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20. あの日見た夢の続きを

少し修正しました(2020.5.31)

「うん。僕への手紙が最初なんだって。ロイと、サラ様に子供が生まれる物語だよ」

 柔らかく微笑みながら、エドワードはロイからの手紙を読み上げた。


『大好きな父上へ。

 父上、息子が生まれたよ。名前は、ルイ。

 俺の体の一部はルカだから、ルカとロイを合わせて『ルイ』にしたんだ。

 サラから、『それじゃ、ルカとロイの子供みたいじゃない!』って怒られたけど、すぐに気に入ってもらえたよ。

 最近サラがルイに構ってばかりだから、お姉ちゃんのミユはすぐにやきもちを焼いて拗ねちゃうんだ。事あるごとに『えろわーろじいちゃ』の所に行くって、駄々をこねるんだよ。父上は、そんなミユが可愛くて、すごーく甘やかすから、正直、困ってます』


 そこまで読んで、エドワードは一度息を整えた。目尻は下がり、瞳は潤んでいる。

 大きく深呼吸をして、サラと目を合わせた。


「だって、ロイとサラ様の子供達だよ? 甘やかすに決まってるじゃあないか」

「……っ!」


 サラは大きく頷いた。その拍子に、ポロリと涙が落ちる。エドワードの涙腺も崩壊した。

「ちょっと、ごめんね」と号泣するエドワードから手紙を受け取り、サラは代わりに続きを読んだ。


『父上。あんまり甘やかすと、将来ミユが令嬢修行をすることになった時、ゴルドお義父さんのところに預けますからね! ルイの剣術の修行も、アイザックさんにお願いしちゃおうかな。それとも、二人とも魔術師の才能があるし、リーン先生にお任せしようかな』


「ええ!? それは酷いよ、ロイ! 僕も構いたいよ!」

 思わず、エドワードが顔を上げる。

 一度読んだはずなのに、初めて聞くようなリアクションだ。サラは思わず吹き出した。

「あはは! 意外に意地悪ね、ロイ!」

 エドワードにとっても、サラにとっても、今ここにロイが居て、一緒におしゃべりしている気分だった。


 その後も、手紙は続く。


「『父上、今度一緒に買い物に行きませんか? サラには内緒で』……って、何で内緒なの!?」

「どれどれ『もうすぐサラの誕生日だから、ドレスを買ってあげたいんです。サラ、結婚してからお洒落してないから』だって」

「……も、もうっ! そんなこと、気にしてないのに……!」

「でも、嬉しい?」

「嬉しい! すごく嬉しいです!」


 二人で交互に読み合っては、泣きながら笑った。


 声をあげて笑いながら、体と共に心までも温まっていくのをサラは感じていた。


 ロイが居ないことに、変わりはない。


 だけど、切れた糸が融けて、光となり、心に小さな花が咲く。


 気が付くと、サラ達の笑い声に引き寄せられたのか、狭い部屋の中は仲間達で溢れていた。


 途中からは、皆でロイの手紙を回し読みしながら、突っ込んだり、妄想を膨らませたりして笑い合った。皆泣き、皆笑った。


 『皆で、あの日見た夢の続きを見よう』


 そう綴ったロイの言葉通り、皆で見る『現実には存在しない未来』。


 それでもいい。

 仲間達と紡ぐ『サラとロイと子供達の物語』は、サラの壊れかけた心を包み込んでくれた。


 皆の笑い声から、ロイが多くの人に愛され、大切にされてきたのだと分かる。

 ロイは確かにここに居たのだと、そしてこれからも居るのだと、感じさせてくれる。 

 そのことが、サラを暖め、生きる希望を与えてくれる。


(ロイ……私、一人じゃない。ロイも、一人じゃないよ……!)

 いつの間にか、サラの心は色とりどりの花で溢れていた。



「『追伸。

 父上が前に俺にくれたあの本。サラとミユに見つからないように、寝室の床に隠してるから、ルイが12歳になったら渡してね。ロイより』……って、本?」


 最後のパートを読み終えたシャルロットが涙目のまま首を傾げた。


「「「……」」」

 何かを察したのだろう。事情を知る者も知らない者も、男性陣は急に黙り込んだ。

 サラも視線を泳がせている。


「あ、これですね」

 あえて空気を読まない女・アマネが木製の床に手を突っ込み、一冊の本を取り出した。

「ふむふむ。ずばり、エロ本ですね」

「「「やめろおおおおお!!」」」

 男性陣(+サラ)の悲鳴が月夜に響き渡った。


 シグレから頭を掴まれて悶絶するアマネ。 

 なにやら必死で本を庇う男性陣と、ドン引きする女性陣。

 何故か男達から「先生!」と呼ばれ、「ちょっと、止めてくださいよ! 助けてください、サラさん!」と叫ぶパルマに、サラは声をたてて笑った。


 (にぎ)やかな夜が更けていく。

 愛する人を失った悲しみが、煌めきながら闇に溶けていく。


 ―――きっとその笑い声は、闇に還ったロイの元にも届いていると信じて。


 ◇◇◇◇


 その後。

 ロイの死後も、サラは思い出の詰まった山小屋に住み続けている。

 月に一度、誰かの元に届く手紙を酒の肴にサラ達は語り合った。

 普段はそれぞれ別の場所にいる仲間達も、手紙を開ける日だけは集まってくれた。

 どの出来事も楽しくて、皆で馬鹿なことを言い合っては妄想に花を咲かせる。


 一月目。アイザックとシャルロットへの手紙には、お互いの子供達の交流が書かれていた。


 二月目。ゴルドへの手紙によると、ミユとルカを巡ってエドワードと(じじい)対決が勃発したらしい。結局、引き分けたそうだ。


 三月目。シグレとアマネの子供達は、将来ミユとルイと一緒に冒険に出るのだという。その際、冒険者ギルドを退職したゴリラ男爵ことダイが引率してくれるのだそうだ。ミユはその時初めて本物のゴリラを目の当たりにし、「お母様は、偽ゴリラだったんだ……!」とショックを隠し切れない様子だったらしい。


 四月目。『紅の鹿』と潜ったダンジョンでは、『見えない矯正下着(改)』を求めて、何度も周回されられた。何故かアマネまで参加しており、大変満足気に帰っていったそうだ。


 五月目。『S会』と子供達が一緒に開発した新商品が飛ぶように売れ、世界中で大ヒットする。ロイのお勧めは、異世界野菜を使ったスイーツだ。野菜嫌いの子供達でもたくさん食べてくれるのだそうだ。


 六月目。パルマとロイはよく二人で呑んでいる。酔った勢いでパルマの息子とミユの婚約を決めてしまい、サラに叱られてしまった。だが、当の本人達は乗り気だそうで、サラも許してくれた。将来が楽しみだ。


 七月目。ユーティスは正妃のティアナの他に側室を7人迎え、子沢山らしい。長女のノリアはミユと同じ学園に通い、優しい先輩として何かと助けてくれている。


 八月目。バンパイアの住むハミルトン王国にも、一家揃って遊びに行った。

 ゾルターン王はロイの目の前で堂々とサラを口説くので、ロイは焦ってしまったそうだ。


 九月目。エリンとラズヴァンには子供が生まれていた。耳と尻尾が可愛い小さいモフモフをミユとルイが取り合いになってしまい、「だめでしょ!」と大きいモフモフの腹を撫でまくるサラに叱られているらしい。それにもロイは焦ってしまう。


 十月目。デュオンはバンパイアの血がほとんど抜けたせいで、陽の光の下でも長時間活動できるようになっていた。異世界の野菜をお土産に持っていくと、とても喜んでくれる。ギルドマスターを続ける傍ら、魔術と医術の研究も続けており、ロイはルイを連れて時間を見つけては手伝いに行っている。


 十一月目。アルシノエも時々、治癒魔法の研究に協力しているようで「ご褒美くださぁい」とロイとデュオンに迫ってくるらしい。その話をサラにしても、少しも焦ってくれないので、ロイはちょっと寂しいそうだ。ちなみにアルシノエ曰く、「ルイたんも将来楽しみでぇす!」とのこと。ルイは何度か「アルおばちゃん」と言ってしまい、ゲンコツを喰らっているのだが……。



 手紙を読み返す度、サラは幸せな気持ちになる。

(ありがとう。ロイ。ありがとう。私に、沢山のものを残してくれて、ありがとう)


 今でも一人で居ると、ロイのいない虚無感に襲われて情緒が不安定になることがあるが、『手紙の日』だけは、サラも心から笑っていられる。


 サラとロイの大切な人達の中で、健やかに育っていく子供達。

 ロイが生きて笑っている。


 それは、サラが夢見た、完璧な幸せ。

 本当はそっちが現実なのではないかと、錯覚してしまいそうなほどに。

 

 だから、余計に怖くなる。

 ロイからの手紙には、必ず終わりが来るはずなのだ。

 そして最後の手紙を読み終えた時、サラは今度こそ、現実に向かい合わなくてはならない。


(ロイ……手紙は、あと何通あるの……?)


 怖い。

 永遠に、あの日見た夢が、永遠に続いてくれればいいのに。



 ―――こうして1年が経ち、次の手紙が届く日が近づいていた。


ブックマーク、感想、評価等、いつもありがとうございます!

本当に嬉しいです。


ロイ君の葬式の日を書きながら、祖母の事を思い出していました。

祖母の葬式の時は、うちの一族は皆でくだらない話ばかりして、笑顔で送り出しました。

流石に、お焼香の時は頬がブルブル震えて涙を堪えるのが必死でしたけど、「楽しいお葬式だったね」と言えてしまえるくらい、祖母は最期まで私達を笑わせてくれました。

ありがとう、おばあちゃん。

ロイ君も、そんな気持ちで送り出せたらいいなー、と思った回でした。


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