去最高に怒っていた。


「さあ、どういうことか。はっきりさせようじゃないの……!」


ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!

例え☆でも嬉しいです!


さて、ノーリス王が水戸黄門みたいでしたね(笑)

それにしても、新キャラが多くて混乱しますよね? 

すみません。とりあえず、ノリアとメリルが分かれば大丈夫です!!


ではでは。次回はお裁きです。よろしくお願いします!

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